第一話 起立!
いよいよ本編。少し下ネタな表現があるので注意してください。
緑黄色野菜のような色彩豊かな森が広がる長閑な島。
エルフやドワーフ、ホビット、精霊などの妖精族が暮らす島にも魔人の脅威に晒されていた。
「この引き際……いい指導者でしょう」
攻め込んだ村はもぬけの殻だった。
隊長らしき人物が感心する一方、兵士たちはがっかりする。
「くそっ!せっかくエルフ女とヤれると思ったのによ!」
「ヴァープ様!ここまで来たんです。隠れ家を見つけて一気に攻め込みましょう!」
ヴァープと呼ばれた隊長は部下の進言を受けつつも冷静に応える。
「忘れましたか?確かに我々の目的は実験材料である精霊、そして相当数の虜囚の確保です。しかし今回に限っては優先項目がございます」
「……わーってますよ……ここ最近、この辺りに来た連中が軒並み行方知れずになってるんでしょ?その探索と原因究明……ったく、どこでサボってるやら……」
兵士がそういうもの無理はない。
魔人は非常に強力で驚異的な身体能力を持つ。
更に訓練を経ずとも、強力な魔法を放つこともできる。
それが訓練を施され、盟主であるメリアルに絶対的な忠誠を誓う軍隊を成している。
決して不死ではないものの、非常に倒しにくい存在。
そんな魔人が、妖精族の島周辺で行方不明になる事態が相次いだ。
それ程の者が何ら連絡をよこさないまま行方不明になる理由が解らない。
独占?
死亡?
前者なら明らかな命令違反だ。
これまで反乱はなかった訳ではない。
その都度、メリアルによって処断され、現在のような強固な軍隊になった経緯がある。
今更それは考えられない。
後者の場合……これはヴァープが最も考えたくない事であった。
「まさか……な」
ヴァープの思案を他所に兵士たちは無人の村を散策する。
「ほんっと、ヒトッこ一人いねーや……金目の物でもねぇかな?」
全身を金属の皮膚で覆われた大男は不満げに家屋を荒らしていた。
「小さい弓……ガキがいるのか?エルフってのは女でも弓を引くんだったな」
金属の魔人は光り具合で強調されたいやらしいニヤケを浮かべて、これまでの行いを思い出しながら勝手な想像を広げる。
「エルフだろうがドワーフだろうが……締まり具合はただのヒトのガキとどう違うか、楽しみだぜ、へへ……」
「グルルルル……」
「!?」
どこかから響いた獣のような唸り声が、膨らんだ期待に突き刺さり一気に萎む。
「なんだ……?」
警戒を強めて音の元へ恐る恐る覗くと、その正体が露になる。
「こいつは……何だ!?」
そこには二人いた。
テルテル坊主のような服装を着て頭を覆い、濃いめの毛で覆われた逞しい四肢を放り出し、豪快ないびきをかいて寝る、得体のしれない男。
もう一人は寝ている男の股に直立していた。
全身少し黒ずんだ肌色で頭頂部に一の字の切れ目がある以外、顔もなければ腕や足もない。
表面は太い血管が鼓動を打ちながら何本か浮き出ていて、寝ている男が呼吸をする度にゆらゆら動くだけだ。
よくよく見ると寝ている男の股にくっついている。
金属男は寄生型のワームの魔物と思ったが、根元に拳大の球形が二個くっついているのを見て、ようやく正体を察した。
「……まさかぁ!!」
そう、ここには最初から一人しかいなかったのだ。
金属男が必死に凝視していた物は、モザイクをかけてもあまり意味がないほどの、覆面男の立派な朝の起立であったのだ。
「ふ……ふっざけんな、てめえええええええええええええええええええええ!!」
体同様に金属に覆われた拳が勢いよく立派なそれに叩き込まれる。
次の瞬間、半鐘のような鈍い音が島中に余韻となって響き渡る。
これが、魔人たちの命運を決めるゴングになろうとは、この時誰も気づかなかった。
また近々投稿します。