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2. 大嫌いなヤツ



 「コーディリア、お前の婚約者が決まった」

 「え……?」

 「スコット公爵家の長男で、お前と同い年のアルバート様だ。喜ばしいことだな」


 コーディリアの父親は上機嫌に告げた。久しぶりに両親から呼ばれたと思ったら、こういうことだったのだ。


 「お、お父様……そんな、いきなり……」

 「よかったわね、コーディリア。スコット公爵家ならば、将来は安泰よ?」

 「お母様……私……」


 両親にコーディリアの戸惑う姿は見えていないようだった。


 「これで我がルイス侯爵家もますます力を得ることだろう。コーディリア、期待しているぞ」

 「ええ、よくやったわ、コーディリア」

 「……はい。では、失礼します」


 コーディリアはうつむいて足早に部屋を出た。

 コーディリアが両親に褒められたり、期待されたのは初めてだった。以前のコーディリアであれば、スコット公爵家の跡継ぎと婚約している限り、自分も愛されるかもしれないと思っただろう。

 しかし、今のコーディリアにとって、両親のように愛のない結婚をすることが幸せだとは全く思えなかった。それに、コーディリアには誰かと結婚する自分が想像できなかった。


 「おじさんは何て言うかな……」


 コーディリアが何を言ったところで婚約は取り消せないだろう。コーディリアはもう分別がつくようにはなっていたが、やはり不安で、カルロスがいてくれたらと心から思った。


 (アルバート様……どんな人なんだろう……おじさんみたいな人だったらいいな)




 * * * * *




 コーディリアとアルバートが初めて顔合わせをする日が来た。

 コーディリアは緊張していた。カルロスには会えていないが、手紙で『リアなら大丈夫。きっとアルバート君と仲良くなれるよ』と言われ、コーディリアは婚約者と親しくなれるように頑張ろうと思っていた。



 「初めまして、コーディリア・ルイスと申します」

 

 コーディリアが優雅に挨拶する。両親は満足気にその様子を見ていた。


 「……俺は、アルバート・スコットだ」


 アルバートは赤髪に水色の瞳をしており、さすが乙女ゲームの攻略対象というような整った顔立ちをしている。しかし、その顔はどう見てもふてくされていた。


 「二人でうちのお庭でも見てきたらどうかしら?」


 アルバートの母親がにこにこして言ったので、二人はしぶしぶ公爵家の庭園へと赴いた。



 「俺、結婚とか興味ないから」


 庭園に着いて、アルバートは開口一番にそう言った。


 「そ、そうですか。では、私とお友達になりませんか?」

 

 いきなり結婚興味ない宣言をされてもどうしようもないのだが、突然の婚約に戸惑うのはお互い様なのだろうか。コーディリアはアルバートの態度に苛立ったが、カルロスの言葉を思い出して気持ちを鎮めていた。


 「友達? 俺とお前が?」

 「はい。私、アルバート様と仲良くなりたいんです。ええと、アルバート様の好きなものは何ですか?」

 「……」


 アルバートは少し考えると、花壇の土を掘り返し始めた。そして何かを掴んで、コーディリアの前に差し出す。それは……カブトムシの幼虫だった。


 コーディリアは虫が何よりも嫌いである。


 「き、きゃあああああ!」


 コーディリアは驚いて飛びすさった。

 

 「俺の好きなものだよ。ほら、友達なんてなれるわけないだろ?」


 アルバートは馬鹿にするように鼻で笑った。

 

 「……わ、私、アルバート様の好きなものが知れて、う、嬉しいです。私は、虫は苦手なのですが……ほ、他に好きなものはありませんか?」


 コーディリアの声は震えていた……怒りで。しかし、コーディリアはカルロスが嫌いと言われてもコーディリアに話しかけてくれたことを思い出して、必死に耐える。


 「他に? 剣術かな。お前はできないだろ?」


 またもや鼻先で笑われ、そろそろコーディリアはキレそうだった。


 コーディリアの忍耐力が試されているかのような顔合わせは、なんとか過ぎていった。




 * * * * *




 一週間後、何の連絡もなしにアルバートがコーディリアを訪ねてきた。

 コーディリアはカルロスの新作の小説を読み耽っていたので、邪魔されて非常に不愉快だった。


 「アルバート様、どうしていらしたのですか?」

 「ん? 暇だったから」

 「そうですか。暇なら、これでもどうぞ。私は読みたい本がありますので」


 そう言ってコーディリアはアルバートに何冊か本を渡すと、カルロスの小説の続きを読み始めた。


 「はぁ? 俺、本とか読まないからな。何なんだよ」


 アルバートはコーディリアの読んでいた本を奪った。コーディリアが本を掴む。


 「やだ、返してください!」

 「嫌だね」


 二人に強い力で引っ張られ__本がビリッと音を立てて破れた。


 「「あ……」」


 一瞬の沈黙が流れた。


 「お、お前が引っ張るから……」

 「……って」


 コーディリアが何かつぶやく。


 「は、何て」

 「出てってよ! リアはね、あんたみたいなヤツ、大っ嫌いだから! 早く、出てって!」


 コーディリアがアルバートを睨みつけた。あまりの剣幕に、アルバートは呆然としたまま部屋を追い出された。



 「何なんだよ、あいつ……」


 アルバートは家に帰る馬車の中で苛立っていた。せっかくアルバートが訪ねて行ったのに、喜ばれないどころか、追い出されるなんて思ってもいなかったのだ。


 「そういえば、これ持って来ちゃったな……」


 アルバートは手にしていた本を見つめた。先程コーディリアがアルバートに手渡したものだ。返す暇もなく追い出されてしまったアルバートは、ぱらっとページをめくる。すると、何かのメモが落ちた。


 「何だ?」


 アルバートはメモを拾った。


 『アルバート様の好きなもの

  ・虫

  ・剣術

  冒険の本など好きかもしれない。剣でモンスターと闘う系?

  虫の研究書など? 

  共通点はない→新しいことを知れる、補い合える……かもしれない』


 アルバートはじっとメモを見つめると、再び本を手に取った。



 その頃、コーディリアは……

 

 「サイッテー! 嫌なヤツ、嫌なヤツ!」


 怒りに任せて、枕を殴っていた。


 「もう無理! あんなヤツと仲良くなるなんて、絶対ありえない!」


 コーディリアの中で、アルバートは大嫌いなヤツになった。



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