第118話 紛争地エイサム領
おぞましい夢を見た…。そのせいか、妙な胸騒ぎがして目が覚めた。空はほんのり白くなり始めているものの、辺りはまだ暗い。マルタを起こさないようにしながら、ベッドから出た。着替えて顔を洗い、階下に降りた。コーヒーのいい香りがする。主人の姿が見えたので声をかけた。
「コーヒー、もらえるかい?」
「うわっ!ビックリした〜‼︎ 脅かさないで下さいよ、お客さん!」
「すまん、脅かすつもりはなかった」
「コーヒーですね。今入れます。どうぞ」
礼を言って受け取る。コーヒーを一口啜る。淹れたての香りが心地いい。だが、気分は晴れない…。夢のせいなのはわかっている。
「何かあったんですか?」
「ん?なんで?」
「お客さん、なんかすごい難しい顔されてるんで…」
いかんな、顔に出てたか…。
「ちょっと夢見が悪かっただけだよ」
コーヒーと灰皿を手にテラスに出た。外はだいぶ明るくなってきた。
何故、あんな夢を見たのか…。この後起こるかもしれないことの暗示なのか?それにしてもリアル過ぎる。この後の暗示だとすると、ワシはここで『修羅』になるのか…?そうなったら、今後マルタやマリア、ルナにタマモと一緒に生活できるのだろうか?いや、そもそも神様と会うことを許されるのか?あまりにもリアルで、おぞましく、残酷な夢…。エイサム領は紛争地で、今にも大きな内乱に発展する可能性が高い。内乱、戦争となれば、おそらく覚悟はしないとならないのだろう。
『人を殺す』
ことについて…。
◇◇◇◇◇
陽が昇り、町が動き始めた。広場に騎士団も集まり始めていた。
追加のタバコを吸いながら、自分がやりたいこと、やらなきゃいけないことを考えてみる。
やろうと思っていたことは鍛治屋とハンター。なのに、ここでは『ナイト』として、戦闘になった場合、小隊を指揮することになっていた。即席の小隊ではあるものの、人数としては、素人が統率可能な上限近い12名程度。やりたいことと、やらなきゃいけないことのギャップがすごい。
夢のことは、一旦頭から消して、行軍に集中するか。
部屋に戻ると、マルタはまだベッドにいた。
「ほら、そろそろ起きろよ。起きないと襲うぞ?」
と頬にキスした。
「朝から何言ってるのよ、エッチ!着替えるから向こう向いてて!」
窓近くに行き、北側を見た。所々で煙が立ち昇っている。焼き討ちの被害なのか、生活の煙なのかはわからない。
マルタの支度が整い、2人で食堂に行った。軽めの朝食を摂り、昨日の水筒にコーヒーを注ぐ。集合場所の広場に着いたが、メンバーは揃っていない。広場の端の喫煙所で、副長と一緒にタバコを吸う。やはり気が重い。
「荒れるかな?」
「多分、荒れるでしょうね。今や紛争地ですからね、エイサムは…」
「領主不在となった領地って、王国管理として召し上げか?」
「そう聞いています。ただ、今回の場合は、エクランド領と併合という話しも漏れ聞こえていますよ」
「何故、今回併合の話がでた?」
「一部の部族が、遠い昔に、国王家に対して謀反を起こしたという記録があります。王国直轄の管理下に置くと、同じことがあるのでは?と考える人もいますからね」
そういう経緯があったか…。王国直轄領となれば王家との争いが、併合となれば、領主や王国からの独立を考える輩も出るだろうな…。何はともあれ、先ずは平定し、エクランド氏を迎え入れる準備をしないとな。
広場には人が揃い始め、出発できる状態になりつつあった。団長が号令をかける。
「総員注モ〜ク!これより各自小隊に属して、その小隊長の指示で動いてもらう!これより名前を読み上げる!皆の右手に小隊の番号を示す札がある!名前が呼ばれたら小隊番号を確認して、ふたのところに行くように!」
名前と小隊番号が読み上げられ、ワシの小隊は、マルタとその弟子の魔法使いの冒険者、コーダとチャッキー、他に7名の騎士団による構成だ。
「コーダ、ちゃんと基礎の強化したか?」
「やりました!毎日毎日、体幹も鍛えながら」
ほう、この坊や、わりと真面目だったようだな。様子を見て、万一の時にはワシの短刀を預けよう。
マルタは弟子と連携の確認や、万一の時には後方から離脱して、他の小隊に加わるよう指示していた。
「さて、諸君はワシの小隊の所属となったが、イヤなら抜けてくれていい。騎士団のような『職業軍人』ではなく、生産職、兼ハンターだ。Aクラスということで、小隊を預かることにはなったがね。ただ、抜ける場合には『敵前逃亡』と見做されるからそのつもりで…。みんなに多くは望まない。いざという時は、自分の身を守れ。最後に一言だけ伝える。『死ぬな』、以上だ」
小隊長としての訓示、終わり。小隊ごとに馬車が割り振られ、ワシの小隊は騎士団手配の馬車になった。全員乗り込み、ワシが最後に乗る。団長や副長と状況確認してから。
全小隊が馬車に乗り込み、エイサム領に向けて出発した。




