バーグ
近所にある定食屋さんに最近ハマっている。だから毎日のように行ってる。
「いらっしゃいませえ」
そこは日替わり定食がいいんだよな。安いし、あとラインナップがいいんだよなあ。そこまでこだわってるわけじゃないというか。なんか、
月曜日:油淋鶏
火曜日:サバの塩焼き
水曜日:ハンバーグ
木曜日:アジフライ
金曜日:野菜炒め
土日は休み
この感じ。この感じが最高にいい。普通。変に手を加えてない感じ。だからなんというか飽きがこない。素敵。どれもこれも普通って言うのが最高。
あとご飯と味噌汁は一回ずつお替りできる。ご飯は多少大盛り感がある。味噌汁は大体大根の味噌汁。大根の切り方は細切り。しかも油揚げが入ってる。この辺のポイントが高い。最高。実家に帰省する時も大抵一回は大根の味噌汁を発注する私だ。大根と油揚げの味噌汁最高。
そんで千切りキャベツとおしんこが付いて、500円。最高。最高じゃないですか。最高世界じゃないですか。まあ野菜炒めの時は若干ね、キャベツ感が被るけども、でもそれも愛嬌というものだ。
そんな訳で、ここ最近平日は大抵の場合そこでご飯を食べている。
また昼時も混んでないのがいい。何せ住宅街の一角だ。広い道路に面した場所でもない。だからいい。あとおそらく、というかまず間違いなく主人に商売っ気はない。土日休みだしな。でもそれがいい。それがいい。それに初めてそこに行った際、日替わり定食と餃子を頼んだ。そしたらご主人に、
「食べるの?」
って聞かれた。あーはい。って答えると、
「野菜炒め大盛りにするから餃子止めない?」
って言われて、じゃあってそうした。楽だ。野菜炒めは本当に大盛りで来た。楽でいい。楽がいい。結局楽が一番優先される。私もそうですご主人。もしかしてご主人とはソウルメイトじゃないかとその時思った。前世で出会ってたんじゃないかと思ったりした。
そんで、どういう訳なのか分からないけども、近くの埼大にでも通ってそうな娘さんが一人バイトというか、ホールに立ってた。名は桃草柿江というらしい。ネームプレートに書いてあった。桃だ柿だと豊穣を予感させるネームだ。豊穣の神なのかもしれない。あと見方によってはシワシワネームだ。
「いつもありがとうございます」
「あどうも」
いやいや、こちらこそですよ豊穣さん。
「いつものですか?」
「あいっす」
約:あ、そうです。よろしくお願いします。
で、そうした一連の後いつもの日替わり定食が準備される。っていうか私が入店した段階でもう準備されているのかもしれない。あと、ご主人の名前は知らない。店の○○食堂の○○がそのままご主人の名前なのかもしれないけども、興味ない。ご主人だってその辺には興味持ってほしくないと思うし、私もいたずらに書いて混む様な事態は避けたい。私の桃源郷だし。
場合によっては店内の客が私一人という事もある。時間帯によってって言うのもあるんだろうけども。そう言う時ご主人は厨房から出て空いてる席に座ってテレビを見ているし、豊穣さんはスマホをいじってる。そんで私は一人で黙々とご飯を食べている。楽だ。気が楽だ。最高に楽だ。なんていいんだこれは。なんだここは。脳内では脳汁がバンバン出ているけど、でもそれはおくびにも出さない。この関係性、今のこの状態が壊れることを望んでいない。
極楽浄土や桃源郷という場所が本当にこういう感じだったら最高。ほんとに最高。
ある水曜日。
いつもの様にそこに昼ご飯を食べに行くと、いつものように豊穣さんがお仏壇にお供えるような湯呑にお茶を持ってきてくれて、
「いつもので?」
と来た。そうです当然そうです。
「あっす、しゃっす」
約:あ、そうです。お願いしやす。
すると、
「はーい」
と、豊穣さんはいつもの風の様な軽やかさで厨房のご主人に合図をして、
そんで、いつもよりも大分巻きで、
「お待たせしましたー」
ってブツが出てきた。
水曜日、日替わり定食、ハンバーグ。
しかしその日のハンバーグは普通のハンバーグじゃなかった。
ハンバーグじゃなかった。
そもそもハンバーグじゃなかった。
「マーク・ザッカーバーグ!」
マーク・ザッカーバーグだった。アメリカ合衆国のプログラマ、実業家。Facebookの共同創業者兼会長兼CEO。また同社黄金株(B株)保有者の一人。マーク・エリオット・ザッカーバーグだった。
「マーク・エリオット・ザッカーバーグ!」
ハンバーグで形成したと思われるマーク・エリオット・ザッカーバーグ!それに思わず突っ込んでしまった。
「ひゅー!」
厨房からご主人のイカした口笛が聞こえてきた。
「よかった!わかってくれました?」
豊穣さんも喜んでいた。聞くと豊穣さんがそれを形成したらしい。
「アンタいっつも来るからさ。こういうのどうかなって思って」
ご主人が厨房から出ないで、その辺の感じがまたいい。不用意に近づきはしない感じ。そんな感じで聞いてきた。
「渋すぎます?」
豊穣さんもそんな事を言ってた。いや確かに。渋すぎますね。マーク・エリオット・ザッカーバーグって。渋すぎますね。たまたま私がFacebookやってたからいいようなものの。
ただとにかく、
「ご主じーん!桃草ちゃんも、もー!」
って私は私で、両手のひらの人差し指、小指、親指をぴんぴんに伸ばした状態のおどけたような感じで、彼らをご主人と豊穣さんを差して肩すくめたり、唇を尖らしてみたり、眉毛をくねらせてみたりして、応対した。改めていう事じゃないけど、普段の私はそんな事絶対にしない。
彼らと家族になりたいと思った。
桃源郷ではないが、桃園の誓いにおいて劉備、関羽、張飛は義兄弟の契りを交わしたという。コーエーテクモの三国無双とかでそういうのを知った。私も彼らとならそういうのやってもいいな。ほんとに。そんな事滅多に思わないけどさ。