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最後の言葉

廊下の陰にちらりと人影が見え、チクリと足のくるぶしあたりに痛みが走ると注射針が刺さっていた。目の前の金属の壁はあと少しで破れそうだったが尊の巨大な体が小さくなっていくと力が減衰してこれ以上破壊するのは無理だった。


壁に出来た小さな穴を見つけると一か八か渾身の力でその穴にタックルし瓦礫と共に尊は先の廊下に転がり込んだ。


起き上がると後ろを気にしながら廊下を走り、奥にまた分厚いセキュリティドアがあるのを見つけた。


もう体は人間の大きさに戻っている。尊はドアを殴ってみるが少しへこむだけで破壊できそうもない。


多数の床を叩く音が廊下に響き渡り特殊部隊が近づいてくるのを教えているが、もう尊は焦るだけで何もできない。万事休すだと思った矢先セキュリティドアのロックがグリーン点灯しドアが開いた。


「急いで尊君」


尊が中に入るとドアが閉まり再びロックが掛かった。


「すごいですね翔子先輩。どうやってるのかわからないけど助かりました」


後ろの扉を激しく叩く音が聞こえる。尊は気にしながらも廊下を先に進んだ。


「目的の部屋はまだなんですか翔子先輩?」


「次の部屋よ」


目の前の扉はより頑丈なものが据え付けられている。この奥に死のゲートがあるに違いない。


「セキュリティ解除は少し時間が掛かるわ」


暫し沈黙が流れる。尊は待ってるだけでは落ち着かない。作業中に迷惑だとわかっているが翔子に話しかけた。


「ここのセキュリティは厳重だと思うんですが、あなたみたいな子供がどうやって研究所の中に居続けることが出来るんですか?」


「男子のようにでかくなるだけの能力とは違うってこと。もっと調整が出来るのよ」


「俺だって好きでデカくなってるわけじゃないけど」


「だけどここにいるのはホントに苦しくなってきたわ。もうばれるのは時間の問題でしょう。尊君が思い切って巨大化してくれてほんとによかった」


「なんで危険を冒してまで先輩はDを助けたいんですか?」


「私とDはこの学校で初めて出会ったわけではないの。同じ合唱団にいて彼は当時美しい歌声を奏でるボーイソプラノの美少年だった。突然学校をいなくなってしまって心配したんだけど、まさかDが彼だとは思わなかったわ」


「そうだったんですか。Dは研究所から逃げる事が出来ましたが、翔子先輩はこれからどうするんですか?」


「誰にも見つからないところでDと暮らす。私のゲート能力さえあれば買い出しに行くことも出来るし彼の面倒を見ることができる」


尊は翔子との会話で少し緊張がほぐれてきたが、それもつかの間だった。入ってきた方から大きな爆発音が聞こえ衝撃波が尊に伝わってきた。おそらく扉を破壊して特殊部隊が突入してきたのだろう。


「奴らが来ます。急いでください翔子先輩」


「わかってる」


ロックが外れるとグリーンランプが点灯し分厚い扉がゆっくりと横にスライドし始めた。開くのを待っていられないと尊は強引に体をねじこんで中に入った。



広い部屋の中には得体のしれない装置が所せましと置かれている。それが何なのか尊はいちいち確認している余裕はない。装置の間を縫うように走ると校門にあった死のゲートを目指す。


特殊部隊が自動ドアが閉じる前に部屋の中に雪崩れ込んできた。注射針のついたシリンダーが尊をかすめて壁や装置に当たり金属音を立てて床に転がった。


当たってしまったら最後次に目が覚めた時は、身動き一つできない検査台の上で実験動物としての余生があるだけだ。


緊張の為に乾いた喉は飲み込むものがなく締め付けるように高い音が鳴った。


大量のシリンダーが尊の近くの物に当たっては床に転がる。


敵ももうなりふり構っていられないようだ。特殊部隊はとにかく撃てば当たるという素人のような手段で大量の注射針を発射している


早くゲートを探さないと、尊は今までで味わったことのない恐怖の中にいた。そしてついに部屋の一番奥の角に校門で見たオブジェを見つけた。


行き先は焼芋小学校の校門と決めていた。毎日登校していたので校門の強いイメージが頭に残っている。きっと上手く移動できるはずだ。


はっきり映像を描いて尊はゲート目掛けて飛び込む。その時自分の脛が目に入ると注射針が何本か皮膚に刺さっていた。


「しまった」


それが尊の発した最後の言葉だった。

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