表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/25

新しい学校

翔子の両親は家の都合で一緒に引っ越す事は出来ないので、父の姉である房子に事情を話し翔子を預かってくれるように頼んだ。房子は気ままな独身暮らしで翔子一人増えても負担になることはないと快く承諾してくれた。翔子は叔母さんの所でお世話になるこになり家の近くにある焼芋小学校に通うことになった。


新しい土地で生活するのに顔をどのような形にするか翔子は悩んだ。分かりやすい美人顔は作りやすいが注目を集めるので地味顔の方が崩れた時に目立たずに良いだろう。


だが実在する顔そっくりにしてしまうとトラブルの元になる。

翔子は形から入るタイプなので顔の解剖図の本を取り寄せいろいろな角度から見た顔を研究した。自分だけで考えて形を作ると現実にあり得ない顔になってしまうので、その都度集めた写真の顔を見て修正して何度も鏡で整えていった。


そして究極の地味で平凡な顔を作ることに成功し、出発までそれを忘れないようにキープする訓練に時間を費やした。


両親はとりあえず翔子が人間の顔をしているというだけで喜んでくれ気持ちよく家を送り出してくれた。


新しい学校に初登校した日は緊張したが、直ぐに翔子はクラスメートと上手くやっていけそうな気がした。


同じ年の子供たちと話すと全然かみ合わなくて困った。暫く同級生と会話をしていないからだと思っていたが自分の精神年齢が周りの子供たちよりずっと高くなってしまっていることに気が付いた。翔子はいつのまにか中身が大人になってしまっていたのだ。


地味な顔だと男子生徒達から舐められることもあったが、そういう時は容赦なく男子を言い負かして調子に乗らないようはっきりと意思を示した。段々とクラスのみんなから頼られ翔子は姉御肌のような存在になった。


新しい学校に慣れてきて数か月経ち、地味顔のキープは完璧になった。顔を変化させる事も上手くなりそろそろ元の自分の顔に戻れるのではないのかと試してみたがやはり出来なかった。永遠に戻れないのかいつか元に戻れる日が来るのかもどかしい思いをしていた。



休日に昼食の肉まんを作ろうと蒸し器のある棚に背伸びすると、叔母さんが来て腰を抜かした。


「あなた誰なの?」


「何を言ってるの叔母さん?」


自分の発した声が妙に太くなっていたので嫌な予感がした。蒸し器がある高さのずっと上に手があった。


慌ててその場から離れ洗面所の前に行くと鏡には大人になった翔子の姿が映っていた。着ている服が体に張りついてボタンがちぎれそうになっていた。顔の位置はズレて3Dモデルに写真を貼ったような不自然な感じになっていた。


翔子はパニック状態になりお願いだから子供の姿に戻してくださいと神頼みで手を合わせたらあっけなく子供サイズに戻った。


体が大人になった超人小学生は元に戻れないはずだったが、翔子は大人にも子供にも自由自在に体を変化することができた。体の中に空間を作って違う体形の人になることも出来るようだった。それなら声帯の形を変えることも可能なはずだと高い声、低い声自在に出せた。


翔子の能力は顔を変えられるだけでなく他人に変身することが出来るようだった。


叔母さんは突然知らない人が現れたショックでその場に放心していたが、翔子が変な人はいなかったと言うと白昼夢だと結論付けた。


ふざけて叔母さんに変身して買い物に行った時は、叔母さんの知り合いに声を掛けられ翔子は自分の変装に自信を持てた。外で偶然本人と出くわした時は目を白黒させドッペルゲンガーに会ったからもうすぐ死ぬと叔母さんは言い出した。翔子は反省し叔母さんに変身するのはもう止めようと思った。



叔母さんには迷惑ばかりかけている。今も自分が行方不明になって心配をかけているに違いなかった。無事でいることを伝えたいがそれは出来ない。消える前日に自室には手を付けずにをそのままにしておいて欲しいと頼み込んでおいた。叔母さんは不思議そうな顔をしていたがそれで何かに気付いてくれていたらと思う。



翔子は軽く嘆息すると部屋のクローゼットを開けて洋服を取り出しリュックを背負い込むと中に入った。自室のゲート入り口はここに作る以外選択肢はなかった。


一歩前に出て岩柳小学校の通学路を思い浮かべると直ぐに周りが緑豊かな木々に囲まれた風景に変わった。ゲートを通るときに一瞬尊を見たような気がした。いや正確には尊の存在を感じた。何かの錯覚だろうか。だが、今はそのことは考えたくないので直ぐに頭からどけた。


翔子は深呼吸すると緑の葉っぱの濃い匂いと土の冷たい匂いが混じった清涼な空気が鼻から入ってきてリラックスしてきた。校舎の中に直接移動することも出来たが、ここに来るときは森林浴する為に通学路の途中から歩くことにしている。


ゲート能力を使って前にも何度かここに来て下見していた。自然に触れると嫌なことが解消され解放された気分になる。気分が良くなって誰もいない体育館で歌を歌ったりしたこともある。ここを拠点にするかわからないが素晴らしい場所であることは間違いない。


少し歩くと校舎と体育館、グラウンドが見えてきた。連峰に囲まれた学校が浮き上がっているように見える。自分の学校がここだったらよかったと何度思ったことか。


グラウンドを横切り校舎の入り口に来ると、金属を加工して作った鍵を差し込み昇降口の扉を開けた。段差を上がり埃のかぶった廊下を歩き突き当りの階段を上って二つ目の音楽教室の扉を開くと中に入った。


壁にはクラシックの作曲家達の肖像画が掛かっていた。元々置かれていた音楽関係の物は廃校時に取り除かれ音楽教室は普通の部屋のようになっていた。


ピアノがあった所の床板は色が薄くなり体育マットが敷かれていた。その上に寝袋があり周りにはポテチの袋と空のペットボトルが散乱していた。翔子が前に来た時に置いた状態のままだった。


リュックを下ろすと中に入っている物を床にぶちまけた。空になるとまたリュックを背負い掃除ロッカーの扉の前に来て立ち止まった。


感慨深げにロッカーを見て翔子は言った。


「あの時ふざけて学校の掃除ロッカーに入らなければ私のゲート能力に気づくことは無かった」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ