尊の頭
尊は研究所でバラバラになった自分の体を見せられてからは精神が不安定になっていた。体が無いと分かると頭だけの存在になっていた。
「やめてくれ、俺の体を返してくれ」
仲間たちはお構いなしに頭だけの尊を陽気に嘲笑っていた。
「よし尊の頭でサッカーしようぜ」
倉田学が言うとグラウンドに尊の頭を置いて蹴った。
「キックオフ」
尊は周りの景色がグルグルと回って気持ち悪くなってきた。
「やめてくれ学。俺が悪かった。許してくれ」
尊はパス回しされ、踏みつけられ泥だらけになった。尊は気持ち悪くてえづいていたが頭だけなので何も口から出てこなかった。
「ゴールに化け物がいるぞ、気をつけろ学」
Dは両手を広げてゴールを守っていた。
「拙者ダンクーガ佐藤と申す者。以後お見知りおきを」
「御大層になんだお前は、せいぜいクーガーだ」
学がそう言ってシュートするとDはジャンプして尊の頭を両手でがっちりとキャッチし片膝をついた。間髪いれず助走をつけて蹴り飛ばすと尊は頭が割れたのではないかと思った。長い滞空時間の後にネットに突き刺さり尊は相手側のゴールに入っていた。
「もうやめてくれ。俺が何をしたっていうんだ」
学はゴールネットの尊を見て地団太を踏んだ。
「パントキックが決まるってなんだよ、つまんねー。尊の頭が空っぽだから飛びすぎるんだ」
仲間を引き連れてグラウンドから去って行った。Dはゆっくりとゴールネットに絡まっている尊を拾い上げ耳元で囁いた。
「良かったですね尊パイセン。頭だけゲートに入れて」
小刻みに尊は揺れていた。上を見るとDが腹を抱えて笑っていた。
その時尊は妙に冷静になった。
「おい、Dはそんな下品な笑い方はしないぞ。お前は一体何者なんだ?」
「え?俺ですか?ゲートですけど」
腹を抱えて笑っている。
「ふざけやがって」
だがDはなにか重要なことを言わなかっただろうか。
『頭だけゲートに入った』と。
やはり間違いないのか。そして体は研究所で好き勝手やられている。あれは本当の映像だったのか。
尊は苦笑した。
「体がバラバラになっても生きてるなんてプラナリアみたいだ」
これは翔子の能力なんだから責任をもってこの酷い状況を何とかして欲しいと尊は思うが、彼女も移動手段としてゲートを使う以外は何もわかっていないようだから望みは薄い。
「俺を助けてください翔子先輩ー」尊は大声で叫んでいた。
だとしてもこの状況を何とか出来るのは翔子しかいない。こんな嫌な奴らばかりの世界に居続けるのはもう嫌だ。頭がどうにかなりそうだ。
翔子はくしゃみした。山の朝は冷える。でも昼になるにつれて温かくなるからTシャツで過ごしていた。
翔子は家から持ってきたレトルト食品の残りをカートに乗せて全部体育館に持ってきていた。Dが食べても食べても空腹でキリが無いからだ。
「これで全部。私は少しでも大丈夫だけどこれが無くなったら食料はどうするのよ」
「拙者は山の中の動物を潰して食肉にするのでござる。その時は翔子パイセンにも拙者の肉料理を御馳走するでござるよ」
「それは頼もしいわね。それはそうと、尊君と研究所で普通に話してたのに何で『ござる』口調に戻ってるのよ」
Dは恥ずかしそうに言った。
「それは、わからないでござる。この方が拙者には自然な感じがするのでござるな」
「へー、そうなの」
Dの意識が戻ったとき翔子はとても嬉しかった。だが、回復して元の姿に戻り食料を貪り食うようになると話に出てくるのは尊のことばかりだった。翔子の事も少しは気にかけてほしいと思うのだがDの頭の中は尊の事しかないようだ。合唱団の時の翔子の顔なら親近感を覚えるかもしれないが元の顔に戻ることはできない。
「ねえ覚えてるかしら雅善くん。この学校に合宿に来た時の事を」
「もちろんでござる。みんないい人でござった。あの頃は楽しかったでござるな」
「あの頃に戻れると思う?」
Dは下を向いて黙っていたが違う話題に切り替えた。
「拙者は尊パイセンを助けに研究所に行きたいでござる」
翔子は呆れた顔をして言った。
「またそれなの。あなたはせっかく助かったのにまた実験される為に研究所に捕まりに行くわけ」
「そうではないでござるが、尊パイセンが気になるのでござるよ」
「まずここから逃げるのが先決でしょ」
「どこに逃げるのでござるか?」
「日本の国土は6割山なんだから奥に奥に行けば多分見つからないわ。そんなところで生活しようなんて普通思わないでしょ。私はゲートさえあれば何とかなるからあなたはロッカー担いで移動するのよ。わかったD?」
「承知したでござる。逃げながら尊パイセンを助ける方法を考えるのでござる」
翔子はため息をついた。
「準備をしっかりして、明日の朝ここを出発しましょう。それでいいわねD」
「承知したでござる」




