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14. 幸せ



 そこで、それまで黙っていたアルバートがティナの腕を振り払った。


 「きゃあっ、何をするんですか、アル様!」

 「それはこちらの台詞だ。お前が俺の婚約者に虐められたと言って、制服を引き裂いたり、階段から落ちたりしたのは自作自演だと判明している。複数の証拠があった」

 「そんな……あたしは……」

 「よくも俺の愛する婚約者を陥れようとしたな。こいつを連れて行け、もう顔も見たくない」


 アルバートの指示により、ティナは衛兵に引きずられる。


 「どうして、どうしてこんなことにぃ! あたしは、お姫様になるのよ!」


 ティナは血走った目で叫びながら、舞台の外へと連れて行かれていった。

 

 「アル様……先ほどの言葉は本当ですか? 愛する婚約者というのは……」

 

 コーディリアはアルバートを見上げていった。


 「ああ……もう二度とお前を傷つけさせはしない……愛している」

 「……私も愛していますわ」


 そう言ってコーディリアはアルバートに抱きつき、キスをした。

 

 『それから二人は末長く、幸せに暮らしたのでした』


 そして舞台の幕は下りた。

 



 + + + + +



 

 「大成功です、コーディリアさん!」


 ティナが笑顔でコーディリアに駆け寄ってくる。

 たった今、演劇部の卒業公演が終わったところだった。その筋書きはこうだ。

 



 「アルマンド」と「コーディ」は子どものころから決められた婚約者であったが、実は互いに想いあっていた。しかし、貴族の学園へ入学すると、天真爛漫な男爵令嬢が「アルマンド」に近づくのだ。そして、「コーディ」に虐められたという嘘をつき始める。「アルマンド」は彼女の嘘の証拠を集め、婚約者の名誉を守ろうとするが、それを知らない「コーディ」は「アルマンド」と少女が両思いなのだと勘違いし、自分は婚約破棄されるのだと覚悟する。だが、ラストシーンで誤解は解け、「アルマンド」と「コーディ」は晴れて両思いになるのだった。




 その「アルマンド」役がアルバート、「コーディ」役はコーディリア、男爵令嬢の役はもちろん、ティナが務めたのである。

 なんとなく名前が似ているのは、この話の原作を書いたのがカルロスだからだ。カルロスがコーディリアとアルバートと乙女ゲームをモデルにして書いたこの小説は巷で大人気となっていた。


 「うまくいってよかったわ」


 コーディリアはほっとしたように笑った。コーディリアとアルバートは演劇部員ではなかったのだが、演劇部に入ったティナと他の部員たちの熱い説得により出演することになったのだ。


 「本当にコーディリアさんたちに引き受けてもらえてよかったです。なんだろう、初めて小説を読んだときから、配役が二人以外に思い浮かばなくて。やっぱり、ぴったりでした」

 「ふふ、そうかしら。それにしても、ティナさんの演技はすごかったわ。最後なんて鬼気迫る表情だったもの」


 2年前の学園祭の演劇に感激したティナは、演劇部に入り、その才能を開花させたのだった。


 「ありがとうございます! 実は、劇団の方からスカウトのお話をいただいたんですよ」

 「まあ、おめでとう! ティナさんが出演する舞台は必ず観に行くわ」

 「絶対ですよ!」


 ティナとコーディリアは笑顔で約束を交わした。

 しかし、ふとティナの顔が曇る。


 「でも、もうすぐ卒業だなんて寂しいです……」

 「そうね……でもまだ卒業式まで数週間はあるわよ」

 「たった数週間じゃないですか!」

 

 ティナの目にうっすらと涙が浮かぶ。


 「あたし、学園でコーディリアさんと出会えて、友達ができて、毎日が楽しくなりました。それから演劇部に入って、夢もできたけど……楽しすぎて、卒業したくないって思っちゃうくらいなんです」

 「ええ、私もとても楽しかったわ。ティナさんと友達になれてよかった」

 「コーディリアさぁぁぁん」


 ティナの目から大粒の涙がこぼれ落ち、ティナは泣きながらコーディリアに抱きついた。


 「もう、まだ卒業式じゃないのよ。それに卒業してからも会えないわけじゃないわ」


 そう言うコーディリアも涙目になっている。


 「うう、あたし……今は学園に来てよかったと心から思います。コーディリアさんが一緒にたくさん思い出をつくってくれたから。だから寂しいけど……」

 「ええ」

 「これからは離れていても、コーディリアさんに負けないくらい頑張りますから」

 「ふふ、私も頑張るわ」


 二人は涙に濡れた顔で見つめあい、同時に吹き出した。


 「……これからもずっと、あたしの友達でいてくださいね」

 「もちろんよ」


 ティナは演劇に青春を捧げ、その結果アルバート以外の攻略対象とのイベントもすべてすっぽかしていた。

 そして、これは悪役令嬢との友情エンドとでも言うべきだろうか……何はともあれティナは幸せだった。



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