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第三話 微笑み

遅れました。主人公、ついに社会に姿を現す。

「……間違いないのですね?」

ヴァープは偵察から戻った、周囲の色に溶け込むことができる魔人の報告に今一度確認をとる。

「間違いありません……二人は……死にました」

周囲がざわつく。

ここにいるメンバーは選りすぐりの精鋭たちだ。

それ故に、全く聞くことのなかった死亡報告が上がったことで動揺が走ったのだ。


「てめぇ!適当なこと言ってんじゃねぇぞ!!」

気の荒らそうな魔人が短い毛をハリネズミのように固く逆立たせ、報告者の胸ぐらをつかむ。

「本当です!!魔力探知でも反応がありません!!」

魔人は体内に魔石を有するため、探知魔法を使われると独特の波長で表れる。

不利のように思われるが、お互いの場所を正確に把握できるし、魔人を恐れる敵を威嚇する効果もある。


この場にいる全員が既に探知を使い、二人分の反応が消えていたことは把握していたが、核心には至らなかった。

故に目視による偵察で確認しようとしたのだ。

それほど慎重になるぐらい、彼らにとってはありえない出来事なのだ。


「ちっ!使えねぇ!!」

報告者を突き飛ばし、森へ入ろうとする。

「止めなさい。相手は二人を殺しているのですよ」

「油断しただけですよ。待っててください、すぐ首取ってきますんで」

ヴァープの制止を無視し、ハリネズミ魔人は奥へ向かう。

「如何しますか、ヴァープ様」

副隊長から支持を聞かれるも、ヴァープは頭を抱えたまま思案を始める。

「こんなことが出来るのは……だが、何故奴がここに……」


直後、ドンッと地面が揺れる。


「なんだ……!?」

ヴァープたちは構える。ある者は体の一部を変化させ、ある者は武器をとる。

すかさず探索魔法もかける。

「観測……!?」

「魔素反応ゼロ……だと!?」

「バカな!?魔素が全くない生物などこの世にいるはずが……」

「何も反応がないとはどういう……」


ドンッドンッと地響きが続く。

「近づいてきている……」

誰しもがそう思った直後、それが止み、何かが森から飛んでくる。

「!!?」

それらは魔人たちの足元にびちゃびちゃと落ちる。

粘着質ある、黒い塊だ。


「これは……?」

「うあああああああああああああああああああ」

それらを見ていた一人が腰を抜かす。

「何事だ!?」

全員の視線が集まったところで腰が抜けた魔人の指の先にある塊を見ると、短い毛の様の物が生えていた。

「ブラシ?」

「いや、棘……これは!!」

すぐに気づくべきであった。

森の中に単身入ったはずのハリネズミ魔人の魔素反応もなかった。

全員が察した。

「バカな……口うるさいアイツが……黙ったままやられるなんて」

気の荒かった魔人は如何なる敵に対しても高圧的な言葉をぶつけていた。

それを考えると彼は発する間もなく、やられたことを意味する。


「ヴァープ様!ここは何かがおかしい、これ以上の探査は危険です。今すぐ撤退を……!?」

副隊長が進言しようとすると、そこには硬直したヴァープに、まるで長年の付き合いがあるように肩を組む覆面の男がいた。


「ぃよぅ、ヴァープ。ご無沙汰だったな。どうだい、景気は?ボチボチといったところか?」

いつの間に、と意表を突かれて驚く魔人たちを他所に、覆面男は馴れ馴れしく話しかける。

「……お久しぶりですね、ゲイン・アティーマス。今はここに住んでいたんですね」

ヴァープは気丈にふるまうも、顔を真っ青にして冷や汗を垂らしている。


男は覆面の奥で、その様子を楽しむように見ていた。

「俺だっていつまで同じとこにいる訳じゃあない。住み心地いい場所探して移り住むのはお前ら魔人だって同じはずだ……それに俺はマメでよ、転居届は送ってたはずだせ?少しでもお前らが契約守れるようによおっ!!」

耳元で怒鳴られ、委縮するヴァープ。

それを見て他の魔人たちも後ずさる。


「合点がいったぜ。ここ最近のクレイジーボーイズは全部お前らの差し金なんだな……良かったぜ、サスペンスにならずによ……だれの指示だ?ヴァハムットか?ファフニルか?それとも……ムェリウァルくぁ?」

「メリアル様は関係ありません!!」

絡みついてくる恐怖を押し殺し、必死に訴えるヴァープ。

「……偉くなったな、ヴァープ。金魚の糞みてぇにこんだけ引き連れ回してよ。メリアル共々ボコボコにしてやった時とは見違えたほどだ」

しみじみと語りながら、目出し穴から覗く不気味な眼光が辺りを見渡し、魔人たちを震えさせる。


覆面の男、ゲイン・アティーマスが口にした名前は最初の魔人にして王であるメリアル、そして彼を支える幹部たちだ。

普通の魔人からすれば到底足下にすら及ばない、天上の存在だ。

そんな彼らをボコボコにしたといった。

その話の真偽はともかく、既に3人……いや、それ以上の仲間が殺されているという事実が、魔人たちに言い知れぬ恐怖を与えた。


「ま~俺は悪魔じゃない。ほら、あれだ。微笑みは三度までってある訳だし」

ゲインがニカっと笑い、肩をポンポンと叩くとヴァープはホッとして力を抜く。

「三度目があると思うな!!ボケがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

「―――――――――――――――!!?」

突然の豹変と意味の解らなさにヴァープはついて行けず、驚愕する。

ゲインの絶叫は大気と大地、魔人たちの鍛えられた腹をブルブルと震わせる。

それにより筋肉が弛緩した魔人たちは膝から崩れ落ちるようにヘタレこんだ。


ヴァープは今すぐに気絶したかった。

しかしメキメキと握られた肩から来る激痛がそれを許してくれなかった。

「そこでだ、ヴァープ」

放心状態のヴァープにゲインが囁く。

「お前か、あいつ等か……選ばせてやる」

ようやく掴まれた肩を解放されたヴァープはペタンと座り込む。


しばらく黙ったまま考えていたヴァープはフヨフヨと浮遊し始める。

「ヴァープ様?」

その様子を不審に見守っていた魔人たちに向けてヴァープは発する。

「皆のもの、必ず戻る」

そう言って空の彼方へ消えた。

しばらくの沈黙の後。

「ヴァープ様ああああああああああああああああああああああああああああ」

残された部下たちの発狂をあざ笑うかのように、ゲインの顔が歪む。


「さぁて、お前ら……サービスタイムは終了だ」


また近々投稿します。

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