一話、冒険者ギルド
三人目の主人公、シエラの登場です。
宿
(寝相悪いなこいつ・・・)
朝、早朝に目を覚ましたナツはベッドから落ちそうになっている小さな体をベッドの上に戻す。そして錆びている剣を手に取ると宿の中庭に向かった。
(取り敢えずここら辺で稼いでまず新しい剣を買わねぇと、・・・アリスの剣はあんな環境でも錆びてないみたいなのが不思議だが、流石に借りれねぇよな)
ナツは最初の目的を剣を買う事に決めると部屋から出る。そして静かに廊下を歩き庭に出た彼は剣を抜き素振りを始めた。
「んー?」
素振りをする音に耳をピクリと反応させたアリスは身を起こしナツが寝ていたベッドを見るが誰もいない。どこに言ったんだろう?と不思議に思ったアリスはスタスタと音がする方の窓に近付くと彼が素振りをしているのを見つけた。
(パパに言われたっけ、一人前の剣士になりたいのなら素振りを怠るなって、この三年間は島で生きる事に必死だったから出来てなかったけど、今日からはパパの言葉を守ろうかな)
ナツに触発されたアリスは部屋の中に戻り剣を右手に持つと庭に向かう。
「おっ、起きたのか」
「うん、私も素振りやる」
「おう、無茶はすんなよ」
「はーい」
鞘から剣を抜きアリスは素振りを始める。すると心地の良い剣が空を切る音が聞こえ始めた。
(綺麗なフォームだ、参考になる)
王族の剣術を習っていたアリスは理に適った美しいフォームで剣を振るう。全く無駄がなくスッと振り下ろされる剣は無駄がないからこそ威力が高い。ナツはそれを見て自分のフォームのダメなところが見えて来たので参考に真似をして剣を振るう。
「はぁはぁ、久し振りにやると疲れるねー」
「はっはっは、この程度でリタイヤか、まだまだだなアリス」
「だって久し振りなんだもん仕方ないでしょー」
椅子に座り水を飲むアリスはふと身をプルルと震わせると宿に入って行った。
「いきなりどうしたんだ?」
ナツはいきなり宿に入って行ったアリスを見て何事だと思う。
「・・・トイレさ、全く男はデリカシーのない」
「だ、誰だよあんた」
「イザベラさ、あの子とは風呂場で友達になった」
「いきなりこんな美人と仲良くなれるなんて・・・、子供って良いなぁ・・・」
ナツがアリスを羨ましく思っていると。イザベラがナツにグイッと身を寄せて来た。
「昨日はアリスちゃんには嘘をつかれたけど、あんたが今はアリスちゃんの保護者なんだね?」
「ま、まぁそんな所だよ」
「なら絶対に目を離すんじゃないよ、あの子どんな環境で暮らしていたのかは知らないけど色々と危うい、あの子が危険な目に遭わないように一人で生きて行けるようになるまでは絶対に守ってやりな、良いね?」
「あいつの面倒を見るって決めた日からそのつもりさ」
「フン、あんたの顔を見れば分かるよ、それくらい、だからこそ更に心づもりをさせる為に言ったんだ、それじゃまた会おうじゃないか」
「ああ、ありがとう、えっと」
「イザベラさ」
「イザベラさん」
ナツがイザベラの名を呼ぶと彼女はウィンクをしてから去って行った。そこにアリスが戻って来てイザベラと暫く話した後こちらに駆け寄って来る。
「見た見た?、さっきのイザベラさん、かっこいいにゃー!」
アリスはイザベラの背中に憧れの視線を送る。将来はあんな風な美人になりたいと心から思った。
「それに良い人だ」
「ふふっ、だね、私お腹空いちゃった、ご飯食べよ!、ナツ!」
「あいよ」
アリスとナツはイザベラの事を話しながら食堂に向かう。
ミナミの村、冒険者ギルド
ここは冒険者ギルド、天使派の者なら誰でも登録可能であり多数の者達が登録している一大組織のミナミの村支店だ。アリスは早速ナツと共にカウンターに向かい冒険者登録をしていた。
「はい、アリス様ですね、これが冒険者カードです、無くさないようにお願いしますね?、再発行費は余りにも無くす人が多いせいで高くなっておりまして五万ゴールドですから」
「はーい」
受け付けのお姉さんから冒険者カード(最新モデルのクレジットカード機能付き)を貰ったアリスは大切に草で出来た鞄の中に入れる。
「後、その鞄では簡単に破れてしまいそうなので、我々からこの革製の簡易拡張魔法がかけられた鞄をプレゼントします、古い鞄は私達で処分しておきますね」
「わーい!、ありがと!」
お姉さんから鞄を貰ったアリスは中の沢山の道具を鞄の中に移し替えると腰に装着した。そして微笑みかけて来るお姉さんに手を振る返すとナツと共にクエストボードに向かう。
「わー、いっぱいだね、どの仕事するの?」
「取り敢えず簡単なのにしようか、この倉庫の手伝いの仕事をやろう、報酬もかなり良い」
ナツはそう言うと人数分だけ一万ゴールドが貰える倉庫の手伝いの依頼を手に取る。その時だ、一人の少女も依頼に手を触れておりナツをジーと見て来る。
「私もそれ受けたいんですけど」
アリスと同い年くらいに見える少女は自分も同じ依頼を受けたいと言う。
「良いよー!、一緒にやろ!」
アリスは少女の手を取ると一緒にやろうと言う。すると少女はアリスの猫耳に釘付けとなった。
「耳・・・、可愛い」
ボソリと呟いた少女はアリスの耳を触り始めた。
「ちょっ!、くすぐったいよぉ〜」
「ごめん、でも触らせて!」
「仕方ないなー」
こうしてすぐに許す所がアリスなのである。暫くアリスの耳を触り続け存分に堪能した少女はアリスの猫耳から手を離した。
「ありがとう、これで一週間生きて行けそう、と言うかもっと触りたい、仲間になって良い?」
「私は良いよー、ナツは?」
「俺も良いけど、俺ら超貧乏パーティだぜ?、良いのか?あんた?」
貧乏パーティな自分達と仲間になって良いのか聞くナツ。それを聞いた少女は自分の財布を見せる。アリスとナツが中身を除くとそれはそれは悲しい状態であった。
「・・・と言うわけでお腹も空いてる、あっ名前はシエラ、エルフのシエラ、よろしく」
「・・・、飯食べようか」
「食べるー!」
「・・・食べるー」
「無理に真似しなくてよろしい」
こうして貧乏エルフ、シエラが仲間になった。
三人はギルドの食堂で簡単なパンを買うと道を歩き食べながら倉庫に向かう。
倉庫
「・・・、お腹減った」
「さっき食べたばかりだろ!?」
「疲れた・・・」
「五分も経ってねえよ!?」
ナツのツッコミが冴え渡る、しかしアリスは本当にお腹が減っており。シエラは単純に栄養不足で体力がないのだ。
「まぁまぁ、私はお腹減っても頑張れるから」
「私は疲れても血を吐きながら頑張るから」
「アリスは良いけど、シエラ!?、無茶しないで!?休んでて!?」
「大丈夫ー、クハッ!?」
「だから無茶するなって言っただろうが!、アリス!、こいつを座らせろ!」
「はーい」
呑気なアリスはシエラをよいしょと背負うと椅子の元に連れて行き座らせる。
「あのエルフの子大丈夫かい?」
「た、多分」
「すごい軽かった!」
「・・・」
ナツは思う、稼ぎが良くなったらシエラに一杯ご飯食べさせてあげようと。
「うちもあんな状態の子に無茶をさせたりしないからさ、あんたら二人分とあの子の報酬をあげるよ、そのかわり頑張ってくれ!」
「はいよ」
「はーい!」
いつでもどこでも元気が良いアリスは張り切って荷物を運んで行く、よく見たら三個程担いでる(ナツは二個で限界)がナツは見なかった事にする。
アリスの張り切りのお陰で仕事は一時間程早く終わり三人はそれぞれ一万ゴールドを貰いこの日の仕事を終えた。
「ふう、少しは余裕が出たが、もうちょい貯めるか、アリス、シエラ、戻るぞ」
「あいさ!」
「あ・・・い・・・さ」
「怖えよ!?」