ユニオン3
14階層はなるほど、ジャイアントゴーレムが多い、むしろ普通のゴーレムの方が少ないくらいだ。
それでも最短ルートを俺たちは進む、出会ったモンスターを全て倒して、ガーゴイルも初めて見たが俺よりもメリッサが興奮していた、噂の火の球を見て若干落胆していたが、この日の為に鍛え上げてきた火の矢同時4本撃ちの魔法、その名も〝ファイアーボルト!〟
うん、同じ名前だ、実はメリッサの奴、カリヤの街にいた時にルージュの奴に何かと魔法関連の質問をして、助言を受けていた、その時に言われたそうだ、同じ魔法を用途に合わせて使い分け出来るようにしてはどうかと、その為火の矢の魔法が数種類あるという今の状態になったのだ。
火の矢①は弱くてゴブリンやイビルアイなどを倒すのに使われている。
火の矢②はゴーレム用だ、ほぼ一撃で通常ゴーレムを沈めるくらいの威力に調整してある、それでも動く時はハンマーでどつけばいい、動きの鈍ったゴーレムなんて的にすらならない。
火の矢③は威力重視だ、ジャイアントゴーレムの足を一撃で潰す事すらある威力だ!
そして最後に火の矢④だ、これがさっきガーゴイルに使った火の矢だ!4本同時発射なうえホーミング性能まで兼ね備えた、メリッサ渾身の作だ!
空中で回避しようとしたガーゴイルを追尾し、一瞬でボロクズに変えた、ガーゴイルはあっさり落下して死んだ、正直オーバーキルだと思う。ちなみにガーゴイルはイビルアイと同じで肉体を残さず偶に精霊石と言われるオレンジ色の石を残す。
メリッサは皆んなのサポートもあり、倒す相手の強さに合わせて最小限のMP消費に抑える事に成功した。その為、何発も何発も魔法が撃てるのだ。そこにルージュオススメの魔法使いにしか分からない、良いジャンクを先日ついに発見し、これもメリッサの魔法撃ち放題に拍車をかけている。
おそらく、MP増加装備だろうと俺はみている。
メリッサが当て俺が砕けば、後は皆んなでボコるだけの簡単なお仕事だ、2パーティーでボコれば解体も早く終わり、次に行ける!
うん、2パーティー良いかもしれない。
一瞬、16階層をのぞきに来たのを忘れそうになるほどの効率の良さだった、一緒になってハンマーを振り回したがるメリッサを『ガーフィッシュ』が労わり止めていたが、俺たちはそれを見えないふりをして黙々と解体した。
そしてついに15階層に到着した。
いよいよタイタンとご対面だ!いやでも緊張感が増す!
2パーティーの皆んなに大丈夫だと声をかけられながら進んだ、聞いていた通りのだだっ広い空間だった、サッカー場のスタンドまで入れたくらいの広さだろうか?もっとあるか?
上まで広い、大して降りていないのに、この空間の広がりは無理があるだろう。この辺りがダンジョンのダンジョンたる所以だろうか。
その中に居た!広い空間にポツンと人型のゴーレムが見える。そのあまりの大きさに、遠近感がおかしくなりそうだ!!結構前の方に人が数人いたので、それの対比で大きさがなんとか実感出来る程度だ!
俺はのんびりと歩くその姿に圧倒されてしまった!もうしばらく見ていたかったけど、皆んなをあまり待たせるわけにもいかず、皆んなに続いて16階層を目指した。
興奮冷めやらぬ俺に、皆んなが苦笑しながら話しかけてくれる。
「トールそんなにタイタンが気にいったの?たまにいるのよね、あいつに魅せられちゃう連中がね。私も初めて見るから興奮してるけど、あんた程じゃないわね。」
「あれか?おめえもでっけえの見ると興奮するたちか?まあ分かんなくはねえがなぁ。」
「良いよね!ああいうの驚くし、ワクワクするよ!でも俺は挑んでみたいとまでは思えないかな〜。」
強い感動の所為だろう、俺は皆んなの言葉にろくに返せなかった。なかなかこういう時は言葉にならない物だな!
サラは言葉にせず、ただそっと側についていてくれた、こういう気の遣い方もまたありがたいものだ。俺はしばし感動の余韻に浸っていた。
「私ちょっとあれに一発入れてきますね!」
は?
メリッサの所為でそれどころではなくなった!
走り出したメリッサを『ガーフィッシュ』の面々は見送ってしまう、冗談だと思っているのかもしれない!
だが、うちのパーティーはそうはいかない!慌ててサラが後を追う!ヴィル、フラン、マイケルも必死に追っかける、もちろん俺もだ!
一番近かったサラが最初に追いついた、だがこんな時に限ってメリッサはサラの手をヒラリと躱す!顔はただただ前を見てる癖にどうやって避けた!?
ヴィルが前に回り込みフランが横からタックルだ!フランを躱そうとしてる所にヴィルだ!ここでも斥候2人の見事な連携が光る!
絶対ヴィル→フランの順番だと思ったのに!
ヴィルが一個フェイントを入れて、フラン→ヴィルの順に飛び掛った!!
お見事!
後から追いついたサラとマイケルが上から押さえつけ、そこに俺も到着した。
ジャクソンさんや『ガーフィッシュ』の面々が呆気にとられていた。
「はなして〜、はなして〜。」
メリッサがなおも皆んなの下でもがいている。
「トール!悪いけどメリッサを運んでくれ!」
「わ、分かった!」
マイケルの指示に俺もすぐに従う、今回は問答の余地もないしな。
俺がメリッサを持ち上げたら、まだ組みついていたのかフランまでくっついてきた。
「あ、フランは要らないな。」
右手でしっかりメリッサを押さえて担ぎ上げ、左手でフランを下ろす。
「ちょっと!私は要らないってどういう意味よ!」
「いや、ただの言葉のあやで深い意味はないよ。」
歩いて俺たちが『ガーフィッシュ』の所まで戻る。
気づいたら、ヴィルがしっかりと落ちたメリッサの武器まで回収していた、流石はヴィルだ抜かりない。
メリッサは最初こそ暴れていたけど観念した様だ、今は俺に担ぎ上げられ運ばれながら喋っている。
「あれを見ても何も思わないのですか?あんな巨大な物が立って歩いているんですよ!凄いと思いませんか?ゴーレムだって不思議の塊なのに!あれは一体どうなっているのでしょう?はぁ、凄いですね〜♪」
俺はメリッサの行動力の方が凄いと思うよ?ヴィルが拾ってきた武器をチラッと見て確認したけど、棍棒であれに一発とか意味が分かんねーよ。
まだ俺の肩の上で凄い凄い言ってる。たまにバタバタ暴れるけど、興奮を表してるだけで、もう逃げ出す気はない様だ。
「落ち着いたなら下ろすから、自分で歩いてくれ。」
「せっかくなのでこのまま運んで下さい♪とっても楽ちんなので♪」
うちの連中はこれを聞いても呆れるだけだが、『ガーフィッシュ』の面々は呆れや驚きを通り過ぎる勢いだ。
うちのメリッサがすみません!マイケルが代表して『ガーフィッシュ』の面々に謝っている、15階層に来てからこいつが静かだったのは、俺と一緒でタイタンに感動していた為の様だ。
分かるけどね、突撃はやめろよ!?俺も近距離から見たいの我慢してるんだから!
ガーフィッシュと合流してから、俺の腕を引く奴がいる?サラだ、サラが思いつめた顔で言って来る。
「・・・その・・・私も!」
どうやら我が恋人殿は肩に乗せて運ばれる事をご所望らしい、俺は念の為聞いておく。
「ジャクソンさん、15階層は危なくないんですよね?」
「ん?ああ、モンスターはあいつだけだ。」
それを聞いて俺はサラを左肩に座らせる、メリッサみたいに担いで行くんじゃ格好もつかないしな。
「16階層までだぞ?メリッサもそっからは歩けよ。皆んなお待たせ、じゃあ行こうか。」
俺は2人を担ぎ上げて皆んなに一声かけた。
「それで歩けるとか、マジで化け物っすね〜。」
化け物って何気にレンがひどいし、皆んなの視線が痛い。早く16階層に行きたいのに、前を歩いてる『ガーフィッシュ』の面々がチラチラと振り返ってきて、なかなか進まない。
俺が文句を言う所でもないのでペースを合わせてついて行く。
肩の上でメリッサとサラが喋っているのが変な感じだ、特にメリッサは俵みたいに担いで運んでいる為、お腹が圧迫されているのに、平然と話せている。
すれ違うパーティーにギョッとされてるけど、サラとか笑顔で手とか振ってるし、メリッサも普通に挨拶している。
どんな神経してるんだこいつら?
ダンジョン内で、他のパーティーと出合ったら挨拶して、敵意が無いことを示すのは普通だけど・・・、どう見ても普通じゃないよね!ごめんね!!
俺は16階層の入り口まで、なんとか羞恥に耐えた。
広いだけで障害物もほぼ無いので、真っ直ぐ進むだけなのがせめてもの救いだ!肉体的には疲れていないけど精神的にどっと疲れた。
やっと2人を下ろしたら、メリッサが人差し指をピンッと上げ、次はもうちょっとレディーとしての扱いを希望します、などとのたまいやがった!
仕返しに辺りを見渡しレディーを探してやった。
サラから軽いパンチをいただいてしまった、おっと失敗だ!
16階層入って直ぐに、奴はいた!
「「キャー!!」」
二重奏だ片方は俺だけどね!ゴーストだ!ここでは『レイス』というらしい、どう違うのかさっぱり分からない!!
半透明でフワフワと浮いていて、ギリギリ人の形を保てている?アウトかな?どうでも良いけどね!?
ホラー物は得意じゃないんだよね!!
もう1人、一緒に叫んでたコニー君と手を取り合って震えていた。
「以外だな・・・、これ系が苦手な女は多いって聞いてたし、コニーも苦手にしてるけど。まさかトールがダメだとは思わなかった。」
「さっきまでとはまるで別人っすね〜、トールも人の子っすか?」
「ああ、トールが臆病だとは聞いていたが・・・、まさか事実だったとはな。」
「これを見るのがメインなわけだけど、マイケルどうする?」
俺たちの様子をみて『ガーフィッシュ』の面々が困ってしまっていた。
さあ、直ぐ戻ろう!これがメインなんだろ!?っていうか誰か倒してくれ!何悠長に話してるんだよ!
「んー、これは困ったね、流石にこれは予想してなかったよ。出来ればもう少し見て回りたいんだけど・・・、皆んなはどう思う?」
「トールがこれだとなぁ、どうしたもんだか?」
「『ガーフィッシュ』が一緒に居てくれるうちに、慣れてもらった方がいいんじゃない?」
「先程失礼な事を言われましたので、連れ回す事を提案します♪」
「えーと・・・ごめんね!フランの意見に賛成、今のうちに慣れてもらった方がいいと思う。」
!?なんて事だメリッサめ!サラそんな慣れるなんて簡単に言うなよ〜、ホラーは苦手なんだよ!
「は〜、本当に以外だな、うちのサリーも何故かあれが苦手なんだよ。なんかそういうのがあるもんなのか?」
俺はコニー君と一緒に帰ろう戻ろうと主張したが、却下された。
ちなみに他は慣れ親しんだアンデットたちだ、いい加減こいつらには慣れた。
『レイス』は普通の武器でも気合と根性があれば倒せるらしいが、普通はそれ用の武器などを使う。ミスリルは高過ぎて買えないしそもそも売ってない。だが他にも効果のある物はあるのだ、銀や隕鉄それから合金、まあ所謂魔法金属の混じった物だ。もしくは魔剣などの謎魔力を帯びた品であれば、割と簡単に倒せるらしい、あとは魔法だ。
俺はチラッとメリッサを見たがメッチャ良い笑顔だ!ちくしょう!あいつこの状況を楽しんでやがる!誰かー!誰かー!神はいた!!ジャクソンさんが剣を数回振って倒してくれた!
「よっと、その辺にしとけよ、それで?回るって事で良いんだな?」
ギャー!!神は居ない!!
「あんなんでも纏わり付かれるとヤバイんだぜ?ほっとくなよ。冒険者の基本だ、モンスターは見つけたら直ぐ殺せ。」
この『レイス』だが、半透明で見にくく、知らない間に纏わり付かれて倒れる人がいる。倒れてしばらく起き上がる事が出来ない為、それなりに恐れられているらしい。体力が奪われているのではないかというのが一般的な見方らしい。
休憩中に仲間が纏わり付かれてて、そのまま死んだって話もあるそうだ。
冗談じゃない!あーでもゴーストっていったら、ドレインとかするだろ?HPとかMPとか吸ってくるのは定番だろ?『レイス』が倒されて俺も落ち着いてきた様だ、コニー君と抱き合ってるが・・・どうしよう、コニー・・・さん、いまだ顔を伏せて震えてるし。
メリッサっとサラがこっちを見てヒソヒソ何か話してる、フランが近づいて行ったそろそろまずいな。コニー・・・さんに声をかける。
慌てて周りを確認して、飛び退く様に離れる、恥ずかしそうにしているのを見ると、なるほど女の子だ。
俺はゲームの定番だが言ってみる、何か参考になるかもしれない。
「体力を奪われると言う話しだったけど。もしかしたらMP、魔力を奪っているのかもしれない、メリッサMPが切れたらどうなる?」
「魔力が、MPが切れたら・・・倒れますね。なるほど、そっちの可能性もあるわけですね、誰か確認した人がいるわけでも無いですし。トール良い着眼点ですね〜、とても今までどっかの婦女子と抱き合っていたとは思えない物ですね〜♪」
「ちゃ、茶化すなよ。俺の考えが正しければMPが、魔力が少ない戦士系の人たちはあっという間に倒れる事になるし、MPが無くなれば魔法使いだって困るだろ?」
「トールMPで構いませんよ、皆んな分かるでしょうから、ですがトールの仮説の通りだとしたら・・・、中々厄介ですね、皆さんが夜を嫌うはずですね。」
メリッサはこれで理解した様だが、他の人たちはそうはいかなかったようだ。
「おい、どういう事だ分かる様に説明してくれ!」
ジャクソンさんが言った、俺は説明をメリッサに任せた。
「トールが言うには、あの『レイス』が吸い取っているのは体力ではなくMPではないかと言うのです。それは戦士系の人にこそ直ぐに効果が現れ、下手すると致命的な物になると、そんなところですね。剣士の体力よりMPを減らして倒す、なるほど効果的かつ効率的ですね〜♪」
皆んなが理解しようと唸っている。
「サリーさんも苦手にしてると言ってましたし、何らかの理由でそれに気づいたのではないでしょうか?」
「サリーの事です!野生の勘でしょう♪」
メリッサが言い切り、ジャクソンさんがそれに納得する。
おい!それで良いのか、あんた旦那だろ!!
この後、少し16階層を回ったが、現れた『レイス』にやはり身体が震えた!俺はMPが低い自覚もあるし、その所為って事にしといてくれ!!




