西門到着
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/シュベル
次の日、朝早くから塒を出発し、前日進んだ森まで空魔法を使い移動した。昨日と同じように、馬車に乗り込み、何事もなければ昼には皇都に到着する予定だ。
馬車の窓から見える田園景色が草原や何かの施設などの建物になり、あぜ道が整備された石畳の道に変化した。広く取った御者台への窓から顔を出したウィリアは目の前に見える皇都を囲む景色を見上げるように眺めていた。
「ほれ、ウィリア様もうすぐ皇都じゃ!この丘を越えれば城壁がみえるじゃろうて」
「そうなんだ! 早く見たいなぁ~!」
ジオールの声に、ウィリアは上半身を器用に御者台へ続く窓から出した。
「ウィリア様、あまり顔を出しすぎると危ないですよ」
カシが心配そうな顔をして窘める。ジオールは、そのゴツゴツした手で顔を出すウィリアの頭をワシワシ撫でていた。
石畳の道を馬車はゆっくりと進み、丘の頂上に差し掛かる
「うわ~! 大きい!」
好奇心を擽るのか、ウィリアは馬車の壁に両手を突き顔を窓から突き出していた。見るものが見ればまるで、馬車に生える生首のように見えたかもしれない。
喜ぶウィリアの様子に、ほっこりする面々を余所に馬車は進んでいく。皇都には、3つの門があり日の出と共に開門し日の入りと共に閉門する仕組みになっている。今回、皇都に入るのに使用した門は西門だ。
門の前には、入門する為に人の列ができていた。その列に並び様子を窺っていると数名の兵士が、入門する者の検査を行っているようだ。入るためには身分証が必要で、我々は竜神アルバス様より賜った物を見せる事で通過できるはずだった。
順番を待ち身分証を見せたのだが、兵士はその身分証を見て、「少々お待ち下さい」と言うと慌てたように詰め所へ入っていった。
暫く待つと、詰め所から、先ほどの兵士より明らかに高そうな鎧を着た兵士が、数名の兵士を連れこちらへ歩いてきた。馬車の直ぐ側まで来ると軽く頭を下げ
「お引止めして申し訳ありません。私は、この西の門を預かります。西門警備隊の隊長を勤めさせて頂いております。ガラド・アリーゲルと申します。よろしくお願いいたします」
訝しむ私の視線を感じたガラドは、自分から名乗りニカっと笑った。
「あぁ、私はこの者達の主でシュベル・クリム・ハーナスだ、よろしく頼む」
自分の名を告げて、差し出された手を握り握手を交す。
「今回、お引止めしたのは皇宮より、貴方様がお持ちの身分証を持った方が見えられたら、皇宮より使者がここに来るまでお待ちいただきたいと通達があった為でございます。お待たせする事になり申し訳ありませんが、使者殿が参られるまで、どうぞ、汚いところではありますがあちらの詰め所の方でお待ちいただけませんでしょうか?」
彼の言葉を聞く限り、どうやら……、この国の皇王の気遣いらしいことが分った。私は、彼の問いに頷き礼を伝えた。
馬車で待っても良いのだが、折角だからと誘ってくれたガラドの言葉に甘える事にした。
そうして通されたのは、詰め所2階の20畳はある部屋だった。壁は、規則正しく詰まれた石、床は木材を使ったフローリング、内装は、美しい模様をしたカーペットの上に大きなソファーが幾つか並び、その中央に木材で作られたシックで大きなテーブルという配置だった。
ソファーに座るように促されシュベルとウィリアを挟むように、カシとジオールが座りカシの右にベルンが、ジオールの左にアルミス・ルリアが座った。
それを見た、隊長はドア近くに居た兵士に、お茶を持ってくるように言うと、自身もシュベルの目の前に座った。
「まずは、紹介しておきましょう。私の左後ろにいるのがこの西門警備隊で副隊長をしている、セル・シュゼール、そちらの机に座っているのが、書記官でジル・バーンです」
ガラドが軽く自分の側に居たものを紹介すると、各々居住まいを正し自己紹介をはじめる。
「副隊長をしております。セル・シュゼールです。よろしくお願いします」
「書記官を担当させて頂いております。ジル・バーンです」
丁寧に頭を下げる彼らに、私も名を告げることにする。
「あぁ、よろしく頼む。私はこの者達の主でシュベル・クリム・ハーナス、左から、ルリア・アルミス・ジオール・ウィスユリア・カシ・ベルンだ」
名前を呼ばれた順に、会釈する。顔合わせが終わるタイミングを見計らったように、ドアがノックされてカートを押して女性の隊員が入ってきた。
優雅な手つきで、カップに紅茶が注がれていく。紅茶の芳醇な香りが室内を満たす。「失礼します」と言う声と共に、ティーカップが目の前に置かれていく。最後に、焼き菓子やサンドイッチなどの軽食を乗せた皿がおかれると、女性隊員は部屋を後にした。
「さぁ、どうぞお召し上がり下さい。この焼き菓子は今、この皇都で流行のハニー・ルーと言う菓 店の物で、非常に美味しいと評判なのですよ! 私も是非食べてみたいと思っていたのですよ!」
そう言うと、ガラド隊長はひとつ手でつまみ、口に放り込むと美味しそうな表情で口を動かしている。
「シュベルお父様、美味しそうですね!いただきましょう♪」
ひとつお菓子を手に取り可愛い笑顔で、私へ薦めてくるウィリア
「そうだな、いただこうか」
皆に視線を配り、ウィリアの指に挟まれた焼き菓子を口に含む。花密を使って作られたのか、その香りを残し程よい甘さで男性でも食べやすく作られていた。お返しに、私もひとつ菓子をつまみ、ウィリアに食べさせる。
少し恥らったような素振りで、その小さな口を開け菓子を食べるウィリアの可愛い事――。そう!今この瞬間を永遠に残すのだ!はぁ~、幸せだ……!!
無言でカシに、軽くひじ鉄を貰い顔の筋肉を元に戻す。最近、慣れてきたのかカシやベルンは、無言で肘鉄をしてくるようになった!!
「その、少しお伺いしたいのですが……」
遠慮気味に副隊長のセルが質問する。
「あぁ、答えられる事なら答えるぞ」
「ありがとうございます。その、お嬢様ととても仲睦まじい様子でしたので、普段どう接してらっしゃるのか気になったものでして」
「そうだな、私は、ウィリアがとても可愛いと思っているのでな、基本この子の言う事ややる事に対しては反対しない。失敗から学ぶ事もおおいのでな」
「なるほど……。もし、お嬢様が誰かに迷惑をかけるような事をした時はどうされているのですか?」
「そういうことをする理由を聞き、ダメな場合はダメだと伝えるな」
「それでも、してしまった時は?」
「そうだな……、そういった事がいままでにないのでな、私にもわからないな」
「そうでしたか……! とても、利発的なお嬢様なのですね」
「いや、力になれなくてすまないな」
「いえ、とんでもございません」
少し、落ち込んだ様子の副隊長の肩をガラド隊長がポンポンと叩く。
「まぁ、なんと言いますか、実は私にはお嬢様と同じ年頃の娘がいるのですが、元の妻が娘を産んで直ぐに亡くなりまして。私もまだ若いし、新しい嫁さんをって言う話になって、娘と相談して再婚する事にしたのですが、それ以来、妻とは普段どおり話しているようなのですが、私を避けているようなので、何が原因なのか?その事で悩んでいまして、貴方様親子をみて何か解決方法はないかと思いお聞きしました」
「それはお辛いでしょうな……」
ジオールが、哀れむように呟いた。
「少しお伺いしますが、娘さんの他にお子さんが居たりはしないのですか?」
アルミスが問いかけるが、副隊長は、いないと首を横に振る。そのまま、沈黙が場を支配する。そこに、ウィリアの可愛らしい声がした。
「えっと、副隊長さん??」
呼ばれた副隊長は顔をあげ、優しい笑みを浮かべて「何でしょうか?」と返した。ウィリアは、少し上目遣いになり、少し言いにくそうに話し出す。
「えっとね、ウィリアは、もしシュベルお父様が結婚して奥さん迎えたらね、2人の邪魔するのは嫌だから、遠慮しちゃうと思うの、2人が一緒にいて嬉しいって思うけど、でもね! 撫でて欲しいとか抱きしめて欲しいとかきっと言えなくなる…だって2人の邪魔になるでしょ? そう考えるとどうしても、寂しいって思っちゃうの……」
言い終え寂しそうにはにかんだ。そんなウィリアを堪らずギューっと抱きしめる。そんな顔をしないで欲しいと思ったのだ。
「ウィリア、心配しなくていいぞ。お父様はウィリアだけのお父様でいるからな!」
えへへと笑い、抱きしめた私をウィリアは抱きしめ返す。そんな可愛いウィリアに私の心はその瞬間強い決意を抱いていた。決してウィリアが生きている間は、誰一人妻にしないと……!!
ウィリアの言葉を聞いて、私やウィリアの様子を見ていた副隊長は目を瞑り少し辛そうに眉根を寄せそれでも
「……遠慮ですか。 自慢ではないのですが、娘はとても優しい子なんです。私達の結婚を許してくれたのは、私の為を思ってだったのかもしれませんね。それなのに、私は娘のために結婚するんだと思い込んでいたのかもしれません……、本当に私は馬鹿な父親ですね」
そう言って、力なく笑った。頑張れ! と同じ父親として心の中で励まし、副隊長とその娘が笑えるよう神にそっと祈った。
抜けがあったので修正を…。毎度すみませんorz