根源……回復魔法①
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/シュベル
娘が運び込まれ、ウィリアの魔法が発動されるまで差して時間はかからなかった。だが、その神聖魔法を使った治癒の威力を知るには十分だった。
彼女の中で、魔力が魔力操作により循環されより濃く練られていくのが分った。魔力を練れば練るだけ、彼女の髪は黒くなっていく。それと同じく、ウィリアの濃い紫のはずの瞳が何処までも黒い漆黒に染まっていく姿を私たちは邪魔することなく見守った。
「極上回復」
いつものウィリアの声音ではない声で詠唱すると、魔法は発動された。ウィリアの髪が無風のはずの室内で靡きはじめる。その手の中から小さな発光する青い光が現れると、徐々に大きくなりやがて室内全てを飲み込んでいった。あまりの眩しさに目を瞑る。
その光が収まり、目を開ければ室内に無数に漂う小さな青い光が舞っていた。そんな室内へハロウが戻ってくると、舞っていたはずの青い光は彼の周りを見えない何かに支配されたように集まり回りはじめると、怪我を負った足へと吸い込まれていった。
私を含め皆が何が起こったのか理解できなかった……。娘に使ったはずの極上回復の残滓が何故ハロウへ吸い込まれていったのか……?
「なっ……、何が起こったのですか?」
宰相ノービスが、目を見開き呆然とそう呟いた。
ハタとハロウが自分の膝に触れた。その手に持っていたはずの杖を外し何度か膝を折り曲げ足を動かし、扉へ歩き、元へ戻ると気がふれたかのような笑い声をあげた。
「はははははっ。足が! 足が治った!!」
「……うっ、うそだろ?」
横に居た国王が目を大きく見開き手を震わせハロウの方へ1歩をゆっくりゆっくり踏み出した。そこへ、アルミスの悲鳴のような声が響き、走りかけよる足音が続いた。
「ウィリア様!!」
ハロウに気を取られていた私たちは、後ろを振り返る。そこには、意識を失ったいつもの姿のウィリアがアルミスに抱き上げられていた。遠目に見てもわかるはずの魔力が、今は見えない。
私は早足でウィリアへ近付く。近くで見れば選り鮮明にその顔色が悪いのが見て取れた。だらりと垂れたその手に触れる。体内に残る魔力の残滓がかなり少ない……。このままでは、危険だと判断した私は、そのまま手を握り締め自分の魔力の半分をウィリアへ流し渡した。
流し終え顔を見れば、先程より大分まし程度にはなっている。ふぅ~。とひとつ息を吐くと握り締めた手を離し、不安そうに見ていたアルミスへ声をかけた。
「もう、大丈夫だ」
「よっ、良かったですわ」
目尻に、涙を溜めたアルミスの頭を撫で、立ち上がる。後で心配する皆へ頷くと一様に安心した顔をしていた。
「しかし、何故ハロウ殿の足まで治ったのでしょうか?」
その疑問を口にしたのは、ベルンだった。確かにおかしいことではある、だがウィリアの失った魔力量からみて、きっと彼女は自身が持つ魔力全てを使ったはずだ……。もし、彼女がこの室内全ての者を治すつもりで発動したのであれば途中で室内に入った彼にも適用される可能性は大きい。そう考えれば不思議ではない……だが、髪のや瞳の色が変わるなど過去の竜たちの記憶にも無いのだ……。
ひとまず、皆を落ち着かせるため、私が考えた仮説を皆に話して聞かせた。
話しを聞き終えた皆は、それぞれ何か考えるような仕草を見せていたが、これ以上探るなと言う私の無言の圧にそれぞれ、思うところはあるだろうが思考を打ち切っていたようだった。
魔力枯渇による眠りについているウィリアのために、魔法:個人箱からベットを取り出す。アルミスが抱き上げ刺激しないよう優しい手付きで寝かせ布団をかけてやっていた。
ウィリアの件がなんとか落ち着き、治療を受けた娘へと話が移る。父親にどうやって真実を語らせるかについて話し合いをする。彼女自身に説得させるべきと主張した、宰相ノービスの言葉が採用され、その説得は国王が行うこととなった。
夕方には目を覚まし食事をしっかり食べていた。娘の名前は、カレラと言うらしい、娘を産んだ母親は既に他界しており父と2人で暮らしていると語っていた。自分が重い病を患ったせいで父親に迷惑をかけていることも自覚していた。
「カレラよ、父がそなたの治療をするため、その命を差し出そうとしている。そなたはそれでいいのか?」
国王の問いに、涙を流し首をふるカレラは、泣き止むとその瞳に決意を宿し国王へ嘆願した。
「王様! お父さんを助けたいです! どうしたらいいですか?」
カレラの決意を国王は、優しい瞳で受け止めその頭を撫でる。少し頬を赤くした彼女に彼は父親を救える方法を話して聞かせた。
「いいか? 明日、お前の父はきっと王城へやってくる。お前は父に真実を話させるのだ! そうすれば、私が必ずお前の父とお前を救ってみせる」
「本当に、お父さんを助けてくれますか?」
「あぁ。約束しよう」
彼女の前に膝をつき目線を合わせる国王はしっかりと頷くと優しい父親のような顔をして笑っていた。それを見守る私もまた、彼女とその父親を救うと心に誓った。
怪しまれないよう、彼女を自宅へと帰宅させると話しを決めていた。もしかしたら、彼女自身を狙う輩が現れるかもしれないと発言したデイハの言葉により、その護衛として王直轄の騎士たち10名が、平民の格好をして彼女を送り届けるため姿を見せた。
彼らは、カレラの前へ膝を突くと騎士らしい所作を見せ、優しく笑いながら自己紹介をしていた。もしもの時のためにと、魔法:個人箱からウィリアの学園監視のために作った魔道具ふたつと鏡を渡す。使い方の説明はベルンに任せ、ベットに眠るウィリアの元へ歩を進めた。
眠るウィリアの顔つきはやはりと言うか、幼く歳相応に見える。彼女の髪を梳きその頬に触れれば柔らかく暖かい。
「カレラが無事目覚めたぞ……。ありがとう……ウィリア」
誰にも聞こえない声で、優しく告げた。
『ふふっ……。君は本当にウィスユリアを好いているんだね!』
頭に突如聞きなれない言葉が降りてくる。はじめは、ウィリアが目覚めたのかと視線をそちらに向けた。だがその声音は彼女とはまったくの別人のものだった。
『2度目だね! シュベル・クリム・ハーナス! 彼の魂を持つ者』
『……っ!』
『そんな、怖い顔しなくて大丈夫だよ! あぁ、僕も自己紹介するべきだね! 創造神カルミティアルって言えばいいかな?』
跪くため立ち上がろうとした私を、カルミティアル様は慌てて止めた。
『ちょっと、ダメダメ! 僕は今内緒で君と話してるんだから! 頼むよ~』
『わかりました。それで御話とはなんでしょうか?』
『うん。さっきのウィスユリアの魔法についてなんだけど……』
『はい』
『これ以上彼女に使わせちゃダメだよ?』
『何故か御伺いしてもよろしいでしょうか?』
ウィリアに回復魔法を使わせるなと言うカルミティアル様の言葉に、一抹の不安を感じた。
『さっきの回復魔法は、この世界の魔力と彼女の根源を混ぜて使われた魔法だからね……。あれを使わせ続ければ、彼女はいずれ魂ごと消滅する』
根源を混ぜただと?! あまりのことにゾクっと身体を震わせた。
根源とは、魂そのもの……。魔力と根源を混ぜることは誰にでもできる、その威力は通常より遥かに凄まじい。だが、代償は重い……。根源を使い果たせばその者は消滅することになる。代償を受けるのは、1回か、5回、10回かは消滅しなければわからないのだ!!
700年前になるが神殿の巫女が、疫病にかかった人々を救うため根源を混ぜた大魔法を使い、本人はその姿ごと消滅したと聞いたことがある。
ウィリアも使い続ければそうなるのだ……。なんとしてもそれは避けねばならない! 彼女を失うつもりはないのだ!! カルミティアル様へ縋るような気持ちで問う。
『そんなっ……!! ウィリアを失いたくありません!! 私はどうすれば……』
『うん。だからね……、僕は君に約束をしてほしいんだ。今後、ウィスユリアに根源を混ぜた魔法を使わせてはいけない。言ってる意味分るよね? 君は同じ過ちを犯さないでしょ?』
『もちろんです! お約束いたします! 決してウィリアに使わせないと……』
『うん! よろしくね。……あ、そろそろ時間だ。ウィスユリアが起きるよ! 彼女をたくさん抱きしめて、愛してあげてね! じゃぁね~』
軽快な口調で言うと、カルミティアル様の気配が薄くなったように感じた。
静かに目を閉じ、彼の神へウィリアを消滅させたりしないと……固く誓い、決意するのだった。




