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急転

それから尊の陽気さは影を潜めてしまった。鏡で自分の顔を見るとDと初めて会った時を思い出した。


Dにも陽気になって欲しいと偉そうに言っていたが、本当の自分は取るに足らない存在で、単につらい過去から逃げて何も考えてないだけだった。


尊は激しい自己嫌悪に陥った。


「俺は最低だ」


Dの辛さがわかった今もう一度Dに会いたい。今度は自分の話を聞いてもらいたい。




研究所に連絡し今度はDと会えるように予約してもらった。当日研究所の面会室に行くと、Dは人というには何か異質な体になっていた。


重そうな体を引きずり尊の前に座った。しかし驚いたのはDの方だった。


「尊パイセン、一体どうしたんですかその顔。別人のようですよ」


「俺もいろいろとあったんだ。聞いてくれるか」


「もちろんです」


尊は全てあった事をDに話した。Dは頷きながら熱心に聞いていた。


「そうだ。全ての原因は俺だったんだ。俺が高校生を殺さなければお前もそんな体になってなかったはずだ」


尊はあふれ出る涙を止めることが出来なかった。いつも陽気な尊が泣いているのにDは胸が締め付けられる思いだった。


力なく尊の手を握り言った。


「それは違いますよパイセン。この研究所にいる超人小学生は皆暴走して捕らえられた者ばかりです。俺たちはそうなるようになっているんです。研究所の奴らはそれを利用して実験体にしているんですよ。残虐な事件は伏せられていますがそういった行為は法律が出来てからも少なくないんです。規制のきっかけは尊パイセンだったかもしれませんが、誰が最初に引き起こしてもおかしくなかったんです」


「俺はもう、これから良い人を演じて生きていく自信がない」


「パイセンは規制前だったから良かったんです。これから俺の分まで生きてください。それが俺の願いです」


土気色の顔はむくんで、全体が崩れていた。骨は曲がり体は非対称で筋肉のこぶのようなものがいくつも出っ張っている。もう人の服が着れないのでシーツのような厚手の布を羽織っているだけだった。


「お前はどうなるんだ。D」


「俺はここまでです。もう…」


尊は立ち上がり、拒絶するように目の前の机を拳で叩くと激しい音と共に机が凹んだ。


「止めてください。パイセン。ここで暴れたら終わりですよ」


Dは狼狽えた。いつもは尊がフォローしてくれていたが今度は逆になっていた。


「お前を助けることは出来ないのか?」


「出来ません」


「巨大化出来るだろ」


「残念ながらこの区画では巨大化することはできないんです。我々を抑制する装置か何かがあるのでしょう」


尊は下を向き椅子に座るともうそれ以上何も話さなくなった。時計を見るともうすぐ面接時間は終わりだった。


Dは予感していた。尊はもうここには来ないだろう。これが最後なのだ。

時間になり何も言わず尊は立ち上がるとDに背を向け歩き出した。


Dは思わず手を伸ばした。後姿は徐々に霞んでいった。


部屋のセキュリティドアの前で立ち止まると尊は暫く動かなかった。振り返るとDを見て言った。


「俺は巨大化できるぞD」


「それは嘘です」


「俺は出来る」


「止めてください、あなたは何のために今まで努力してきたんですか」


「今の俺はDを助けたい。ただそれだけだ」


尊の体がみるみる大きくなっていく。


「俺はやる。研究所から逃げるんだD」


Dは呆然とその姿を見ているしかなかった。




巨人が研究所の天井を突き破ると明るい光が差し込んできた。空は雲一つない快晴で巨人の目から見る景色は素晴らしいものだった。


オオオーウ(逃げるには良い天気だ)


「パイセン。俺にはあなたが何を言っているのかわかりません」


その時何者かの声が尊の頭に直接聞こえてくる。


「私の声が聞こえる?もしもし尊君?」


女性の声だ。しかも聞き覚えがある。


「まさか、翔子先輩ですか?」


「そうよ、巨大化してくれて助かったわ。今から指示を出すから黙って聞いてね」


翔子は消えたわけではなかったのだ。尊はそれがとても嬉しかった。聞きたいことがいくつもあったが尊はぐっとこらえた。


「巨大化を止める装置がこの研究所にある。そこを破壊して」


その時現在位置と目的位置のイメージが一瞬にして尊の頭に浮かんだ。


思い切りジャンプすると目的地に一直線に落下し目標物を部屋ごと潰した。建物から火の手が上がり始めた。


「よし」


何かを感じ取ったようにDははっとして両手を見た。


「俺も巨大化できますよ。尊パイセン」


Dの体がおおきくなり巨獣の姿になった。体がゾンビ犬のように崩れていたが人の姿の時よりまだ良く形を保っていた。


Dが咆哮をあげると研究所に居た他の超人小学生が触発され巨大化し始めた。巨大化の連鎖が続き何十体もの巨大なモンスターが天井を破って現れた。


施設を離れ逃げる者と施設を破壊する者半分程度に分かれた。破壊しているのは恐らく研究所で酷い目にあい仕返しするという意思の強いものだろう。



「すぐに逃げるのよD」


巨獣になったDの頭に翔子の声が響いた。


「翔子パイセンですか?一体どこにいるのでござるか?」


「私のことはいいから時間が無い。特殊部隊が来てここの暴動は直ぐに鎮圧される」


「わかったでござる」


「合唱団で行った廃校を目指すのよ。わかるでしょD」


「貴女はもしや」


「お姉ちゃんのいうことを聞きなさいD」


「はいでござる」


巨獣はバランスを崩しながら研究所の区画を駆け抜けて山に向かって行った。


その後ろ姿を見ながら尊は呟いた。


「そうだ、逃げろ。どこまでも逃げてくれD」



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