コーラル
/シュベル
コーラルを爪で摘まんだまま塒へと向う。
簡単に殺したりはしない。全てを吐かせ、必ずグリンヒルデの王と共にその腹を割き、切り刻み、跡形もなくしてやる。
塒へ飛ぶ私の後を追うように、デイハが追従している。
《カシ、ベルン》
《はっ》
《お側に》
《ブリゲルタの遺骸を全て回収せよ。王としての厳命である。直ぐさま皆に伝えよ》
《はっ》
《シュベル様。そのことでお話がございます》
《なんだ?》
《映像で見せた、ブリゲルタ殿の遺骸の一部については既に回収が済んでおります。
私が、そのまま名もわからぬ者に仲間を差し出すとお思いですか?》
《そっ、そうか……》
このままグリンヒルデなどに、友の遺骸を渡してなるものかと2人へ指示を飛ばしたのだが、既にベルンが頭部などは持ちかえっていると話した……。
実は、渡してしまったと思っていた、その返事にどもってしまう。
塒へが見えると同時に、多くの竜たちが飛び立つのが見えた。
残りの遺骸を捜すのだろうと思い、2人へ視線を向ければ首を上下に一度だけ動かした。
《それで、シュベル様。コーラルどうするつもりなのですか?》
《全て吐かせた上で、どこか海上の島にでも捨てるつもりだ》
《なるほど……ですが、それにはまだ利用価値があります。海上の島に捨てるよりは、我らで上手く利用すべきかと思いますが?》
《どういう風に利用する?》
《そうですね。まずは、先ほどシュベル様が壊した宿への謝罪をさせるとかでしょうか……?》
ぐぬっ……。怒りに任せこれを捕らえるため、宿を壊したのは認める。だが、これを使って謝罪とはどういう意味だ? どこか棘を感じるベルンの言葉に、顔を向ければジトっとした視線で私を見ていた。
《ベルン。ついでだお前の雇い主も連れて来い》
《かしこまりました》
ベルンにゴードヴィズ商店の店主を連れてくるよう伝えれば、大きく旋回しデュセイへと戻っていく。
それを見送り、どっと出た冷汗を吹き飛ばすように首を振り、視線を前へと戻すと塒へと降り立つため、旋回をはじめた。
降り立った私へ駆け寄るジオールに、前足の爪で掴んだコーラルを投げて渡すと私も魔法:擬人化を使い人姿へと変わった。
「シュベル様、こやつは!」
「コーラルだ」
「何故ここに連れてきたのですか!」
「全てを吐かせた後、海上の島に捨ててやろうと思ったのだが……ベルンの提案で利用するためだ」
「……子竜とメスを直に隠さねば」
「そうしてくれ」
「皆聞け。子竜や卵、メスは急ぎに屋敷へ移動せよ。
オス以外今日よりここを立ち入り禁止とする!」
ジオールとの会話で、メスや子竜たちへの配慮にかけていたことを知り反省すると同時に、大きな声を張り上げ塒に残る者たちへ通達を出した。
急ぎ離れるメスたちに抱えられるようにして移動する子竜や卵を見送り、水魔法の水弾を作り出しコーラル水をかけた。
濡れたことで意識を取り戻したコーラルが、その瞳を開き周囲を囲む人の姿を取った私たちを見回すと勘違いしたように感謝の声をあげた。
「助けてくれたのだな。感謝する。まさか竜に襲われるとは……何もしていないのに襲うなど、恐ろしいものだ! 謝礼は弾ませて貰う。早急に私をデュセイまで送ってほしい」
「……」
「なんだ。言葉が通じないのか? これは困った……どうしたら良いだろうか……」
「お前は何を勘違いしている? ここは竜の塒だ。目の前にいる私がお前を襲った竜だと何故気付かない?」
月を隠した雲が、大気の流れに乗り移動していく、徐々に見える私たちの怒りを乗せた視線を真っ向からうけた、薄ら笑いを浮かべたコーラルの身体を震わせると同時に私をその視線で捉える。
「あなたは……ハーナス卿では?」
「そうだ。人族の間では、竜大公と言われているシュベル・クリム・ハーナスだが?」
呟くように私を呼び、竜大公だと名乗ってやると漸く理解に至ったらしいコーラルが、その身を庇うよう自身の両腕で抱きしめる。
「お前から手紙が何度も届いていたな……用があるのであろう? 今ならば聞いてやろう」
「そっ、それは……」
傲慢とも見える笑みを浮かべ、彼へ問いかける。
どもり必死に視線を彷徨わせるコーラルの姿を見下すよう見つめていた所に、ゴードヴィズを前足に掴んだ状態でベルンが戻ってくる。
投げ出されたゴードヴィズは、その衝撃で目を覚ますと脅えるよう辺りを見回しコーラルを見つけその身体に擦り寄ると助けてくれと懇願した。
「コーラル様。どうかどうかお助け下さい! 竜が竜が攻めて来たのです」
必死の形相で訴えるゴードヴィズを、鬱陶しそうな表情で跳ね除けるとコーラルはいい訳をはじめた。
「どうかお聞き下さい。竜大公さ――「煩い」」
「いいか? お前たちの言い分などどうでもいいのだ。聞いたことだけに答えろ。 そうすれば、その命助かるかも知れんぞ……」
いい訳を聴く気も時間も無いのだ。
さっさと終わらせるため、低い声を出すと恐怖を覚えさせるように目を眇め言葉を告げた。
「さっそくだが、お前がその男から購入した竜の遺骸はアレ以外にもあるのか?」
暫く沈黙し答えようとしないコーラルとゴードヴィズに、指先に炎の玉を作り出し近づけてやる。
おびえた声をあげる2人に、さっさと答えるよう促せば詰まりながらもゴードヴィズが答えはじめた。
「ほっ、他にもごっ、ございます」
「いくつだ?」
「個数までは……ひぃ!」
はっきりとしない彼の顔へと炎を近づける、毛が焦げるような匂いを漂わせ必死に言い繕う。
「はっ、はっきりと覚えておりませんがっ、すっ、数百には及びます」
「それを全てこの男が買ったのだな?」
「はひぃ」
ゴードヴィズの証言が済み、コーラルへと炎を近づける。
質問をはじめてから一言も話そうとしない、彼の長く伸ばした髪と首の皮スレスレを、無言で風魔法の風刃を使い切り落としてやる。
コーラルは首筋に手を当て、血の着いた己の手を見て目を見開き。
カタカタと歯を鳴らし震え怯えはじめた。
「お前の買った物はどこにある?」
「くっ……くにゅに……」
意味がわからん……脅しすぎたか? 気のせいと言うことにしておくとしよう……。
「くにゅとは、国のことか?」
「ひゃい」
どうやら全てがグリンヒルデに運び込まれているようだ。
もっと早くこうしておくべきだったのではないか? と自身を責めつつ、他にも聞くべきことがあると思い直し詰問する。
「お前の弟である、第3王子が私の娘を欲していると言う情報がある。事実か?」
首を縦に振り同意を示すコーラル。
「どうやって連れて行くつもりだったのだ?」
「……」
「答えよ!」
俯くコーラルの髪を掴みあげ、顔を此方へ向かせ視線を合わせ声を張り上げる。
「……ゆ、ゆうかいして……」
「どう誘拐しようとした? 計画を話せ!」
「ふっ、くっ、ぐっ、ぐりんひるでのっ、ぜいをたっ、たいのうっしっているこっ、こくみんに……」
「国の民を使ってどうやって誘拐するのだ!」
「かっ、かがいがくっしゅうで、ごっえいがいっ、いないっあ、あっいだに……がっ、がくえんのせいとのひっ、ひとりにおっおびきだすようにっ、つったえてあっあって、」
「その生徒の名は?」
「じぇっ、じぇしかまるせっゆうふぇりてでっす」
「何故その生徒がお前に協力するのだ?」
「はっ、ははおやのやっ、やまいをなっ、なおすためのっひっ、ひようをだすと……」
やはり……学園の課外授業だったか……国の民を使い、ジェシカにおびき出させ誘拐する。ジェシかはウィリアをおびき出せば、コーラルから母親の治療費を出すと言われ協力することにしたと……。
人族とはなんと自己中心的で浅はかなのだ。
自身が母を大事に思うのであれば、ウィリアにもまた家族がいるのだと何故考えない!
「カシ。直に皇王たちに知らせろ。今すぐジェシカ・マルセ・ユーフェリテを捕らえ尋問しろとな」
「お前たちにも共に来てもらうぞ……まだまだ聞きたいことが山ほどあるのだからな……」
返事を聞くこと無く、コーラルの髪を投げるように離し、拳を握り締めると吐き捨てるようにカシへと伝える。頷いたカシは空魔法を使い消えた。それ見送り、罪人へと告げるとデイハがコーラルをジオールがゴードヴィズ掴みあげカシを追うように皇城へと空魔法を使う。
《ユルセイ、リューク、アルティ。今すぐ宿屋に残るコーラルの従者を捕らえ皇城へと連れて来い。それから、ベルンは私の自室にある羊皮紙と記録の映像を持ってくるのだ》
思念で指示を出し、私も皇城へと空魔法を使い移動した。
いつもありがとうございます。
終章に入りました。最後までどうぞお付き合いくださいますようお願いします。




