バランス
「何を飲んでいるの?」
幼い坊やが祖父の飲んでいる物に興味を示して聞いた。
「コーヒーだよ」
祖父は微笑みながら答えた。
「コーヒーか。僕も飲んでみたいな」
「坊やにはまだ早いと思うけどな」
「飲ませてよ」
坊やにせがまれ、祖父は仕方なく一口、坊やにコーヒーを飲ませてあげた。
「うえ、苦い!!」
坊やは初めて味わうコーヒーの苦さに顔をしかめて舌を出した。
「ははは…、だから言っただろう? そうだ、砂糖を入れたら坊やにも飲めるかもしれないな」
祖父は台所から砂糖の入った透明な瓶とスプーンを持ってくると、坊やに渡して言った。
「さあ、この砂糖をコーヒーに入れて飲んでみなさい。甘くなるはずだよ」
坊やは目を輝かせ、言われた通り瓶の砂糖を何度もスプーンですくい、コーヒーに入れた。
「ああこら、そんなに入れたら…」
祖父が言い終わるのを待たず、コーヒーを飲んだ坊やは、
「うわぁ、甘い!!」
と、またしても顔をしかめた。
「砂糖を入れすぎたんだよ。何事もバランスだな」
祖父は優しく笑った。
ある時、丁度太平洋の真ん中辺りに、日本列島とほぼ同面積の新大陸が出現した。それから程なくして、日本列島が一日と経たず海に沈んだ。
地球の海と陸のバランスが保たれたのだ。