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報告会

トニーさん視点です。

 ニコルさんから聞いていたとはいえ、さすがに領主様の屋敷は緊張するな。この間みたいに冒険者ギルドでやってくれれば良いのに。

 あの時は俺やマイケルたちなんて、偶々代表者にされただけなのにな〜。騎士に楯ついた代表の俺と、ニコルさんに協力したパーティー代表の『フェアリーテール』が、形式的に集められた会議だった筈なのに・・・。

 こんな会議にまで呼ばれる事になんて、面倒な事になったな、はぁ。



 他の衛兵も居るが、皆落ち着かない様子だ。

 それもそのはずで、ちらりと部屋の中を見渡すと如何いかにも高そうな調度品が並んでいる、今座ってる椅子も身体をしっかり受け止めて程よく押し返してくる。

 ここで何かあったら俺の首が物理的に飛びそうだ。


 メイドに準備が整うまでここで待てと言われたが、正直全く落ち着かない。出してもらったお茶も、飲んで良い物か、誰が一番に口をつけるか探り合ってるかの様だった、なので俺が一番に飲んだ。良い物かもしれないけど、俺にはさっぱり分からなかった。

 緊張のし過ぎで、味も香りも分からなかったな。


 しばらくすると、落ち着いたというよりも、諦めたかの様な空気が漂い始めた。その頃になってようやくメイドが呼びに来て、俺たちは移動した。




 移動した先は、広くて先程の部屋に負けず劣らずの豪華さだった。中央に長方形の机が鎮座ちんざしていて、奥には既に領主様が椅子に座っておられる。


 ギルドの会議と同じ様な形で椅子が並べてあり、左右の壁際には書記官が控えて居る。

 俺たちは慌ててメイドの指示に従い席につき、最後に身なりの良い若者たちが数人部屋に入って来て、入り口の前に立って扉が閉ざされた。



 驚く事に、ニコルさんが領主様の隣に立って居る。領主様から再三のスカウトを蹴って衛兵をやっているってのは本当だったのか、領主様を挟んで反対側には、髪が長くて顔を野心と苛立ちで彩ったイケメンが、文官然とした格好でたたずんでいる。


「夜分遅くにすまんな、皆良く集まってくれた、礼を言う、ありがとう。」

 領主様が話始めた。


「ここに集まった者たちの紹介は不要であろう。ただ、入り口に並んだ者たちは何者であろか、気になって者もいよう、この者たちは今後我が街を担う若者たちだ、我が子と貴族の子弟たちだな。今回は見学させるだけで発言は許さん、なので気にせず報告、発言してくれたまえ。」


 許さん、の所が威圧感たっぷりだった、俺たちにというより本人たちに聞かせる為の言葉だった様だ。



 領主様が始める様にニコルさんに言い、今回もニコルさんが進行役だ。

 まずは状況の説明、そしてどの様な作戦であったのか話す、これも、若者たちの為という意味合いが強いのかもしれない。

 続いて、現場の様子がどうだったのか、どの様な指示を出し、実際にはどう動いたか、ニコルさんはまずは騎士たちに話す様に言い、騎士Aが立ち上がる。


 ああ、騎士Aとか騎士Bというのはトール君が使っていたんだ、覚えるのが面倒くさい、今後は関わる事も無いだろうと。俺もそう思い面白がって採用してたが・・・、まさかこんなに早く関わる事になろうとは。



 最初の配置説明からきな臭かった。

 別働隊の配置、南から南西にかけての本陣の配置ここまでは良い。だが、まるで奴らが中央にいたかの様に語るのだ。そして、魔法使いたちへの指示、自分達の意図通りであったとか、この辺から数人が騒ぎ出す、ゴブリン共の突撃を真正面から受け止め跳ね返し、包囲殲滅ほういせんめつしたとか。


 お前ら、転がって伸びてただけだろうが!!

 もう怒号どごうの嵐だ、俺も叫ぼうとしたが、・・・出遅れた。

 俺が席を立ち、叫ぼうとした時にはもう椅子が飛んでいた、しかも複数個!魔法使いたちだ、魔法使いってこんなに好戦的だったか?だが冒険者たちも黙っていない!魔法使いに負けじと、騎士たちに椅子を投げつける。

 ああっ!高価な椅子が!!あれ1つでおれの給料どんなもんだろ?

 周りがヒートアップし過ぎてて、俺は逆に落ち着いてしまった。5人10人なら丸め込めても、20人以上いるんだから、無理だって気付けよ。まっ騎士どもの自業自得ってやつだな、領主様は安全そうだし、俺は見ていればいいや、連中を助けてやる義理も無いしな。



 ニコルさんがこっち見てるが、肩をすくめて返してやる。するとニコルさんは、ため息1つ吐いて自分でやる事にした様だ。皆んながひと暴れして、少し落ち着いた所でニコルさんが声を張り上げる。


静粛せいしゅくに!静粛せいしゅくに!!」


 何とか皆は収まったが、既に騎士共がボロきれの様だ。それでも、何とニコルさん、そのまま会議を続けるつもりの様だ。


 うわっ!?こっち見た、俺に喋れと?


「領主様の御前である、些細ささいな事ならば目をつむって下さるが、度が過ぎれば処罰はまぬがれぬと心得よ!」


 うわー、ニコルさんあんな喋り方出来るんだ。


「衛兵トニー、話し方は気にせずとも良い、領主様からご許可は得ている。話しの内容に注意し、真実を話せ。」


 やっぱ俺をご指名ですか、俺は説明するべく立ち上がった。


「は!えっと?何処どこから話せば?」


 いやー!カッコ悪!やり直させてー!!


「布陣の内容辺りでどうかな?」


 領主様がおっしゃられた。

 もしかして、事前にある程度情報を集めて知っている?それで、騎士たちがボコられるのを止めなかったのか?


「は!承知いたしました!陣形は今の報告のとうりですが、配置に間違いがあります。騎士たちは南西に配置されておりました、中央は幾つかの冒険者パーティーが布陣していたかと。」


「ふむ、続けてくれたまえ。」


 領主様は満足そうに頷いた。

 ああ、真実だと知ってるなこれは、俺は確信した。


 俺は現地で見た事を語った。

 騎士による魔法使いたちへの指示は、いい加減な物だった。魔法使いたちの作戦は、ルージュによって立案され、彼らの技量によって実現された事。ゴブリン共の突撃は、中央やや南東よりの自分たちが受け止めた事。南東に配置された、別働隊が駆けつけてくれなければ危なかった事などを語った。


 俺の報告を皆静かに聴いてくれた。




 ニコルさんが周りを見渡した。


「大筋として、皆に異論は無い様だ。トニーご苦労、座ってくれ。ではホルグ、魔法使いたちの作戦がどんなものだったのか、どの様な話し合いがされたのか聞かせてくれ。また、魔法に対する知識が足りぬゆえ、補足の説明を頼むかもしれが、よろしく頼む。」


(わたくし)ごときの知識でご説明出来ればよろしいのですが。策は完全にルージュ様の立案なさった物です、北側から追い立てる様に火で取り囲み、集まったところを範囲魔法などで一網打尽にするというものです。驚く程正確に命中させ、我々の前にゴブリン共を誘導して下さるのです、撃てば当たります。お恥ずかしながら、全力で撃ち続けすぐに魔力・・・いえ、MPが切れてしまいました。その後はルージュ様とメリッサ殿が、交互にかつ効果的に魔法を放つ様を、ただただ眺めておりました。」


 おいおい、ルージュ様にメリッサ殿ときたぞ、大丈夫か爺さん?



「メリッサ殿のMPが尽きたのを機に、ゴブリン共が集結し、突撃して来ました!ルージュ様はこれを高く評価されておりました、良い将であると!MP切れした我々魔法使いを行きがけの駄賃だちん代わりに潰し、潰走かいそうを防ぎ脱出路を確保するのは、今後のゴブリンの種の繁栄はんえいと、安全に大きな意味があるそうです!!」


 落ち着け、ちょっと興奮し過ぎてるぞホルグさん?


「トニーさんたちが突撃を受け止めてからも、ルージュ様は魔法でもって目の前の戦闘を支援しつつ!左右の確認をしては、後退の指示を出され、我々の孤立や、戦線の崩壊ほうかいを食い止めておりました!!その戦場を見渡す目によって!トニーさんに別働隊の救援を知らせて、中央の士気を保ったのです!!」


 ニコルさんどころか領主様も若干引いてるぞ!事実だけど!!あんた恐えよ!?


「別働隊が来た時に!!ルージュ様はおっしゃられた!素晴らしい陣形が整ったと!我々は木に登って確認しました!!それはあたかも鳥が羽を広げはばたいているかの様でした!?そして奴が!ゴブリンロードが出現したのです!!?」


 ノってるというより壊れてるだろ?え?ここで拍手なの?マジで!?

 若者たちまでもが、前のめりになって聞いている!?


「そこでトニー氏が、指示を出されました。ゴブリンロードを隔離かくりし、他のゴブリンを殲滅せんめつせよと!!これで、連中の勢いはなくなりました。しかし!ゴブリンロードは強い!!囲んでもなお、奴は止まらないのです!数多くの戦士たちが奴に挑み、傷つき、倒れました。」


 お?止まったか?


「そこへ、かのお方が現れたのです、ルージュ様です。まるで、散歩に行く様に、お使いにでも行くかの様に、鼻歌を口ずさみながら無造作むぞうさに近づいて行き、そこから一瞬で奴の懐に飛び込み!かけたのは能力低下魔法デバフ!!そして両の手に握る手斧を駆使し!あっという間にゴブリンロードを追い詰めるではありませんか!?たまらず飛び退るゴブリンロード!これを追撃かと思いきや、歩いて近ずいて行くではありませんか!!?」


 あちこちから、おお!?とか、なんと!?とか感嘆の声が聞こえてくる。

 この人、こんな語り部みたいな事出来るんだな、まるで英雄譚(サーガ)でも聞いているかの様だ。酒が欲しいな。


「ここで、ゴブリンロードのロードとしての意地!そして証!!奴が叫び声を上げると、そこにはなんと!ゴブリンの上位種が4体も現れたではありませんか!!?」


 ニコルさんこっちを見るな、頷いてやってるだろ?

 目の当たりにした俺だって信じられないんだからさぁ。

 それにしても、周りがうるさい。

 そんな馬鹿な!?うそだろ!卑怯ひきょうだ!!などなど、いろんな言葉が飛んでる。


 魔法によって手下を召喚する、ロードの証・・・。そうか、あれがそうか。まさか冒険者を引退してからお目にかかるとはね。手下は(かすみ)となって消える・・・、伝説の通り、か。


「ですがルージュ様に隙はありません。たった!たった一発の魔法で、4体のゴブリンを撃ちとりかすみに返したのです!!その後ゴブリンロードが猛攻をかけるも!かのお方にはかすりもせず!徐々にルージュ様の攻撃が当たり!!そして、ついにその時は来ました。奴はその頭を割られ、その足元に倒れ伏したのです。」




 部屋中に盛大な拍手が鳴り響いている、喝采かっさいを叫ぶ声がしている。


 少し大袈裟おおげさな気もするが、自分たちのやった事が実感出来た。

 一生自慢出来るだろう、俺もゴブリンロードと戦ったんだと、奴とともに戦場に出たんだと。


 ご静聴せいちょうありがとうございます、などと言って一礼しているホルグさんに、俺も拍手を送ってやる。



 この後は早かった、別働隊の冒険者に話しを聞き、南西側の衛兵に話を聞いたが、辺りに騎士の姿は見あたらず、俺の指示が聞こえた為、その指示に従い、包囲殲滅ほういせんめつしたとの事だった。


 俺は、最後にもう一度発言の許しを得て、中央を強固に守り抜いたフェアリーテールと、危機に駆けつけてくれた別働隊に、格別なお引き立てをお願いしておいた。



 その時にルージュについても聞かれたが、ホルグさんが語った事が事実であり、私の知る全てだと告げ、特に語る事は無かった。

 領主様より労いの言葉をいただき、若者へ2、3声をかけ、報告会は終了した。



 ん?200近い数の敵味方が入り乱れる戦場で、俺の声が聞こえるものなのか?

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