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10. 友達



 学園に入学してから一ヶ月が経とうとしていた。

 この日、コーディリアは同じクラスの友達と中庭で昼食をとろうとしていたのだが、急に雨が降ってきてしまった。


 「これは、止みそうにありませんね」

 「そうね、激しくなってきたし、これ以上濡れないうちに教室へ行きましょう」


 友達の言葉に同意して、コーディリアは校舎へ入ろうとしたが……


 (あれ、なんだか聞き覚えのある声)


 誰かの声が外から聞こえたような気がして、立ち止まる。


 「ごめんなさい、急用を思い出したので先に行っていてくれるかしら?」


 なんだかその声が気になって、コーディリアは友達に断り、声のした方へ向かった。


 校舎裏のあまり人が集まらないところで、数人の女子生徒が何か言い争っているようだ。


 「誰にでも愛想を振りまいてたぶらかそうとするなんて、さすがは元平民、卑しいわよねぇ!」

 「あたし、そんなつもりじゃ……」

 「じゃあどういうつもりなのよ、汚らわしい」

 「あたしはただ、仲良くしたくて……あなたたちとも……」

 「っそういうところが苛立たしいのよ! 身の程をわきまえなさい!」


 そう怒鳴った一人の令嬢が誰かを突き飛ばし、雨でぐちゃぐちゃの地面に尻もちをつかせた。


 「ティナさん!?」


 コーディリアは口にするより先に駆け寄っていく。突き飛ばされたのは、乙女ゲームのヒロインであるティナだった。

 コーディリアとティナはクラスが違ったこともあり、入学式から話す機会がなかったのだが、今の会話でなんとなくコーディリアは事情を察する。おそらく、自分たちよりも身分が低い、しかも元平民のティナが好かれるのが気に入らないといったところだろう。


 「こ、コーディリア様!?」


 先ほどまで高圧的な態度をとっていた令嬢たちだが、侯爵令嬢であるコーディリアが突然現れ、目に見えてうろたえる。


 「何をなさっているのかしら……私には数人がかりでティナさんに暴言を吐いて突き飛ばしたように見受けられたけれど?」


 コーディリアは冷たい声で三人の令嬢たちを問い詰める。


 「コーディリア様、違いますわ。私たちはただ、この方が貴族のマナーを知らないようですので……注意をしていただけですの」

 「一方的に相手をなじり、あまつさえ手を出すなんて、注意と言えないでしょう。それこそ、貴族としてのマナーもプライドもないようですね。ブリジット様、クロエ様、ゾエ様」


 三人はいつもお茶会でコーディリアに媚を売ってくる伯爵令嬢と子爵令嬢たちだった。家柄目的丸出しで近づいてこられるのは気分の良いものではないが、それも仕方のないことではある。しかし、家柄が下の者を見下して陰で虐めることは、規範となるべき者としても許してはならないと今のコーディリアは思う。


 「申し訳ございません、コーディリア様」

 「謝る相手が違うんじゃないかしら」

 「……ご、ごめんなさい」


 令嬢たちは悔しそうに唇を噛み締め、ティナに向けて頭を下げた。ティナは驚いたように目を見開く。


 「わ、わかりました。もう、大丈夫です」

 「本当に大丈夫?」

 「はい、また、やり直せると思うので……」

 「ティナさんがこう言っているけれど、もしもまたこのようなことがあったら、私が黙っていないわ。覚えておいて、ブリジット様、クロエ様、ゾエ様。せっかく同じ学園に通えたのに、これが初対面だなんて本当に残念だわ」

 

 コーディリアがそう言うと、三人は顔を赤くして走り去っていった。

 

 「ティナさん、怪我はない?」

 「はい、本当に大丈夫です」

 「もしかして、こういうことがこれまでにもあったの?」

 「……少し、ありました」

 「そうだったの……大変だったわね。あんな言葉気にする必要はないわ」

 

 コーディリアの言葉に、ティナの目から涙があふれ出した。


 「ううっ、やっぱりこんな貴族の学園なんて来なきゃよかった。マナーも必死に勉強しているつもりだけど、やっぱり馬鹿にされて。仲良くなりたかっただけなのに、嫌われちゃって、うわああん」


 コーディリアはただうなずいた。しばらくしてティナが落ち着いてくると、ハンカチを取り出し、ティナの涙と雨と泥でぐちゃぐちゃの顔をそっと拭った。

 

 「辛かったわね……」

 「ぐすっ、あ、そうだ、ハンカチ……」


 ティナはポケットから、入学式でコーディリアが渡したハンカチを取り出した。


 「これ、ずっと返そうと思っていたんですけど、なかなか会えなくて」

 「まあ、いいのに。それはティナさんに差し上げるわ」

 「え、でも……」

 「受け取ってほしいの。友情のしるしとしてね」

 「友情……?」

 「ええ、私ティナさんと友達になりたいの。入学式でも猫を助けようとして木に登っていたでしょう。とても優しい人なんだと思ったし、気の合う友達になれるんじゃないかと思って。だめかな?」

 「いえ……いえ! あたしもコーディリアさんと友達になりたいです!」


 ティナはきらきらと目を輝かせた。


 「嬉しい。これからお昼は一緒にどうかしら? 同じクラスの友達は身分で人を選んだりしない方々だから、きっと快く受け入れてくれるわ」

 「ぜひ!」

 「ふふ。ねえ、まだ学園生活は始まったばかりなのよ。一緒に楽しい思い出をたくさんつくりましょう。もう学園に来なきゃよかったなんて言わせないわ」

 「はい!」

 「それじゃあ、まずは保健室に行って着替えましょうか。私たちびしょびしょだわ」


 そして、二人は互いに濡れた顔を見合わせて笑った。

 

 __実は乙女ゲームの中で、虐められているティナを攻略対象が助けるイベントがあったのだが、何も知らないコーディリアはそれを解決してしまっていた。そもそもヒロインを虐める悪役令嬢というのがコーディリアだったのだが……

 乙女ゲームのシナリオは確実に狂い始めていた。

 


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