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西の森に挑戦!

「ぎょえええええええええぇっ!!」


 うららかな朝の日差しの中、森の入り口から響き渡るカエルをき潰したかの様な叫び声!俺の声だ。


 バッタにイナゴ!でか過ぎだろ!?Gより縦に大きくまさしく子犬大の虫共だ!

 おまけに動きが!跳ねて突っ込んで来る!そして兎に角キモイし速い!仲間たちはさっきから笑ってるし!フランなんか腹を抱えて爆笑だ。


 助けて!助けてー!?


 やっと仲間たちが助けてくれた!少し森から離れ地面に転がり、一息つく。

 今日は朝から西の門を抜け、畑の間を通って西の森へやって来た!そこから森に入ってすぐあれだ。


「相変わらずトールは虫がきれぇだなぁ。」


「そういう問題じゃないだろ!?虫がでか過ぎだろ!正直、超ーキモイよ!?」


 ヴィルが呆れた様に言う。


 しょうがないだろ!あんなの予想してねーよ!

 俺は別だん虫が苦手な訳ではないが、あのサイズは想定していなかった。そして何よりも、大きいせいで普段は見えない、虫の各器官が丸見えになる。これがすこぶるキモイのだ。


 普段は上から、もしくは遠くから何気なく見ていた虫が、詳細に見るとこんなにキモイ物だとは思わなかったんだ。


「いや〜!だからって、ぎょえー!はないわ〜!笑わせてもらったわ〜!」


「フランも笑ってないで助けてくれよ!結局マイケルとヴィルの2人が助けてくれたけど、お前最後まで笑ってただろ!」


「いや〜、あれくらいは処理してもらわないとね!今後やっていけないからね。」


 フランは最もな様に言っているが、単に面白がってただけだろう。

 そういうとこのある奴なんだ!


「こまったね、まさかこれ程トールが虫嫌いだとは思わなかったよ。」


 マイケルが本気で困った顔をしている。

 ダンジョンなんかではモンスターの種類にかたよりこそあるものの、虫系はどこにでも出るモンスターの一種らしい、それでマイケルは困り顔なわけだが。


「いや、大丈夫!直ぐに慣れるから!」


「本当に〜?大丈夫〜?ビビりまくってたくせに〜!」


 フランがニヤニヤとこちらをのぞき込んで来る、少しムッとするが、これもフランなりの発破のかけ方なんだと好意的に解釈かいしゃくして、自分に喝を入れ起き上がる!


「今に見てろお前ら!直ぐにお前らより沢山倒せる様になってみせるからな!」


 そんなに直ぐに出来るとは思っていないが、発破をかけて貰ってるんだから、これくらいは返しておかないとな!口に出す事によって、自分に言い聞かせる意味もあるというしな!


 皆んな良い顔してくれてるから、これで正解だろう!




 マイケルの立ち回りを参考にさせてくれる様に頼み、とりあえず1回見学だ。マイケルも右に剣を持ってるので右後方からのぞき込む様に見せてもらう、更に右側はヴィルが担当してくれる。マイケルを先頭にダイヤ型の陣形をとる。


 マイケルが突出した陣形のせいか、面白い様にマイケルに虫が集まっている、草の影から凄い勢いでイナゴが跳びかかってくる!それを冷静に剣で叩き落として、地面に落ちた所をブスッと刺す。

 どんな反射神経だよ!剣は叩くというより当てるだけの様だが、何度も見てるとまるでバントの名手みたいだ、これは真似出来そうにない!

 俺が難しい顔で見ているとマイケルが心配したのか立ち止まって声をかけて来た。


「そんなに虫が苦手なら無理しなくても良いよ?装備を受け取るまでまだ時間もあるし、前のゴブリン討伐の報酬でふところも暖かいから、焦らずゆっくり慣らして行けばいいよ。」


 本当にマイケルは良い奴だ!俺は目頭が熱くなりそうだった。とはいえ、俺は本当に極度の虫嫌いというわけではないので、慣れればどうにでもなるだろう。

 本当の虫嫌いの人には大変だろう、叫んだり、逃げ出したり・・・、うん、まさに今の俺だな。これは虫嫌いだと思われてもしょうがないな。



 その後も森を進んだが、なかなか良い手が思いつかない。

 そんな時、マイケルに2匹同時にバッタが襲いかかった。右側はいつも通りに剣で、そして左側は腕に着いてる盾で払った、それを見て閃いた!

 盾でバントすれば良いのだ!バットでやるよりもよほど簡単だろう。こんな簡単な事に気付かなかった事を恥ずかしく思いながら、マイケルに向かって声をかける。


「思いついた事がある、試させてくれ。」


 マイケルは戸惑とまどった様子で、本当に大丈夫なのか?と聞いて来る、ちょっと過保護かほごだな?何かあったのか?フランがニヤニヤと面白そうにからかって来る。


「本当に大丈夫〜?」


「ああ、任せとけ!」


「大丈夫だろぉ、俺ぁ何やろうとしてるか分かったぜぇ?」


 ヴィルは分かったらしい、やるな!

 マイケルに前後で場所を変わってもらい、いつも通りにしっかりと盾を構えて前進する、イナゴが跳びかかって来た、目では追えないが、心持ちそっちに盾を向ける、確かな手応え!

 俺は急いでイナゴを探す、いない?あれ?よく見たらフランが不機嫌そうだった、何で?


「何?仕返しのつもり!?」


 フランに怒られてるが、何を怒っているのか分からない!ヴィルとメリッサは笑ってるし、マイケルは困った顔をしてるので、素直に聞いてみた。


「えーと、イナゴ何処に行った?フラン何で怒ってるの?」


「あんたがこっちに飛ばしたんでしょうが!?危うく顔に当たる所だったわよ!」


 あっちゃ〜、典型的なバントミスだ!前にすら転がせないなんて!

 素直に謝っておいた、それと練習が必要そうなので、気を付けてほしいことを言いえた、あれだなファールボールの行方にご注意下さいってやつだな。


 俺は2番打者、俺は2番打者。野球部だった試しがないのでただの俺のイメージだが、2番打者の送りバントで得点圏に走者を送るため、2番打者はバントの名手のイメージがあるので、自己暗示のつもりでブツブツ言いながら先頭を歩いて行く。




「俺は2番打者、俺は2番打者、バントを決めろ・・・。」


 視界の端で草がガサリと揺れ、俺はそちらに盾を向けた。


 良し!イメージ通り!!

 上手くバントでバッタをはね返したが飛び過ぎて、トドメを刺す前に逃げられてしまった。

 くそ!もう少し手元に落とさないと、次だ次!


 俺が歩きだそうとしたら、ヴィルによって方向転換を支持された。せっかく感覚を掴みつつある為、同じ敵の方が良いだろうとの事だ、俺も同じやつの方がありがたい、皆んなも承知してくれた。

 俺は本当に仲間に恵まれたな!



 うん、これも気付くと何の事はない。


 盾を斜めにし上の方を少し前に出しておけば、バッタ共は足元に転がるのだ。今までは盾を動かして落ちる場所をコントロールしようとしていたが、斜めにして下に叩きつければダメージもプラスされ、逃げられずに倒せる・・・。

 これって数学?下手すると算数の範囲の問題じゃね?真面目な学生ではなかったけど、本当に学んだ事が活かされてないわ〜。


「メリッサいくよ。」


「え?」


 返事も聞かずに、跳んで来たイナゴをワンバウンドさせて、メリッサの前に転がす。うん、狙えば出来る物だな、次はフランに声をかけ、そちらにバウンドさせて流す、もう少し練習が必要か?左に若干ずれた。


「トール慣れて来たみてえだなぁ、自分でトドメを刺すのがぁ面倒いなら、メリッサに流してやれや。」


 振り向くとメリッサが右手に棍棒を構えて、左手のひらを上にクイクイっと追加を要求している・・・。

 しまった!調子に乗り過ぎた様だ!

 おかげで暇していたメリッサが、ある程度満足するまで、バッタやイナゴをメリッサの前に転がし続けるはめになった。


「今更だけどさ、こいつらの討伐証明って採らなくていいのか?」


「こいつらは討伐対象じゃないもの、証明なんてあるわけ無いわ。」

 フランが教えてくれる、え?じゃあ、何で倒してるの?


「この森の奥にね、キャタピラーとかジャイアントキャタピラーとか言われるモンスターが居るんだよ。それが討伐対象なんだ、だからこいつらはついでだね、トールの練習用にね。それに倒しておけば農家の人たちも喜ぶからね。」


 俺の為に時間を割いてくれた様だ、頭が下がる思いだ。ちょっと気恥ずかしいけど詫びと、感謝を伝えておいた。皆もちょっと照れ臭そうに気にするなと言ってくれた。

 このバッタ型?モンスターに似た動きをする奴が、メンフィスのダンジョンにも居るらしく、ここでの練習は無駄にならないのだそうだ。



 まだ少し時間がある為、キャタピラーも一度見てから帰る事になった、こちらはマジで勘弁して欲しい・・・。


 キャタピラーっていも虫じゃねーか!?巨大いも虫が今目の前に居る!馬ほどは無いが羊くらいは余裕であるだろ!?変な悲鳴も出たし、鳥肌が凄い!逃げたいが目を反らすのも恐くて出来ない!?周りで仲間たちが何か言ってるけど!何言ってるのか聞こえない!頭に入って来ない!

 え?なに!?


 俺が動けないでいたら、投網の様な物で絡め捕られた!俺はもうパニックだ!無理に剣を動かして、網から出ようともがき、俺がもがいているうちにいも虫の討伐は終わった様だ。


 キャタピラーを倒すのには少し時間がかかった。

 俺が暴れすぎて、仲間たちも危なくて近づけなかった様だ。

 悪い事をした・・・。


 だけど、・・・ヤバイよキャタピラー、マジキモイ。




 青い顔をして震えている俺に、さすがのフランも声をかけられなかったらしく、マイケルを先頭に皆んなに守られながら森を出た、森を出ると少し落ち着いてきた。


「マジかよ〜、今度からあれをやるのか〜。」


 俺は適当に寝転がりながら愚痴ぐちこぼした、こぼさずにはいられなかった。

 今思い起こすだけでも鳥肌が立ちそうだ!特にあの肌がいけない!ブヨブヨとしてて細かい毛まで生えてやがって、あれに斬りつけるのか?やれるか?

 いや、あの動きがキモイんだ!ゴブリンよりはましか?ゴブリンは二足歩行で人みたいな動きをする為、忌避感があるが、あれはどちらかといえば嫌悪感だろう、ただただ気持ち悪いのだ。


 まさか、Gを超える存在が居ようとは、異世界はキツイな。




 げっそりした気分で、赤くなり始めた空の下街へ戻って行く。

 こういう時が、酒が飲みたくなる時かもしれないなどと、よそ事を考えつつ街へ道を急ぐ。ルージュの奴も酒は飲まない奴だった、そのルージュも今朝早くに東門から旅立って行った。

 俺たちが見送りに行ったら驚いていて、衛兵さんに見張られるなら兎も角、まさか見送りが居るとは思わなかったそうだ。いつかメンフィスかノックスビルのダンジョンに挑むつもりだと聞き、じゃあ次はそっちで会おうと、拳をぶつけ合って別れた。


 ルージュ俺は挫けそうだよ、キャタピラーがキモ過ぎるよ。


 俺が何となく空を見上げてると、フランにどうしたのかと聞かれ。


「メンフィスかノックスビルのダンジョンで会おうって、今朝ルージュに言った所なのに、キャタピラーがキモ過ぎて凹んでる自分が嫌になったんだよ。悪いか?」


「べーつにー。」


 クククッとのどで笑いながらも、フランは特に責めるでもなくからかうでもなかった。ただ皆んなもダンジョンへの挑戦を念頭に動いているのだろう、そう思うと申し訳ない気持ちになる。

少しづつ慣れないとな、明日また頑張ろうと決意を新たにしつつ街に戻った。


 いつも通りギルドで安い飯を食べ、憂鬱で聞きたくも考えたくもないが今日の事を聞いておく。


「今日のさ、キャタピラー戦?皆んな何か声をかけてくれてたよな?何だったんだ?正直焦っちゃって、聞こえてなかったんだよ。」


「ああ、あれかぁ?正面に立つとベトベトの糸を吹きつけられるぞーってなぁ。」


「そうだったね、斜め前に動き続けるとかした方がやり易いからね、それを伝えてたんだよ。」


 ヴィルとマイケルが話てくれた。

「なるほど、せっかくの忠告を役に立てれなくて悪かったな。」


「いや、気にしてないよ、トールも気にしなくて良いよ。」


「そういえば、何でバッタ討伐対象じゃないのにいも虫(キャタピラー)は討伐対象なんだ?どっちもほっとけば危険だろうに。」


「そこはあれよ、あんたが掛かった網あったでしょ?あれであいつら岩鳥(ロックバード)捕まえて食べちゃうからよ、人の食い扶持ぶちは減るわ、バッタやイナゴを食べてくれる害虫駆除は減るわで、良いこと無しだからね!バッタやイナゴが居れば岩鳥が増えるから、あいつらの方がましなわけよ!」


「それだけじゃないわフラン。私たち冒険者がいも虫を討伐に行けば、嫌でもバッタやイナゴを倒すわ、そうすればギルドも街も農家も、お金をかけずに害虫駆除が出来るでしょう?そうやってお金をかけずに最大限の利益を出しているわけよ。」


「え!?ギルドせこ!?」


「フランそうではないわ。バッタやイナゴの討伐にお金や時間をかけてたらギルドはやって行けないもの、安過ぎれば誰もやらないし、高過ぎれば街は破綻はたんよ?岩鳥が適度に減らしてくれるんだし、今くらいが丁度良いのよ。」


 メリッサがギルドの討伐報酬の裏話を聞かせてくれた、それでも今の体制が最善だろうと言う、なんとも大人な対応だ!


「キャタピラーはバッタとかは食べないのか?」


「ああ、何でかは知らねぇが、好き嫌いでもあるんだろうよ。」


「キャタピラーがバッタやイナゴまで食べたら、岩鳥が減っちゃうよ、それは困るな。」


 ヴィルとマイケルが答えてくれるが、そういえば何であれは岩鳥なんだ?


「岩鳥って、何で岩鳥なんだ?あー分かりにくいか?」


「あー、それはですね、あの鳥は岩壁とかに巣を作るからですよ。その上、何故か岩鳥の巣がある壁はこの辺りの普通の崩れ易い壁と違って、硬くて崩れ難いんだそうです。岩鳥が巣の周辺を固めているのか、硬い岩壁がある所に巣を作ってるのかは、分からないそうですよ。」


「ひゃー、メリッサ物知りねえ!」

 フランが驚いている、地元の人でも名前の由来がわからなくなる事もあるらしい、そりゃそうか。


「いえ、この間偶々ルーと喋っていた時に聞いたのよ。なんか岩壁一面に岩鳥の巣があって、全部狩り尽くそうか悩んだらしいわ!あの子らしい悩みね!ちなみにルーは、岩鳥が巣を作る為に岩を固めているっていう説を推してたわね。」


 想像してみる、岩壁一面に岩鳥の巣。

おお凄い風景だ!それを狩り尽くそうとしているルージュ!悪魔かお前は!?岩鳥の為にも、奴が早々にこの街を離れてくれた事に感謝しよう。

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