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5. 動揺



 コーディリアはカルロスのことが好きだと自覚した。


 しかし、それで何かが変わるわけではなかった。


 仮に両思いになれたとしても、叔父であるカルロスとコーディリアが結婚することはできない。

 コーディリアは、想いを告げるつもりはなかった。カルロスはコーディリアをたしかに愛している……けれど、それは親愛の情だとわかっていたから、困らせたくなかったのだ。

 それに、コーディリアもルイス侯爵家の娘として生まれた責任があるのは理解していて、愛はなくともアルバートとパートナーとしてうまくやれるだろうと思っていた。


 それでも、コーディリアにとってカルロスと過ごせる時間は大切なものだった。それまで以上に、カルロスと一緒にいられるとき、幸せを感じていた。


 

 「おじさん!」

 「リア、会いたかったよ」

 「……私も」


 久しぶりにカルロスが訪ねてきて、コーディリアは赤くなった顔を見られないようにうつむいた。


 「会うたびに綺麗になるね、レディー」

 「も、もう……私だってすぐ大人になるんだからね」

 「そうだね……リアも来年からは学園に通うんだよね」


 この国には、貴族が16歳から18歳まで通う学園がある。そう、乙女ゲームの舞台となる学園だ。

 コーディリアは数ヶ月後に15歳を迎える年になっていた。


 「うん」

 「何かあったらすぐに言うんだよ。手紙で知らせてくれたら、すぐに駆けつけるから」

 

 やけに真剣に言うカルロスにコーディリアは吹き出した。


 「ふふっ、何それ。学園ってそんなに大変なところなの?」

 「いや、きっと大丈夫だとは思うけど……」

 「アルもいるから大丈夫だよ? でも、おじさんと一緒に通ってみたかったなぁ……一緒に授業を受けたり、おしゃべりしたかった……そういえば、ダンスパーティーもあるんだって。おじさんと一緒に踊りたかったなぁ」

 「ははっ、僕がアルバートに怒られるよ」


 カルロスはそう笑ったが、コーディリアは首を傾げた。


 「なんでアルが怒るの?」

 「そりゃあ、アルバートもリアと踊りたいだろう」

 「えー、そんなことないよ。だって、好きな人と踊りたいって思うものでしょ? アルと私はただの友達だもん」

 

 そう言うコーディリアにカルロスは苦笑する。


 「でも、婚約者じゃないか。好きになってもおかしくないんじゃない?」

 「結婚はしょうがないことだけど……アルだって初めから、結婚には興味ないって言ってたもの。もしかしたら、そのうちアルにも好きな人ができるかもしれないけどね」


 コーディリアは、アルバートも結婚が義務だとわかっていて、それを放り出すような人ではないと思っていた。自分たちはパートナーであり友達でもある。もしもアルバートに好きな人ができたら、密かに応援するくらいのつもりだった。


 「そうかあ……」

 「うん、そうだよ。それより、おじさんは好きな人とかいないの?」


 コーディリアはほんの冗談のつもりで聞いた。

 だから、想像もしていなかったのだ__それを聞いたカルロスが頬を赤らめるなんて。

  

 「……お、おじさん?」

 「っいや、どうだろうね?」

 

 はぐらかされたが、コーディリアにはわかってしまった。


 (おじさんに好きな人がいるんだ……)


 考えてみれば別におかしなことではない。カルロスは顔も性格もいいし、社交界では変わり者だが、女性からの人気は結構ある。カルロスももう20代後半である。


 なぜ、カルロスに好きな人ができる可能性を考えてもみなかったのだろう。考えたくなかったのかもしれない。

 

 コーディリアはずっと気持ちを伝えないつもりだったのに。カルロスが結婚してもいいはずだったのに。

 

 それからコーディリアの胸は痛み続けた。



 

 * * * * *




 「で、なんで俺たちは兄さんを尾行してるんだよ……」

 「しーっ! アル、静かに!」


 コーディリアはアルバートを連れて、カルロスが出かける後をつけていた。

 あれからコーディリアはカルロスの好きな人が気になってしょうがなかった。尾行するなんてストーカーみたいだという罪悪感は感じたので、アルバートを巻き込むことでお忍びデートという設定を仕立て上げたのだった。


 カルロスは平民で賑わう街に来ていた。貴族が通う店のように豪華ではないが、屋台が所狭しと立ち並び、活気に満ちあふれている。

 そして、とにかく人が多い……いつのまにか、コーディリアはカルロスを見失ってしまった。


 「どうしよう……おじさんどこに行ったのかな」

 「そもそも一緒に行けばよかっただろ。なんでこっそりつけてるんだよ?」

 「それは……秘密なの」

 「……ふーん。まあ、せっかくだからなんか見て行かないか? 歩いてたら兄さんも見つかるかもしれないしさ……俺は今日楽しみにしてたんだよ」

 

 アルバートはデートに誘われたと思い、ぬか喜びしていたのだった。


 「あ……ごめんね、アル。私、アルが優しいから甘えちゃってた……」


 コーディリアはアルバートの気持ちをまったく考えていなかったことに気がついた。


 「や、別に……まあ、そういうのは俺だけに……」

 「よし、今日は楽しもうね!」

 

 コーディリアはもごもご言っていたアルバートに笑いかけた。

 とりあえずカルロスのことは置いて、コーディリアはお詫びにアルバートを楽しませようと決意した。

 


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