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8. 失恋



 時は過ぎ、コーディリアはもう16歳になった。いよいよ来月から乙女ゲームの学園生活が始まる。そんなことはつゆ知らず、コーディリアは入学を楽しみにしていた。

 

 しかし、その前に……今日はカルロスたちの結婚式の日だった。

 

 「おじさん、アンナさん、おめでとう!」


 カルロス側の参列者には、友達やアルバートはいるが、親族はコーディリア以外に誰一人来ていない。もはや侯爵家とは絶縁状態のカルロスだが、彼には平民の生活の方が性分に合っていた。


 「ありがとう、リア」

 「コーディリアちゃん、ありがとう」


 カルロスの結婚相手である花屋の店員はアンナと言う。今日は赤毛をまとめて白いドレスに包まれていた。


 「アンナさん、とっても綺麗です」


 コーディリアがそう言うとアンナは照れたようにはにかむ。


 「こんなドレス慣れなくって。恥ずかしいわ」

 「本当に綺麗だよ、アンナ」

 

 カルロスがそう言うとアンナはますます赤くなったが、カルロスを見上げて幸せそうに笑った。

 

 それからアンナは友達たちに話しかけに行った。


 「もうおじさんが結婚なんて、早いなあ」

 「あはは、僕はもうリアが学園に行くなんて早く感じる」

 「そうだね、楽しみ」

 「……何かあったらすぐに知らせるんだよ?」

 

 乙女ゲームではコーディリアがヒロインを虐めて、アルバートに婚約破棄され、自殺してしまう。今のコーディリアがまさかそんなことにはならないと思うが、やはりカルロスは心配せずにいられないのだった。

 

 「もう、おじさん過保護すぎ!」

 「いやぁ、ごめん、つい……」

 「わかってる、気をつけるよ。これでも私、外では品行方正なんだから。ちゃんとお父様たちに言われた通り、侯爵令嬢としての自覚をもって……」

 「いや、そうじゃないよ。立場に縛られすぎないで、リアのやりたいようにやればいい……だから、楽しんでおいで」

 

 貴族としては両親の言うことの方が正しいかもしれないが、カルロスがそう言ってくれることがコーディリアには嬉しかった。


 「……うん! おじさんも忙しいだろうけど、手紙書いて、たまには遊びにきてね?」

 「もちろんさ」

 「でも今やおじさん、大人気作家だからなあ。手紙がファンレターに埋もれちゃったらどうしよう」

 「リアの手紙は一番に読むよ」

 「約束だよ? ……それじゃ私、そろそろアルと一緒に帰らなきゃ」

 「うん、今日は来てくれてありがとう。気をつけてね」

 「……おじさん」


 別れ際、コーディリアはカルロスを見つめて心から言った。


 「幸せになってね」


 カルロスは一瞬目を見開いてから笑った。


 「もちろん、必ずアンナを幸せにする。でも、僕はコーディリアに出会えてからずっと幸せなんだよ」




 * * * * *




 先に馬車に乗っていたアルバートはコーディリアの顔を見てぎょっとした。


 「ディリィ、どうした?」


 コーディリアの顔は涙でぐちゃぐちゃだった。


 「うう……」

 「……やっぱりまだ、兄さんのこと」

 「……ううん! 今日の結婚式に感動しちゃっただけ! もうきっぱり失恋してるもの」

 「……そうか」

 「でも、おじさんのこと好きになってよかった。やっとそう思えた」

 

 しばらくするとコーディリアの涙も落ち着いてきた。

 

 「そういえばさ、アルって好きな人いるの?」

 「っはぁぁぁ!?」

 

 コーディリアの突然の質問に、アルバートは赤くなってガタン、と馬車の扉に背中を打ちつけた。


 「あ、やっぱりいるんだ」

 「な、なんで、急に、え?」

 「動揺しすぎでしょ。昔さ、おじさんのこと好きにならなきゃよかったって言ったとき、アルが慰めてくれたじゃない? あのときの言葉がやけに迫真的だったから、アルも片思いしてるのかなって気になってたの」

 「っえ」

 「私、応援するよ。って、こんなこと一応婚約者として言っちゃいけないんだろうけど。やっぱり婚約解消は難しいから、秘密の恋人関係として密かに応援するって言った方がいいかな?」

 「っ違う! そんなの俺は望んでない」

 「え、ごめん……って、まさか」

 

 コーディリアは何かに思い当たったかのように目を見開いた。


 「まさか、その子と本気で結婚を考えてるの? ごめん、アルの覚悟を見誤ってた。そうなると、うまく私たちの家の関係を保ちつつ、穏便に婚約解消する方法をしっかり計画しないと……」

 「ちがーう!! 何でそうなるんだよ?」


 あまりに真剣な勘違いぶりにアルバートは息を荒げた。


 「何でって、アルには幸せになってほしいから」

 「……は」

 「私はもう恋愛とか考えられないし、アルには両思いになってほしいなって思ったんだけど、余計なお世話だった?」

 「違う……お、俺は、ずっと……」


 真っ赤なままのアルバートがコーディリアを見つめた。


 「……ディリィのことがずっと好きだ」

 

 コーディリアは一瞬言葉の意味が理解できなかった。ゆっくりと頭が働きだし、それと同時にコーディリアの顔はみるみる青ざめた。


 「え、本当に……?」

 「本当だ! 最初は結婚とか嫌だと思ってたけど、俺がひどい態度をとっても仲良くしようとしてくれて、気づいたら好きになってた。ディリィって初めて愛称で呼んだときは死ぬほど緊張したし、ディリィが剣術を見にきてくれるときはすごい調子上がるし、会う前日はなかなか寝つけないし、ダンスのときなんて近すぎておかしくなりそうだけど正直役得だと思ってる!」

 

 コーディリアと対照的に耳まで真っ赤なアルバートは、勢いで余計なことまでぶちまけてしまった。


 「ご、ごめん……私……」

 「いや、わかってる! ずっと兄さんのことしか見てなかったのはわかってる……」

 

 コーディリアは愕然としていた。コーディリアは何度もアルバートの前で、カルロスを想って泣いていた。そしていつも、アルバートはコーディリアを慰めてくれた。

 好きな人から他の想い人の話を聞かされる辛さはコーディリアも知っていたのに。


 「アルのこと、すごく傷つけたよね……本当にごめん」

 「……辛かったけど、頼られるのは嬉しかった。だから謝らなくていい」

 「でも」

 「……本当はまだ、こんなこと言って困らせたくなかったんだ……いや、勇気がなかっただけだな。ディリィが好きなのは俺じゃないってわかってたから」

 

 そう苦笑したアルバートに、コーディリアは何を言えばいいのかわからなかった。



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