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第196話 違和感

 領主館の晩飯に間に合うように、マリアの家を出た。1人で領主館に向かうつもりが、ルナが着いて来た。何故か護衛と称して…。


「…いいのか?ワシに着いて来て…」


「ブリュンヒルデ様とイリス様、マリアたちに、アレをするんでしょ?見ていたくないんだ…。それに補助ならタマモたちがいるし…。ちゃんとイリス様には行って来たから大丈夫だよ…」


ちょっとムクれ気味だ。これ以上は言わないようにしよう。悪化して癇癪起こされたら堪らないから…。


「…アレはなぁ…。ワシもヒルデさんにしてもらったけど、マジで死ぬかと思ったよ…。苦しいやら、身体の中が燃えてるように熱くなるやら…。生きた心地はしなかった…。起きた直後も身体は動かなくてな…。結局昼まで爆睡してた」


 取り留めない話をしながら歩いていた。時間は遅くないはずだが、辺りはかなり暗い。夜目は効くから問題ないが、この暗さは何となく不気味に感じる…。町には近く灯りも見えて来るはず…。このまま何も起きなきゃいいが…。


 どうやら考えたこと自体、フラグだったようだ…。道端の草むらや木立の間から、ワラワラと湧いて来るものがある…。ルナを背後に入れ、盾になる。湧いて出たもの、それは『ゾンビ』のように見えたが、夜盗の類の


 『悪党』


だった…。数は20人弱…。『魔族』か魔物なら切り刻めたものを…。ただの悪党、ヒトじゃあ『峰打ち』しかないじゃん…。


「おっさん、そのお嬢ちゃんと金目のモノを置いて…」


と相手が言い切る前に、『アイテムボックス』から槍を出し、朱柄の端で顔面を突いた。ついでに、ルナにも短刀を渡す。


「な、何しやがる…!」


 穂先から鞘は取っていない。気にせずそのまま数人を右に薙ぎ払った。イヤな音がしたから多分、肋骨折れたんだろう…。


「…死なない程度の力だよ…。逃げるなら今のうち…。逃げないなら、倒すまで…」


 槍を頭上で回しながら呟く。ヤツらは頭に血が上ったらしく、構えることなく剣を振り回し始めた。朱柄の槍に当れば、振り回した剣など、簡単に宙を舞う…。コイツら運がなかったな…。


 結局全員を打ち倒して、『アイテムボックス』から出した縄を打ち、騎士団を呼びに行った。気絶したまま木に縛り付けたから逃げることはないだろう。


 詰所に行くと、ロアンとミーシャがいた。


「あれっ?マモルさん?何してるんです?」


「悪党捕まえたんでな、騎士団呼びに来た。ワシらはこれから領主館に行くんだよ」


と、ロアンたち騎士団数名を引き連れて、悪党を捕縛した場所に戻った。まだ目を覚ましていなかった。


「ったく、コイツら懲りねえなぁ…。でも…」


と1人が呟く。


「何だ?常習か?」


「はい、常習といえばそうなんですが、ただ違うのが、コイツら本来は複数のグループなんですよ。こんな、ツルむことなんかなかったはずですけどね…」


 何かがおかしいか…?以前にも感じたことがある、漠然とした違和感…。ロアンたちも感じているようだ…。


「マモルさん!はっきりしないけど、ナンカおかしい!」


 騎士団の連中も数歩下がった。ミーシャがロアンの背後に周り、ルナもワシと背中合わせになった。おぞましいような、息苦しいような、表現し難い感覚…。


 数分くらい経ったか…?急に感じていた違和感が消えた…。誰も何もしていない。もしや、何かが悪党に憑依していた?すると、ルナがいきなり短刀を振り下ろした!


「何してる⁉︎」


「これよ」


 ルナは暗い路上を指差した。騎士団の持つカンテラを向けると、真っ二つに斬られた羽虫のようなものが蠢いていた。


「まさか、これって…」


「下等な『魔族』よ…」


と言い捨て、ルナが火炎放射で焼き払った。確かに、真っ二つにされて蠢くのは、普通の虫ではないだろう…。何故、また今『魔族』が動き出したのか…?ここで考えていても答えは出ないな…。


「…とりあえず、今夜はこのまま領主館に向かう。ロアンたちは約束通り、昼頃に来てくれ」


 夜盗は騎士団とロアンたちに任せて、ワシとルナは、『魔族』の登場という厄介な問題を抱えて領主館に向かった。

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