第二話 生の非情
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アブラクト戦記
第二話 生の非情
作:狩屋ユツキ
<人物>
【シュウ♂】
ナティア国軍人。
直情的で素直な性格。
ディストの色は赤みの強いオレンジ。
黒髪黒目、十八歳。
愛機はスピード型ギルティア「ブルーファング」。
【ミリア♀】
ナティア国軍人。
勝ち気で元気だが意外と冷静さや冷酷さを持ち合わせた性格。
ディストの色は青みがかったオレンジ。
肩までの桃髪緑目、二十歳。
愛機は火力重視型ギルティア「ピンクスパイダー」。
【アイナ♀】
ナティア国軍人。
人嫌いで口の悪い少女。
ディストなし。
腰まである銀髪銀眼、実年齢十歳、見た目は十六歳程度。
愛機は変形型ギルティア「パープルヘル」。
【司令官♂】
本名はグライン。
ナティア国司令官及び軍事責任者。
厳格な司令官だが心根は優しい。
ディストは青みの強い紫。
四十代。
【カリスト♂】
イーリス国軍人。
実力はあるのだが性格に難あり。
ディストは明るい黄色。
ベリーショートの金髪、金眼、二十五歳。
愛機はパワー型ギルティア「アマネデイ」。
男:女:不問
3:2:1
<用語紹介>
【惑星グラティ】
砂に満ちた惑星。
機械文明が発達し僅かな水のあるところに機械的な国を作って人々は生きている。
現在、ナティア国とイーリス国が全面戦争中。他にも大国としてバレスチナ国、アヴァラン国などがある。
小国は実に様々。遊牧民も多い。
【ギルティア】
騎乗型ロボットの総称。
ディストが紫以上でないと乗ることはできない。
元は工業用として開発されたが、今はもっぱら戦闘用として使われている。
【ディスト】
グラティに住む人間の殆どが生まれつき右手に持っている宝石。
楕円形で手の甲に収まる大きさ。ほとんどの人は隠さないでむき出しにして歩いている。
これを使って通信をしたり、魔法のようなことが出来たりと利便性は高い。
色は青からグラデーションで赤まであり、赤ければ赤いほどディスト能力が上となる。
持ち得ないで生まれてきたものは「ディストなし」として昔から虐げられており、昨今の問題となっている。
シュウ♂:
ミリア♀:
アイナ♀:
司令官♂:
カリスト♂:
N♂♀:
--------------------
(ナティア国、司令部、司令官室)
シュウ:「チーム……ですか?」
司令官:「うむ」
アイナ:「この三人で?」
司令官:「不服かね」
ミリア:「い、いえ、不服などでは……!!!」
N:「司令官以外の三人がそれぞれ、驚き、戸惑い、呆れの表情を浮かべる。先日の自動偵察機の一戦以来、数日は大人しく待機命令が出ていたものの、急に呼び出されて言い渡されたのは、三人でチームを組み、イーリスに向かうように、と命令だった」
司令官:「本当なら我が国も自動偵察機を出すべきなのだろうが、イーリスと違い、我らには基礎技術力がない。アイナの情報によってある程度は向上が見込まれるが、それも数カ月後の話だろう。無人機を飛ばしたとて、すぐに撃墜されていては資源の無駄ということになる」
ミリア:「それはわかっています。ですから我々は人海作戦を取りつつ、エース級パイロットの育成に力を入れている……。シュウが若くしてエースになれたのもそのおかげだと本人も自覚しているはずです。そうよね?シュウ」
シュウ:「はい。俺が初めてギルティアに乗ったのは十五のときでした。それから三年間、ここまで戦えるようになったのは育成に力を注いでくださった結果だと……」
司令官:「感謝はいい。要は人を使い捨てにしているわけだからな。我らの国は非道と呼ばれても仕方がない」
アイナ:「感覚で乗りこなしているわけじゃないのか。そりゃ育成にも時間がかかるな。あたしたちは生まれながらにギルティアと共にある。そうでもなきゃ兵士が足りねえ」
司令官:「宇宙の戦争とはそんなに過酷なものなのかね」
アイナ:「この間の戦闘がお遊戯みたいなもんだね」
司令官:「そうか……」
アイナ:「べらべらした御託はいい。要はこの三人でイーリスって国に攻め込め、って話だろう?」
司令官:「う、うむ。大掛かりな戦闘は控えて、あくまで一基地を攻め落としてもらいたいのだが」
ミリア:「先日落とされた、アキュア基地ですね」
司令官:「ああ。あそこにはまだ未完成のギルティアと資材などが残っている。君達三人でチームを組み、イーリスに悪用される前に取り返して欲しい」
シュウ:「三機で事足りるような防御なのですか?」
司令官:「自動偵察機の情報によると、まだイーリスはここに大規模な軍隊を置いては居ない。せいぜいが司令塔になる有人機が数機と無人機が十数体だろう」
ミリア:「有人機がいると言うだけで難易度は格段に上がりますね」
司令官:「勿論、君達にも無人機を十体ほどつけて送り出す。だが、今回は秘密裏に基地を奪取し、出来る限り被害を抑えてもらいたい。……私の言っている意味がわかるかね?」
N:「三人は顔を見合わせ、こくりと同時に頷いた。つまりは敵の寝首を掻けと言われているのだ。守備の手薄なうちに国境近くの基地を取り返し、見張り台にしたい。そういう意図も、三人は感じ取っていた」
司令官:「よろしい。では……」」
アイナ:「あー。質問なんだけど」
司令官:「なんだね」
アイナ:「ここではギルティアに名前つけたりしねーの。自機に名前っていうのがあたしたちでは当たり前だったからさ。コードネームみたいなもんだな」
シュウ:「一応あるよ。俺のギルティアはブルーファングって名前がついてる」
ミリア:「私のギルティアはピンクスパイダー。……アイナのにもあるの?」
アイナ:「パープルヘル。オッケー、なんか知っときたかったんだ、敵陣では名前を知られたくないときそれで呼び合うこともあるからな」
司令官:「盗聴対策か」
アイナ:「パイロットの名前を知られて暗殺でもされたらそれこそシャレにならない」
N:「アイナが肩を竦める。アイナからもたらされる情報のすべてが彼女の情報戦の高さを物語っていた。実際、彼女がナティア国に与えた情報は、ほとんどが技術的に今のナティアには不可能なものが多すぎて、整備班、技術班が悲鳴を上げたことは、皆、記憶に新しかった」
司令官:「では、今後はできる限り機体名でミッション中は呼び合うようにしたほうが良さそうだな。三人とも、それでいいか」
シュウ:「はい」
ミリア:「了解です」
アイナ:「うぃーす」
司令官:「では、本ミッションの詳細を言い渡す。アキュア基地に赴き、これを奪還せよ。被害は最小限に抑え、相手に知られぬうちに基地を抑えるのだ。その際の戦闘はできるだけ最小限に、特に自動偵察機及びAI機においては気取られぬように。あくまで君達の相手は有人機だけだと思って欲しい」
シュウ:「はい」
司令官:「では本ミッションの名前をアキュア基地奪還作戦と名付ける。リーダーはミリア、君だ」
ミリア:「はい」
司令官:「ミリアのディストに基地の地図など必要な情報は送っておいた。各自確認するように。以上、解散」
間
(司令部、ミーティングルーム)
ミリア:「じゃあ、地図を映し出すわね」
N:「そう言ってミリアが右手をテーブルにかざすと、手の甲に埋まっているディストから透明なモニターが大きく広がった」
ミリア:「アキュア基地はそんなに広くない。隠れるところも多い。もともと倉庫だからね、物がごちゃごちゃしてる。これに隠れて監視カメラを破壊、自動機も破壊、それでいい?」
アイナ:「この星の技術力から言って同じところを巡回しているだろうから時間はかけたほうがいいな。鉢合わせないに越したことはない」
シュウ:「有人機の方はどうなってるの?」
ミリア:「報告によると一機だけ。まだ手配が済んでないのね……今なら数で押せる」
シュウ:「ただ、一機でそこを治めてるってなると、腕は確かだろうな。気を引き締めないと」
アイナ:「最悪あたし一人でなんとかしてやるよ。お前らは自動機の方に集中したほうがいい。この中で一番面が割れてないのはあたしだ」
ミリア:「ちょっと、それどういうことよ」
アイナ:「先日の戦いでお前達のデータを自動機が送ってたのを忘れたか?あれである程度お前達の実力は向こうに知れてる。一方、あたしのデータはほとんど送られてないはずだ。送られていても、なんだこりゃ、だろうしな」
ミリア:「……貴女なら上手くやれるっていいたいの?」
アイナ:「違うか?」
シュウ:「ちょ、ちょっとやめろよ。仲間割れしてるときじゃないだろ?」
N:「ピリピリとした空気がミリアとアイナの間に流れる。おろおろとシュウが間に入るも、ミリアの口は止まることはなかった」
ミリア:「この作戦は、団体行動が鍵なの。単独行動をお望みならチームから外れてもらって構わないわ」
アイナ:「自分の実力が相手に漏れている怖さを知らないひよっこが言うじゃねえか。有人機だけ壊せばあとは自動機なんて敵じゃねえのは先の戦いで判明してる」
ミリア:「自分の能力を過信して死んでいった仲間を多く見たんだけど、貴女もその仲間入りをしそうね」
アイナ:「情報が何よりの武器だって知らない突貫野郎が言うじゃねえか。ピンクスパイダーじゃなくてピンクカウの方が似合いの名じゃないのか」
ミリア:「私の何処が雌牛だって言うのよ!!」
アイナ:「そうやって突っかかってくるところだよ」
シュウ:「ミリア、落ち着いて!!アイナも挑発しない!!今回はチームワークが大事ってミリア、自分で言ったじゃないか。仲良くしようよ、チームなんだしさ」
N:「シュウの言葉に、アイナはふんと鼻を鳴らし、ミリアは黙って地図に目を落とした。気まずい沈黙が流れ、シュウはハラハラしながら二人の様子を眺めていたが、口火を切ったのは意外にもアイナだった」
アイナ:「今回はお前がリーダーだ、ミリア。従うよ。あたしは何をすればいい」
ミリア:「えっ」
アイナ:「だから、あたしの役目を言え。陽動か?隠密か?それとも有人機の破壊か?お前の指示に従うよ」
ミリア:「……えっと、……そうね、じゃあ、貴女には陽動を行ってもらう。シュウが先行して監視カメラ、及び自動機の可能な限りの破壊を行い、私はその間にコントロールルームの制圧を行う。アイナがそこで姿を現す。敵を引きつけつつ上空へ退却。各自完了次第集合して、陽動で引っ張り出した有人機を三人で叩く。これでどう」
シュウ:「いいんじゃないかな。各機の特性を活かしつつ速やかに事を運べそうだ」
アイナ:「あたしはリーダーに従うだけだ。異論はねえよ」
ミリア:「アイナ……」
アイナ:「作戦会議したら腹減った。飯にしてもいいか」
ミリア:「え、ええ。では二人共、時間を合わせて。これより十八時間後、午前二時にミッション開始。現地でもう一度時間を合わせるから覚えておいて」
間
(司令部、食堂)
アイナ:「食堂が二十四時間やってるっていうのはありがたいな」
シュウ:「うう、俺はさっきので胃に穴が空くかと思った……」
ミリア:「何よ、あんなのご挨拶でしょ。さっさと慣れなさいよ」
N:「アイナは山盛りのミートパスタ、シュウは焼き魚定食、ミリアはミネストローネとパンのセットを持って食堂の一角を陣取った。女二人、男一人のためか、自然と席はシュウを前にミリア、アイナの順になっている」
ミリア:「ていうか貴女、その量を一人で食べる気?男でもそれキツいって噂よ」
アイナ:「食わなきゃ力出ねえだろうが。それよりミリアはそれで足りるのかよ。もしかしてダイエットか?」
ミリア:「お生憎様。完璧なフィジカル管理に穴なんてあるもんですか」
アイナ:「あっそ」
シュウ:「アイナはよく食べるんだね……。宇宙でも同じような食事だったの?」
アイナ:「いいや、向こうじゃ固形バーと栄養管理されたジュースだったな。不思議と腹は減らないんだけどよ、味気ないったらなかったぜ」
シュウ:「へえ……じゃあこっちに来て食べる料理は初めてのものばっかり?」
アイナ:「ああ。美味いな、何でも美味い。あ、でもあの苦いやつ……緑の……」
シュウ:「もしかして、ピーマン?」
アイナ:「多分それ。あれは不味い」
シュウ:「ぷっ。……それ、子供の味覚だよ、アイナ。そういえばアイナって何歳なんだ?俺は十八歳」
アイナ:「ミリアが歳教えてくれたら答えてやるよ」
ミリア:「二十歳よ。まだおばさん扱いされる謂れはありませんからね」
アイナ:「あたしは十歳」
シュウ:「はぁ?!」
ミリア:「それでその身長とプロポーション……?宇宙の成長スピードってどうなってるの?」
アイナ:「早く兵士を育てるために、さっき言った固形バーと栄養管理されたジュースに成長促進剤も入ってるのさ。こっちでいうならあたしは多分シュウとそんなに見た目年齢は変わらないんだろうな」
シュウ:「うん、同い年かと思ってた。それかちょっと年下かなって……」
ミリア:「年下だとは思ってたけど、さすがに……」
アイナ:「ま、戦いに関しては宇宙に出ないほうがいいと忠告しておくよ。ありゃいつか滅びる戦争だ。誰しもがわかっててやめられなくなった、戦いの終焉さ」
N:「ミートパスタを握りしめたフォークですくって、大口でそれを頬張るアイナ。口調は何処か哀愁に満ちており、遠い目をしていた。その様子にシュウとミリアは何も言えなくなる。たった十歳の彼女が見てきた戦争は、一体どんな激しいものだったのだろう。先日の自動偵察機との戦いを「雑魚」と言い切った彼女の実力を鑑みても、自分達とは見ているものが違うのかもしれない」
アイナ:「……なーに固まってんだよ、二人共。さっさと食えよ。んで、食ったら寝る。睡眠不足は戦いの最大の敵だぜ」
間
(司令部、司令官室)
司令官:「ふむ……アイナ、か……」
N:「司令官は一人、司令官室でアイナの身体測定と運動能力測定の結果を眺めていた。極めて健康、そして運動能力の高さ。専用ギルティア、パープルヘルの扱いに関しても、ディストなしのはずなのにシュウ、アイナのそれを遥かに上回る結果が出ていた」
司令官:「心強い駒が出来たと喜ぶべきか……獅子身中の虫が現れたと考えるべきか……未だ悩むな」
N:「ばさりと書類を机に置いて、ディストを壁にかざす。すると壁はガラスのように透き通り、司令部の中枢を見下ろす形になった」
司令官:「シュウ、ミリアが上手く絆を築いてくれればよいのだが。裏切りを考えないほどに、深く、深く……」
間
(アキュア基地近く、イーリス国国境付近)
ミリア:「じゃ、改めて時計を合わせるわよ。…………完了。手筈はわかってるわね」
シュウ:「勿論、確認してある」
アイナ:「あたしの出番は少し後だな。ここで待機する。十分経ったら陽動作戦を開始するからな、監視カメラの破壊と自動偵察機の破壊、宜しく頼んだぜ、ブルーファング」
シュウ:「あ、うん」
ミリア:「この作戦は、ブルーファングの機動力にかかってると言っても過言じゃないわ。そしてパープルヘルの奇抜さと火力。今回私はほとんどサポート役になるから、宜しくね」
シュウ:「了解」
アイナ:「ま、この規模の基地一つ落とすのに有人機三体出すんだ、大丈夫だろ。無人機も十体連れてきてるしな。ほら無人機共、あたしに従いな」
シュウ:「じゃあ俺は行く。何かあったらディストで……あ」
アイナ:「心配しなくても通信チャンネルはもうメモリしてある。普通に知らせてくれればいい」
シュウ:「そう……なんだ。じゃあ、何かあったらディストで知らせるから!!」
ミリア:「五分後、私も後を追うわ。気をつけて」
シュウ:「ありがとう」
N:「そう言ってブルーファングはその場を後にし、アキュア基地へと侵入した」
ミリア:「……シュ……ブルーファングは、あれでおっちょこちょいなところがあるから、一応監視カメラの見落としがないかと巡回自動機の破壊忘れがないかチェックしながら行くわね」
アイナ:「助かる」
間
ミリア:「……五分経ったわ。警報機は未だ鳴らず。ピンクスパイダー発進します」
間
アイナ:「……十分経ったな。あいつら上手くやったらしい。……パープルヘル、発進する」
間
(アキュア基地、上空)
N:「その頃、イーリア国のアキュア基地統治者カリストは漆黒のギルティア“アマデネイ”に乗ったまま暇を持て余していた」
カリスト:「くそっ……こんな寂れた基地の守護を命じるなんて上は俺を何だと思ってやがるんだ……!!ああ、戦いてえ、戦いてえ……。前線に送られるってワクワクしてたらこのザマだ、見捨てられた基地に何の用があって……ああん?」
N:「ピッ、とアマデネイが警報を鳴らす。それは小さな違和感だったが、次第に大きくなり、ついには敵機来襲の警報へと変わり果てた。その音にカリストは狂喜する。口元をこれでもかと言うほど引き上げて、歓喜の笑みを浮かべた」
カリスト:「敵機来襲だあ……?ははっ、こんな寂れた基地でも、物資不足、技術力皆無のナティアは必死になるってか!!敵は……一機。一機だと?一機で奪還しに来るとかイカれ野郎かよ!!ひゃっはぁ、嬲り殺しにしてやるぜ!!」
間
アイナ:「こんだけ暴れりゃそろそろ有人機が来るだろ……っと、お出ましか」
カリスト:「あ?何だお前、見たこと無いギルティアだな。ナティアのモンか」
アイナ:「最近入ったんでな、以後お見知りおきを、ではさようなら、ってね」
カリスト:「女ぁ?随分と舐めた口利いてくれるじゃねえか。決めた。そのギルティアの手足をもいで動けなくしてからお前をたっぷり犯してやるよ。一機でこの俺様と対峙することを不運と嘆きな!!」
N:「言いながらアマデネイがパープルヘルへと急接近する。その手にはレーザーダブルビットアックス、両刃の斧がある。それを振りかざしながら迫るアマデネイに、アイナは溜息をついた」
アイナ:「遅ぇ」
カリスト「何っ!!」
N:「すっ、と体を傾かせるだけで避けたパープルヘルにアマデネイはバランスを崩す。その腹に、パープルヘルの右膝が入った」
カリスト:「ぐぁっ?!」
アイナ:「こんなやつなら、あたしが出る幕じゃなかったな。ブルーファングかピンクスパイダーに任せるんだった。来いよ。あたしの仲間が来るまで遊んでやる」
カリスト:「な、なんだこいつ……。全然動きが読めねえ……!!!ギルティアで格闘戦だと?!武器も何も持たずに……舐めやがってええええ!!!!」
アイナ:「本当の戦争ってのを教えてやるよ。じゃあまあ、教育と行きますか」
間
(アキュア基地内、コントロールルーム)
ミリア:「ここまで警報はなし……っと、始まったわね」
N:「コントロールルームを制圧中のミリアの耳にも基地内に鳴り響く警報の音が聞こえた。だが、コントロールルームに近寄ってくる気配はない。全てシュウとミリアが先立って自動巡回機を落としていたからだ。つまりこれはアイナが戦闘を開始したことの合図だ」
シュウ:「ミリア、そっちはどう?」
N:「リリ、と鈴がなるような音がして透明なモニターがミリアの目の前に映し出される」
ミリア:「順調。あと三分もあれば基地は掌握できる。シュウの方は?」
シュウ:「こっちは完了した。これからアイナの援護に向かう」
ミリア:「了解。決して無茶はしないでね。貴方、有人機と戦うのは初めてでしょう」
シュウ:「う」
ミリア:「有人機と戦うということは相手を殺すということ。その重みが背負えないなら私かアイナにとどめは任すのね」
シュウ:「……大丈夫、心の準備は出来てる。覚悟もこの三年間で決めてきた。もう迷いはないよ」
ミリア:「イメージ上の覚悟と実際の覚悟とはまた違うものよ。……いってらっしゃい。気をつけてね」
シュウ「……わかった」
N:「プツ、と映像が途切れ、ミリアはため息をつく」
ミリア:「……イメージと本物は、違うのよ、シュウ」
間
(アキュア基地上空)
カリスト:「くそっ……くそっ!!何故当たらねえ!!おいお前!!反撃もしてこないっていうのはどういう了見だ!!お前俺をおちょくってんのか!!」
アイナ:「察しはいいらしい。そうさ、おちょくってんだよ。もうすぐあたしのお仲間が来るんでね、そいつらの教育にお前は丁度いい。いい踏み台になってくれそうだぜ」
カリスト「くっ……!!喰らえ、ファイアブラスター!!」
アイナ:「おっと」
N:「迫りくる炎の弾道にもまるでドッジボールの球でも避けるかのように身軽にパープルヘルは身を躱す。そのついでとばかりに、背後に迫っていた人型AI機の頭を右肘で叩き崩した」
カリスト:「そんな……馬鹿な!!そいつらは素材は違えどギルティアと同じ硬度は持っているはずだ!!その頭を叩き潰すギルティアなんてありえない!!!」
アイナ:「素材が違えば粘度が違う。斬りつけるより叩き潰すほうが速いことだってあるのさ。ついでに言うならあたしのパープルヘルは腕や足が特に頑丈でね、お前らレベルの攻撃なら弾き返せる」
カリスト:「お前らレベル……だと……?」
シュウ:「アイナ!!」
N:「愕然とするカリストの下から、シュウのブルーファングが飛び出してくる。レーザーサーベルを構え、その足元から横薙ぎに一閃され、カリストは慌てて更に上空へと距離を取った」
カリスト:「こいつがお前の言ってたお仲間か」
N:「リリ、とシュウのブルーファングに映像通信が入る。モニターを開くと、モニターには呆れ顔のアイナの顔がデカデカと映し出されていた」
アイナ:「……ブルーファング、ミッション中はパープルヘルと呼べっつっただろ」
シュウ:「あっ、ご、ごめん」
N:「慌てて謝るシュウに、アイナは首を横に振って「あーいい」と一言だけ返した。そして向き直ると、真剣な口調でシュウに言葉を紡いだ」
アイナ:「まあいいや。ブルーファング、その有人機はお前に任せた。あたしはそこらのホコリを払ってやるから存分に相手してやれ」
シュウ:「え、ええ?!」
カリスト:「てめえ、ふざけんなよ!!アイナとか言ったか!!貴様、俺を前にして何様だと思ってやがる!!」
N:「映像は届かずとも音声は共有される。アイナの言葉に激高したのはカリストだった。だが、そんなカリストの音声をアイナは鼻で笑うと、近場にあったAI機を回し蹴りで真っ二つに切り裂きながら言う」
アイナ:「あたし様だと思ってるよ。……ブルーファング、お前人殺したことないだろう。そいつを殺せ。そうしたら“認めてやってもいい”」
シュウ:「な、何を……」
アイナ:「あたしはまだお前らを下っ端だと見てる。同等じゃねえ。ましてやミリアは人を殺した目をしてやがったが、お前にはその影がなかった。お前は下っ端以下だ。そこらのAIの方が慈悲なく人殺せる分だけマシだな」
シュウ:「……」
アイナ:「じゃあな、ブルーファング。健闘を祈る」
N:「ぷつんと通信が一方的に切られる。そしてパープルヘルはAI機を相手にすることに完全に決めたようだった。カリストのアマデネイを無視して、一方的な虐殺を繰り返している」
カリスト:「……あのアマ……ぶっ殺してやる……」
シュウ:「させない。お前の相手は、この俺だ」
カリスト:「ああ?!お前ごときが俺の相手できるっつーのかよ!!!あの糞アマを出せっつってんだよ!!」
シュウ:「パープルヘルはお前を俺に任せるって言った。その信頼を裏切るような真似はしたくない!!」
カリスト:「お前のしたい、したくないを聞いちゃいねえんだよ!!……ああクソイライラする……!!わかった、まずはてめえからだ。ばらばらにして脳天突き崩してあの女の前に晒してやるよ!!」
N:「何発ものミサイルがアマデネイから発射される。それをブルーファングは器用に避けながらレーザーサーベルを手にアマデネイに肉薄した」
シュウ:「てええい!!」
カリスト:「当たるかよォ!!これでも喰らいな!!」
シュウ:「えっ……ぐぁっ?!」
N:「一旦引いたかと思ったアマデネイが、急発進して体当たりをブルーファングに食らわせる。体制を崩したブルーファングに、カリストは笑った」
カリスト:「お前……あの糞アマと違って戦いに慣れてねえな……へへ、いい的だぜ」
シュウ:「く、ぅ…っ」
カリスト:「お前を殺してあのアマもぶっ倒す!!まずはお前からだあああ!!!」
シュウ:「くっ……!!」
カリスト:「マシンガンばらまいて煙幕とか教科書どおりじゃねえかよ!!そんなもん実戦の役に立つか!!」
シュウ:「あ、がっ!!」
N:「アマデネイのレーザーダブルビットアックスがブルーファングの左肩を捉えた。ガガッ、と音がして金属が砕ける音が響く」
カリスト:「そのまま腕もげちまえ!!」
ミリア:「させない!!」
カリスト:「んなっ……!!網?!」
N:「ミリアの声が響くと同時に、アマデネイは白い網状のものに捕らえられていた。カリストの後ろにいつの間にかミリアのピンクスパイダーが立っており、その左手からキラキラと光るその網を放出している」
シュウ:「ミリ……ピンクスパイダー!!」
ミリア:「ギリギリ間に合ったようね。あの紫の馬鹿は何処行っちゃったの」
シュウ:「俺にこのギルティアを任せて自動機を倒しに……」
ミリア:「はあ?!」
カリスト:「くっ……何だこの網、絡みついてやがる……粘着性のある網……?!」
ミリア:「動けば動くほど絡みつくわよ。私の名前はピンクスパイダー。捕らえた獲物は決して逃さない」
カリスト:「まだお仲間がいやがったのか……!!あのアマあああああああ!!!!!」
ミリア:「シュウ、とどめを!!」
シュウ:「え、あ……」
ミリア:「貴方がさせないなら私がさすわよ!!」
間
アイナ:「ブルーファング、お前人殺したことないだろう。そいつを殺せ。そうしたら“認めてやってもいい”」
間
アイナ:「あたしはまだお前らを下っ端だと見てる。同等じゃねえ。ましてやミリアは人を殺した目をしてやがったが、お前にはその影がなかった。お前は下っ端以下だ。そこらのAIの方が慈悲なく人殺せる分だけマシだな」
間
アイナ:「じゃあな、ブルーファング。健闘を祈る」
間
N:「シュウの脳裏に、アイナの冷徹にも思える言葉が一瞬にして響き渡る。ぐ、とブルーファングは右手に握ったレーザーサーベルを握り直して、シュウは叫んだ」
シュウ:「う、おおおおおおおおおお!!!!!」
カリスト:「くそぉ……!!こんな、こんなところで、こんなところで死ねるかよおおおおおお!!!!!!」
N:「真っ直ぐにコックピット部に突き立てられたレーザーサーベルはカリストの腹をも貫き、焼き尽くす。引き抜いたときにはアマデネイは完全に動きを停止していた」
ミリア:「シュウ、離れて!!」
シュウ:「っ!!!」
N:「バリバリと耳をつんざくような嫌な音が響き、程なくしてアマデネイは大爆発を起こした。爆風がブルーファングとピンクスパイダーの肢体を叩き、凄まじい爆発であったことを思い知らせる」
ミリア:「あいつの機体、爆発物を積んでいたのね……多分、あいつ自身も知らなかったでしょうから、完全に捨て駒扱い……」
シュウ:「……」
ミリア:「シュウ、大丈夫?」
N:「リリ、と機械音が響き、シュウのモニターにミリアの顔が映し出される。心配げなミリアに、シュウは無理に笑顔を作ってみせた」
シュウ:「大丈夫。ミリア、ありがとう。お陰で助かったよ。……左腕が完全に折り取られるところだった」
ミリア:「そう……ならいいのだけど。……あっちも片付いたみたいね」
アイナ:「全機破壊完了。ミッション終了だ。お疲れ」
ミリア:「アイナ……貴女……」
アイナ:「お説教なら後でみっちり聞いてやるよ。それより飯だ飯。帰って報告して飯にしようぜ」
シュウ:「ああ……そうだな……」
ミリア:「シュウ……」
シュウ:「帰ろう。司令官に、報告をしなくちゃ……」
間
(司令部、廊下)
ミリア:「アイナ!!」
N:報告を終えて解散となった足で食堂に向かおうとしているアイナを止めたのはミリアの声だった。シュウは疲れたらしく自室に戻ると行って別行動になったすきを狙ったのは明らかで、アイナは肩を竦めながら振り返った」
アイナ:「なんだよ」
ミリア:「貴女……シュウに人殺しをさせたわね」
アイナ:「人聞き悪ぃな。有人機と戦うってのはどういうことなのか教育してやっただけだろう?」
ミリア:「にしたって、あんなやり方……一歩間違えれば、シュウが死んでいたかもしれないのよ?!」
アイナ:「だったらそいつはそこまでだってことだ。運がなかったな、で終わりの話だよ」
ミリア:「アイナ……」
アイナ:「いいかミリア。あたし達はチームでも、お前がリーダーでも、別に仲良しこよしグループじゃねえんだよ。戦争してんだろ?人殺しやってんだろ?違うのか?あ?」
ミリア:「違わない……けどっ!!」
アイナ:「けども糞もねえんだよ、ミリア。あいつはさっさと人殺しをするべきだった。目に影を宿らせなきゃ、戦場に立って死神に真っ先に首刈られるのは誰かわかってんだろう?お前達がどういう仲間なのか知りたくもないが、あたしは“あたしの仲間”って呼ばれるやつが、あっさり死んでいくのが何より嫌いなんだよ」
ミリア:「それは……どういう意味?」
アイナ:「あたしの仲間があっさり殺されるとあたしまで弱く見られる。それだけだ」
N:「そう言ってアイナは止めていた足を再び動かし、食堂の方へと消えていった。取り残されたミリアは悔しそうに唇を噛み締めたまま、俯く」
ミリア:「それって……仲間とは呼べないじゃない……!!」
間
(司令部、シュウの自室)
シュウ:「はあ……」
N:「己の手をベッドに寝転がり、何度も見やる。ギルティア越しに伝わった肉の感触、そして死ぬ間際、コックピットの割れ目から覗いたカリストの顔の歪んだ表情。ありありと思い浮かべては、シュウは何度もため息をつく。そこにノックの音が響いた」
シュウ:「?はい」
司令官:「失礼する」
シュウ:「し、司令官?!何でこんなところへ……!!」
N:「ノックの主は司令官だった。シュウは飛び起き、敬礼をする。それを司令官は手で制して、ベッドに座るように促した」
司令官:「座り給え。……今日の有人機を倒したのはシュウ、君だそうだな」
シュウ:「二人のアシストあってのことです。俺一人では死んでいました」
司令官:「そうだな。だが、私が言いたいのはそのことではない」
シュウ:「……?」
司令官「人を殺した感想を聞きに来たのだ」
シュウ:「……っ」
司令官:「今までは襲撃する偵察機を撃墜させるだけで済んでいた君が人を殺した。その感想を聞きに来たのだよ、シュウ」
シュウ:「……悪趣味、ですね」
司令官:「そうだろうか。人を殺すことを目標として君を育ててきたつもりだったが?」
シュウ:「ゆくゆくは、と思っていました。……でも、あんなにあっさり、人は死ぬものなんですね……」
司令官:「そうだ。人とは儚い。強くいられる者は少ない。その強者の仲間入りを今日、君は果たしたのだ。胸を張り給え」
シュウ:「……胸を張れ、ですか」
司令官:「それが死者への手向けとなる。味方にせよ、敵にせよ、殺した者が殺された者にいつまでも囚われていると……いつか、死者からの手向けが来る」
シュウ:「死者からの手向け……」
司令官:「受け取る者も少なくない。君にはそうなって欲しくはないがね。……私の話は以上だ。君はよくやった。ゆっくり休みなさい」
シュウ:「……はい」
N:「再び沈黙が訪れる。司令官が去った後、シュウはずっと、己の手のひらを見つめていた」
シュウ:「死者からの、手向け……」
N:「そう、呟きながら……」
了
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