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第223話 エクランド⑵

 ヒルデが町、エランに入らず領主館に向かったその頃、エルゴとの境近くの森の入口に、魔物が出たとの報せが入った。森の入口で警戒の任に就いていた、ハンターと冒険者が応戦中らしい。


「オレが行く!爺さんたちは詰所で茶でも飲んでろ!」


と、ヒースが走り出した。年寄り2人に小言を言われるのが嫌だったんだろう…。


「…脳筋だな…。見事なまでの脊髄反射…。しかしまぁ、現場に着いて、息切らして使い物にならないだろうな…」


「…左様ですな。しかし、羨ましくもあります。彼奴、大怪我を負ってからも身体は鍛えていたようですね」


「…ふん、彼奴が羨ましい…。そうか?ワシャ、早く楽隠居したいがな…。マモル殿と関わってから、こき使われておる…」


「まさか…。団長ご自身が、マモル様の役に立とうと、頑張っておられるように見えますよ?」


「…何故だろうな…。あの方にはザガン公とは違って、人を巧く動かす力というか、その気にさせる力があるような気がする…」


「お仕えしていてそれはよく分かりますね。仕えるのが当たり前の私やハンナたちに対しても、何かする度に礼を言い、労って下さいます。言われた方は悪い気はしませんよ」


 詰所に2人で入り、椅子に腰掛けた。すぐにコーヒーが出てきた。


「ここの豆、マモル様がティナの実家に指定してブレンドしたものですね…。同じ豆を領主館でも淹れてますよ」


「確かに旨い…。香りもいい。変なところにこだわる御仁だな…」


「酒についても、なかなかこだわりがあるようですよ。エールを冷やすことを薦めたのも彼ですし…。蒸留酒も、大麦で作られたものを、果実酒を入れていた樽で寝かせたものが、お好みのようです」


「…またいいものを飲みおって…。まぁ、ワシのところにも持って来てくださったな…。ありゃ旨かった…」


森で魔物が出たというのに、呑気な爺様2人…。詰所にいる騎士団も半ば緊張しながらも、半ば呆れていた…。


◇◇◇◇◇


 馬に乗った2人に気取られないよう、後を付けて、ヒルデは領主館まで来た。たいして間を置かずに声をかけた。


「早かったのね、あなたたち…。何があったの?」


2人は驚き、ヒルデを見た。


「脅かさないでください、ヒルデ様!心臓が止まるかと思いましたよ!」


とロゼッタ。ヒルデを見た2人から笑顔が消えた。


「…何かあったんですか?」


恐る恐る、ハンナが聞いた。


「何かあった?私が聞いてるんだけど?まぁ、詳しい話しは中に入ってしましょう」


と領主館に入って行った。ハンナとロゼッタは顔を見合わせ、ビビりながら領主館に入って行った…。


「単刀直入に聞くわね。その子は何?どうして連れて来たの?誰からも何も言われなかったの?」


「…ちょっと待ってください!この子のことですか?救出隊と合流する前に通りかかった小さな町で保護したんです。そこは『魔族』の襲われて、生き残りはこの子だけだったんです」


「…よく『魔族』がこの子を見逃したわね…?変だとは思わなかったの?過去に『魔族』に襲われたところは、どこも生存者は見つかっていないのよ?」


ヒルデの指摘に愕然とする2人…。ハンナが握る手の先で、女の子が笑った。天使のような笑みで…。


「ヒルデ様は、この子が『魔族』と何か関係があると仰るんですか⁉︎ いくら何でもそれはないと思います!」


「…イリスとルナが付いていながら、気付かなかったなんて…。信じられないなら、直接聞いてみましょうか…。ねぇ、あなたは何の目的でここに来たの?だいぶ力は弱くなっているようだけど…?ここに来た理由を教えて頂きたいわね…」


「…ヒルデ様!こんな小さな子が喋れるわけ…」


「…ったく、とんだ誤算だったわね…。エクランドに女神が降臨しているなんてね…。聞いてないわ…」


 まだ3歳にも満たないような子どもが、流暢に話せるわけがない…。なのにこの子どもは喋り始めた…。


「…憑依体ではなさそうね…。4代目アイシャ、とでもいうのかしら…」


「そんなところかしら…。初代様をお守りしようと、グレートアナコンダを2匹使役したのがいけなかったみたいね。力が抜けて、こんな子どもになっちゃったのよ」


「で、何をするつもりなのかしら?」


「…取り引き、しませんこと?」


「何のために妾が『魔族』を取り引きをせねばならない?」


 その言葉と同時に、ヒルデの姿が女神のそれに変わった。聞くには聞いていたが、ハンナもロゼッタも姿を見たことはなかった。ヒルデの姿に驚き、言葉が出なかった。


「私は半妖、『魔族』とヒトのハーフ…。だから本来の魔力量そのものが少ないの…。初代様をお守りするだけの役割りしかないの…。でもね、そのつもりで力を使って、結果的に魔力切れを起こしてこの姿よ。こんな中途半端な力ならいらないし…。死にたくもなかったから保護されたの、子どもとしてね」


「その出来損ないが、妾と取り引きだと…?」


「そう。初代の弱点、知りたくない?頭を斬り落としても、初代は死なないわよ?あなたたちが知ってる、普通の『魔族』とは違うから…」


「……」


「私を生かしてくれるなら、初代の弱点と、どうして初代アイシャが『魔族』となったのか、教えてあげるわ。私はね、『魔族』でいることが嫌になったのよ…」

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