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「ナニニシマスカ」

作者: 砂鳥 二彦

「ナニニシマスカ」


 行きつけの喫茶店に寄ると、いつも人が多い。ここのコーヒーは完全天然焙煎豆を使用しているので人気なのだ。今時、人工焙煎豆を入れていない店など珍しい。


 そこの店には客の最初の受付をするテレノイドなるものがある。テレノイドとは人間として必要最低限の見かけと動きを備えた対話コミュニケーションするロボットだ。


 とは言っても、このテレノイドは致命的に人間に似ていない。卵型の頭部に無機質なガラス越しに見える機械類、人間に似せているのは四肢があることだけの胴長短腕短足の姿。愛嬌、だけならあるのだがテレノイドとしての役割が違っている。


 それに加えて会話インターフェイスが壊れているらしく、いつも客に「ナニニシマスカ」としか言えない。それ以外は機能しているので、複数の注文、席への案内はこなしてくれる。


「やあ、調子はどうだい」


「ナニニシマスカ」


「ブラックを一つ。ただしミルクも加えてくれ。甘いのはダメだが、酸味が強すぎるのも苦手なんだ」


「ナニニシマスカ」


「そうそう、この間彼女にフラれちまって。部屋が広くなってしまったんだ。まったく、洗剤を買ってこなかっただけでヒステリーを起こしやがって。まさか洗剤を理由に別れるとは思わなかったよ」


「ナニニシマスカ」


 テレノイドは同じ言葉でしか反応しない。そう、反応はしてくれてはいるのだ。そこには相槌というか共感というか、そういうものを必要としていることをテレノイドは理解している。


 しかし、それは<哲学的ゾンビ>と同じだ。こう反応すれば共感を得られたと思う。あるいは機能として備わっているとしたら愛想笑いでもしてくれれば、まるで人間のようだと思うだろう。例え、中身はそう動作すれば人間らしく振舞えるというシステムに従っているだけにしてもだ。


 俺はテレノイドに案内されて席に着く、するとすぐに注文していたコーヒーとミルクが到着する。運んできたのは人間の女性だった。


「こちらの商品でよろしいですか?」


「ああ」


「他にも朝食セットなどはいかがですか? コーヒーと一緒なら五十円引きですよ」


「いや、いいよ」


「畏まりました」


 俺は出されたコーヒーにミルクを注ぎ、その混合物を飲む。温かい黒白の液体を喉で味わうように流し込み、温かさが臓腑に染み渡る。


 ああ、おいしい。苦いけど。


 そう一息入れていると、遠くで何か喧騒が聞こえてきた。


 テレノイドの方である。


「おい! こいつ壊れてるじゃねえか! 注文の繰り返しもしないぞ!」


「ナニニシマスカ」


「うるせえ! そいつは聞き飽きた。俺はただ酒が飲みてえだけなんだよ!」


 話を聞く限り、ここの常連ではないようだ。店員がテレノイドの代わりに応対するが、客の興奮は冷めやらない。どうやら酒が入っているようだ。


「ナニニシマスカ」


「うるせえって言ってるだろ! こいつを黙らせろ。いますぐにだ!」


 店員がテレノイドの操作をしようと、背面に設置されているタッチパネルにコマンドを入力している。


 それでもテレノイドの反応は止まらない。


「ナニニシマスカ」


「うるせえ! 壊れたロボットを店の前に出してるんじゃねえよ! こんなオンボロ!」


 客はテレノイドを思いっきり蹴飛ばした。後ろの店員を巻き込み、テレノイドは後ろに吹っ飛ぶ。そのまま勢い強く横倒しになり、頭部のガラスが割れる。


「ナニニシマスカナニニシマスカナニニシマスカナニニ―――」


 テレノイドはそう反復して、それっきり動けなくなった。


「やっと壊れやがった。このオンボロ」


 私は席を立ち、その客に近づいた。




 臨時ニュースです。今朝、八時ごろ×××喫茶店で殺人未遂が発生しました。


 犯人は、酒に酔った被害者がロボットを破壊したことに激怒し、暴力をふるったとされます。


 犯人は「このロボットは人のために働く、俺の友人だ」と意味不明な言葉で喚き、被害者を殴り続けたようです。


 犯人は精神鑑定の後、移送されるそうです。


 また、同喫茶店には犯人に同情し、犯人と共感したような言動をする者もおり、集団パニックの線でも捜査を続けていくそうです。


 続いて、次のニュースです。V社が新しく売り出した核シェルターについて―――


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