翔子
午前の授業が終わり給食を1分で平らげると尊は全然足りないとぼやいていた。その時知らない女子が呼んでいるとクラスメイトに言われ廊下に会いに行った。
「こんにちは親王時尊君」
尊は極力相手に怖がられないように日々鏡を見て練習している笑顔を相手に向けた。
女子は驚いた顔をした。
「へえ、あなたはDとは違って感じがいいのね。好感が持てるわ」
この女子は小学生にしては何か大人びているなと尊は違和感を抱いた。
「Dの事を知ってるんですか?」
「まあ、何回か話しただけだけどね」
見た感じは普通の女子だ。あまりにも普通過ぎる見た目が逆に普通ではないような気もするが。
「私は六年六組の山田翔子、よろしく」
「先輩なんですね。なにか俺に用でもあるんですか?」
「まず私の着てるこのセーターを見てくれない?」
翔子はとっくりセーターを着ていた。前面に大きく『今夜が山田』と刺繍されていた。
「何ですかそれ?」
「最悪でしょ。Dが私にプレゼントしてくれたの。笑わせたかったのかしらね」
尊は吹き出した。
「別に着なければいいのに、最悪なセーターで学校に来て文句を言うこともないでしょう」
翔子は笑顔になった。
「Dにはお茶目なところもあることを私はみんなにわかって欲しいのね。まあ、私の周りの友達は意外だって笑ってたけど」
「先輩いい人なんですね」
照れ隠しなのか髪をかきあげると翔子は真面目な顔になり言った。
「そのDがいなくなったんだけど、どこに行ったか知ってる?あなたは彼と仲良かったでしょ」
「俺は、親の都合でDが転校したと聞きましたけど」
「彼のおじいさんに聞いてみたらまだこの町にDの両親は居ると仰っていたわ」
「俺もよくわからないです」
翔子は尊との距離を詰めると下から顔を覗き込んだ。
「知らない?いや、あなたは知っているはずだわ」
尊は少し考えるふりをしてから言った。
「スポーツ特待でスカウトされたんじゃないですかね。Dはすごい筋肉だから。今頃寮で自己紹介でもしているのかも」
翔子は尊を睨みつけた。
「そんなことありえないでしょ。超人は競技に出られないのよ。あなた講習で学んだでしょ」
なんでこの女子は講習の内容を知っているのだろうか。そもそもなんでそんなにDに執着しているんだろうか。この女子はひょっとしてDの彼女なのでは。
「あなたはDのなんなんですか?」
つんと顔を背けた。
「別に何でもないわ」
「逆の立場になったと思って考えてください。自分の事を全く話したがらない人を信用できますか?」
翔子は少し間をおくと肩をすくめて言った。
「わかったわ。私も普通の小学生ではないとだけ言っておく。でもそれはここだけの話にしておいてね親王時尊君」
尊は納得していなかったが、彼女にも何か事情があるのかもしれないと深く追求するのは止めた。
「それでDの居場所を知ってどうするんです?」
「彼を救い出すの」
「救い出す?あなたにそんなことが出来るんですか?」
「それはわからない。けどもう時間が無い。Dを助けたいなら知ってることを全部教えて」
尊はこの女子について評価するだけの情報を持ち合わせていない。しかし研究所でDが実験され廃人にされるのを手をこまねいているだけなら、この女子に賭けてみても別にいいのではないか。
尊は決心し、口外してはいけない情報を含め全て翔子に話した。
翔子はただ話を聞いて頷いているだけだった。聞き終わると「ありがとう、またね」と言って去って行った。
数日後、校門前に出現した謎のオブジェ(死のゲートと呼称される)に入り山田翔子は消えた。かくれんぼをしている最中に失踪したということだったが、大人っぽい彼女がそんな遊びをするとは思えない。
彼女はDを助けることはなく、ただ消えてしまった。
失意の中、尊はゲートの事も彼女の事もそのうち忘れ、進級して6年生になった。




