転校生
死のゲート事件の半年程前、全国で最高気温が更新され熱中症で入院する人たちのニュースが連日流れていた頃、沖縄に台風が順番待ちで上陸していた頃、
焼芋小学校にダンクーガ佐藤が転校してきた。
四年四組のみんなは最初、教員研修で来たお兄さんかプロレスラーだと思った。
「拙者、ダンクーガ佐藤と申す者、不束者ですがよろしくお願いするで候」
その男は深々と頭を下げた。見た目に反して礼儀正しいようだった。
先生が同い年の転校生だと二度念を押したので、受け入れなければならない現実なんだとみんな理解した。
Dの使う椅子と机は小さすぎて大人用に替えられたが、それでも窮屈そうに見えた。
隣の席にいた美代子はDの筋肉に圧倒され気分が悪くなり保健室に行くことがあった。みんなDにどう接していいかわからず教室は暑苦しくどこかぎこちなさがあった。申し訳ないと思うDもクラスに気を使いぎくしゃくとしていた。
鹿の群れの中に一匹だけオオカミがいるようなもの。地獄のような雰囲気を打破するのは自分しかいないと立ち上がったクラスのお調子者の健太郎くんは思い切ってDの腕を叩いて言った。
「Dの腕はかてえなー、何が入ってるんだよこれ?」
一瞬戸惑った表情をしたDだったが、微笑んで言った。
「某の筋肉には夢が入ってるのでござるよ健太殿」
「すげー」
何が凄いのか健太郎君にもよくわからなかったが、クラスのみんなは続いて筋肉が凄い凄いとはやし立てた。
Dは俯き加減になり照れているようだった。
そこから徐々に四年四組と打ち解けていきDと同級生は自然に接することが出来るようになっていった。
美代子はほとんど筋肉に占拠されているDの机にピンク色の和紙を広げた。
「Dくん、私の作ったクッキーあげるよ」
Dははっとしたようにそれを見た。
「かたじけのうござる。某もお返しに美代子殿にアップリケを」
慌ててスポーツバッグに手を突っ込むと底からDの指が出てきた。
「拙者あわてんぼうでござる」
頭の後ろに手を当てると照れながら言った。
苦笑する美代子。今度はバックの中を慎重に探り、美代子の目の前に物を出した。
「これはなにDくん?」
「上腕二頭筋のアップリケでござる。美代子殿にプレゼントするでござる」
「わあ、ありがとう」
美代子が本当に喜んでいたかどうかはわからない。だが筋肉酔いをしなくなった美代子はDと気軽に話し合える仲になった。Dの顔が美代子のタイプだったということもある。