第五話 ディスト
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アブラクト戦記
第五話 ディスト
作:狩屋ユツキ
<人物>
【シュウ♂】
ナティア国軍人。
直情的で素直な性格。
ディストの色は赤みの強いオレンジ。
黒髪黒目、十八歳。
愛機はスピード型ギルティア「ブルーファング」。
【ミリア♀】
ナティア国軍人。
勝ち気で元気だが意外と冷静さや冷酷さを持ち合わせた性格。
ディストの色は青みがかったオレンジ。
肩までの桃髪緑目、二十歳。
愛機は火力重視型ギルティア「ピンクスパイダー」。
【アイナ♀】
ナティア国軍人。
人嫌いで口の悪い少女。
ディストなし。
腰まである銀髪銀眼、実年齢十歳、見た目は十六歳程度。
愛機は変化型ギルティア「パープルヘル」。
【ゴルドフ♂】
ナティア軍軍人。
整備班責任者にしてアキュア基地責任者。
落ち着いた性格をしており合理的に物事を判断するが、基本は気のいいおっちゃん。
ディストの色は赤みがかった黄色。
スキンヘッドに青目。五十八歳。
愛機は超重量型ギルティア「ガーデンホール」。
【リズリエル♀】
イーリス軍軍人。
静かな性格をしているが、ブラコン。シリスの実の妹。
ディストの色は濃い赤。
緩やかなウェーブを描く背中までの茶髪焦げ茶色の目。二十歳。
愛機は超軽量小鳥型ギルティア「ヘカテー」。
【レオン♂】
イーリス国軍人。
従順な性格をしており、基本的には紳士的。
リズリエルに絶対の忠誠を誓っている。
ディストの色は赤みの強い紫。
後ろで一つに結んだ肩までの金髪に碧眼。三十歳。
愛機は防御型ギルティア「アークエンジェル」。
【スライナー・イーリス♂】
イーリス国国王。
自ら前線に立ち、残虐な戦術を好むとの噂。通称「残虐王」。
ディストの色は黒に近い赤。
引きずる黒い真っ直ぐな髪に赤目。四十二歳。
愛機は万能型特殊機ギルティア「ロイドカオス」。
【アキュア基地の兵士♂】
整備兵。
【ディストなし♂♀】
スライナーの盾として今回選ばれたイーリス国のディストなし。
男:女:不問
4:3:1
<用語紹介>
【惑星グラティ】
砂に満ちた惑星。
機械文明が発達し僅かな水のあるところに機械的な国を作って人々は生きている。
現在、ナティア国とイーリス国が全面戦争中。他にも大国としてバレスチナ国、アヴァラン国などがある。
小国は実に様々。遊牧民も多い。
【ギルティア】
騎乗型ロボットの総称。
ディストが紫以上でないと乗ることはできない。
元は工業用として開発されたが、今はもっぱら戦闘用として使われている。
【ディスト】
グラティに住む人間の殆どが生まれつき右手に持っている宝石。
楕円形で手の甲に収まる大きさ。ほとんどの人は隠さないでむき出しにして歩いている。
これを使って通信をしたり、魔法のようなことが出来たりと利便性は高い。
色は青からグラデーションで赤まであり、赤ければ赤いほどディスト能力が上となる。
持ち得ないで生まれてきたものは「ディストなし」として昔から虐げられており、昨今の問題となっている。
シュウ♂:
ミリア♀:
アイナ♀:
ゴルドフ・ディストなし2♂:
リズリエル・ディストなし1♀:
レオン♂・兵士:
スライナー♂:
N♂♀:
※リズリエルは途中で「きよしこの夜」を歌います。ご注意ください。
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(イーリス国、玉座の間)
N:「イーリス国、玉座の間。豪奢なその玉座に、一人の男が怠惰に腰掛けている。前にはかしずいた男が一人」
スライナー:「アキュア基地に面白い機体が入っていると報告が上がっているが?」
レオン:「はっ。なんでも両腕を武器に変形させる機体だと……」
スライナー:「面白い。その機体、一度見てみたく思う。リズリエル」
リズリエル:「はい、ここに」
N:「リズリエルと呼ばれたドレスを着た女性が王――スライナーの隣に、まるで闇から生まれいでたかのように姿を現す」
スライナー:「出陣する。用意をせよ」
リズリエル:「はい」
N:「怠惰に溺れていた男は立ち上がり、マントを玉座に脱ぎ捨てる。その目は獲物を狩る獣のように爛々と輝き、同時に昏い残虐性にも満ちていた」
間
(アキュア基地、道場)
N:「場所は変わってアキュア基地。併設された道場にて、ミリアとゴルドフ、そしてシュウとアイナがペアとなって訓練に励んでいた。ミリアは薙刀、ゴルドフはハンマーに見立てた長柄で戦っている)
ミリア:「はっ、やぁあっ!!」
ゴルドフ:「踏み込みが遅い!それでは薙刀を振るう前にお前が剣で真っ二つだぞ!!」
ミリア:「はい!!」
ゴルドフ:「恐怖心を捨てろ!!前に出ることを恐れるな!!……ふむ、先日の大敗が響いているな、お前の持ち味は後方支援だというのに前線に出しすぎたか……」
ミリア:「いえ、私のピンクスパイダーは前後問わず戦えるように設計されているはずです。もっと……もっと強くならないと!!」
ゴルドフ:「その意気や良し。しかして焦るべからずだ。今日の訓練はここまで」
ミリア:「ありがとうございました!!」
ゴルドフ:「まあ、儂の訓練以上にボコボコにされているのがそこにいるがな……」
間
アイナ:「脇が甘ぇ!!剣ってのは潜り込まれたらその持ち味が半分以上消えるんだよ!!柄で殴るか膝蹴りの一本でもお見舞いしてやれ」
シュウ:「そ、そんなこと急に言われても……うがっ!」
アイナ:「ほらほら腹が空いたぞ、っと!!」
N:「一方、こちらはこちらでシュウは木刀で、アイナは素手で相対していた。大振りに横に薙いだ剣をしゃがみ込んで避け、そのままかがんだ姿勢でシュウの懐にアイナが潜り込む。慌てたシュウが距離を取ろうと一歩後ろに下がるより先にアイナの頭突きがシュウの顎に入り、開けた腹部に思い切りの蹴りが叩き込まれた」
シュウ:「ぐふっ……!!」
アイナ:「ま、ざっとこんなもんか」
N:「道場の端まで吹っ飛んだシュウを見てアイナは、とんとんと跳ねながら戦闘態勢を解いた」
シュウ:「うう……ひどいよ、アイナ……手加減してよ……」
アイナ:「ばーか、手加減してたらお前戦場であたし以上に強いやつに出会った時どうすんだよ。訓練は実戦以上に、実戦は練習のつもりで、が基本だ」
シュウ:「それにしたって、……あいててて、絶対コレ痣になってるよ……」
アイナ:「ん、それでもあたしに一太刀入れたのは成長してんじゃねえの?」
シュウ:「え?」
N:「打ち据えられた左腕を見ながら言うアイナにシュウは瞬く」
アイナ:「防御されたとはいえ、本物のレーザーサーベルなら腕の一本は持っていかれていた可能性がある。あたしもまだまだだな」
シュウ:「アイナ……」
アイナ:「……調子乗ってるんじゃねえよ、キラキラした目ェしやがって。向こうも終わったみたいだから休憩にするぞ。おら、立て、早く」
シュウ:「痛っ、痛い!!今立つから蹴らないで!!痛いってば!!」
ミリア:「お疲れ様。そっちの調子はどう?」
アイナ:「相変わらずシュウは大振りが多い。もっと小技や柄の使い方を覚えるべきだな。……まあ、剣撃の速度は上がってる」
シュウ:「ホント?!」
アイナ:「だーっ、いちいち褒めたところだけ反応するんじゃねえよ!まだまだだって言ってんだろうが」
ゴルドフ:「はっはっは、仲のいいことだ。アイナ、お前さんは相変わらず無手なのか」
アイナ:「そろそろ剣も練習しないとなーとは思ってる。そうしたらシュウの相手が更にできるし、ミリアの相手もしやすくなる」
ゴルドフ:「お前さんは本当に戦いの申し子のようだな」
アイナ:「そのために生まれたからな」
ゴルドフ:「宇宙とは過酷だな……聞けばお前さん、生きた年数は十年だというじゃないか。十歳の子供を戦場に出すなど……」
アイナ:「喋れてギャラクシアが動かせればそれで良かったからな。あたしは七歳で戦場に出た」
ゴルドフ:「想像も出来んな……」
アイナ:「見た目は変わんねーからこっちの戦争とそんなに見た感じは変わらないんじゃねえか?中身の問題は多少あったけどな」
シュウ:「中身の問題って?」
アイナ:「母親が恋しくて泣くようなやつとかな」
ミリア:「それはしょうがないんじゃないの……?七歳でしょ?まだ母親が恋しくて泣いて当然だわ」
シュウ:「アイナの家族は?どうしてたの?」
アイナ:「あたしは試験管ベビーだ。家族は居ねえよ」
シュウ:「しけんかんべびー……?」
アイナ:「親が居なくても生まれる子供のことだ。つまりあたしに親は居ない」
シュウ:「あ、なんか、ごめ……」
アイナ:「謝んな、面倒くせえ。あたしみたいなのは山程いた。今更なんとも思っちゃいねえし、親がいるほうが未練が生まれる分気の毒だと思ったこともある」
ゴルドフ:「解釈の違いだな」
ミリア:「それでも……子供を戦わせているのは私達も変わらないわ。シュウもアイナも子供だもの……」
アイナ:「家族がいてそいつらを守りたいなら戦うしかないって分かってるなら大人も子供もねえよ。……あん?」
N:「汗が引くまでの間談話に花を咲かせていた四人の頭上に警報が鳴り響く」
兵士:「ゴルドフ様!!」
ゴルドフ:「どうした!何があった!!」
兵士:「敵の一群がこちらに向かっています!!その数、無人機も合わせておよそ数十!!」
ゴルドフ:「数十だと?!」
ミリア:「ゴルドフおじさま、すぐに出ましょう!!」
シュウ:「こっちの無人機の数は?!」
兵士:「多くて十数機……AI機無しです……」
アイナ:「ちっ、せめてAI機があれば人数に加えてやるところだが、自動迎撃機だけじゃ物の数にもならねえな。なら敵将の首をさっさと挙げて帰ってもらうしか無いか」
ミリア:「ど、どうやって?」
ゴルドフ:「難しいが、アイナの案が一番だろう。儂も最初から今回は出る。後方支援は儂が、中距離でミリア、前線はアイナ、シュウ。この中で一番確率が高いのはアイナが相手の首を取ることだろう。だがシュウ、露払いをするのではなく、お前もその戦線に加わるのだぞ」
シュウ:「は、はい!!」
兵士:「敵の正確な数判明!!有人機と思われる機体が三体、無人機と思われるAI機が二十機!!波状になってこちらに迫ってきています!!」
ゴルドフ:「こちらの戦力の少数を突いたな……向こうには良い将がいるようだ」
アイナ:「挟み込まれちゃ面倒だ、右か左か、どちらか片方に固まって行ったほうが良いな」
シュウ:「ど、どっちから?どっちから行く?左?右?」
アイナ:「右。右に無人迎撃機を固まらせろ、おっさんは中央からガンガン撃ってくれ。ミリアは波状攻撃で狭めてくるだろうAI機の相手を頼む。シュウも同様だ。あたしは将の首を取りに突き進む」
シュウ:「それって一番アイナが危ないんじゃ……!!」
ミリア:「そうよ、下手したら敵に囲まれて……」
アイナ:「だからあたしが行くんだろうが。……ミリア、お前は前回の戦いでスクラップにされかけたトラウマが抜けきってないだろう。シュウも人を殺したのはまだ一回だ。あたしが一番戦い慣れてる」
ミリア:「貴女、気付いて……」
アイナ:「ゴルドフのおっさんが気付くことは大体あたしも気付くんだよ。戦いのことならな」
ミリア:「……」
アイナ:「そんなやつが囲まれたら足がすくんで動けなくなる。邪魔なだけだ」
ミリア:「邪魔って……!!」
ゴルドフ:「言い争っている暇はないぞ、すぐに準備出来次第出撃だ!!」
間
(アキュア基地上空)
スライナー:「さて、出てくるかな」
レオン:「向こうは戦力不足です。全員出撃しなければこの戦いの勝算は無いと踏むでしょう」
スライナー:「ふむ、まあそうだろうな」
リズリエル:「出てこなければ引っ張り出すまで……そうですわね?スライナー様」
スライナー:「ははっ、その通りだ。そのための、これ、なのだからな」
N:「そう言って自分達をぐるりと囲むように配置していAI機を見てスライナーはニヤリと笑う。程なくして出撃してきた機体を数えて、レオンが報告を上げた」
レオン:「敵機、有人機と思しき四機、無人迎撃機と思われる機体が十二体。その他は見当たりません」
リズリエル:「布陣からして、後方に一機、前面に三機、左側から攻める気ですね」
スライナー:「相手も馬鹿ではないらしい。挟撃を避けたな」
N:「スライナーの機体、真紅の機体ロイドカオスが左手を上げる。するとその動きに合わせてAI機が左側に集まるように布陣が変わった」
スライナー:「それでも、こちらの有利は変わらんがな」
レオン:「例え敵機の数が我らより勝ろうとも、貴方様とリズリエル様がいらっしゃる限り私に敗北の二文字はございません」
リズリエル:「レオン、肩を貸して頂戴」
レオン:「仰せのままに」
N:「リズリエルの言葉に間を開けず答えたレオンのアークエンジェルにヘカテーが留まる」
リズリエル:「出撃します」
レオン:「はい」
間
アイナ:「……壮観だな」
ゴルドフ:「不利な戦いになる、全員、生きて戻れ」
シュウ:「俺が一番槍でいいの?」
ミリア:「まずはゴルドフおじさまが先制攻撃を仕掛けるわ。それを煙幕に切り込んで、アイナの道を作って。援護はするわ、行くわよ!!」
N:「ミリアの声に全員が応じる。ゴルドフのガーデンホールの後方が大きく開き、幾つもの砲台が現れた」
ゴルドフ:「行くぞ!!ガーデンホール、全砲台一斉放射!!当たるでないぞ、若造共!!!」
シュウ:「おおおおおおお!!!!」
ミリア:「突っ込みすぎないでね、ブルーファング!!危険だと思ったら退くこと!!喰らえ!!」
N:「ブルーファングとパープルヘルが同時に発進する。そしてピンクスパイダーがミサイルを発射しながら後を追う。だが、一機のAI機にシュウがレーザーサーベルを振りかぶった瞬間だった」
ディストなし1:「殺さないで!!」
シュウ:「え……」
N:「ぴたりとAI機の頭上でシュウのレーザーサーベルが止まる。その途端、AI機が反応し、逆にレーザーサーベルでシュウに迫った」
シュウ:「うわ……っ?!」
アイナ:「シュウ、何してやがる!!」
N:「間一髪で避けきったシュウの失態にアイナが檄を飛ばす。が、返ってきたのは戸惑ったようなシュウの声だった」
シュウ:「今、AI機から人の声がした……!!」
ミリア:「なんですって?!」
N:「その途端、ゴルドフの発射した弾がAI機にヒットした。普通なら避けるはずのAI機はまるで微動だにせず避けもせず、それを受ける。その瞬間、様々な悲鳴が上がり、弾を受けた何機かが砕け散って地上へと墜ちた」
ミリア:「自動AI機から悲鳴……?!」
シュウ:「このAI機、人が乗ってる……?!」
アイナ:「何のためにだよ!!」
スライナー:「そいつらは俺に粗相を働いたディストなしよ」
シュウ:「なっ……?!誰だ、お前は!!」
N:「通信に割り込んできた笑い声に、シュウが怒鳴る。その怒鳴り声が可笑しかったのか、スライナーは楽しげに吠えた」
スライナー:「俺はスライナー・イーリス。イーリス国の王である!!」
シュウ:「イーリス国の……」
ミリア:「残虐王……!!」
スライナー:「そのAI機には全てディストなしを乗せてある。思う存分切り捨てて俺の元へ来い。そうしたら相手をしてやろう。その前に、お前達が墜落る可能性もあるがな」
ゴルドフ:「非道な……!!」
レオン:「非道ではありません。その者達が選んだ道です。AI機に乗って戦いに出、生き永らえるか、その場で死ぬか」
リズリエル:「我が王は温情を与えたのです。勘違いなさらないでくださいませ」
シュウ:「くっ、これじゃあ……!!」
ミリア:「一般人を殺すことになるっていうの?!」
アイナ:「……なぁに躊躇ってんだ、お前ら」
ディストなし2:「ぎゃああああああああ!!!!」
シュウ「っ?!」
ミリア「なっ……!!」
N:「シュウとミリアが躊躇う中、一つのAI機が爆発して悲鳴が響いた。音に反応した二人が見たのは、右手を剣の形に変えて次々とAI機を落としていくパープルヘルの姿だった」
シュウ:「ちょ、アイナ!!」
ミリア:「アイナ!それには何の罪もない人が乗っているのよ?!」
アイナ:「何の罪もないやつなんかいねえよ。大体戦争やってる自覚お前らあんのか?戦争ってのはな、兵士だけじゃない、民間人も死ぬものなんだ。普通はよ。こんなもん、怯える必要もねえ」
N:「また一つ悲鳴が響く。AI機も応戦するが、アイナの動きに勝てるものなど存在しない。次々と上がる悲鳴と墜落していく機体に、シュウは思わずモニターチャンネルを開いた」
シュウ:「アイナ!!」
アイナ:「シュウ。お前もいい加減腹括れ。ミリアもだ。……民間人だから殺されないなんて理屈は戦争には通用しねえんだよ。お前らだって元は民間人だろうが!!」
ミリア:「……っ!!」
ゴルドフ:「悔しいが、アイナの言う通りだ。ガーデンホール、全砲台開放、発射!!!」
スライナー:「ほう、戦争の何たるか、命の何たるかを心得ているやつがナティアにもいるとはな。……リズリエル、あの紫色の機体に乗っているやつが欲しい。捕獲せよ」
リズリエル:「心得ましてございます」
アイナ:「簡単に捕まるようなやつじゃねえぞ、あたしは!!ほら、捕まえた……!!?」
N:「ガイン、と弾かれる音が響く。剣の右手を振り上げたパープルヘルが弾き飛ばされた音だった。前に立ちはだかるのは肩に小鳥型ギルティアを乗せた大型機、アークエンジェル。青白い防壁を右手から出して、それでアイナの攻撃を防いだのであった」
アイナ:「なん……っだ、それ……」
リズリエル:「きよし、この夜。星は、ひかり」
アイナ:「うがっ…………!!!何だこの歌、頭が、引っ掻き回される……!!」
リズリエル:「救いの御子は、真舟の中に」
シュウ:「頭が痛い……!!!これは、ディストによる精神攻撃?!」
リズリエル:「眠りたもう。いと、やすく」
ミリア:「ディスト使い……!!!その小鳥型ギルティアに乗っているのはディスト使いよ!!早めに倒して!!アイナ!!……アイナ?!」
アイナ:「……」
N:「ミリアとシュウも思わずギルティアの中で耳を塞ごうとするが、ヘルメットが邪魔でそれも出来ず、ただただ耐えるしかなかった。そして歌が終わった時、ミリアが見たのは、動きを完全に停止し、地面に膝をついたパープルヘルと、その正面に降り立ったアークエンジェルの姿だった」
リズリエル:「動ける?」
アイナ「可能だ」
リズリエル:「私達と一緒に来なさい。そうすれば兵を退いてあげる」
アイナ「……」
シュウ:「アイナ!!……くっそおおおお!!邪魔するなああああああああ!!!!」
N:「パープルヘルの元へ行こうとするブルーファングの前にディストなしを乗せたAI機が立ち塞がる。全てがマシンガンやレーザーサーベルなどで武装しており、ただで通れるわけもなかった」
シュウ:「あああああああああ!!!!!!!」
ミリア:「シュウ!!」
N:「シュウの叫びとディストなしの悲鳴とAI機の爆音が重なる」
シュウ:「ああ!!ああ!!!あああっ!!」
ミリア:「シュウ……!!くっ、私だって!!」
N:「シュウが狂ったように叫びながらAI機を殲滅していき、そしてどんどんとアークエンジェルに近づいていく。それを援護するようにミリアもミサイルとレーザー薙刀でAI機を落としていった。二十あったAI機が全て落ちた時、拍手が鳴り響いた」
スライナー:「見事だ。よくぞ全て倒しきった。レオン、相手してやれ。リズリエルと“獲物”はこちらに来い」
リズリエル:「かしこまりました」
アイナ:「了解」
シュウ:「アイナ!!どうしちゃったんだよ!!そんなやつの言うことなんか聞いて……!!」
ミリア:「そうよ、いつもの威勢はどうしちゃったのよ!!」
レオン:「今の彼女にはお前達の声は届かない」
N:「全てのAI機を倒しきってパープルヘルに伸ばしたブルーファングの前に、アークエンジェルが立ち塞がる」
レオン:「リズリエル様の歌声には誰も逆らえない。指向性を持たせた場合は特に。お前達もかかるかと思ったが……さすが若くてもギルティア使いか。あの紫の機体の乗り手はお前達に比べると随分と格下のディスト使いのようだな」
シュウ:「どういうことだ」
レオン:「ディストの強さでリズリエル様の歌の効きは違う。あんなにすんなり行くとは思っていなかった」
ミリア:「まさか……アイナはディストがないから……!!」
N:「小声でミリアが呟く。ディストはディスト同士干渉し合うことがある。それは防御力に関してもそうだ。実質ディストなしのアイナには、あの歌を防ぐ手がなかったのだろう」
スライナー:「適当に遊んでやれ、レオン。俺は帰る。リズリエル、帰るぞ」
リズリエル:「仰せのままに。レオン、死んだら許さない」
レオン:「私は死にません。この命はリズリエル様の元に」
シュウ:「行かせるかああああ!!」
レオン:「それはこちらの台詞です」
N:「再び、アークエンジェルの右手から青白い半透明の盾が現れる。そして背負っていたレーザー槍を左手に持ち、構えを取った」
レオン:「貴方がたの相手は私です。王と姫が退く間、時間稼ぎをさせていただきます」
ミリア:「随分と自信たっぷりなのね。こっちは三人がかりなのよ?」
レオン:「先程の戦いで消耗しきったお前たちと私、どちらが有利かなどは言うまでもない」
シュウ:「……殺す」
ミリア:「……シュウ?」
N:「聞こえてきた不穏な言葉に、ミリアは聞き違いかと聞き返す。だが、シュウから答えが返ってくることはなく、代わりに聞こえたのは彼の独り言だった」
シュウ:「人間の命を軽視して……アイナを物みたいに扱って……殺す、お前を殺して、アイナを助ける!!」
ミリア:「シュウ……」
レオン:「覚悟は決まったようだな。では、かかってこい」
シュウ:「お、おおおおおお!!!!」
N:「レーザーサーベルを両手に握り、ブルーファングがアークエンジェルに迫る。それを予測していたかのようにアークエンジェルは低く腰を落として槍をブルーファングのコックピット部めがけて突き出した」
シュウ:「甘いッ!!」
N:「突き出された瞬間、体を反転させてそれを避け、袈裟斬りにレーザーサーベルを振り下ろす。が、咄嗟に引き上げられた右手の盾に弾かれて、ブルーファングは後退した」
シュウ:「くっ……まだまだぁ!!」
ミリア:「その槍、捕獲させて貰うわね!!ピンクスパイダーネット準備完了、射出!!」
レオン:「っ」
N:「一瞬動きの止まったアークエンジェルの槍にピンクスパイダーのネットが絡まる。ギシギシと音を立てて捕まえた槍を引き続けるピンクスパイダーの腹部から、同時に幾つものミサイルが発射された」
レオン:「くっ……まだ残弾が残っていたか……」
ミリア:「これですっからかんよ。墜落なさい!!」
レオン:「これごときで墜落るアークエンジェルではないッ!!」
N:「槍を手放し、左手も翳すとそこには右手と同じような青白い半透明の盾が現れた。それどころではない。全方位、フォン、フォンと音を立てながら同じような盾が現れる」
ミリア:「防御型ディスト使い……!!」
N:「ミリアのピンクスパイダーから発射されたミサイルは全てその盾にぶつかり、弾けた。いくつかの盾を破壊することは出来たが、すぐにまた同じような盾が生成されるのに、ミリアは歯噛みした」
シュウ:「そんなもの……そんなものおおおお!!!」
ミリア:「やめなさいシュウ!!あれはレーザーサーベルごときじゃ切り裂ききれない……!!」
シュウ:「あああああ!!!!」
N:「ミリアの声はもはやシュウには届いていなかった。何度も切りつけ、その度に生成される盾を何度も破壊する。まるでそれしか知らないように何度も、何度も」
レオン:「王と我が姫は撤退したようだ。私も撤退しないと」
シュウ:「逃さない!!」
レオン:「悪いが、逃してもらう」
シュウ:「逃さねえええええええええ!!!!」
ミリア:「はああああああああああああ!!!」
N:「アークエンジェルの眼前にひときわ大きな盾――もはやドームと呼ぶべきバリアが張られる。それにシュウのレーザーサーベルととミリアのレーザー薙刀が交差してぶつかった」
レオン:「何っ……!!」
N:「ぴきっ、と音を立ててドームにヒビが入った。だが」
レオン:「……残念だったな」
シュウ:「ぐ、ううううう!!!」
ミリア:「くうぅうっ……!!」
レオン:「弾け、アークエンジェル!!」
シュウ:「うわぁっ!!」
ミリア:「きゃあっ!!」
N:「ヒビはみるみるうちに修復され、大きくなっていく。押し戻す、という言葉が何処までも適当なディストのドームがアークエンジェルを丸く包み込み、レオンの一言で放電し、二人を弾き返した。そしてふわりと上空へと舞い上がる」
レオン:「まさか私の防御壁にヒビを入れるとは……なかなかの力量。お前達はまだまだ伸びるのだろうな」
シュウ:「逃さない……」
ミリア:「シュウ、これ以上は……」
レオン:「深追いはしないことをすすめる。ここは国境沿い、イーリス国の巡回機も飛んでいる」
シュウ:「逃さない!!」
ミリア:「シュウ!!駄目!!」
ゴルドフ:「ミリア、シュウを抑え込め!!儂が撃つ!」
レオン:「おお、怖い。では早々に退散することにしよう。では、また会わないことを、祈っている」
N:「防御壁を張ったままブースターを全開にして飛び去るアークエンジェルと、それを追おうとするシュウをミリアが後ろから羽交い締めにした。レーザースナイパーライフルを構えたガーデンホールが後を追うように狙撃するが、防御壁を破るには至らず、結局アークエンジェルはイーリス国の方向へと飛び去っていく」
シュウ:「畜生おおおおおおおおおお!!!」
N:「シュウの叫びが、虚しく青空へと消え去るのと、アークエンジェルの姿が見えなくなるのは、ほぼ同時だった」
間
(イーリス国、玉座の間)
スライナー:「まさか、あの機体に乗っていたのが斯様な美貌の持ち主だったとはな」
アイナ:「……」
スライナー:「何か喋れ」
アイナ:「何か。……っぐぅ!!」
N:「両側を兵士に押さえつけられて玉座の寸前にうつ伏せにされたアイナがどうでも良さそうに答えると、スライナーの右足がアイナの頬を蹴り飛ばした」
スライナー:「気概は買ってやろう。が、お前は今籠の鳥だと言うことを分かっているか?」
アイナ:「生憎とこういうのは二回目でね。慣れもする」
スライナー:「二回目?」
アイナ:「あたしはあの国の出身じゃない。あの国に身を寄せていただけだ。だから人質としての価値もないぜ」
スライナー:「傭兵ということか?」
アイナ:「そんな感じだ」
リズリエル:「スライナー様、この者の言葉に嘘は感じません。どうやら本当のことを言っているようです」
スライナー:「ふん」
N:「傍に控えたリズリエルの言葉にスライナーはつまらなそうに鼻を鳴らす。だが、すぐに楽しげに口元に三日月を作り、玉座から降り、アイナの顔を掴んで己のそれを近づけた」
スライナー:「ディストなしがどうやってギルティアを動かしていた?」
アイナ:「さあな。技術的なことはあたしにはわからない」
スライナー:「あの機体は何で出来ている?」
アイナ:「お前らにはわからない物質さ」
スライナー:「面白い。……暫く、お前を飼ってやろう」
アイナ:「は?」
スライナー:「お前は美しい。誰か主人を充てがってやる。気が向いたら抱いてやろう」
N:「顔から手を離し、スライナーは笑いながら立ち上がった。玉座に戻り、アイナの顔を踏みつける」
アイナ:「う、っぐ……」
スライナー:「すぐに死ねると思うなよ、小娘が」
了
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kariya.yutuki@gmail.com(@を半角にしてください)
反応が早いのはTwitterのDMです。