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11. 遭遇



 学園の休日、コーディリアとアルバートは街にあるカルロスたちの家を訪ねに来ていた。


 「手紙では聞いていたけど、学園生活が楽しそうでよかったよ」


 カルロスがそう言って微笑む。


 「うん、すっごく楽しいよ。アルとはクラス離れちゃったけど、毎日一緒に帰ってるしね」

 「それはよかった……アルバートの方は困ったこととかない? 例えば、女子に言い寄られたりとか……」


 カルロスは乙女ゲームのヒロインのことを知らないが、アルバートが攻略でもされたら大変だと思っていた。まあ、これまでアルバートはコーディリア一筋だったので大丈夫だろうが……乙女ゲームの強制力や、万が一にもヒロインが転生者だったりしたら……と考えるとカルロスの心配は尽きないのだった。


 「いや? 俺にはディリィがいるし……ってあの、婚約者、一応、婚約者として! 別に恋人ヅラしてるわけじゃないから!」


 アルバートは途中で自分の発言に焦って赤くなった。


 「あはは、杞憂だったね」


 カルロスは笑ったが、コーディリアは神妙な顔つきで黙ってしまった。


 「リア?」

 「……あ、おじさん、何?」

 「いや、何か考えてるようだったから」

 「ううん、なんでもないよ……そういえば、おじさんはティナさんって知ってる? 私の友達なんだけど、小さいころ孤児院で暮らしていたらしくて、ときどきアンナさんが働いている花屋に行ってたんだって」


 アンナというのはカルロスの妻のことだ。


 「……それってもしかして、ピンク色の髪で青い目の子だったりする?」


 この世界で、孤児院で暮らしていた子どもが貴族の学園に通うなどまずありえない。乙女ゲームのヒロインでもない限りは……

 カルロスが覚えている限りでは、ヒロインは孤児院に寄付をしている年老いた男爵夫妻に気に入られ、養女となるのだった。


 「そうそう、ピンクの髪って珍しいよね。やっぱりおじさんも知ってたの?」


 何も知らないコーディリアは無邪気に尋ねた。


 「いや、直接会ったことはないんだけど、まあ……へえ、友達なんだね?」

 「そうだよ、違うクラスだけど。たしか、アルと同じクラスだったかな」

 「……そうなんだね」


 コーディリアが悪役令嬢になるどころか、ヒロインと友達になっているとは完全にカルロスの予想外だった。


 (アルバートと同じクラスっていうのは少し不安だけど、まあ、アルバートの様子からすると大丈夫そうかな……リアが悪いことに巻き込まれなければいいんだけど)


 やはりカルロスの心配はこれからも続くようだった。

 それから三人で話をして、コーディリアとアルバートはそろそろお暇することにした。

  

 「それじゃあまた、兄さん」

 「うん、またね、アルバート」

 「おじさん、また手紙送るね、バイバイ」

 「あ、ちょっと待って、リア」


 カルロスはコーディリアを引き止め、アルバートが先に行ったのを確認する。


 「……もしかして、アルバートのことで何か悩みでもある?」


 先程、コーディリアがやけに神妙な面持ちをしていたのが気になっていたのだ。


 「うーん……でも、私が考えないといけないことだから大丈夫」

 「そっか。もし何か話したいことがあれば、いつでも相談に乗るからね」

 「うん、心配してくれてありがとう」




 * * * * *



 

 それから街に来たついでに、コーディリアとアルバートは少し散歩することにした。

 そこで、コーディリアは見慣れたピンク色の頭を見つけた。


 「ティナさん?」

 「わあ、コーディリアさん!」

 

 ティナがびっくりした顔で振り返った。


 「ティナさんはどうしてここに?」

 「休日はたまに、街に来させてもらえるんです。やっぱり、ここの雰囲気が落ち着くので……コーディリアさんはどうして、あれ?」


 ティナはアルバートを見て首をひねる。


 「もしかして、同じクラスの……?」

 「ああ、そういえば話したことはなかったな。アルバート・スコットだ、よろしく」

 「あ、あたしはティナ・フローレスです」


 そして一瞬の後、ティナは目を大きく見開いた。


 「も、もしかして、スコット君がコーディリアさんの婚約者なんですか!?」

 「……ええ、そうよ」

 「えーっ! びっくりしました。なんだか、コーディリアさんから聞いていたイメージと違うので……」

 

 そう言われてアルバートは微妙な顔つきになる。


 「何言ったんだよ、ディリィ」

 「えぇ、別に嘘とかついてないけど?」

 「あ、あの、別に悪い意味ではなくてですね! コーディリアさんの話からはなんというか、優しくてからかいがいのある、かわいい方を想像していたんです。でも、クラスではもっとクールで大人っぽい感じだったので」

 「あはは、何それ、そんなアル想像できないや」

 「そんなことないだろ、別に」

 

 不満気なアルバートとそれを笑うコーディリアを見て、ティナはなぜか目を輝かせる。


 「とっても仲がいいんですね! じゃあ、もしかして今日はデートとか?」

 「っデート、なのか?」

 「そうね、デートよ」


 コーディリアがティナにそう言うと、アルバートは若干顔を赤らめる。


 「わぁ、いいなあ……あ、それじゃあたしお邪魔ですよね。行くところもあるので、失礼します!」

 「こちらこそ引き止めてごめんなさいね。また学園で会いましょう」

 「はい! それじゃまた!」


 ティナと別れてコーディリアが歩き出したところ、アルバートがその手を掴んだ。


 「デートなんだろ」


 そう言う割にアルバートの顔は赤く、手も少し震えている。


 「……」

 

 またもコーディリアは真顔で黙り込んだ。

 

 「悪い、嫌だったか?」


 アルバートがかなりショックを受けたように尋ねる。


 「ううん、嫌じゃないよ」


 コーディリアが笑うと、アルバートはぱっと嬉しそうな表情になった。

 

 「ふふ、やっぱりクールなアルなんて思い浮かばないな」

 「な、なんでだよ」

 「なんか、かっこいいっていうより……うーん、でもそのままのアルが……」

 「俺が?」

 「……えーと、そのままでいいと思うよ」

 

 アルバートは嬉しいような情けないような気持ちになった。

 


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