第235話 ハンターギルド⑴
久しぶりにぐっすり寝たという感じで、朝を迎えた。とはいっても、陽はようやく顔を出したばかりの時間…。多分、1人で寝ることができたからだと思う。
顔を洗って、着替えて外に出た。風が心地よい。町に向かって歩き出した。
町は朝市で賑わっている。朝収穫された野菜や果物、ドライフルーツにナッツなど、様々な店が軒を連ね、所狭しと品物が並んでいた。
「お、領主さん!おはようございます!お1つどうぞ!」
りんごに似た物を投げてくる店主。礼を言って遠慮なく頂き、齧り付く。蜜がたっぷりで、甘くて瑞々しい。今まで食べたりんごと比べて、格段に美味い。似た品種を思い出そうとしても、なかなか思い浮かばない…。多分、過去食べた種類が少ないのか、まともに果物を味わったことが少ないのか…。
思うに、貧相な食生活だったのか…、だろうな。まともに家で飯食った記憶がない…。大体飲んで帰ってた…。しかも仕事終えて、遅い時間から飲み始めるから、帰りは終電かタクシー…。ロクな亭主、父親ではなかったな…。
あの子どものせいか…。昔を、前世を思い出してる…。娘、愛はどうしてるんだろ…?そろそろ成人式のはず…。よそう。ここで考えててもどうにもならんし、ワシはここですることがある。それに集中しよう。
みんなが声をかけてくれる。嬉しいねェ。大したことはしてないのに…。しかも、新参者で、どこの馬の骨とも分からない…。ただただ、上手い具合にハンター的な仕事ができて、大型の魔物を駆逐することができた。また、上手い具合に『魔族』を討伐したり、武器を作ったり…。全ての出来事が、たまたまの『紛れ当たり』でしかない気がする…。
朝市を抜けて町の中心に来た。中心の広場に面したところに騎士団の詰所があり(警察署的?)ここから少し先に、ハンターギルドがある。まだ業務開始の時間じゃないはずだが、やけにバタバタしてるな?何かあったか?
ギルドの建物に入ると、アラン、ティナ、ヒースまでもが、忙しなくしていた。
「…何かあったのか?」
「あ、マモルさん…。おはようございます。早いですね」
「あぁ、おはよう。このバタバタはどうしたことだ?」
「冒険者向けの対応ですよ…。彼らは遠方への移動を伴うんで、ギルドの承認かないと動きが取れなくなるんで…」
あぁ、なるほどね…。やらなきゃいけないことが増えたんだな…。冒険者ギルド、再建しないと…。
「元冒険者ギルドのシュミットさん、どうしてるか知ってる?」
「シュミットさんなら、冒険者としてやり直すって、先日までエイサム方面に行ってましたよ?今は戻って自宅にいるかと…」
とティナ。
「ヒース!ちょっといいか?」
「なんだ、マモルじゃねぇか。どうした、こんな時間に…」
アランとティナに睨まれるヒース…。相変わらずワシのことは呼び捨てだ。
「たまたまな。で、ここに来たらこの有り様見てさ…。なぁ、シュミットさんをもう一度ギルマスにして、冒険者ギルドを再建できないか?」
「そいつは願ったりだが…。シュミットが引き受けるかな…?」
「そこは引き受けてもらわんと…。職員はある程度、事務仕事できる者をこちらで指名して…。一度話できないか?」
「…後でシュミットのところへ行ってくるよ…」
「すまんが、なる早で頼む。この状態が続くと、他のみんなが参っちまう…」
「分かった。とりあえず、この波が引いたら行ってみる」
「すまんな。手間かける…。先ずは意向だけでも聞いておいてくれると助かる」
外に出て、建物の裏手に回った。タバコに火をつけながら修練場に行くと、ロアン相手にコーダが模擬戦をしている最中だった。
遠目から眺めていたが、途中、明らかに2人とも手を抜いた。多分、当ててケガしたら…って考えたのかもしれんが、最早『人外』の2人には関係ないはず…。
(何やってんだ…) と舌打ちしながら思った瞬間、ロアンとコーダが距離をとりながら、素早くこちらに向いて模擬刀を構えた。舌打ちした時に、殺気が漏れたらしい…。
「あ、オッチャン…」
「…マモルさん…」
2人ともバツの悪そうな顔で、こちらに歩いて来た。
「お前ら、一瞬手を抜いたろ…?当たったからって、ケガする身体か?真剣にやれよ。実戦でケガするぞ」
「すんません…」
「ごめんなさい…」
もっとも、一般の人には手を抜いたことは分からない。それほどのスピードで打ち合っていた。そこにティナが来て、
「マモルさん、お説教はそのくらいで…。コーヒー淹れましたよ」
と声をかけてくれた。今度はワシがバツ悪そうに、ギルドの建物に入っていった…。




