二話、私よく考えたら泳げないにゃ
カルオン島
決めたなら行こー!と言う事で海の上で水分不足になるのは死活問題である為アリスがガリガリと水筒を作っている間にナツは草で作った袋に入るだけの果物を入れていた。ちなみにこちらも水分補給が目的である。
そんなナツだが危機に陥っていた、猪に遭遇したのである。
「デカイ、なんだこいつデカイ!」
ナツは大陸にある個体より遥かにデカイ猪の様子を伺う。猪はフンフン鼻を鳴らすいつでも発進準備オッケーなようだ。
「くっそぉ、剣は海水に濡れて錆び気味だし使えねぇ、背中を向けたらこいつ走ってくるだろうし・・・、どうする・・・」
ナツは猪が少しこちらに近付いてくる度に後ろに退がり。また近付いてきたら退がるを繰り返す。それを三回ほど繰り返した時ナツは木の枝を踏んだ盛大にバキッと言う音が森に響く。それに触発されて猪が駆け出した。
「うっそぉぉぉ!!」
ナツは背を向けて逃げようとするが、腰に巻き付けた草袋が重く俊敏に動けない。そうしている間に猪が至近距離にまで迫って来ていたが。ナツの横を銀色の影が通り過ぎた。
「やぁぁ!!」
ナツの横を通り過ぎたのはアリスだった、身を低くし素早い動きで走って来る猪と相対したアリスは下から剣を振り上げる。エルフェルン流剣技、ソニックスマッシュを使ったのだ。赤く美しく輝く剣は猪の首に命中すると一撃で斬り飛ばしアリスは猪に勝利した。
「・・・」
(お姫様だからっていくらなんでもこの歳で身体能力が高すぎねぇか・・・?)
ナツは知っている王族や貴族や名家と呼ばれる者達などの血筋に優れる者は一般の者達より優れた身体能力を有していると。そして現にナツは貴族達が力試しに参加する剣術大会を見た事がある。その時戦っていた貴族達は噂に違わぬ身体能力を見せていた。しかしそれはキチンと成長した大人の貴族だからだ。アリスの様な歳頃の子は一般の子とはそこまで身体能力の差は出ない。明確な差が出始めるのは十四歳頃になってからだ。
(何かある・・・のかやっぱり、こんな島に隠す理由が、連れて行って本当に良いのか・・・?こいつを・・・)
ナツは今の身体能力を見たからこそアリスをここに残した方が良いのでは?と悩む。同時にこの島に一人でいると話した時のアリスの寂しそうな顔を思い出し。連れ出すべきだと言う気持ちも湧き上がる。
「どうしたの?、ナツ?」
ナツが悩んでいるとアリスは首を傾げながら顔を覗き込んで来た。その顔を見たナツは決めた。何があっても自分が責任を取ろうと、だから少年はアリスを島の外に連れ出すと決めた。あの寂しそうな顔を少女にさせない為に。
「なんでもねぇさ、そんな事より助けてくれてありがとな、アリス!」
ナツは助けてくれたアリスに向けてニカッと微笑み感謝する。
「う、うん」
人に感謝されたのは久し振りであるアリスは照れ照れと照れる。その証拠に尻尾が忙しなくしゅるんしゅるんと揺れている。
「水筒は出来たか?」
「うん!、いっぱい作ったよ!」
ナツに水筒が出来たか聞かれたアリスは草袋に入れていた水筒の一つを取り出す。腰にはもう一つ袋が取り付けられており中にはアリス作の木製の道具が沢山入っている。左腰には剣だ。
「よーし、それじゃ行こうぜ!」
「おー!」
アリスとナツはボートに向かう。
ボートに荷物を詰め込んで行くナツ。しかしアリスはピクリとも動かない。
「どした?」
少女の様子が気になったナツはどうしたのか聞く。
「わ、私よく考えたら泳げないにゃ、それなのに海に行くのかにゃ!?、海に落ちたらどうするにゃ!?、死ぬにゃ!?」
どうやら想像が止まらなくなり軽くパニック状態になっているようだ。
「大丈夫大丈夫、海に落ちたら俺が助けてやる、この島から出たいんだろ?、行こうぜ?」
ナツはアリスを安心させる為ボートの上に乗り。ほら大丈夫だと言ってから手を差し出す。
「う、うん」
アリスは恐る恐るとナツの手を取りボートに乗り込み。ナツはそのままアリスを川に放り投げた。
「にゃー!?、何するにゃ!?泳げないって言ったにゃ・・・、あれ?」
「ほらな、猫族の奴等は本能的に泳げないと思ってるけど、実際に水に浸かってみると泳げることが多いんだ、お前も水に浮かぶって事は泳げる、つまり海に出ても大丈夫だから安心しろ」
「・・・随分と荒っぽいね」
「荒治療の方が効く場合って多いかんな、今のお前がその証明だ」
「確かに・・・」
ナツの言葉に納得させられたアリスは手を差し出しているナツの手を取ると川に引き込んだ。
「おおお!?」
「お返しだよ!、あはは!」
「てっめぇ!、歳下の癖にやりやがったなぁ!」
「先に落としたあなたが悪いんだよー」
「生意気だー!」
自分が泳げる事を知ったアリスはその身体能力を活かし無邪気に泳ぐ。ナツは楽しげに泳ぐ少女を見て大陸に行ったらもっと沢山の事を教えてあげたい、そう思うのであった。
「しゅっこー!」
散々泳ぎ満足したアリス船長が元気良く出航の合図をしナツがオールを漕ぐ。二十分ほど漕ぐと海に出た。アリスはそこで三年間暮らした島を見る。
「・・・、三年間私を育ててくれた島なんだよね・・・、ありがとう」
純粋に三年間暮らした島にアリスは感謝する。ナツも同じくこの島のおかげで生き残る事が出来た為目を閉じて感謝した。
「さて!アリス船長!、西はどっちだ!?」
「あっち!」
ビシッと首に掛けたコンパスを見て西を指差すアリス。それを見てナツは進路を変えオールを漕ぐ。
銀色のアリス、始まります。
次回からは一章、ノーマの国編です。