雑踏に紛れた、夏祭り
「お、これなんだっけ」
「スマートボール」
「そうそう、それ。懐かしいなぁ」
久しぶりに、それこそ三年ぶりに地元の祭りをやるってことで、幼馴染のヨウと二人で通りを歩いていた。
それほど大きくない神社の境内。鳥居を出たらすぐ道路があり、その道路に、これでもかというくらい出店が並んでいる。今日と明日は通行止のため、車どころかチャリも通らない。
「“あいつ”ん家にもあったよなぁ。あれなんであったんだろー」
「さぁ? 物集めが趣味だったし。今でもあるんじゃない?」
“あいつ”というのは、高校が違うもう一人の幼馴染のこと。高校に入ってからは、時間が合わなくなって頻繁に会えなくなってしまった。疎遠になったわけじゃないんだけど。
「っと。人増えてきたなー」
向こうから歩いてきた人をよけつつ、ヨウが苦笑いをみせる。日も落ち、祭り独特の灯りが目に付きやすくなってきた。境内からは笛やら太鼓の音が響いてくる。
「なぁ、久しぶりにボールすくいやろうぜ」
「やらない。第一、景品もらったところでどうすんの、あんなもん」
景品の棚に並ぶ、少し大きいスーパーボール。サッカーや野球を模したものもあって、小さい時はまぁねだったりもしたけど、高二にもなれば話は別だ。
部屋に飾るのは、漫画やフィギュア、プラモデルとか。据え置きタイプのゲーム機だってあるのに、たかだかスーパーボールに場所を取っていられない。
「駄目かー。じゃ、何するー?」
「別に何も。それより、向こうにハシマキあったからそれ食べたい」
「じゃ、一緒に唐揚げも買おうぜ」
「唐揚げはアンタの奢りね」
「ま?」
嫌そうな顔のヨウに「当たり前」と笑い、流れに逆らうように出店の間を歩いていく。こつん、と手が触れ、ヨウが遠慮がちに手を握ってきた。
「……」
「こわっ、そんなに睨むなって。は、はぐれたら困るだろ?」
「そう。それなら」
逆にこちらから指を絡めてやれば、ヨウは顔を赤くして口をパクパクと動かした。
「はっ、えっ!」
「こっちのほうがいい」
「そ、そう、だな! 人、多い、からな!」
「うん、そうだね」
しっとり濡れているのは、一体どっちの手なのか。緊張か、暑さか、それとも人混みの熱のせいなのか。
あぁでも今日くらいはいいか。雑踏の中で絡めた指に、もう少しだけ力を込めた。