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第四話 初接触

魔人と主人公の、愉快な馴れ初め。

部下を置き去りにして飛ぶヴァープは結構前の事を思い出していた。


長年争ってきた勇者と魔王の和解、そして魔人により両者が滅ぼされた頃、ヴァハムットやファフニル、ヴァープたちはとある貴族の下で奴隷として酷使される日々を送っていた。


物心がついた頃から親はなく、そうした生活が当たり前だと半ば諦めていた。

そこに突然現れたのが、最初の魔人メリアルだった。


高圧的に出た貴族は傭兵たちを差し向けるも返り討ちにされ、貴族も手足を削がれて動かなくなった。

絶対的と思われたものの呆気なさを目の当たりにし、自らがただ虐げられていた存在であることを初めて認識できた。

圧倒的なメリアルに影響を受けたヴァープたちは魔石を与えられ、魔人として迎えられた。


以降、彼らはメリアルと共に世界を駆け巡った。


だが、行く先々で向けられたのは奇異の視線だった。

ヒト、魔族問わず魔人は勇者と魔王を滅ぼした受け入れがたい存在、言うなれば拒絶だ。


それはメリアルが勇者と魔王から向けられたものと、同じであったという。


それが解った直後、疑問が生じた。

勇者と魔王は世界に安寧をもたらしたと言っておきながら、自分たちを救ってくれなかった。

本来救われなければならない者を拒絶し、何故そんな輩を崇拝するのか?

勝手に視線を飛ばすだけで何もしなかったお前たちが、何故そんな態度をとれるのか?


ふつふつと怒りがこみ上げ、一つの使命感のようなものが湧き出た。

そんな間違った認識を、正さなければいけない。


それが魔人たちの、同じ境遇を持つ者を救うため、また自らを世界に認めさせるための、長い戦いの始まりであった。


ある時、魔人に抵抗していた大きな国を攻めた。

防衛に当たっていたヒトと魔族の混合部隊、歴戦の戦士、逃げ惑う民衆、最後まで抵抗を続けた王族……相手が何であろうと容赦なく蹂躙した。


しかし、そんな騒動をどこ吹く風と言わんばかりに暢気に買い物をしている変な覆面の男がいた。


好戦的な性格のヴァハムットがそれを見て逆上して殴りかかったところ、逆に拳を掴まれて軽く潰された。

絶叫を上げるヴァハムットの様子から何かがおかしいと感じた魔人たちは直ぐに全員を呼び集め、総攻撃に掛かった。


攻撃は全て当たった。

が、覆面の男には何一つ効果が無かった。

打撃も、体術も、魔法も全て、だ。

そして全員返り討ちにあった。


それが変な覆面の男、ゲイン・アティーマスとの最初の接触であった。


年齢、種族、出身地はおろか、普段何を考えて生活しているのか、あらゆるステータスが不明。

その名も本人が名乗ったわけではなく、その場に居合わせた精霊が男をそう呼んでいただけで、本名なのかも不明。


せめてもの救いは、魔法を使えないという事だ。

本来魔法を使える使えないを問わず、空気のように体に入っては出ていく魔力の源、魔素をほとんどの者は持ち合わせている。

奴はそれを一切感じさせない、イレギュラーな存在であった。

しかし圧倒的な身体能力を持ち、魔人たちを一蹴した。


メリアルが駆け付けた時には地獄の様相だった。

四肢は欠けていて当たり前、酷い者では内臓や筋肉、骨が露出、または四散していた。

普通なら良くて重傷、最悪死亡に至る怪我人で溢れていた。

しかし魔人特有の生命力の高さから死亡には至らず、完全に再生するまで常に尋常ならざる痛みを味わう事となった。


中でも酷い目にあったのはヴァープであった。


「……いい気にならない事ですね……我々はそう簡単にはやられませんよ……」

肩ごと引きちぎられた両腕を再生しながらヴァープはゲインを窘める。

「試してみるか?」

再生に興味を持ったゲインはお試しと言わんばかりにヴァープの股間のモノをブチッ引きちぎったのだ。

「……」

咄嗟の事でヴァープは反応できず、ゲインの手でビチビチと動く己のモノを凝視するしか出来なかった。

その様子にニンマリと笑みを浮かべたゲインはアングリと開いたヴァープの口にそれを放り込む。

ヴァープが驚き飲み込んだ直後、ちぎられた股間のモノがニュッと生えてきた。

「たいしたもんだぜ」


それが解ってか、ゲインにとって再生能力を持つ魔人は、いくら壊してもいい玩具という認識でしかなかった。


メリアルも持てる力を賭して、ゲインに戦いを挑んだ。

が、結果は同じであった。

傷どころか、触れることすら出来ずに手足を千切られ、皮をはがれたのだ。


ゲインは再生するのに時間が掛かるほどの重傷を負わせた魔人たちに、足がしびれるような座り方を強要させて説教を始める。


「ま~最初はしゃーないし、大目に見るとするか。お前らがどこで何をするか、いちいち俺が気に障る事ではないしな……ただし!」

持っていた水筒の水をこぼしながら飲み、睨む。

「今後お前ら、俺に手を出して見ろ、この程度じゃすまないぜっ?」

そう言って水筒をメリアルに差し出す。


イマイチ意図を読めず、出血で呆然とするメリアルにゲインは囁く。

「お前がリーダーだろ?飲みな」

ちょっと汚れてプ~ンと匂う飲み口に抵抗を覚え、なかなか受け取らない(そもそも手のない)メリアルを、ゲインは羽交い絞めにして無理やり飲ませる。

ボトボトこぼしながらも飲んで咳き込むメリアルを見てゲインは満面の笑みを浮かべる。

「こいつで契約成立だ。よろしく頼むぜ……兄弟ぃ」


ゲインが立ち去っても、ふさぎ込んだままのメリアルを見た幹部たちは驚愕した。

無理やり生み出されて世界に絶望し、憎悪を向け続けたメリアルが見せたことのない顔をしていたのだ。

この場にいた幹部たちもお互いの顔を見ればメリアルと同様、真っ青になっていた。

体が震えて、力が出ない。


久しく忘れていた感覚を思い出す。


怯え、恐怖、そして死だ。


これは魔人になって以来、初めて得た感覚であった。


絶対的と思われた自分ですら、そうでなかったという現実を叩きつけられたのだ。

しかも訳の分からない輩によって。


なんとか再生して、立ち去ろうとした時に自らの手で破壊した市街地が目に映る。

ゲインにやられるまではその辺りの雑草並みに気にかけなかった風景が、改めて見ると背筋が凍り、足の震えが止まらなかった。

なぜなのか、理由が解らないことがより不気味に感じた。

だが、自分たちの行動は今更止めること出来なかった。


メリアルが精神的に回復するまで時間が掛かったものの、何とか恐怖を克服し、順調に勢力を拡大し続けた。

万が一のことも考え、魔人たちはゲインを想定して修練も繰り返し、超えたつもりでいた。

最近、新しく現れたという勇者にだって勝てるだろう。


そのはずであった……


「くっ……何故こんな事に……」


その自信は再びゲインを目の当たりにした瞬間に崩壊した。


「早く……早くメリアル様に報告しなければ……なぜこんな時に限って魔導通信を忘れてしまった事か……」


逸る気持ちでヴァープは近隣の拠点を目指し、飛行し続ける。


魔人の戦う理由に主人公は……あんまり関係ないっぽかった。

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