託された策 version.ボルフ
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/ボルフ(公爵)
まさか、あんなことになるとは思わなかった……と言うべきだろう。
その日、私は公用で登城していた。
朝から忙しなく訪れる来客の相手をし、昼食を食べ、書類仕事をこなして。
漸く一息つけると茶を嗜んでいるところに、宰相であるノービス殿が訪ねてきた。
彼は、仕事のできる男だ。義兄である、皇王陛下の信頼も厚い。
最近では、竜大公となられた竜族の方とも親しくしていると聞いている。
そんな彼が私を訪ねてくるとは、何か事が起こったのだろうかと心中穏やかでは居られなくなった。
「ウッドビル公爵様、陛下がお話したいことがあるとおっしゃっています。ご一緒に来ていただけますか?」
「あぁ。行こう」
彼の言葉に、直さま立ち上がり着いていく。
連れて行かれた先は、会議室だった。そのことに、やはりと頭の中で考え、気を引き締め入室の許可を待った。
侍従が扉を開け、私たちに入室を促すまでそう時間はかからなかった。
足を踏み入れた会議室内には、緊迫と言うよりはどこか和やかな雰囲気なのだ。
そして予想以上に人が多くいた。
瞬時に目を走らせれば、驚いた。
皇王陛下の隣にはいつの間に訪れたのか……? セルスティア王国の国王陛下が座っている。
陛下方の円卓の机を対面に挟み座るのは、黒い髪を背で縛り鋭い金の瞳をした男なのだが、私はその男をどこかで見た気がした……。はて、どこでこの男にあったのだろうか? と思考を巡らせるも、その男の周囲に座る、男たちの鋭い視線の方が気になり、思考を停止させた。
壁際には、陛下方の護衛なのだろう、魔導師を挟み騎士が2名が間隔を空けて立ち。逆の壁にも同じように、騎士が2名立っていた。
その視界の端に、紫苑色の髪の淑女と皇女殿下が移る。2人はこちらを見ることなく、窓際に椅子を置き座って話している。
宰相に促され、皇王陛下の隣の椅子へと歩みを進め。
陛下に忠誠を尽くす、臣下としての礼し、恐れ多くも隣へと座らせていただいた。
陛下が、私へと視線を向けられ、落ち着いた声音で話し出される。
「ウッドビル公爵ボルフよ。今日そなたをここへ呼んだ理由について話そう。
そなたの自宅に、グリンヒルデの者が出入りしていると言う報告を受けた。
あの国は、我が国が王と認めた竜大公に対し、良からぬ噂があることはそなたも承知しているはず、釈明があれば申してみよ」
理由とはなんだろうか? そう思いつつ話の先を聞き私は驚き、愕然とした。
陛下は、私をお疑いなのだろうか……?
「失礼ながら、私とグリンヒルデの者が何か画策をしているとお疑いなのですか?」
不安になり、陛下へ問いかけてみれば、陛下は頭を振り否定される。
そこで、先ほどの言葉を思い返し自身の記憶を漁る。
グリンヒルデの王子と息子が同級生だったことを思い出すも、彼の王子は既に何年も前に帰国しているはずだ。と思考しつつ、自分との関係性を否定する。
「私とグリンヒルデに繋がりはありません。
息子の同級生にグリンヒルデの王子がいたことは、存じておりますが、彼は既に帰国しているはず。思い当たる者がおりません」
そう訴えれば、陛下は少しだけ肩の力を抜かれたように見えた。その様子に私も、疑いが晴れたのだと心底安堵した。
「実はな、その帰国したはずのグリンヒルデ王国題王子コーラルが、密入国の据えこのデュセイに滞在しているのだ。
更に、こちらの耳の報告では……。今、そなたの屋敷をそのコーラルが、訪れているのだ」
穏やかな声音で告げられた事実に、私の驚き不敬であるのも忘れ陛下を凝視してしまう。呆然自失状態で、見つめる私へ陛下が名を呼ぶことで呼び戻してくださった。
不敬であったことを恥て、顔を下げ記憶と思考を巡らせあれもこれも違うと思い出しては否定して……。
そう言えば、侍従が報告していたなと関係がないと思いながらも辿っていく。
留守中に、ゴードヴィズ商店の店主が手紙を届けに来たと言っていたが、書斎を確認してもそんな手紙はなかった。
私は愛しい妻を早くに亡くし、息子しかいないのだ。ゴードヴィズが手紙を届けた相手は……フィルボしかいない。
フィルボとゴードヴィズに繋がりがあるとすれば、そこの娘と学園で同級生だったことぐらいだろう。
だが、既に結婚し嫁ぎ先にいるはずの彼女が、独身であるフィルボに手紙を出すことは考え難い。
学園の同級生か……。グリンヒルデの代王子とも同級生だと再確認し、ハタと、ここ最近の息子の様子について思い出した。
いつもは、私を避ける息子が数日前に、友人を呼びたいと直接伝えにきたこと。今朝は、来客があるとやたらと上機嫌で張り切っていた。
ある疑念が湧きあがる。
もし、今私が考えていることが事実ならば、それは皇王陛下に対する反逆となるのだ。
急ぎ確認せねばと、机に手を突き立ち上がった。
「フィルボ!!」
無意識に、息子の名を叫んでいた。
そんな私を宥めるように、肩に手を添えたノービス殿がある羊皮紙を渡してくる。
なんなのだ? と考えるもそれに目を通していけば、ゴードヴィズの名と息子の名が記されていることに気付いた。
「それは、第2王子が言うところのお友達と呼ばれるものたちのリストです。
あなたのご子息である、フィルボ様の名も記載されております」
言われずとも判っている。愚かな息子が、この国へ反逆しそうなことなど……。
それでも、私にとっては唯一無二の息子だ。どうすればいい……? お前は何をさせたい?
「……あぁ。確認させてもらった。それで? 私は何をすればいい?」
協力を申しでることで、少しでも息子の命が守れるのであればと伝えれば、彼は策士のような表情を造り眼鏡を押し上げ、私への蜜命を告げた
「ひとつ、息子さんからコーラル殿下が何をしようとしているのか、情報を引き出していただきたい」
無言で頷いた。息子を問い詰めたとしても必ず情報は手に入れよう。
「ふたつ、ゴードヴィズ商店と取引していただきたいのです。
彼の興味を引くものはこちらでご用意します。必ず食いついてくるとお約束しましょう。そして、あなたにはその際、ひとつ偽りをついていただきたいのです」
「偽りだと?」
「えぇ。竜大公様と懇意であると……」
取引を申し込むのはかまわない。
だが、何故竜大公様と懇意にしているなどと、偽りを言う必要があるのだ?
「何故。そのような偽りを言う必要があるのだ?」
「グリンヒルデが絡んでいると示すためと申しておきましょう」
ノービス殿の声に、理解を示したのは正面に座る黒髪の男だった。
「ふふふっ。なるほどそう言うことか。宰相は実に面白いことを企むのだな。
鱗を2、3枚用意すればことたりるのだろう?」
突然、会話に割り込んだ男がそう伝えればノービス殿は大きく頷いた。
それを見た男は、ふたつ隣に座っていた珍しい青紫色の髪をした金目の男を呼び、何事か伝えるすると、伝えられた男は、頷くと同時に姿が消えてしまう。
何事かと驚いて周囲を見回していれば、宰相から魔法です。と教えられた。
落ち着く間も無く、消えたはずの男が戻ってくるとテーブルへ両手に抱える、透き通った青紫色の石を置いた。
それを凝視する陛下や国王陛下が、感嘆の息を漏らし口々に美しいと伝えた。
「お前の鱗にしたのか?」
「えぇ。抜けた鱗ですし塒に溜まっていますから」
黒髪の男と青紫髪の男が、自分達にだけで会話している。
「シュベル様、早速のご協力ありがとうございます」
「気にするな。この程度で、仲間やウィリアを守れるのであれば安いものだ」
そんな彼らに、ノービス殿が助力の感謝を伝えれば、気にしなくて良いと気安く返している。
ノービス殿が様付けで呼ぶ相手など、王族か他国の王しかいない……。
――まさかこの男……、いや違うな、この方も他国の王なのか?
「竜大公様にご用意いただいた、この鱗を餌にゴードヴィズ商店と取引していただけますか?」
確認するノービス殿の言葉に、驚いたというより震えあがる自分がいることを感じた。
まさか目の前の座る黒髪の方が、竜大公ご本だとは……。
この方が、そうなのか。
「ご挨拶が遅くなり申し訳ありませ――「問題ない。公爵、お前の協力に期待している」」
急ぎ立ち上がると、挨拶の文言を伝えるため早口で謝罪しようとすれば、私の言葉に被せるように竜大公様は言葉をかけられたのだ。
この密命は、ここにいる3人の王からなのだと自覚した――。




