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プッチン君、再び3

 私は村から村、街から街に行商ぎょうしょうして歩く商人でセムと言います、娘のアンジェラと共に一頭引きの帆馬車ほばしゃで村々を回っています。


 今回もいつも通り村に雑貨や一部趣向品いちぶしゅこうひんなんかを売って、村の人たちが内職ないしょくで作ったかごやざるなどを買い取る為、行商ぎょうしょうをしていました。

 この辺りは難所なんしょもなく強いモンスターが出無いので、ことさら商隊しょうたいは組まずに3人組の冒険者を雇って行商ぎょうしょうしていました。


 それが今回は裏目に出ました、『紫暗夜しあんや』です!

 冒険者たちと相談しましたが普通なら3日かかる距離をすでに1日分進んでしまっています、進むにも戻るにも、どちらに行くにも時間がかかり危険です。それならば後2日分を進んでしまおうという話しになって、私もそれに賛成しましたがそれがいけなかった。

 今回の『紫暗夜しあんや』はモンスターの数が違いました、強くは無いのですが多いのです!『紫暗夜しあんや』はモンスターが増えると一般的に言いますが、今回はまた一段と数が多い!そのせいで遅々(ちち)として進めず距離を稼げませんでした。


 夜にまでモンスターの襲撃を受け、ついに冒険者に怪我人が出てしまいました!距離は後約半分、村と村の丁度ちょうど真ん中です、ならば進むしか無いと思い進みましたが、大きな狼の群れと遭遇そうぐうしてしまい、私たちを逃す為に冒険者たちが残りました。

 彼らは最後まで仕事をしてくれました、ありがたい!!



 私たちはやっとの思いで狼の群れを振り切り、安堵あんどして先に進んだのにそこに山賊が現れました。

 こんな連中こそモンスター共の餌になっていれば良いものを!!

 あの『紫暗夜しあんや』をどうやって生き延びたんでしょうね!こっちは冒険者たちが身体を張って守ってくれたというのに、世のなか不公平ですよ!


 私は馬車を加速させて振り切ろうとしましたが、その寸前すんぜんで馬の足元に矢が撃ち込まれ、馬がおびえてしまって動きません。

 娘に馬車の中に入るように告げ、私は槍を持って馬車を下り山賊に相対します、冒険者たちが追いついて来ている可能性はほぼ無いのは分かっていましたが、それでも私は娘を守る為、私自身が生き残る為に全力で助けを呼びました!


「誰か助けてくれーーーー!!」


 山賊どもはそれを聞いて嘲笑(あざわら)っています、10人くらいでしょうか、囲まれています!

 私が覚悟を決め槍を構えようとした時、燃えました!?

 唐突とうとつに山賊の1人が燃え出したのです!山賊どもは慌てだしました、誰か来てくれたようです、希望が見えました!私に背を向けて後方に弓を撃った奴に槍を突き立ててやります!!

 ガラ空きの背中です!外すはずもありません。

 心臓を一突きです!我ながら良い一撃でしたね!


 私が居た事を思い出した様に2人の山賊が向かって来ます、視界のはしに数名の少年らしき姿が見えました。

 馬車の中から娘の叫びが聞こえる、馬車に入り込まれたか!?


「馬車の中に娘が居るんだ!頼む!!」


 少年たちでは山賊の相手は荷が重いだろうと思いながらも、わらにもすがる思いで私は叫びました。


「ここは俺に任せろ!!お前は馬車に!」


 少年の声が聞こえました、ありがたい!

 目の前に居る山賊は片方が私と同じくらいの腕でしょうか?もう片方は明らかに腰が引けています、数に数える必要はありませんね。ですがこの山賊私のあせりを読んで適度に踏み込んで来ます!何とも性格の悪い事です!

 山賊め!私は何とか槍で受け切って、腰引けの山賊は視線で牽制けんせいし目の前の奴に向き合います、馬車の中から娘の叫びが聞こえていますからまだ生きています!!山賊が踏み込んで来ました、受けてしまった力比べです、腰引けの山賊が入って来ない様に視線で今一度牽制し押し返ます。


 ニヤニヤ笑いながらこっちを見ている、嫌な奴だ!

 娘の声がしない!?


 焦った私の顔を楽しみながらまた踏み込んで来ます、槍ので受けましたが、その時馬車から何かが飛び出して来ました!

 それが腰引けの山賊に飛びかかったのを見て、少年たちだと私は判断しました!ならば目の前のこの山賊を倒すだけです!!山賊が驚いて困惑こんわくした様子で下がりましたが見逃してやる手はありません!!

 槍を突き出すと山賊は体勢を崩しながらもけました、だがそこまででした。後ろから近づいた少女によって山賊は頭を割られ、倒れた所にもう一撃追撃です。

 腰引けの山賊だけでなくこいつまでも・・・、鮮やかな手並みです。


 私は驚きました!それを成したのは黒くつややかな髪の美しい少女でした、両手に手斧を持ち、こちらをちらっと見た後(きびす)を返し走り出しました、私は不覚にもその姿に見惚みとれて見送ってしまいました。


「あーーーーー!」


 娘の声がして振り返ると、娘は短槍たんそうを手に目だけで私を非難ひなんしていました。私が戸惑とまどっていると、娘は帆馬車ほばしゃから飛び降りけだしました。それを見て私もまだ終わって無い事に気付き慌てて娘の後を追いましたが、私が3歩も走らぬうちに終わった様でした。





 〜〜セムの娘アンジェラ視点〜〜


 私はお父さんに言われて急いで馬車に隠れた、手には短槍たんそうを持っているけど、それでも怖くてしょうがないの!?


 昔、山賊におそわれた時の事を思い出してしまって手が震えてしまう。

 その時、母は殺され、私は舌を切り落とされた。他にも多くの人が死んだ、殺された!父も戦って何とか生き残ってくれた。

 だけど、私たちは行商ぎょうしょうを続ける事しか生き方を知らなかった。



 誰かが馬車に乗り込んで来た!男が2人馬車に入って来た、山賊だろう手には手斧を持っている。私はなけなしの勇気を振り絞って槍を突き出したけれど、素手で掴まれてしまった!

 私はそれでも暴れ叫んだけど、押し倒され1人に腕を押さえられてもう1人が乗っかって来る、なおも私は暴れ必死に助けを求めて叫んだ!!だけど舌の無い私の叫びは言葉にはならない、私の言葉が分かるのは父だけだ。


 もう1人入って来た時、私は絶望ぜつぼうした。そいつは静かにそっと近づいて来ると、私に乗っかっている男の頭をつかみ引っ張り上げると、その首にナイフをつき刺した。

 私は唖然あぜんとして見ていた。最後に入って来たのは男ではなく少女の様だ、薄暗いこの帆馬車ほばしゃの中でも眼をみはる程の美しさです。

 私は一瞬今の状況も忘れ彼女に見惚みとれてしまいました。

 男の首に刺さったナイフを振り切る様に抜くと大量の血が飛び散りました、それを見て私の腕を押さえていた男が慌てて動いたのです!

 私はせめてもの抵抗にと思い、男の服をつかんで邪魔してやりましたが、その男もすぐに動かなくなり倒れました。


 少女はこの男も殺した様でした。

 2人の成人男性をこんな短時間であっさりと!?


「大丈夫?怪我は無い?」


 聞こえて来るのは優しく美しい声でした。

 彼女は動きを止めず、男達が持っていたナイフをびに差し、奴らの持っていた手斧を拾いながら話しかけて来ました。

 私は慌ててお礼を言ったけど、舌の無い私の言葉に彼女はキョトンとしてしまいました。

 恥ずかしい!

 それでも内容を理解したのか彼女は微笑んで、どういたしましてと返してくれた。


「まだ敵は残っているから、動ける様なら手伝ってくれる?」


 そう言い残して彼女は馬車を飛び出して行った、山賊と私が戦う事を考えると身体が震える。その時外で父の気合の声が聞こえ、私は意を決し、足元に転がった短槍を、震える手で何とか握り馬車を出ました。


 立っている父の無事な姿を見てほっとし、山賊の残党ざんとうに向けて走って行く彼女を見つけ、己を叱咤しったして、気合の声を上げて私は彼女を追いかけました!


 立っていたのは2人です、2人とも背を向けて逃げ出しました!

 その背に向かって、彼女は左右に持った手斧を投げつける!近いとはいえ見事に命中です!右手で投げた手斧は右側の山賊の頭に、防具も着けていないので致命傷でしょう。

 左手で投げた手斧は左側の山賊の背中に当たりました。山賊は1度体勢を崩したけれど、背に手斧を生やしたままギクシャクした動きでなおも逃げます!その山賊に、彼女は右で投げた手斧を回収し追いかけて、その頭に3発です!山賊の頭は形も残っていません。

 殲滅完了です!




 私は彼女に声をかけようと思いましたけれど、彼女が動き出す方が早かった。少年の遺体に走り寄り、すがりついて悲痛ひつうな声で話かけています。彼女はもう1度走ったけど、そちらの少年も事切れている事をさとったのか、彼女は座りこんでしまいました。


 父の助けを呼ぶ声に応えてくれて、この人たちは戦ってくれて2人の少年が死んでしまいました。何と声をかけていいか私には分からない。

 彼らがけつけてくれたおかげで、父も私も助かったのに言葉もかけられないなんて・・・。


 父が声をかけ、山賊どもの装備や荷物衣類にサンダルも回収して行く間も、彼女の様子が気になって時折見ていました。

 彼女はノロノロとした動きで回収していたけど、その姿が私には痛ましかった。高額なマジックバックが2つもあり、他にもひと目見て業物わざものだと分かる手斧と弓がありました。その全てを彼女に渡したけど、彼女は未だ放心ほうしん状態のままでした。


「街まで、連れてって頂けませんか?」


 少ししてから、マジックバックを差し出して彼女はこう言いましたけれど、父は連れて行く事だけを了承しバックは受け取らなかった。

 私たちはそこまで恩知らずじゃありません。




 帆馬車ほばしゃに乗った彼女はひざを抱え、顔をせて眠ってしまった。いえ、泣き顔を隠したのかそれとも私たちに対し己を閉ざしたのかもしれません。


 空が赤く染まり出した頃に今夜の寝床を決めたました。行商ぎょうしょうで何度も通った道です、どの辺で休めるのか、あらかじめ分かっています。

 馬車が止まる少し前に彼女は顔を上げ、枝拾いを申し出ました。まだ顔色は冴えないけど、父はそれを認めお願いしました。



 父が馬の手入れをし、私は食事の用意に取り掛かった。大した物は作れない、とはいえ火が無ければそれほど進められない。

 待っていると、時間はかかったけど彼女は大量の枝を拾って来てくれた、マジックバックを持って行っていた様でした。


 食事中に父が何度も話しかけていた、私も私なりに声をかけてみたけど、彼女はポツリポツリと返すのみだった。

 そうすぐには、立ち直れないよね・・・。



 食事の途中に急速に彼女が真剣な顔になって父に言った。


「後程少々お時間頂けませんか?ご相談したい事が御座ございます。」


 父も私も驚いて顔を見合わせてしまった。

 父が了承すると、彼女は礼を言い静かに食事を続けた、私たちもそれからは声をかけられなかった。背をピンと伸ばし、美しい所作しょさで食事をする姿に私はしばし見惚みとれてしまいました。


 急速に表情が変わったのは、考えがまとまったからでしょう。

 あんな事があって、仲間が死んでしまって、頭を切り替えるのに時間がかかるのは仕方のない事だものね。むしろ、この短時間で切り替える事が出来た事は称賛に値するのではないでしょうか。





 食事が済んで湯をかして、それを飲みながら父が話しをそくした。


「それで、相談とは何でしょう?私に出来る事なら何でも言ってください。」


 父も恩があるので、出来るだけ力になる事をアピールした。自慢の父だ、本人には言えないけどね!

 だけど話の内容は私の想像を絶する物だった。私は混乱した、話の内容は要約するとこんな感じだ。


 ・彼女を護衛として雇わないか。

 ・マジックバックをレンタルしないか、販路はんろ次第で半年を目処めどに。

 ・山賊の落し物の売買の委託いたく


 私たちの利益としては。


 ・彼女という身を守る武力。

 ・マジックバックによる大量輸送と、それによる幅広い商品を販売出来る事。

 ・山賊からうばった彼女にとって不要な商品の販売とその売り上げの半分。

 それにともない彼女が欲する物は、護衛とレンタル料として4日で銀貨1枚と食事と寝床、寝床に関しては私たちと同じならば野宿のじゅくでもかまわないそうだ。

 そして物の善し悪しや商品の価格それに近隣きんりんの地理や何か、要するに知識だ。


 私たちに都合が良過ぎる。


 父も同じ思いの様だ、商人としてはあるまじき事ではあるが、まさかの値上げ交渉だ。

 私の父は恩を忘れないのだ!だが敵もさるもの、断固だんことして首を縦に振らず頑固がんこな!


「さすがにそれは、安過ぎます。せめて1日銀貨1枚でどうですか?護衛だけでも1人あたりそのくらいはしますよ?」


「護衛は普通D級前後の冒険者の仕事です、私1人では殿しんがりを受け持つ事すら出来ませんので、御2人とともに逃げる事を許していただれば幸いです。それに、私は未だ冒険者登録すらしていません。」


「せめて、2日で銀貨1枚と、山賊から得た物が売れた際はあなたの取り分では如何でしょうか?」


「物の値段の適正てきせい価格は私には分かりません。適当に売れば商人に買い叩かれる未来しか見えません、セムさんに販売していただいた方が高く売れるでしょう、その手間賃をお支払いするのは当然です。」


「私共にはあなたに助けていただいた恩があります、あなたの不利益ふりえきになる様な取引きは出来ませんよ。」


 お父さん頑張った!お父さんかっこいい!だが敵は・・・彼女は目を閉じ静かに深呼吸し、先程までの固い声では無く教えさとす様に優しい声で話し出す。


「これから私は冒険者として様々な商品を見て購入する機会があるでしょう。その時私が物の値段や物の善し悪しが分からなければ、とんでもなく損をするかもしれません。知識とは力なのです。それは、あなた方商人さんの方が良くご存知でしょう?お金に困っていないのなら街にお店をかまえる物でしょう、行商ぎょうしょうに身を置いているという事は、それほど余力がある訳ではないのでしょう?バックをレンタルして大量の商品を買えたとしても、すぐに利益が出る訳ではないのですから。私の提案を飲んで頂けませんか?娘さんの為にも。」


 少しみじめな気持ちになったけど、あの優しい声で言われると納得してしまう、心にすっと入って来る様な、あるいは寄りう様な優しさを感じる。


 これまで重くてなかなか運べなかった物や、取引きを持ちかけられても断らざる得なかった物もあった、特にお酒なんかは売れるけど、重くてなかなか運べなかった。



 半年の間にしっかり稼いで、彼女に恩を返したらどうかと意思表示したら、父はそれで納得してくれたが、彼女は困った顔をしていた。


「半年の間に自分の技や術が冒険者として、やっていけそうかどうか、確認する為の時間稼ぎなので、気にしなくて良いですよ?」


 彼女は最後にそんな事を言っていた。この美し過ぎて優し過ぎる彼女に、必ず報いると心に固くちかい、私は眠りについた。

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