第5話 冷静になれない
体勢が何とかなったところで、辺りを見回してみると、長閑な田園風景が広がってる。母屋や納屋の敷地の外には未舗装の道がある。
母屋を見ると、なかなか立派な西洋的な屋敷のようだ。ということは、さっきの女性はいいトコのお嬢様?イヤ、それはないな。人の顔面を踏みつけるなんざ、お嬢様のやることじゃない…。凶暴なのかガサツなのか…。いずれにしても残念なお嬢様のようだ。
ところで、ワシはなんでここにいる?何処からか落ちたみたいだが、何処から落ちた?周りにあるものはワシの荷物みたいだが、こんなトコに出張?思い出せない…。
とりあえず、シャツのポケットから電子タバコを出して咥える。上着のポケットからスマホを取り出す。日付は○月△日。予定を改めて確認すると、
「東京本社出張」
とある。改めて時間を見ると、約束の時間を過ぎている。ヤバイ、役員に電話せんと締められる…。しかし、左端の表示は
「圏外」
だって…。そんなことあるか?ここは日本じゃないのか?今時、地方行っても圏外なんてお目にかかれんぞ?訳がわからない…。すると母屋から"残念なお嬢様"が現れ、
「何を呑気にキセルなんて吹かしてるの‼︎ とっとと片付けなさいよ!」
と捲し立ててきた。聞いてみたほうがよさそうだな。
「すまん、ここは何処だ?」
「ここ?ここはエトルよ、エトル村。アンタは何処から来たのよ?」
はい?エトル村?聞いたことねえぞ⁉︎ 日本じゃないのか?
「国の名前は?」
「エトロア王国に決まってるでしょ?何訳わかんないこと言ってんのよ⁉︎」
いや、訳わかんないのはコッチもだよ。日本じゃないところ、しかもエトロア王国って、どの辺だよ?欧米じゃ聞かねえ国名だぞ?そもそも王国って、そんなにあるもんじゃない。いや、ちょっと待て。言葉、通じてないか?会話できてるよな…。落ち着け、ワシ。冷静になって考えよう…。