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3. 仲直り



 「おじさあああん!」


 数日後、コーディリアは訪ねてきたカルロスに会うなり抱きついた。

 いつもは淑女らしく挨拶をするコーディリアのただならぬ様子に、カルロスは目を瞬かせる。


 「リア、どうしたの?」

 「おじさん、聞いて! アイツ、最低なの! 仲良くなるなんて無理!」


 カルロスはコーディリアの目線に合わせてしゃがんだ。


 「何があったの? 話してごらん」


 コーディリアはアルバートと仲良くなろうとしたけれど馬鹿にされたこと、本を破られたことなどを話した。


 「そうか。リアは頑張ったね」

 「そうだよ! もう、あんなヤツと結婚したくない!」


 コーディリアは怒っていたが、ふと不安気な表情になった。


 「……それで、本を破られて、アイツを追い出したの。もしかしたら、親に告げ口されるかもしれない。どうしよう、お父様たちに知られたら……」


 怯えたコーディリアを落ち着かせるように、カルロスは頭を撫でた。


 「大丈夫だよ、リア。僕が絶対に君を守るから」

 「……本当?」

 「本当さ。リアが本当に嫌なら、結婚なんてしなくていいんだ」

 「ええっ! でもお父様とお母様は許さないよ。どうするの?」

 「僕と一緒に旅でも出ればいいよ」

 「あははっ、いいなあ、行きたい!」

 

 笑顔になったコーディリアをカルロスは優しく見つめた。


 「世界は広いんだ。選択肢は一つじゃない。僕はコーディリアの幸せを心から願ってるからね」

 「おじさん、ありがとう」


 コーディリアは嬉しそうに微笑んだ。


 そのとき、アルバートがコーディリアを訪ねてきたという知らせが入った。


 「ええっ? 連絡もないし、何考えてるの? せっかくおじさんが来てるのに……」


 コーディリアは不機嫌に言ったが、母親が家にいる手前、またアルバートを追い返すわけにもいかなかった。


 

 部屋に案内されたアルバートは、どこかそわそわしていた。


 「ごきげんよう、また急にどうしましたか? ずいぶん暇なんですね」


 コーディリアは素っ気なく言った。

 アルバートは言葉に詰まったが、ぎこちなく、以前コーディリアに渡された本を差し出す。


 「これを返しにきたんだ」

 「わざわざありがとうございます。それでは、用が済んだならお帰りください。お気をつけて」

 「あ、おい……」


 もはや、コーディリアはアルバートを追い返そうとしているようなものだ。


 そこへ、カルロスが声をかけた。


 「ねえ、一緒に湖に行かない? 今日はリアを連れて行こうと思っていたんだ」

 「おじさん、行く! けど、アルバート……様も一緒に?」

 「何だよ、嫌なのか? それよりお前は誰なんだ?」


 アルバートがカルロスを疑わしげに見上げた。


 「初めまして、僕はカルロス。リアの叔父だ」

 「……ふん。俺はアルバート・スコットだ」


 コーディリアはカルロスと二人っきりがよかったが、結局アルバートも一緒に湖に行くことになってしまった。



 湖に着いて、ボートに乗るため、カルロスはコーディリアに手を差し出した。


 「お手をどうぞ、レディー」

 「ありがと、おじさん」


 その様子をアルバートは微妙な顔で見ていた。

 三人でボートに乗り、漕ぐのはカルロスの役目だ。


 「おじさん、すごーい!」

 「俺だって漕げるぞ」


 目を輝かせてカルロスを褒めるコーディリアに、アルバートが言った。

 

 「そうなんですか」


 コーディリアはアルバートにまだ怒っているので、冷たい返事しかしない。


 

 ボートから降りて、木陰で休むコーディリアを護衛に任せると、カルロスとアルバートはどこかへ行ってしまった。暖かい風に包まれているうちに、コーディリアはいつのまにかまどろんでいた。


 


 「リア」


 カルロスの声でコーディリアは目を覚ます。

 気づけば日が暮れかけていた。


 「んん、おじさん?」


 コーディリアが目をぱちぱちさせていると、カルロスの後ろから、アルバートが落ち着かない様子で顔を覗かせた。


 「ほら、アルバート」


 カルロスがうながすと、アルバートは意を決したようにコーディリアを見つめた。


 「こ、この前はごめん!」


 そう言って頭を下げるアルバートに、コーディリアは目を見開く。


 「えっと……」

 「本破ったり、ひどいこと言って、ごめん…………あのさ、貸してくれた本、おもしろかった。魔法使いが裏切ってたところとか、すっげえハラハラした」

 「……私もあの本好きですよ。よかったら続きを貸しましょうか?」

 

 コーディリアの言葉にアルバートの表情が明るくなる。

 

 「ああ! 後、これ……」


 アルバートは後ろに回していた手をコーディリアの方に差し出した。

 アルバートが手にしていたのは、綺麗な花冠だった。


 「わぁ……素敵!」

 「……お、俺も、お前と仲良くなりたいんだ!」


 アルバートの顔は真っ赤になっていた。


 「……いいですよ、アルバート様」

 「本当か!? ……後、敬語は使わなくていい。アルって呼んでもいい」


 嬉しさを押し隠すように、アルバートは顔を背けながら言った。


 「じゃあ、アルって呼ぶね」

 「あ、ああ……」

 「綺麗な花冠くれて、ありがとう」


 コーディリアは花冠を頭に載せて、笑顔を見せた。

 

 「おじさん見て、似合う?」

 「世界一かわいいよ」


 微笑むカルロスを引き寄せて、コーディリアはこっそり言う。


 「おじさんもありがとう」

 「……何のこと?」

 「ふふ、何でもなーい」


 カルロスがアルバートをかなり手伝って花冠を作ったことなど、コーディリアにはお見通しだった。



 帰り道の馬車で、コーディリアはアルバートから眠っていた間の話を聞いていた。


 「すごかったんだ、兄さんがこれくらいのクワガタを捕まえて……」

 「に、兄さん?」


 コーディリアは顔を引きつらせて聞き返した。


 「ああ、カルロス兄さんだよ」

 「な、いつからおじさんがアルの兄さんになったの!? リアのおじさんだよ!」

 「いや、俺の兄さんだ」


 アルバートは長男なので、初めてできた兄のような存在のカルロスをすっかり慕うようになっていた。

 

 言い争いを続ける二人をカルロスは優しい目で見つめた。

 カルロスはコーディリアの婚約を心配していた。乙女ゲームでは、コーディリアはアルバートにずっと嫌われ、ひどい扱いを受けていたからだ。本気で結婚を阻止することも考えた。しかし……


 「おじさんはリアの!」

 「うわぁ!」


 コーディリアが顔を近づけて言うと、アルバートは赤面して後ろにのけぞり、思いっきり頭をぶつけた。


 「あ、アル、大丈夫?」

 「だ、大丈夫だから、近づくな!」


 (この様子だと安心だなあ)


 カルロスはアルバートを生温かい目で見守った。

 


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