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アブラクト戦記  作者: 狩屋ユツキ
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第三話 邂逅

【台本利用規約】

ここに置いてある台本については、商用、無償問わず自由にお使いいただけます。

報告の義務はありません。

但し自作発言、大幅な内容改変などはお控え下さい。


出来たら作品名、URL、作者名をどこかに書いていただけると嬉しいです。

アブラクト戦記

第三話 邂逅

作:狩屋ユツキ


<人物>

【シュウ♂】

ナティア国軍人。

直情的で素直な性格。

ディストの色は赤みの強いオレンジ。

黒髪黒目、十八歳。

愛機はスピード型ギルティア「ブルーファング」。


【ミリア♀】

ナティア国軍人。

勝ち気で元気だが意外と冷静さや冷酷さを持ち合わせた性格。

ディストの色は青みがかったオレンジ。

肩までの桃髪緑目、二十歳。

愛機は火力重視型ギルティア「ピンクスパイダー」。


【アイナ♀】

ナティア国軍人。

人嫌いで口の悪い少女。

ディストなし。

腰まである銀髪銀眼、実年齢十歳、見た目は十六歳程度。

愛機は変化型ギルティア「パープルヘル」。


【ゴルドフ♂】

ナティア軍軍人。

整備班責任者にしてアキュア基地責任者。

落ち着いた性格をしており合理的に物事を判断するが、基本は気のいいおっちゃん。

スキンヘッドに青目。五十八歳。

愛機は超重量型ギルティア「ガーデンホール」。


【シリス♂】

イーリス国軍人。

冷静で穏やかな性格をしており、争いはあまり好まない。

ディストは青みがかった赤。

茶短髪焦げ茶の眼。二十四歳。

愛機は変形型ギルティア「ホークスアイ」。


【ガーネット♀】

イーリス国軍人。

好戦的で自分が蔑ろにされるのを最も嫌う。

ディストは明るいオレンジ。

赤髪赤目。二十一歳。

愛機はパワー型ギルティア「アレス」。



男:女:不問

3:3:1



<用語紹介>

【惑星グラティ】

砂に満ちた惑星。

機械文明が発達し僅かな水のあるところに機械的な国を作って人々は生きている。

現在、ナティア国とイーリス国が全面戦争中。他にも大国としてバレスチナ国、アヴァラン国などがある。

小国は実に様々。遊牧民も多い。


【ギルティア】

騎乗型ロボットの総称。

ディストが紫以上でないと乗ることはできない。

元は工業用として開発されたが、今はもっぱら戦闘用として使われている。


【ディスト】

グラティに住む人間の殆どが生まれつき右手に持っている宝石。

楕円形で手の甲に収まる大きさ。ほとんどの人は隠さないでむき出しにして歩いている。

これを使って通信をしたり、魔法のようなことが出来たりと利便性は高い。

色は青からグラデーションで赤まであり、赤ければ赤いほどディスト能力が上となる。

持ち得ないで生まれてきたものは「ディストなし」として昔から虐げられており、昨今の問題となっている。





シュウ♂:

ミリア♀:

アイナ♀:

ゴルドフ♂:

シリス♂:

ガーネット♀:

N♂♀:




--------------------


(アキュア基地、整備部)


N:「アキュア基地奪還作戦から数日、司令官より正式にシュウ、ミリア、アイナの三人はアキュア基地の守備及び配属となった。前線に立ち、奪い返すイーリス国よりアキュア基地を守るのが役目になるのは誰の眼にも明らかだ。そんな三人に、ある日責任者を名乗る者から呼び出しがかかった」


ゴルドフ:「お前さんらがここを取り戻してくれたのか、本当に助かった」


ミリア:「いえ、任務でしたので」


ゴルドフ:「ここじゃ敬語など要らん。儂に限っての話だがな」


シュウ:「じゃあ遠慮なく……ゴルドフおじさん、お久しぶりです!!」


ゴルドフ:「シュウ、お前さんが任務に関わると聞いたときは肝を冷やしたが……立派にやり遂げたようだな。成長したではないか」


シュウ:「うわ、おじさん、頭がグシャグシャになる!!撫でるならもっと優しく!!」


ゴルドフ:「男がこれくらいで音を上げてどうする。しゃきっとせんか、しゃきっと」


アイナ:「ん?シュウとそこのおっさんは知り合いなのか?」


シュウ:「あいてて……。知り合いも何も、ブルーファングとピンクスパイダーを作ったのはこのゴルドフおじさんだよ」


ゴルドフ:「そっちのお嬢ちゃんは新顔だな?噂には聞いてる。馬鹿強い正体不明のギルティア使いが入ったってな」


アイナ:「アイナだ。正体不明も何も、この星の技術が宇宙に追いついてないだけだっつの」


ゴルドフ:「はは、耳の痛い話だ。儂はゴルドフ。このアキュア基地の責任者だ。勿論儂も今後何かあれば出撃するだろう」


アイナ:「は?整備班の責任者だって聞いてたけど。それにブルーファングとピンクスパイダーを作ったって」


ゴルドフ:「ナティア国は人手が足りん。ギルティアが一定以上扱えるならば整備班出身だろうが民間人出身だろうが徴兵されてギルティア乗りにされるのさ。全く、そこだけは儂もどうかと思うがな」


アイナ:「それでも生まれたときから戦うことを義務付けられるよりはマシさ。……ふうん、……アンタが使うのはもしかしてこの基地に置き去りになってたあのバカでっかい黄色のギルティアか」


ゴルドフ:「そう、儂の愛機、ガーデンホール。あれを取り戻してくれただけでも有難い。儂も戦線に復帰できるからな」


ミリア:「歴戦の勇者、ゴルドフ様に参戦していただけるのはこちらとしても有難いです」


ゴルドフ:「歴戦の勇者などと持ち上げてくれるではないか。こちとら、ただがむしゃらに生き抜いてきて、気がついたら儂の周りに敵がおらなんだ、ただそれだけのことだと言うのに」


ミリア:「ゴルドフ様の戦歴はこの私の耳にも届くものです。素晴らしい戦歴だと尊敬しています」


ゴルドフ:「ふむ……お前さんの駆るピンクスパイダーは火力重視型だったな。ならば今度手合わせでもしてみよう。何か得るものがお互いにあるかもしれん」


ミリア:「……っ!!身に余る光栄です!!」


アイナ:「……シュウ」


シュウ:「何、アイナ」


アイナ:「ミリアのあの態度は何なんだ。気色悪いったら無い」


シュウ:「同じ火力重視型として、ミリアにとってはゴルドフおじさんはある意味勇者だからなあ……憧れが高じて、って感じじゃないかな」


アイナ:「憧れねえ。過去の戦歴なんて糞の役にも立たねえってのに」


ゴルドフ:「お、お嬢ちゃんいいことを言う。そうとも、過去の戦歴など糞ほども役に立たぬ。役に立つのは実際に戦って実際に勝てるかだ」


N:「その時だった。会話に花を咲かせていた四人の頭上から警告ブザーが鳴り響く。敵機来襲、第一戦闘配備」


ゴルドフ:「やれやれ、ここ数日毎日のように偵察機を飛ばしてくるものだから撃ち落としてきたが……漸く取り戻す目処が立ったというところだろうか」


ミリア:「準備します!」


アイナ:「落ち着けよ。敵機の数もまだわかってねえんだ。ゴルドフのおっさん、敵機の数は」


ゴルドフ:「二機、それもどちらも有人機だ」


アイナ:「じゃああたしとミリアが出る」


シュウ:「え、お、俺は?!」


アイナ:「お前のブルーファングは左腕の調整が済んでねえだろうが。無人機ならともかく、有人機にそんなやつ出撃せるか、ばーか」


シュウ:「ば、ばーかって」


ゴルドフ:「儂も出撃したいところだが、儂のガーデンホールも微調整が終わっておらん。すまんが二人で撃退してくれ。決して無茶はするな、最悪、ガーデンホールの微調整は戦闘の中で行う」


ミリア:「心強いお言葉です」


アイナ:「舐めんなよおっさん。数が同等ならなんとでもなるさ」


N:「こうして二人は自機に走り、乗り込む。ヘルメットを被り、コックピット部が閉まるとハッチの開く警報音が鳴り響いた」


ミリア:「ミリア機、出ます!!!」


アイナ:「アイナ機、出る」


N:「こうして、二つの機体は空へと飛び立ったのだった」





(アキュア基地上空)


N:「一方その頃、イーリス国の軍人二人はナティア国の兵が出てくるのを待っていた」


シリス:「ガーネット、わかっていると思うがもう一度確認だ。今回は戦闘そのものが目的であって基地の奪還が目的ではない。相手の戦闘能力を正確に図り、もし可能ならば圧倒的戦力差を見せつけることによって無血開城を促す。それだけだ、わかるな」


ガーネット:「わかってる、わかってるよぉ。もう耳タコだよぉ。要はァ、思いっきり戦って相手を屈服させればいいわけでしょぉ?アハハ、カリストってば可哀想、一人でここを守ってたかと思えば三人でタコ殴りにあって死ぬなんて」


シリス:「死者を馬鹿にするんじゃない。彼は立派に戦って死んだ。情報も自国に保存済みだ。自国のために死んだ者に鎮魂歌を歌うならともかく、嘲るなどと」


ガーネット:「だっておっかしいじゃなあい。あの爆発、間違いなくやつは捨て駒だった。それに気付きもしないでお山の大将気取ってたのよ?笑いの一つも出るってものだわ、あは、アハハハハハハ!!!」


シリス:「ガーネット」


ガーネット:「あは、笑ってる間にお出ましのようよ、シリス。精一杯遊んであげましょうよお」


N:「攻撃もせずに上空に浮かんで、まるで出迎えるような格好のイーリス国の二機にミリアは露骨に顔をしかめた。そしてアイナは逆にニィと口端を吊り上げた。それは二人が、相手の意図を汲み取ったからでもあった」


アイナ:「ありゃあ、ここを奪いに来たんじゃねえな」


ミリア:「貴女もそう思う?……偵察ね。それも、たちの悪い」


シリス:「行くぞ、ガーネット」


ガーネット:「どっち行くぅ?」


シリス:「俺は紫の謎の機体に向かう」


ガーネット「あん、私もそっちが良かったー。しょうがない、ピンクので遊んであげましょ」


N:「かくして、戦いの火蓋は切って落とされた。シリスの黒に青のラインが目を引く機体――ホークスアイはまっすぐにパープルヘルへと、そして赤のカラーリング以上に目立つ巨大なハルバードを掲げたガーネットの機体、アレスはピンクスパイダーへと。即座に自分を目標とした機体を見極め、パープルヘルとピンクスパイダーも臨戦態勢へと入った」


シリス:「まずは……喰らえっ!!」


アイナ:「当たるかよ!!」


N:「頭部から打ち出されるマシンガンを軽く避けながら、アイナが楽しげに叫ぶ。が」


アイナ:「っ?!」


シリス:「生憎と、こっちが本命でね」


N:「突っ込んでくるだけかと思ったホークスアイのブースターが火を吹く。更に加速し、パープルヘルの眼前に迫ったホークスアイはそのままショルダータックルをパープルヘルの胸部に叩き込んだ」


アイナ:「がっ……!!」


シリス:「何も肉弾戦は君だけの専売特許だと思わないことだ」


アイナ:「やって……くれんじゃねえかよぉ!!!」


N:「アイナの炉に火が入る。奇妙な音を立ててパープルヘルの右腕が剣の形に変化した。それをホークスアイの胸部へと斜めに切りつけようとする」


シリス:「何っ」


アイナ:「墜落おちろォ!!」


シリス:「くっ……!!避けきれない!!ならば!!」


アイナ:「うぉっ」


N:「ホークスアイは背負っていたバズーカ砲を手にする。それをパープルヘルの頭部に向かって発射した。その反動で胸部への直撃は避けたものの、コックピット部にひびが入る。一方のパープルヘルは慌てて頭部を傾けることでバズーカ砲の直撃を避けて蹌踉めき、急ぎ体制を立て直しているところだった」


アイナ:「……やるじゃねえか」


シリス:「これが報告にあった、変化するギルティア……確認では鞭と剣しか確認できていないが……」


アイナ:「これほど戦えるやつがこの星にもいたとはな。いい相手を見つけた」


シリス:「いい相手?」


アイナ:「この星に来てから、退屈してたんだ。遊ぼうぜ、色男」


シリス:「……俺はシリスだ。君の名は?」


アイナ:「生き残ってたら教えてやるよ!!」


N:「再び、二機は激突する。今度はパープルヘルの剣と、シリスのガンツこうブレードという形で」





ガーネット:「あはぁ、向こう楽しそうー。私達も遊びましょう?」


ミリア:「生憎と貴女と遊ぶ気はないの。さっさと帰るか落ちてくれないかしら」


ガーネット:「あらぁつれないのねえ。じゃあ早速……お相手願おうかしらぁ!!」


N:「ガーネットの機体、アレスが巨大なハルバードを手にピンクスパイダーに迫る。ピンクスパイダーは少し後退しながら背中から発射した幾多ものミサイルでそれに応戦する。それはまるで蜂と蜘蛛の姿を彷彿とさせた」


ガーネット:「無駄無駄ぁ」


ミリア:「なっ……ミサイルを、ハルバードで斬るなんて……!!」


ガーネット:「ミサイルなんて先に爆発させちゃえば被害なんて無いのよお。ほぉら、串刺しにしてあげる!」


ミリア:「ひっ……!!」


N:「ミリアは思わず喉奥で悲鳴を噛み殺した。コックピット部を刺し通されれば自分は死ぬ。そう想像したミリアの思惑とは別に、ガーネットはその槍を下向きにしてピンクスパイダーの右足の膝関節部分を刺し通した」


ガーネット:「ごめんなさいねえ、今日は貴女を殺すのが目的じゃないの」


ミリア:「……?どういうこと……なの……?」


ガーネット:「貴方達と私達の能力の差を見せつけるのが今日のオシゴト。さあ、次は何処を串刺しにして叩き折ってあげましょうかぁ……!!」


ミリア「くっ……!!」





(アキュア基地、整備部)


シュウ:「あの二機、強い……!!アイナもミリアも俺よりずっと強いのに……!!」


ゴルドフ:「力の差を見せつけるのが今回の襲撃の目的か」


シュウ「え……?」


ゴルドフ:「パープルヘルは互角以上に渡り合っているが、ピンクスパイダーはほぼ一方的に嬲られている。致命傷を与えず、手足を一本一本もいでいくようにな。多分、遊んでいるのだろう」


シュウ「そんな……お、俺もブルーファングで出ます!!一機じゃ駄目でも、二機なら……!!」


ゴルドフ:「いや、この戦いの終止符は儂が打つ」


シュウ:「え?」


ゴルドフ:「言っただろう。ガーデンホールの微調整は戦いの中ですればいいと。手負いの狼より錆びついた要塞のほうがいくらかマシというもの」


シュウ:「ゴルドフおじさん……じゃあ……」


ゴルドフ:「ガーデンホール、出撃する!」





ガーネット:「あらあら、もう刺すところが胸しか無いわ。じゃあ次は腕から切り取って行きましょうか」


ミリア:「ネチネチと……いっそ殺しなさいよ!!」


ガーネット:「言ったでしょう?貴方達の国を屈服させるのが今日のオシゴトなの。殺しちゃいたいのを我慢してるんだから褒めてほしいくらいよぉ」


N:「関節部を壊され、地に落ちたピンクスパイダーの前でハルバードを振りかざしたアレスにミリアは唇を噛む。屈辱を味わわせて降伏させたいのだと悟る。ちらりと横目で見たアイナと敵機は互角に戦っているというのに、自分はこのまま虫のように手足をもがれていくのだと思った、その時だった」


ゴルドフ:「させん」


ガーネット:「え?っきゃあああ!!!!!」


N:「がっしと後ろからハルバードを捕まれ、そのまま横薙ぎにアレスは投げ飛ばされる。アキュア基地の何棟かを薙ぎ倒しながらアレスは地を滑った」


ガーネット:「な、何……気配を感じなかった……!!」


ゴルドフ:「最近の若い者は気配の消し方も音の消し方もなっておらんようだな。この超重量型の動きも察知出来んとは」


ガーネット:「くっ……」


ミリア:「ゴルドフおじさま!!」


ゴルドフ:「ようやっとその名で呼んでくれたな、ミリア。よく頑張った。ここからはこの老骨に任せるが良い」


ガーネット:「何よ、バカでかいだけの旧型ギルティアがよく吠えるものだわ。蜂の巣にしてあげる」


ゴルドフ:「させんよ」


N:「ゴルドフの機体、ガーデンホールから大量のミサイルが発射される。それはミリアの機体の比ではなかった。だが」


ガーネット:「ミサイルは無駄だって言ってるでしょう?!」


N:「受けきれぬ分は器用に避けながら、アレスのハルバードが大きめのミサイルを一つ切り裂いた。途端、破裂音が響き、辺りは煙に包まれる」


ガーネット:「煙幕?!」


ゴルドフ:「本命はこっちだ」


N:「いつの間にか、再びアレスの後ろに回っていたガーデンホールが後ろから両腕を羽交い締めにしていた」


ゴルドフ:「喰らえ」


N:「ガーデンホールの胸部が鈍く輝く。そしてその部分から熱光線が発射され、アレスの背面はまるでアイスのようにどろりと溶けた」


ガーネット:「アレス?!」


ゴルドフ:「ふん!!」


N:「溶けた部分を蹴り飛ばし、その重さと力だけでアレスの両腕を折り取る。受け身もとれないまま、再びガーネットはアキュア基地の地面を削り取ることになった」


ガーネット:「あああああ!!!!!」


ゴルドフ:「ミサイルならばと侮ったのが貴様の運の尽きよ。ピンクスパイダーの度重なるミサイル攻撃のせいでミサイル、イコール、攻撃と思い込んでしまったのだな」


ガーネット:「アレス!!しっかりしなさい!!……くそっ、両腕がないから起き上がれない……!!」


シリス:「ガーネット!!!」


N:「緊急通信が入る。モニターに映し出されたシリスの顔に、ガーネットは臍を噛んだ」


ガーネット:「シリス、失敗したわ、ごめんなさい……!!」


シリス:「いや、こちらも……押し負けている。頃合いだ、退くぞ」


アイナ:「逃がすかよ!!!」


ゴルドフ:「いや、アイナ、こちらの方も基地の被害が大きい。これは主に儂のせいだがな。……ピンクスパイダーに至ってはスクラップ同然だ。ここは戦いの習わし、痛み分けということで逃してやれ。深追いは死を招くぞ」


アイナ:「ちっ」


シリス:「ご老人、察するに“門番ガーディアン”ゴルドフ殿とお見受けするが如何か」


ゴルドフ:「その名で呼ばれるのも久しいな。如何にも」


シリス:「私はシリスという者。此度の温情、痛み入る。攻め入ったものにまで、対する礼儀を弁えていらっしゃる。見習わせていただきたく思う」


ゴルドフ:「やれ、いくさの習いなど忘れられてしまったかと思っていたが、貴殿のような若者にそう言ってもらえるとは思わなんだ」


シリス:「此度の戦いは貴国の力量を改めて測り、出来るなら無血開城を促すものでした。ですがまだまだナティア国には貴方や紫の機体の乗り手のような者もいる……驕り高ぶった自国に安易に攻め込まぬよう申告いたします」


ゴルドフ:「そうしてくれ。長き戦争に渡る疲弊はお互い様だ。だが、これで驕り高ぶった我らがそちらに攻め入る可能性も考えることだな」


シリス:「ご忠告、感謝いたします。……紫の機体の乗り手よ」


アイナ:「んあ?!」


N:「ゴルドフとシリスが小難しい会話をしているな、などと思っていたアイナは、いきなりシリスの声が己に向いて慌てて姿勢を正した」


アイナ:「んだよ、お前はその腕なしを連れて帰るんじゃねえのかよ」


シリス:「生き残ったら名前を教えてくれると言っていた。名前を改めて聞こう」


アイナ:「あー……。……アイナだよ。コイツはパープルヘル。あたしの半身だ」


シリス:「貴殿ともまた戦いたい。久しぶりに血肉が湧き踊る戦いだった。個人的に手合わせを申し込みたいところだが……俺の立場上、それは無理なのでな、また死合おう」


アイナ:「……」


シリス:「アイナ、また戦場で会うこともあろう。改めて名乗っておく。俺の名はシリス、この機体はホークスアイ。少しそちらのデータベースを調べれば出てくるだろう。では」


N:「そう言うとシリスは通信を切り、アレスを抱えて飛び去った。その姿は優雅で、まるで鷹が大空を駆けるようだった」


ゴルドフ:「向こうにも物分りのいい若者がいて助かった。ミリア、大丈夫か」


N:「ガーデンホールがミリアの機体を抱き上げる」


ミリア:「……お恥ずかしいところをお見せいたしました……ゴルドフ様……」


ゴルドフ:「昔のようにゴルドフおじさまと呼んでくれ。それでチャラにしてやろう」


ミリア:「ゴルドフおじさま……」


ゴルドフ:「よし、アイナ、お前は目立った傷はないな。よく戦ってくれた」


アイナ:「相手が本気じゃなかった。シリスとか言ったか、あいつもっと強いぜ」


ゴルドフ:「そうか……後で機体の特徴と名前で照合をかけよう。我々はあまりにも敵機に対する情報が少ないまま前線に立っているようだ」


アイナ:「情報線が鍵だって司令部には伝えたんだがな……採用されるには上層部の承認とやらを必要とするんだろうよ」


ゴルドフ:「よくわかっているじゃないか」


アイナ:「軍なんて何処も同じだ」


ゴルドフ:「そういう意味ではここは自由だぞ。お前さんには合ってるかもしれんな、アイナ」





(アキュア基地、食堂)


シュウ:「ゴルドフおじさん、ミリアの具合は?」


ゴルドフ:「疲労が激しいだけで身体的な傷は一つもない。ただ、少々心の傷が心配だな」


シュウ:「あんなにボロボロにされるピンクスパイダー、初めて見た……」


ゴルドフ:「エースパイロットと持て囃し、戦線へ送り出して使い捨てられる若者を何機も見てきた。お前もそうなるなよ、シュウ」


シュウ:「わ、わかってるよ。……そういえば、アイナは?」


ゴルドフ:「ん、さっきまで居たんだがな、この基地で一番高いところを聞いて去っていった」


シュウ:「一番高いところ?」


ゴルドフ:「見張りがてら、星でも見に行ったんだろう。司令部のある首都と違ってここはよく星が見えるからな」


シュウ:「……」





(アキュア基地、観測塔上部)


シュウ:「アイナ」


アイナ:「……何で来た」


N:「ぼーっと空を見上げていた少女は、下から梯子で上がってくる少年を見もせずに不機嫌そうに返した。だがシュウは気にした様子もなく、「ほら、これ」と毛布を差し出して同じ観測塔へと登ってくる」


アイナ:「何で登ってくるんだ。狭いだろ」


シュウ:「だから、これ。砂漠の夜はマイナスになるんだ。もう日も暮れた、寒くなるよ」


アイナ:「……」


N:「無言でシュウから毛布を受け取るアイナ。ぐるりとマントのように巻きつけようとして、それが一枚しか無いことに気がついた」


シュウ:「あ、それ一枚しか無いから半分被らせて」


アイナ:「なんで二枚持ってこないんだよ……」


シュウ:「なんでって、重いじゃないか。二人で入れば温かいよ」


アイナ:「暑苦しいって言うんだ、そういうのは。……お前、帰れよ。ミリアの具合でも見ててやれ」


シュウ:「ミリアは衛生班が付きっきりで見てくれるから大丈夫だよ。それより俺は、アイナの方が心配だった」


アイナ:「は?」


シュウ:「月に帰っちゃうんじゃないかって」


アイナ:「……あのな、ワームホール生成機がイカれてるって言っただろうが。……帰れやしねえよ」


シュウ:「それでも、アイナならなんとかしちゃいそうだったからさ」


アイナ:「……そんなくだらない話をしにきたなら蹴り出すぞ」


シュウ:「あ、痛い、痛い!!蹴らないで!!……本当はさ、今日の戦いを見ていて、俺って天狗になってたんだなって思ったんだ」


アイナ:「なんだ、そんなことか。新兵にはよくあることだろ」


シュウ:「そ、そうなの?」


アイナ:「そう。そしてそういう事に気付かないやつから死んでいく。お前は気付いた。よかったな、オメデトウ」


N:「ぱちぱちぱち、と軽い拍手の音が無音の砂漠に映える。そして消えていく。最後にアイナの溜息をつけて」


アイナ:「初めて人を殺した感想はどうだった」


シュウ:「……司令官にも聞かれたよ、それ」


アイナ:「あのクソ司令官が……抜け目ねえな。それで、どうだった」


シュウ:「……」


N:「シュウは無言で自分の手に視線を落とす。ふう、と小さく息を吐いて、空を見上げた」


シュウ:「正直、もう殺したくないと思った」


アイナ:「じゃあ軍なんて辞めちまえ」


シュウ:「でも、……この感覚を、誰かに押し付けるのも嫌なんだ」


アイナ:「……」


シュウ:「だったら、俺はもうこの血に汚れた手を一生背負って、俺みたいに思う人を一人でも減らしたいと思った」


アイナ:「戦争の終幕でも引くつもりか、お前」


シュウ:「そこまでは考えてないけどね」


N:「ははっ、と声をあげてシュウは笑い、頭を掻く。そして、アイナの方をじっと見て、彼女の手を取った」


アイナ:「何すんだよ」


シュウ:「(遮って)例えばアイナの手がこれ以上血に汚れないようにしたいと思った」


アイナ:「……」


シュウ:「例えば、ミリアの手がこれ以上血に汚れないようにしたいと思った。ただ、それだけなんだ」


アイナ:「……そうかよ」


N:「離せ、と自分の手をシュウの手から解き奪って、アイナはシュウに体ごと背を向けた。毛布にくるまった体を縮こませるようにもぞもぞと動いた後、「お前も背中向けろ」と命令する」


シュウ:「え、こ、こう?」


アイナ:「確かにちょっと寒いから、……星を眺めてる間だけ背もたれになれ。戻りたくなったら毛布は置いていけよ」


シュウ:「……」


アイナ:「なんだよ」


シュウ:「……ううん、なんでもない」


N:「完全に夜が来た時、二人の白い吐息は混ざることなく宵闇に溶けて消えた。その間は、無言だった。暖かな、無言だった」







【連絡先】

@MoonlitStraycat(Twitter。@を半角にしてください)

kariya.yutuki@gmail.com(@を半角にしてください)


反応が早いのはTwitterのDMです。

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