続ユニオン
「おっしゃー!!きたぞトール!合金だ!!」
「しゃー!!やったな!今日3本目か?」
「フォルグ!急げ!次が来るぞ!」
「ああ!?なんか来過ぎじゃねえか!?」
「こりゃぁ、近くを通ってる奴らに、なすり付けられてるかもしんねえなぁ、マイケルちょっと強引にでも場所を移動しねえか?」
「・・・なる程、余裕のあるうちに、だね?分かったそうしよう!アンドリュー!移動だ、メインの道から離れよう!怪我人が出る前に動くよ!」
「分かった!皆んな移動だ!フラン、ヴィルの所へ!サラ、俺と最後尾を頼む!」
「「了解!」」
初めてのユニオンからそろそろ一月だろうか?俺たちフェアリーテールとガーフィッシュは、組んで狩りをしている、役割りや各々の立ち位置の調整をしながら今の形を作って来た。
ゴーレム、ジャイアントゴーレムはマイケルをリーダーに動き、その他のモンスターの相手はアンドリューがまとめる形だ、ゴーレム組はマイケル、ヨハン、フォルグ、メリッサ、俺とヴィルだ、ジャクソンさんが居る時はもちろんこっちだ。
その他組はアンドリュー、コニー、レン、サラにフランだ、自分で言うのもなんだが、パワータイプばかりだと索敵に手抜かりがありそうで心配だ、それでヴィルには俺たちの方に入ってもらっている。
アンドリューはそこそこパワーもあるのだが、リーダーをやってる奴がまとめた方が、お互いにやりやすいのだ。
ジャクソンさんは最近休む様になった、理由は奥さんたちが心配って事だけど、俺たちに気を遣ったのだろう、これからの事を考えれば、パーティーの形が変わるのは大変だ、今のうちに慣れる為だと俺は思っている。
「金属の需要が落ち着いて来たって言われた時は、どうなるかと思ったけどなー。合金の需要はますます上がる一方だ!!ありがてえ話しだぜ!なあ!」
「第2戦線級の冒険者たちが今血眼になって求めてるからなー、フォルグはそろそろ買わないのか?」
「俺か?そこそこ貯まってはきてるけどよ!それなりに使ってもいるからな、もうしばらく先だな!ヨハンはどうだ、お前けっこう貯めてただろ?」
「俺は後少しだな、酒も控えてるし夜遊びもな。だけど、さっきフォルグも言ったが値上がってるのが辛いな、マイケルやトールは本当に良いタイミングで買ったよ、羨ましい。」
俺たちは今、13階層をメインの狩り場にしている。少し前に森林地帯の西の方で内乱が起こったらしい、それによって金属の需要が上がっていたけど、今では落ち着いて来た様だ。
だがこれに変わって、トップのパーティーが23階層でお宝を見つけて返って来た!
これによって、奥に進みたがるパーティーが急増し、奥で必要となる合金の需要が増し、値上がりが起こっているのだ。マイケルもそろそろ行きたがるかと思ったのだが、せっかくの値上がりだしがっつり稼いでから行けばいいと、競争よりも慎重に、そして純粋に未知への挑戦の方に重きをおいている様だ。
だが俺たちもいつまでも手をこまねいているわけじゃない、着々と準備を進めている、さっきの話しはそんな内容だ。
移動中のお喋りは褒められた事ではないが、かって知ったる13階層になってしまっている、マイケルも苦笑しながらも文句は言って来ない、まあ怒られる前にやめるけどね。
「マイケル!そろそろ終わりにしとくか?」
「後少しやりたい所だけどね。」
「そうだよな〜、だけどそうすると次は止めどきが難しい。」
俺の感覚だが、200メートル程進んで歩きに移行し、再びジャイアントゴーレムを探していると、アンドリューから声がかかった。
アンドリューが今日の狩りの終了を相談しにやって来る、体感時間では確かにまだ早い、だが狩りは順調そのもの、その所為で逆に判断が難しい様だ。
「休憩場所を目指しながら、後2匹前後って感じで、具体的に目標を設定して動いたらどうだ?今日は数も多かったから、皆んな集中力も切れて来てる。後少し引き締めて、最後きっちり終わろうぜ?」
俺も意見がある時はきっちり言わせてもらう、アンドリューも最初は驚いていたが、最近は慣れた物だ。
「集中力が切れて来てるか?俺には感じないが・・・?」
「俺もそうだけど、さっきから皆んな無駄話が多いな、この雰囲気は危ないと思う。あくまで俺の意見だ、後は2人で決めてくれ、決定に従うよ。」
「そういやぁそうだなぁ、俺もさっきレンと話してたなぁ。」
「そうっすね〜、今も気が緩んでるのか皆んな喋ってるっす。」
ここに集まっているのは、マイケル、アンドリュー、ヴィル、レンに俺だ、何かというとこのメンツだ。最初レンは居なかったけど、途中からアンドリューが連れて来る様になった。
アンドリューはレンをサブリーダーにしたい様だ、これまでほとんどリーダーのアンドリューが決めていたみたいだから、その辺も先を見越しての動きだろう。
レンも分かっている様だ、分からない事は聞くし、積極的に意見も言う様に心掛けていると感じてる。
「トールの案でいこう!アンドリューもそれでいいかな?」
「分かった妥当だろう、2匹前後だな?」
マイケルが手を叩いて皆んなを集める。
「俺もそうだけど、皆んな気が緩んでいる様だ!休憩場所まで後少しだ、最後まで気を引き締めて怪我無く終わろう!」
「お前たちも気合入れろよ!奴らの所へ雑魚どもを1匹も通すな!良し行くぞ!」
マイケルとアンドリューが一言づつ皆んなに声をかけ出発する、やっぱりこういう事がさらっと出来る辺り、こいつらはリーダーなんだよ!俺には絶対に無理だ!それでも意見を言いたがるのは、悪い癖なんだろうか?難しい所だな、いかんいかん集中集中!
今回も何とも無く終わった。アクシデントといえばジャクソンさんがいない分マイケルに持たせようとして、籠が持ち上がらなかった事くらいだ、仕方ないので皆んなで分散してバックなどに入れて運んで行った。
今回もしっかりと稼いだ。
俺たちが冒険者ギルドで精算待ちをしていると『スマッシャーズ』のメンバーがギルドに入って来た!
『スマッシャーズ』は今のトップパーティーの1つで、最近23階層でお宝を発見してきたパーティーだ、ダンジョンだけではなく、外の仕事も時々受けている、地元出身のリーダーが率いる割りと人気のあるパーティーだ。
リーダーはロックスと名乗っているが本名は不明だ、親に変な名前を付けられたのかもしれない。
キラキラ名前くらいなら良い方だというレベルの物もあるらしく、日本でも毎年何人もの人が自分の名前の変更を申請してるらしい、俺は普通の名前で良かった!
こっちの世界では「とおる」って言っても、皆んな「トール」にしちゃうけど、俺も早々に「お」を入れるのを諦めたからね。
俺たちは雰囲気あるな〜、などと話していたがその『スマッシャーズ』のリーダー、ロックスさんがお越しだ!え!何!?
彼はヘルムも外し、俺たちに声をかけてくる。
「君たちが『フェアリーテール』と『ガーフィッシュ』かな?俺は『スマッシャーズ』のリーダーをやっているロックスという者だ、本名は恥かしいので勘弁してくれ。時間がある様なら少し話しがしたいのだが、良いだろうか?」
「『フェアリーテール』のマイケルです!精算を待ってるところなので構いません!」
「『ガーフィッシュ』のアンドリューといいます!俺・・・自分たちも構いません!」
リーダー2人が慌てて挨拶を返した、2人とも立ち上がったがロックスさんは座る様に言い、自分も座って良いか聞いて来た!もちろんOKした!
「お前たちが合金を集めてくれたんだってな!礼を言うよありがとう!おかげでこの鎧が完成した!」
そう言って兜などを見せてくれた!どうやら彼の鎧は全身合金製らしい!
マジか!?俺なんて合金製のチェインシャツだけで1回手持ちが吹っ飛んだのに!!一体幾らするんだよそれ!?
「今回は君たちに話しておきたい事が2つあってな、1つは『タイタン』の事だ。知ってるかもしれないが、『タイタン』は手を出さなければ攻撃はほぼして来ない、だが1度攻撃を仕掛ければ、しばらくは見境無く人に襲いかかってく来る。15階層を拠点にして上に行っている俺たちとしてはそれは困るんだよ、ジャイアントゴーレムすら倒せる君たちが『タイタン』に挑みたいのは分かるつもりだが、どうか自重して欲しい、同じく15階層を拠点にしてる他の連中も困ると思うんだ。」
危なかった!メリッサを止めておかなければ、あの『タイタン』が大暴れだった様だ!正直それも見てみたかったけど、あれに挑む覚悟なんて未だに無い!
それでもマイケルは答えない。ジャクソンさんの事もあるだろう、口では挑む気になれないと言いながらも、心の中では自分が倒してやると思ってるに違いない。
アンドリューもそれを感じているのだろう、こちらも口を開かない。
2人が何も言わないので、『スマッシャーズ』の獣人の人が一歩踏み出し言った。
「何とか言えや!聞いとんのか!?」
「良い止めろ。」
それをロックスさんが止める。
「もう1つあったんだが聞くだけ聞いてくれ、俺たち『スマッシャーズ』は君たちを高く評価している、今後のユニオンの相手にどうかとね?だが『タイタン』に挑むというなら話しは別だ、俺たちは奴に挑む気はないし手を貸す気もない、それは覚えておいて欲しい。」
それでも2人は何も言わない、再び獣人の人が何か言おうと一歩踏み出したところに、メリッサが声を上げる。
「ユニオンを組んで上の階層に引き上げる代わりに、優先的に合金が欲しいと、相場どうりに買って下さるならそう悪い取り引きではないわね。でもその代わり『タイタン』は諦めろと?今後挑む予定もないあなたたちと組むのは正直気が乗らないわね〜。」
「あんだと!この女!?ぶっ殺すぞ!」
獣人の奴が踏み込んで来たので、俺も盾を持って応じる。
「あら?トップパーティーのメンバーがまさかの殺人予告かしら?衛兵さ〜ん♪」
おいおい!メリッサ煽るなよ!こいつ見たまんま短気そうだぞ?
「ダンジョンに潜っちまえばお前・・・。
「13階層を通る時は気をつけなさい、流れ魔法にせいぜい当たらない様にね!私の炎は強力よ?あなたなんて骨も残さず消し炭にしてあげる。」
相手に最後まで言わせず被せるメリッサ、相手はトップ!トップパーティーだから!!喧嘩を売る相手は選べよ!さすがにスピードタイプを相手に守りきる自信はないぞ!
「うちにも魔法使い・・・。
「私では彼女には敵いません、あなた1人で灰になって下さいね、我々を巻き込まないで頂きたい。同じく火の魔法を操る者として、今度お話し出来れば嬉しく思います。」
まさかの裏切り!?再び台詞被せられてるし、しかも仲間に!後ろからブスッとやられたぞあいつ!
「ええ、機会があれば是非!」
こっちも急にフレンドリーに応じてるし、さっきまで喧嘩売ってたの誰だよ!?俺も腹立つし一言いってやるか!
「ありがたい申し出でしたが、ご縁がありませんでしたね。合金はがっつり稼いでギルドに納品しておきますので役立てて下さいね。」
「残念だ。」
ロックスさんは1つ息を吐き首を振りながら言った、そして立ち上がり1度は背を向けたが、振り返って続けた。
「そうだ、もし『タイタン』に挑む様なら先にギルドに日時は届けておいてくれよ?無用な被害を出さない為だ、それだけは絶対だぞ?暇だったら見に行くからな、それとお前らも暇だったら今度のオークション見に来いよ、俺たちの見つけたお宝が出品されるからな。」
「ギルドへの報告はお約束しますよ、討伐は楽しみにしてて下さい。オークションは・・・今の俺たちには目に毒では?」
『スマッシャーズ』の人たちが動き出したのに獣人の奴が残っていたので警戒していると、中段の蹴りを放ってきた!ミエミエだったので半歩引いて空振りさせてやった、それを見てうちの女性陣が意地悪く笑い、彼は『スマッシャーズ』のメンバーに引っ張られていった。
「おめえじゃぁトールには勝てねえなぁ。」
そこにヴィルが追い打ちをかけた!だから煽るなって!
『スマッシャーズ』が完全に去った後で、俺はマイケルと『ガーフィッシュ』の皆んなに謝っておいた。
「悪かったなマイケル、勝手に話し進めちゃって、『ガーフィッシュ』の皆んなもごめんな、せっかくトップのパーティーと接点を持つチャンスだったのに。」
すぐ答えたのはアンドリューだった。
「馬鹿にするなよ、俺たちだってジャクソンさんにはお世話になってるんだ、あの人の悲願である『タイタン』討伐を簡単に諦めるなんて、たとえ口先だけでも言えるはずがない。まあ、お前たちみたいに啖呵切る勇気も無いけどな。」
それを聞いて俺は胸が熱くなったし、やっちまったな〜と恥ずかしくもなった。ついメリッサの勢いに乗せられてしまった、これは反省が必要だな。
「トールありがとう、アンドリューも、皆んなもありがとう、俺の我が儘で皆んなに不利益をかけてはいけないと思って、悔しくても何も言えなかった。メリッサありがとう、トールもありがとう迷いが消えたよ、俺はいつか『タイタン』を倒したい!俺の手で!!」
皆んなで良く言ったとマイケルを祝福した、どんな事が必要か、どのくらいかけるか、まずは第一人者たるジャクソンさんに話しを聞きに行かなきゃなど楽しく話しあった。
その後、メリッサに目に毒を見に行くかどうか聞かれ、皆んなでうんうん悩んだ。




