死のゲート
焼芋小学校の校門前に二メートル四方の謎のオブジェが出現した。
それは前衛的な芸術作品のようにも見えたし、新しい仮設トイレだと思う人もいた。見た人の意見は割れたが誰もこれだという確信は持てなかった。学校は緊急集会を開き生徒からオブジェの情報を募ったがそれについて誰一人知っている者は居なかった。地域住民にも協力してもらい呼びかけてもらったがオブジェの持ち主だと名乗り出る者はいなかった。町のゲージツ家が不法投棄でもしたのだろうという結論に至り学校は業者に廃棄を依頼した。
オブジェに対する人々の興味は徐々に失せていき、撤去を待っていた12月21日、その事件は起こった。6年生の女の子がかくれんぼをしている最中に失踪した。家族から学校に電話があり次の日緊急集会を開くと校門前のオブジェの中に入って行ったという目撃情報あった。半開きにした唇を横にしたような建造物は一人くらい入り込めるようなスペースがあり調査にやってきた警察官が試しに入ってみると同僚の前で消えてしまった。
騒ぎは大きくなり校門前にテレビクルー、新聞記者、政府関係者も来ていた。立入禁止にした謎のオブジェの周りには野次馬がたくさん集まり現場は騒然としていた。行方不明者の安否を気遣う情緒的なニュースがテレビで流れていたが、ネットでは謎のオブジェについて宇宙人の遺物だとか成れ果て便所だとか好き勝手書かれて連日盛り上がっていた。
最終的にオブジェは政府の研究機関に委ねられ詳細に調べられたが金属を加工した物体という以外は何もわからなかった。
中に入った人は完全に消えてしまったのか、どこかに存在しているのか入った者にしかわからない。オブジェは死のゲートと呼称された。
通学していた小学生はとっくに校舎に入り1時限目開始のチャイムは鳴ったが、二人はまだ校門の前に留まっていた。
Dの話を聞き終わると尊は首をかしげた。
「半年前の事件が俺達と何か関係があるのか?」
「まだわかりませぬか?」
Dがもったいぶった言い方をするので尊はイライラしていた。せっかく気分よく登校していたのに貧乏ゆすりが止まらない。
「尊パイセンは死のゲートの中に入りましたよね」
「冗談はやめろD」
「あなたは、まだそこにいるんじゃないですか?」
冷たい義眼が尊をじっと見据えている。
「そこってどこだ?」
「死のゲートの中です」
尊の頭がズキズキと芯から脈打ち強くなってきている。
「どういうことなんだD。お前はさっきから何を言っている?」
Dは微笑んで言った。
「俺と初めて出会った時のことを覚えていますか?」
「Dとの出会い?」