表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/374

妖狐の里

 この日も私は里の警備にあたっていた、とはいえ人族が住む所とはそれなりの距離があるし、周りは岩が壁の様に里を隠し守ってくれる。道もあまり近くを通っていない為、道を見張ってる者たち以外は、空の魔物たちを警戒していれば良い、毎日やっている簡単な仕事だ。


 警備隊は3班に別れていて昼の警備、夜の里入り口の警備、そして休息と鍛練(たんれん)でローテーションしている。


 私は族長の一族の生まれで、次期族長候補として厳しい鍛練たんれんを重ねて来たと自負している。だが魔法の技は従姉妹(いとこ)のエレオノーラに及ばず、次期族長はまずまず彼女で決まりだろう。

 何しろ彼女は、妖狐の3大魔法を全て習得し、妖狐の得意な光、火、召喚、回復、支援の全てを使いこなす里きっての才媛さいえんだ!その才はすでに、現族長である大ババ様を超えていると噂される程の、自慢の従姉妹いとこだ!


 それもあって、剣の技に自信のある私は警備隊に志願しがんした。

 戦闘能力なら警備隊の中でもトップクラスだと思っているが、3人いる隊長の1人としては未熟もいいところだ。それでも隊は気の良い連中ばかりなので、なんとか教わりながらもやっている、というところだ。


 今は、里の中3箇所に配置した部下たちを周り、様子を見て聞いているところだ。


 陽気も良く気を抜くと欠伸あくびの1つも出てしまいそうだ、そういった部下たちを軽く注意しながら警備を続けていた。


「ミュン隊長、陽気がポカポカ暖かく眠いです!お昼寝したいです、隊長抱きまくらになってくれません?」


「ばか者、お前に昼寝の時間をやるくらいなら、私が寝るわ!」


 部隊のお調子者と会話を交わしつつ、調子や、何かの予兆が無いか聞いてまわる。


「あれ?ここは真っ赤になって怒る所ですよ?何なら斬りかかって来ても良いですよ?」


「私ももう22だ、隊の貴重な独身男性を一々斬っていたら、嫁ぎ先もままならんからな。後、仕事時間内くらいは愛称で呼ばずミュンファと呼べ、こんなんでも隊長だからな。」


 皆笑い、適当に返事を返しながらも警戒は続けている、見事な物だ、安心して任せられる。

 空の魔物の様子を聞くと、天気も良く暖かい、奴らの動きは活発で要警戒だが、何故か天気の良い日に里に近づく事はまずない。その事は皆が承知している、その為、活発に動いてる事を報告しながらも、眠いなどと言っていられるのだ。


「それよりも、道を見張らせている連中の方が心配ですね。新人が近くを通る人やモンスターにビビって、ヘマをしないか。」


「モンスター?ああ、魔物の事か、外ではそう呼んでるんだったな。新人の心配か?それは私も分かるが、これは誰もが通る道だろう、その為に通常3人のところを4人にしたのだ。よほどの事がない限り、彼らなら大過なくこなしてくれるだろう。」


「ミュンファ隊長も、やっぱりそっちの方が心配ですか。」


「まあな、何年も勤務してるお前らとは違うからな。そこまで頭が周るなら、実力をつけて次の隊長を目指してみるか?」


「次の隊長って?ミュンファ隊長が引退する前に俺が引退ですよ、俺の方が年なんですから。」


「ばか者、私は寿退職希望だ。それとも、お前は私にババアになるまで警備隊に勤めろと言うのか?」


「おっと!こりゃ失礼、鋭意努力します。」


 部下と他愛のない話をしていたら、笛の音が鳴った!緊急を報せる鋭い笛だ!音からして、道を見張らせている連中だろう!



 笛の音が鳴ったら、当直以外は里の入り口を固めることになっている。入り口でそいつらを吸収すれば、人数はそろう。むしろ、今の警備体勢を崩す方が危険だ!前もって隊長同士で話合った通りにやれば良い。


 私は部下を2人連れて、現場に急行する!途中里の入り口で夜組や非番の連中にも協力を仰ぎ、10人を超える人数で里の外の道まで走った!

 族長に報せる事も頼んでおいた、抜かりはない!




 道まで着くと、道を見張らせていた私の部下が、4人とも捕まって縛られている!


 パッとみ相手は3人!2人は後ろで馬車を背に立っているが武器などは持っていない。

 だが、前にいる人物が最悪だ!

 私の部下を盾にして、首にナイフを押し当てている。しかも、自分は仮面とローブで姿を覆い隠している!私は手を振り部下に指示を出し、この人物を半円状はんえんじょうに包囲した。


「これがお前たちの礼儀か!!」


 仮面の人物が発した言葉が、直ぐには理解出来なかった。

 背も低く声も高い女性だろう。

 だがどうやら怒っている様だ、一体何があった?


 そして、我々が包囲の仕草しぐさを見せても、動揺どうようの欠片も感じられない。そしてこの威圧感だ!おそらく魔力だろう、強大な魔物はその魔力を持って他者を威圧し、無駄な争いを行う前に回避するという!

 周りの者たちも、少しは感じられている様だが。妖狐3大魔法の1つ、魔眼パープルアイの素養そようがあると言われ、習得出来なかったとはいえ、鍛練たんれんした効果が今出ている。

 正直、こんなことなら魔眼の素養そようなど欲しく無かった!!恐くてしょうがない!魔力の波動をビリビリと感じる!?


「我々相手では、言の葉を持って応じることも出来ぬというのか?」


 ひい!しまった!身体の震えを抑えるのに必死で、応えるのを忘れていた!?


「どうやら、何かお互いに齟齬(そご)があった様だ、武器を収められよ。」


 振るえてないよね!?私の声、裏返ったりしてないよね!しまってよ〜!お願いだから、早く武器をしまって!


齟齬そごだと?矢を射かけられて、齟齬そごなどと誰が納得するものか!それ以上近づくな、近寄ればこいつを斬る。」


 矢を射かけたって、どういう事よーー!?私は部下にそんな指示出してないし!状況がさっぱり分からないわ!?そこに転がってる部下に、事情聞いても良いかな?だめだろうか?


「分かった、これ以上近づかぬ。そこに転がってる部下に、事情を聞いても構わぬか?」


 仮面の人物は大きく頷いてみせた。

 許可が出たので、私は道を見張らせていた者たちに話を聞いた。


 道を見張らせていた連中は、いつも通り〝幻影〟の魔法を行使して姿を消し、木陰に隠れて道を見張っていたそうだ。

 そこに馬車が通った、目の前の者たちの物だ。

 そして御者台から、この仮面の人物が挨拶あいさつして来たそうだ。手を振り、元気に挨拶あいさつしてくる仮面の人物に、部下たちが〝幻影〟の魔法を見破みやぶられた事に気づき、慌てて弓矢を放ってしまったそうだ。


 挨拶あいさつしたら矢を射かけられた?

 それは怒るでしょう!?客観的に見ても賊のごとき蛮行ばんこうだ!斬られても文句は言えまい!?そう考えれば、全員を生かして捕らえた対応は、穏便だともいえる程だ。


 私は頭を抱えたくなったが、何とか自制する。


 交渉は私には荷が重いので、上に掛け合うので早まらないで欲しいと伝えた。こちらが詫びを入れる所だと私は判断した。

 仮面の人物もそれで納得してくれた様だ、先程までの威圧感がうその様に溶けて消えていく。

 私はこれを感じ取り、周りの者に武器をしまう様に指示を出した。


 これに、不服を唱える馬鹿が居る!?

 冗談じゃ無いぞ!他の班の連中を連れて来たのがあだになったか!うちの班にはいないが、どうしょうもない跳ねっ返りが中には居る!


「下がれ!戯けが!?」


 私はこやつを制しようと声を上げるが、ニヤニヤ笑って奴は一歩近づいた。部下が悲鳴をあげた!見ると左腕が肩から離れている!

 首からも血は出ているが、死んではいない様だ!


「やめてくれ!手は出さない!おい!お前たち、そこの馬鹿を押さえつけろ!」


 反射的に武器を抜いてしまった者もいるが、その者たちも抑える!

 新任隊長として、扱い易い部下を任されていたのは分かっていたが。これ程の馬鹿をお2人は抑えていたのか!段々と私の口調も荒くなっているが、それどころじゃない!!


「殺しても構わん!そいつを押さえ付けておけ!!」


 他の連中は動きが鈍いが、私の部下は素早く私の指示に従ってくれた!2人がかりで馬鹿を地面に組み伏せ、肩に一撃ぶっ刺した!

 それで良い!


 これで馬鹿も静かになるだろう。そのまま片膝かたひざを背に乗せ、肩に刺した刀を握って押さえ付けている、騒げば刀で傷口をえぐる事も出来る!見事な制圧だ!

 むしろ、私がえぐってやりたい!!


「部下の手当てがしたい!回復の魔法を使える者を呼んでも良いだろうか?そのままでは死んでしまう!?」


 再び、首にナイフを押し当てた姿勢に戻っていた仮面の人物は、少し悩んでいる様だった。

 この場合、私の部下は捕虜だろうか?捕虜への回復魔法は外では許されないのだろうか?分からない事が多過ぎる!

 仮面の人物が何か言ったが聞き取れなかったので、即座に聞き返す!


「すまない!聞き取れなかった、もう一度頼む!」


「里の回復魔法の使い手は、この腕をくっ付けられるの?もっと言えば、古傷を治す技とか使えるの?」


「いや、部位欠損については治せない!古傷も無理だ!だが出血を抑え、傷口を治す事は出来る!だから頼む!」


 答えは(いな)だった、仮面の人物は首を横に振りそれを示した。


 クッソ!!あの馬鹿の所為せいで私の部下が傷つくなんて!後で覚えてろよ!里中にある事無い事お前の悪い噂を広めてやるからからな!!絶対にだ!




 ・・・今、何がおきた?


 目の前で起きた事が理解出来ない。

 仮面の人物が、腕を落とされた部下の腕を肩にくっ付けたら、一瞬で傷がなくなったではないか!


 斬られて治されたその部下自身も、信じられない様子だ、目を見開いて声も出ない様子だ。


「ゆ、指が!指が動くぞ!?」


「こら、動かないの、ナイフ刺さっちゃうから。」


 前言撤回、声は出る様だ。ナイフが刺さる前に落ち着いて欲しい、おもにお前の為に。


 既に、事情を聞いた者も族長の元に走らせた、後は応えが返って来るのを待つだけだ。再び武器をしまう様に部下に命じて、一言こちらの不手際と、先の非礼を詫びておいた。

 直ぐに頷き、部下の首元からナイフを外した所を見ると、予想以上に相手は理知的なのかもしれない。


 族長の判断は、里に招き非礼を詫びて、金子きんすでもって4人の身柄を返して貰う事。そのままの内容を相手に伝えると、簡単に了承を得る事が出来た!

 馬は里に連れて行き、馬車は隠して見張りを付ける事で納得して貰う。この辺りもいたってスムーズだ。

 何だ、人族といえど、ちゃんと話せば理解を得られるではないか。

 先ほどの見事な術、なんとかご指南頂けないだろうか?


 未だに4人は縛られたままだが、私たちが連れて行く事にも不満も言って来ない。そのまま森の中を進み里の入り口に到着する。




 なんと、族長自らお出ましだ!傍には我が従姉妹殿も居るではないか!しかも2人とも魔眼を発動している!!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ