第一話 出会い
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アブラクト戦記
第一話 出会い
作:狩屋ユツキ
<人物>
【シュウ♂】
ナティア国の軍人。
直情的で素直な性格。
ディストの色は赤みの強いオレンジ。
黒髪黒目、十八歳。
【ミリア♀】
ナティア国の軍人。
勝ち気で元気だが意外と冷静さや冷酷さを持ち合わせた性格。
ディストの色は青みがかったオレンジ。
肩までの桃髪緑目、二十歳。
【アイナ♀】
人嫌いで口の悪い少女。
ディストなし。
腰まである銀髪銀眼、見た目年齢十六歳程度。
【司令官♂】
本名はグライン。
ナティア国司令官及び軍事責任者。
厳格な司令官だが心根は優しい。
ディストは青みの強い紫。
四十代。
男:女:不問
2:2:1
<用語紹介>
【惑星グラティ】
砂に満ちた惑星。
機械文明が発達し僅かな水のあるところに機械的な国を作って人々は生きている。
現在、ナティア国とイーリス国が全面戦争中。他にも大国としてバレスチナ国、アヴァラン国などがある。
小国は実に様々。遊牧民も多い。
【ギルティア】
騎乗型ロボットの総称。
ディストが紫以上でないと操縦はできない。
元は工業用として開発されたが、今はもっぱら戦闘用として使われている。
【ディスト】
グラティに住む人間の殆どが生まれつき右手に持っている宝石。
楕円形で手の甲に収まる大きさ。ほとんどの人は隠さないでむき出しにして歩いている。
これを使って通信をしたり、魔法のようなことが出来たりと利便性は高い。
色は青からグラデーションで赤まであり、赤ければ赤いほどディスト能力が上となる。
持ち得ないで生まれてきたものは「ディストなし」として昔から虐げられており、昨今の問題となっている。
約45分
シュウ♂:
ミリア♀:
アイナ♀:
司令官♂:
N♂♀:
--------------------
N:「宇宙暦γ✕✕年、惑星グラティに、あるギルティアが宇宙より落下。後に「所属不明ギルティア落下事件」と名付けられるこの事態より、物語は動き出す。」
間
(ナティア国外れ、イーリス国との国境付近)
シュウ:「本当にこっちなのか?落下音が聞こえたところって」
ミリア:「レーダーによるともう少し先かな。司令官も戸惑ってたみたいだったし、確認してみないとなんともだけど、イーリスのものだったら回収して尋問しないと」
N:「ナティア国所属の二つのギルティアが砂漠を駆ける。一つは青いカラーリングが目立つギルティア、もう一つはピンクのカラーリングが目立つギルティアだ。前者はシュウが扱うもの、後者はミリアのもの。二機は今、所属不明のギルティアが落下したという報告を受けて確認に向かっているところだった」
シュウ:「尋問か……。他の国のギルティアだったらいいなあ。それなら保護で済むのに」
ミリア:「いきなり攻撃を受ける可能性だってあるんだから気を引き締めてよね。……あ、見えてきた。あの紫色の機体がそうじゃない?」
シュウ:「ああ、多分そうだ。砂に半分以上埋もれて傾いて、起動停止しているように見える……」
ミリア:「取り敢えず、パイロットを引っ張り出しましょ。あの様子じゃ生きてるかも怪しいけど」
N:「二機のギルティアは紫色のギルティアに近づいていく。それは大きな破損こそ見当たらなかったものの、どこの所属を表すかという紋章はぱっと見、無いように見えた」
シュウ:「どこ所属か描いてないな……。普通は右肩とか胸のところとかに描いているものだけど」
ミリア:「取り敢えず、起こしてみましょ。どこかに描いてあるかも……よいしょ、っと」
シュウ:「くっ、重い……見た目はスリムタイプなのに、何でこんなに重いんだ?!」
ミリア:「何か仕掛けでもあるのかしら……。……ふう、これで全体図が見えるわ。胸のところがコックピット部みたいね」
シュウ:「でもどこを見てもやっぱり紋章は無いよ。どこにも所属していないギルティアなんてあるのかな……」
ミリア:「そんな物あるわけないじゃない。そんなのあったらどこの国にも住んでないってことになっちゃう。落下の際に削れちゃったのよ、きっと」
シュウ:「そ、そうだよな……。取り敢えず起動はしないみたいだから、降りてパイロットの確認をしないか」
ミリア:「そうね……。こうして外からの調査だけじゃ埒が明かないから、そうしましょうか」
N:「二人はコックピットから降り、そろそろと紫色のギルティアに近づいていく。顔を見合わせ、シュウが紫のギルティアに手をかけ、登り始める」
シュウ:「ミリア、このコックピット、開閉ボタンを探さなくても外から簡単に開けそうだ」
ミリア:「どういうこと?」
シュウ:「覆いが少し開いている。多分落下の衝撃で開いたか歪んだかしたんだと思う」
ミリア:「なるほど。私も上がるから、一緒に覆いを持ち上げたら無傷でこの機体持ち帰れるかもしれないわね」
シュウ:「よし、じゃあ俺は先に中を覗いてみるよ……。……っ、ミリア!!」
ミリア:「んしょ、……って、何よ、何そんなに驚いて……」
シュウ:「中にいるの、女の子だ!!」
ミリア:「女の子?」
シュウ:「うん、動かないけど」
ミリア:「右手のディストは?」
シュウ:「よく見えないな……ミリア、そっち持って。いっせいのせ、で持ち上げよう」
ミリア:「オッケー」
シュウ、ミリア:「いっせいの、せ!!」
ミリア:「おっも!!この機体、何で出来ているのよ。ガンツ鋼じゃないの?」
シュウ:「歪んで持ち上がりにくかっただけかもしれないよ。……えーっと、女の子に触るのはちょっと……」
ミリア:「わかってるわよ。じゃ、ヘルメット外すわね。……スーツの材質は私達と変わらないっぽいけど……よいしょ」
N:「ミリアが謎の機体に乗っていた少女のヘルメットを外す。すると、さらり、と銀色がシュウの目の前に広がった。長い髪、銀色、白い肌。固く閉じられた瞳。薄桃色の唇。空に浮かぶ双子月から生まれ落ちたような少女がそこに眠っていた」
シュウ:「……生きてる?」
ミリア:「呼吸はしてるみたい。……それにしても綺麗な子……。ちょっと右手を失礼、っと」
シュウ:「どう?」
ミリア:「……え?」
シュウ:「どうしたの?」
ミリア:「この子……ディストがない!!」
シュウ:「え、ええ?」
ミリア:「色どころか……手、すべすべよ。突起が何処にもない。この子、“ディストなし”だわ!!」
N:「ギルティアを扱うにはこの惑星殆どの者が生まれつき持つディストという石が必要となる。しかもその色が紫以上でないとギルティアを扱うことは出来ない。だが、目の前の少女の右手にはディストの色どころかディストそのものが存在している様子がなかった。ミリアは慌ててスーツの右手部分を引き破り、目視でも確認する」
シュウ:「……ホントだ……」
ミリア:「ディストなしがギルティアを動かしていたっていうの?!なにそれ、聞いたこと無い……!!大体ディストなしがギルティアを手に入れること自体おかしいわよ!!」
シュウ:「ミリア、落ち着いて。もしかしたら何処かの国がディスト無しでギルティアを動かすすべを見つけたのかもしれない……そうだったら、脅威だけど」
ミリア:「……そうね。全部、この子に直接聞けばいいことだわ。シュウ、コックピットを閉めるわよ。この馬鹿重いギルティアごと司令部に帰りましょう」
シュウ:「引きずっていくってこと?」
ミリア:「軽ければ二機で持ち上げるつもりだったけど、この重量、多分無理だわ。砂漠の途中まで引きずって、あとはうちの整備班に任せましょう。女の子もその方が衝撃が少ないだろうし」
シュウ:「途中で起きて、暴れられたら?」
ミリア:「そのためにコレがあるのよ」
シュウ:「……ロープで縛り上げるの?気絶してる女の子を?」
ミリア:「私達と、彼女の安全のためよ。緊急処置、緊急処置」
シュウ:「気が進まないな……」
ミリア:「縛り上げるのは私がやるわ。シュウは機体の方をお願い。ワイヤーでがんじがらめにして、決して外れないようにね」
シュウ:「ん、了解」
N:「かくして、物語は動き出す。青とピンクの二機は紫の機体を引きずるようにしてその場を後にした。彼らが所属する司令部のある、ナティア国首都へと」
間
(ナティア国、司令部、司令管室)
司令官:「それで、彼女は」
ミリア:「かなり強く頭を打っていたらしく、まだ目を覚ましません。保護班が言うには命に別条はないとのことです」
シュウ:「機体の方はどうですか?」
司令官:「今整備班が調べているが……未知の物質で出来ているらしい。わかっていることとしては、固体でありながら流体の性質も持っているとの報告が入っている」
シュウ:「固体でありながら流体の性質も持っている……?」
司令官:「実際に見てみなければわからないが、件の機体は変形型であると推測される。今はあの形を保っているが、戦闘やその他作業の際には形を変えて動くことができるのかもしれん」
ミリア:「そ、そんな事ができる金属があるんですか?!グライン司令官!!」
司令官:「我々の資料にそんなものはない。だが、彼女の身元についてもだが不明点が多すぎる。機体にエンブレムは無し、各国に連絡を入れたがそんな機体は知らないの一言だけだ。勿論、イーリスも」
シュウ:「イーリスが嘘をついている可能性は?」
司令官:「否定できん。だが、可能性は薄いだろう。もし流動性の機体などを極秘裏に開発していたならばなんとしても回収しに来るはずだ。それこそ嘘をついても、な」
ミリア:「そうですね……未知の機体なんて各国、喉から手が出るほど欲しいはずだわ。私達だって、アレの解明が進めば同じものを作ることもできるし、そうすれば戦闘での優位性は確実に上がる……」
司令官:「そういうことだ。今、機体の素材の解明を整備班に最優先で進めさせている。……ん、少し待ち給え」
N:「そう言うと司令官は手元のディストから小さなモニターを映し出した。内容を確認した司令官の手から、フォンという音をさせてモニターが消える」
司令官:「お姫様のお目覚めだ。今こちらに向かっているそうだからお前たちも会っていきなさい」
シュウ:「え、いいんですか?」
ミリア:「極秘裏に扱う情報なんじゃ……」
司令官:「我がナティア国のエースパイロット二人に調査などという雑事を押し付けた、そのせめてもの報酬だと思ってくれ。ただし、ここで知ったことは他言無用だ」
N:「司令官がすっと右手を上げると、司令管室に居た全員が席を外す。司令官とシュウ、ミリアだけになった豪奢な部屋に、程なくして少女は連れられてきた。腰までの銀髪、開かれた目も銀色だった。後ろ手に回されて枷をはめられた腕、足につけられた鎖が痛々しい。連れてきた司令部の人間は、少女を部屋に入れると、一礼して去っていった」
司令官:「さて、君に聞きたいことはたくさんある。まずは名前を聞こうか」
アイナ:「……アイナ」
司令官:「案外素直に答えてくれるんだね。拍子抜けしたよ。君の所属は?」
アイナ:「……」
司令官:「そこは隠すか。隠密行動中だったのかな?我々に君を害するつもりはない。答えてくれないか」
アイナ:「……はっ。こんなに雁字搦めにしておいて害するつもりはないなんて反吐が出る」
司令官:「それは我々に対する安全処置だ。それに君に暴れられたら、ここにいる二人のエースパイロットが君を取り押さえることになる。そうならないための……君に対しても安全処置だと思ってもらいたいね」
アイナ:「……けっ」
シュウ:「司令官、発言を許可していただけますか」
司令官:「うむ、何かね。ここは無礼講と行こう、ミリアも彼女に質問したいことがあれば自由にしてもらって構わん」
アイナ:「あたしの意思は関係ないんだな」
司令官:「これでも譲歩しているつもりだよ。黙秘権を与えているんだからね」
シュウ:「あのっ……、……体は、もう大丈夫なの?」
アイナ:「……は?」
シュウ:「酷く頭を打っていたって報告に上がっていたから……もう動いて大丈夫なのかなって。無理やりベッドから起こされたとかそういうんじゃないといいなと思って……」
アイナ:「……お前、馬鹿か」
シュウ:「は?!」
アイナ:「敵かもしれない相手の体調をまず気遣うとか、馬鹿以外の何物でもないだろ。……お陰様で無事だよ。起き上がって歩いたときに少し頭がくらくらしたくらいだ。今はなんともない」
シュウ:「そ、そう、よかった……」
ミリア:「貴女の機体についてなんだけど」
アイナ:「あん?」
ミリア:「貴女の機体、すごく重かったわ。流動性の性質も持っていると報告が上がっている……しかも貴女、ディストなしじゃない」
アイナ:「ディスト?」
ミリア:「ディストを知らないっていうの?!」
N:「きょとんとしたアイナの反応に、ミリアが食って掛かる。自分のディストを見せながら叫ぶ」
ミリア:「こういうのよ!!生まれつきある人間とない人間がいるけれど……この星に生きていてディストを知らないなんてありえない……!!」
アイナ:「知らねえもんは知らねえ。そう答えてるだけだ」
ミリア:「んなっ……じゃあ、あの機体はどうやって動かしてたのよ!!ディストなしがギルティアを動かすなんて前代未聞だわ。それとも同乗者でもいたの?」
アイナ:「どうもこうも、あれはあたしだ。あたしはあたしの手足を動かしていただけで別にそれ以上でも以下でもない」
ミリア:「あのギルティアは……貴女自身……?どういうことなの?」
アイナ:「……」
N:「困惑するミリアを尻目にアイナは軽く鼻を鳴らす。その様子を眺めていた司令官が「まあまあ」と宥めるようにミリアに声をかけた後、アイナに向き直った」
司令官:「では私からも問おう。……君は私達の敵か?」
N:「すっと、その場の空気が凍ったような気が全員にした。特にアイナは驚いたように目を瞬かせていたが、しばらくして、ふぃっと顔をそらし、一言だけ告げた」
アイナ:「わからない」
司令官:「ほう」
アイナ:「あたしを害するものは、全部敵だ。だがそれ以外は別に敵じゃない」
司令官:「宜しい。……シュウ、彼女の拘束を解いてあげなさい。君のディストに権限を与える」
N:「そう言うと司令官は自分の右手に左手をかざし、何事か呟く。するとシュウのディストが呼応するように輝きだした」
シュウ:「ありがとうございます」
アイナ:「おいおい、いいのかよ。拘束を解いた途端に暴れるかもしれないんだろ、あたしは」
司令官:「それは我々が君の敵だった場合だと君は答えた。敵ではないものに拘束は必要ない。違うかね」
アイナ:「……ちっ」
シュウ:「今外すから、少しだけ動かないでね」
N:「シュウの輝くディストを拘束にかざすと、腕の拘束は溶けて消えた。足の鎖も同様に溶け消え、その様子にアイナは驚いたようだった」
アイナ:「溶け消えた……」
シュウ「?それがそんなに不思議?」
アイナ:「物が溶け消えたんだぞ、不思議に決まってる」
シュウ:「そうかなあ、俺達の間ではふつうのコトだけど……」
アイナ:「そもそも、ここはどこなんだ。あたしに質問権はあるのか」
司令官:「勿論。答えられる範囲で答えよう」
アイナ:「じゃあ質問だ。ここはどこだ。あたしのギャラクシアはどこにいる」
ミリア:「ギャラクシア?それが貴女の機体の名前?」
司令官:「ここはナティア国の首都、リリス。君の機体は破損こそなかったが興味深い機体だったので今うちの整備班がこぞって解析中だ」
アイナ:「いじくり回されるのは好きじゃない、今すぐやめさせろ」
司令官:「それは出来ない。君の機体は我々の知らない素材で出来ている。解明するまで彼らが手放さんよ」
アイナ:「あたしはあたしの戦場に帰る。お前らのお遊戯に付き合っている暇はない」
司令官:「それは何処の戦場かな?」
アイナ:「……宇宙だ」
シュウ:「?!」
ミリア:「宇宙って……嘘でしょ?貴女、宇宙から来たっていうの?」
アイナ:「ああもう面倒くせえ。あたしは……多分この星からも見えるだろう、同じ大きさで、重なるように並んでる星の片割れから来た。戦闘で負けてワームホールで逃げる最中、攻撃されてな。だからあたしはあたしの意思でここに来たんじゃない」
シュウ:「重なって並んでる星……ってまさか双子月?!あんな遠くから?!光の速さでも数十年かかるっていうのに!!」
アイナ「双子月っていうのか。多分それだ。ここからでもやっぱり見えるんだな。光速数十年なのはちょっと驚きだが」
ミリア「グラティから双子月までの距離を落下してきたの……?!」
アイナ:「グラティ、っていうのかこの星は。……言ったろ、ワームホールで逃げる最中だったって。あれを通れば大抵のところは近所の煙草屋みたいなもんだ。多分、被弾時の誤作動でここの上空に出口が開いたんだろう。……とにかく、あたしをギャラクシアのところへ案内しろ。あれを整備できるのはここじゃあたししかいない」
司令官:「ふむ……嘘は言っていないようだな。信じがたい話ではあるが……まあいい。ミリア、シュウ、二人で整備倉庫へ。彼女を案内してあげなさい」
ミリア:「……いいんですか?」
司令官:「今整備班から連絡が入った。お手上げだとね。彼女の言葉に嘘はない。連れて行ってあげなさい」
間
(整備倉庫)
シュウ:「それに乗って、君は宇宙へ帰っちゃうのかい?」
N:「長い廊下を歩いて、たどり着いた整備倉庫で、ギャラクシアこと紫のギルティアを見つけたアイナは、シュウよりもミリアよりも早く駆け寄り、そのコックピットに乗った。コックピット上層部は跳ね上げたままで透き通ったモニターを何枚も映し出し、それを指で操作している様子に、シュウは恐る恐るといったふうに尋ねる」
アイナ:「……いや、ワームホール生成機がイカれちまってる。この星にそれを直せるもんは無いだろうし……こりゃ、あたしは戦力外通告、戦死扱いだな」
ミリア:「ちょっと待ってよ、帰れないってこと?」
アイナ:「そう言ってる」
シュウ:「じゃあ、ここにいればいいよ。ナティア国は決して豊かじゃないけれど、ディストなしにも比較的優しい国だし……」
アイナ:「ディストなし……ねえ。つーことは、ディストってやつを持ってるのが偉くて、無いやつは奴隷同然ってことか」
ミリア:「そんなこと……」
アイナ:「別に気にしちゃいねえよ。あたしの国じゃディストなんてものはなかったしな。この星の人間特有の制度があったっておかしくねえ。そういや、お前とお前、そのディストっていうのの色が違うが、なにか違いがあんのか」
シュウ:「俺はシュウ。……ディストは色によって能力が違って……ギルティアの操縦力に最も差が出るんだ。赤が最も強くて、それから青に近づくほどギルティアとの相性は悪くなる」
ミリア:「私はミリア。……同じオレンジでも、赤みの強いシュウのほうが色的にはギルティアとの相性がいいってことよ。でも、あくまで相性だけ。技術力なら私、シュウより上よ」
N:「二人はスーツに包まれた右腕をかざし、右手を見せる。シュウの右手に輝くディストは赤みの強いオレンジで、ミリアのディストは青みがかったオレンジだった」
シュウ:「あ、気にしてることを……歴が違うんだからしょうがないだろ」
ミリア:「ま、性能も違うしね。私のほうが重量機ギルティアだし、破壊力は負けないつもり。機動力はシュウに譲るけど」
アイナ:「ギルティアってのはギャラクシアのことか……。ややこしいな。この国で暮らすのは別にいいが。別段行くところもないんだ。戦いなら役に立つが……見たところ、この国も戦争中みたいだな」
シュウ:「え、わかるの?」
アイナ:「隣に並んでるギャラクシア……ギルティアを見りゃわかる。作業用じゃなくて武器の開発もしてるってなれば戦争くらいしか思いつかねえよ」
ミリア:「貴女、頭は回るのね」
アイナ:「こういうことだけな……っと」
N:「呆れたようなミリアの声に、にやりとアイナが笑う。だが、ピピッ、という警告のような音がアイナの機体から発せられると同時に、辺りに警報が響き渡った。「イーリス国より敵機来襲。第一戦闘配置。パイロットは速やかに自機に搭乗の上発進せよ。繰り返す。第一戦闘配置。パイロットは速やかに自機に搭乗の上発進せよ」……。その機械的な音声にシュウとミリアは慌てて自機へと走った」
アイナ:「……イーリス国、ねえ。恨みはないが、何処までこの国でやれるかの腕試しになってもらうか」
N:「そんなアイナの独り言を聞くものは誰も居なかった」
間
シュウ:「シュウ、準備完了、出ます!!」
ミリア:「同じくミリア、準備完了、出ます!!」
N:「それぞれの機体に乗り込んだ二人が声を上げる」
司令官:「うむ、二人共頼む。他のパイロットたちは今偵察に出ていて不在だ。不利な戦いになるかもしれんが、無茶だけはしないように……」
アイナ:「だったら助け舟を出してやるよ」
N:「通信に割り込むように、アイナの声が響き渡る。ディストで会話しているはずの三人の前に、ディストなしのアイナの顔が映し出された」
司令官:「なっ……」
アイナ:「おー、出来たできた。そっか、このチャンネルで割り込み可能っと。よっしメモリ完了。あーあーあー聞こえるか?一宿一飯の恩義じゃねえが、このあたしが手助けしてやるよ」
シュウ:「そんな、悪いよ」
ミリア:「それに援護なんていらないわ。相手はたった五機、それも自動操縦型……私達の敵じゃない」
アイナ:「そういうやつが戦場で一番先に死ぬんだ。わかったらとっとと出撃しな。後は追ってやるからよ」
シュウ:「今は言い争っている場合じゃない!行くよ、ミリア!!」
ミリア:「……そうね。出撃します!!!」
N:「ハッチが開き、青のカラーリングとピンクのカラーリングの二機が飛び立っていく。右腕の部分に誇らしげにナティア国のエンブレムを掲げたその姿は勇ましく、アイナは目を細めてそれを見送った」
アイナ:「……じゃ、あたしも行くか」
司令官:「君は私達の敵ではない、という保証がない限り、出すことは出来ない」
アイナ:「その保証をしに行くんだよ。あたしはお前たちとは違う場所から来た。お前たちに出来てあたしに出来ないことも、その逆もまた然りだ。なら……出来ることで証明するしか無いだろう?」
司令官:「……」
N:「司令官は悩んでいた。本当にこの少女を信じていいものか、そしてそれが吉と出るのか凶と出るのか。しかし迷っている暇はなかった」
間
(ナティア国、上空)
シュウ:「司令官!!」
司令官:「どうした」
シュウ:「こいつら、新型です!多分、新型AIを積んでいる……動きがほとんど有人機のそれと同じです!!」
司令官:「なんだと……」
N:「無人機ならば五機程度彼らで処理できる。だが有人機と同等となれば話は別だ。同数か、もしくはプラス一機であれば問題なかろうが、それでも負担は格段に上がる」
ミリア:「くぁっ……!!ミリア機、左足被弾、軽傷!!!……こいつら、動きも素早い……攻撃力は殆どないみたいだけど、偵察機にしては手が込んでるじゃないの……!!」
シュウ:「はぁっ!!……ブラスターじゃ追えない、近接攻撃に持ち込まないと……!!でもそうすると囲まれる……!!」
間
(司令部、整備倉庫)
アイナ:「ほらほら、苦戦してるみたいだぜ。どうする?司令官殿」
N:「響く打ち合いと切り合いの音に楽しげにアイナの声が響く。一機何とか落としたとの報告と、シュウの右腕が被弾したことを告げる報告が同時に入ったときに、司令官は決断した」
司令官:「君に出撃許可を与える。彼らを助けてやってくれ」
アイナ:「そうこなくっちゃあ!!アイナ、出撃準備完了、いつでも出れる!!」
司令官:「アイナ、出撃!!」
N:「ハッチが再び開く。紫色の機体は天の輝きをめいいっぱいに受けて空へと飛び立った」
間
(ナティア国、上空)
シュウ:「ミリア、被害状況は?!」
ミリア:「左足、左腕、右側頭部軽傷ってとこね……クリーンヒットしてもさほどのダメージにはならない……まるでこちらの動きを図ってるみたい」
シュウ:「実際、そうなのかもしれない。時々動きが止まる瞬間がある。そのときにデータをリアルタイムで送っている可能性がある」
ミリア:「だとしたら、長引かせるだけこっちが損ってことね……!!」
N:「ブラスターもキャノン砲もマシンガンも役に立たないと、レーザーサーベルに持ち替えたシュウと、同じくレーザー薙刀に持ち替えたミリアが背中合わせで背後を取られないようにしながら後四機を相手取る。人型無人機との戦いは勿論初めてではないが、このAIの性能に苦戦を強いられているのは事実だった」
シュウ:「くっそ、せめてこのスピードさえなければ……」
アイナ:「スピードを押さえればいいんだな?」
ミリア:「え?」
シュウ:「あ、アイナ?!」
アイナ:「それならそいつらの足を止めてやる。仕留めるのはお前らの仕事だ、わかったな」
N:「いつの間にか、シュウとミリアの更にはるか上空に、紫色の機体が浮かんでいた。武器も何も持っているように見えないそこから、アイナの笑みが見えたような気がして、二人は一瞬ぽかんと空を見上げてしまった」
ミリア:「っ、シュウ、危ない!!」
N:「そのスキを狙って一機がシュウへと飛来する。レーザーサーベルを振りかぶったそれに、アイナが先に反応した」
アイナ:「まずは一匹ぃ!!」
N:「びゅるん、と音を立てて鞭がその一機に絡まった。アイナの機体の右腕が鞭の形に変わり、斬りかかろうとしていた人工知能機の動きを止める。すかさず、シュウがレーザーサーベルで頭部を真っ二つに切り裂く。派手な爆発音がして、その一機は地上へと落下していった」
アイナ:「二体目、三体目!!」
N:「両腕を鞭に変えたアイナの機体が、あっさりと高速で動く人工知能機の体を絡め取る」
アイナ:「ほらお二人さん、チャンスだぜ」
シュウ:「ミリア!!」
ミリア:「ええ!!」
シュウ:「はああああ!!!」
ミリア:「一撃で終わらせる!!」
N:「シュウのレーザーサーベルが人工知能機の心臓部を貫き、ミリアのレーザー薙刀がもう一機を一閃する。同時に爆発音が響き、残り一体となったはずの人工知能機をシュウとミリアは探した」
シュウ:「アイナ!!」
N:「もう一機は、アイナへと向かっていた。鞭だけでは致命傷を与えることが出来ないことを判別したのだろう、ブラスターを撃ちながら迫る人工知能機に、アイナの機体がぐにゃりと変化する」
アイナ:「身の程をしれ、馬鹿が」
N:「その右腕は、剣の形をしていた。レーザーサーベルなどではない、物理的な剣の形。ブラスターの弾を全てその剣が弾き返し、至近距離に迫った人工知能機に振り下ろされる」
アイナ:「ジ・エンドだ」
N:「ジジッ、という機械特有の回線が途切れる音を最後に、派手な爆発音で最後の一機もバラバラに砕け散った」
ミリア:「なにあれ……あれが流動性の金属って意味なの……」
シュウ:「凄い……」
アイナ:「いわゆるオーバーテクノロジーってやつだから、あたしのことは気にしなくていい。それよりお前達、十分強いじゃないか。こりゃあたしの出る幕はなかったかな」
シュウ:「いや、動きを止めてくれなかったらイタチごっこだった、ありがとう」
ミリア:「今回は助けられたわ。ありがとう」
アイナ:「……へへっ、礼を言われるのもくすぐったいな。こっちこそ雑魚を捻り潰すのは楽しかったぜ」
司令官:「全員無事か」
シュウ:「あ、通信が……はい、全員無事です。少しミリアの被弾が多いです」
ミリア:「シュウだってさっきコックピットにクリーンヒットしてたじゃない。ヒビ、入ってるわよ」
シュウ:「え、あ、ホントだ!!」
アイナ:「気づいてなかったのかよ」
シュウ:「戦闘に夢中で気づいてなかった……」
アイナ:「おいおい、危ねえな。そういうやつは戦場で気がついたら死んでたとかあり得るんだから」
司令官:「何にせよ、全員無事で何よりだ。全員、帰還してくれ。司令部で会おう」
間
(司令部、廊下)
シュウ:「あ、そうだ、アイナ」
アイナ:「あん?」
N:「司令本部に向かう途中、ミリア、シュウ、アイナの順で歩いていた廊下で、シュウは振り返り、アイナの名を呼んだ」
アイナ:「……なんだよ」
シュウ:「アイナの機体、すっごく強かったね。本当に改めてお礼を言いたくて」
ミリア:「……そうね。強かったのは認めるわ。助かったのも事実だし」
アイナ:「あたしはあたしの出来ることを証明したまでだ。いわば自分のためなんだから礼なんか」
シュウ:「それでも!今後この国に居てくれて……もし一緒に戦えたらなって、そう思ったんだ」
アイナ:「……」
ミリア:「シュウ、それは言い過ぎ」
シュウ:「ミリアだってそう思うだろ?今は人手不足なんだ、アイナみたいな強い人が入ってくれたらきっと心強い」
ミリア:「そりゃ……人手不足は認めるけど……でも、アイナは身元不明なのよ。私達の一存で軍に残ることを強要したり決定したり出来ないわ」
アイナ:「軍に……所属する……」
シュウ:「そりゃそうだけどさあ……アイナ、考えてくれないか」
ミリア:「私は賛成も反対もしないわよ。アイナの好きなようにすればいいと思うわ」
アイナ:「……考えてやるよ」
間
(司令本部)
司令官:「まずはシュウ、ミリア、よくやってくれた。いつもながら見事な戦いだった。そしてアイナ、君もだ。見事なアシスト、そしてとどめだった。礼を言う」
シュウ:「もったいないお言葉です」
ミリア:「ありがたき幸せ」
アイナ:「礼なんざいらねーよ。それより信用に足る動きだったかどうかだけ教えてくれりゃあいい」
ミリア:「あんたさっきから聞いてて思ったんだけど、その口の悪さどうにかならないの?」
アイナ:「育ちの悪さが出てんだ、許してもらう他ねえな」
シュウ:「ま、まあまあ、今回は助けられたわけだし……」
司令官:「そうだな、元より出身の違う者同士、言葉が通じるだけでも感謝せねばならん」
アイナ:「それはあたし達の開発した翻訳機のお陰だな。生まれたときに体内に埋め込まれてる」
司令官:「そんなものまであるのか……月は進んでいるのだな」
アイナ:「でもさっきの、イーリス、だっけ?その国の機械はお前達のデータを自国へどんどん送ってたぞ。あの技術はあたしらのものに近い。技術的には相手の方が上だな」
ミリア:「っ?!」
司令官:「やはりそうであったか……我らの科学力よりもイーリスが上なのは百も承知、それでもなんとか戦ってきたが……」
アイナ:「あたしが知ってる限りの情報は渡してやるよ。それから戦いにも参加する。だからここにあたしを置いて、この国のことを教えてくれないか」
司令官:「軍に籍を置くということか」
アイナ:「行くところがない上にあたしは戦うことしか出来ないからな」
司令官:「……いいだろう。その力、借りることとしよう」
シュウ:「やった!!これでアイナは俺らの仲間だ!!」
ミリア:「……手放しに喜んでいいものかまだ迷うけどね」
アイナ:「存分に疑うがいいさ。それこそが、生き延びるのに一番必要なことだからな」
間
N:「かくして、正式にアイナはナティア国の軍人となった。それがこの国の大きな分岐点だと知るものは、まだ居ない」
了
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