小さいヤツ
昼間の人通りのない道
俺はコンビニに向かって歩いていた。
平日とはいえ人の姿がなさすぎる。
そう思っていると、前方からヤツが現れた。
身長30cmくらいの小さい人間のようなもの。
姿形は人間そのものなのだが、まるで人形のように無表情な何か。
やつは俺の横をすれ違い通り抜けていく。
俺の心は恐怖と絶望に襲われた。
最初に奴らにあったのは2週間前の夜のことだった。
その時は俺も酔っていたので幻覚を見たのかと思った。
「よ、こんばんわ。小さいヤツ。」
ヤツらは何も答えることなく、通り過ぎていく。
その次に出くわしたのは10日前の朝のこと。
ゴミ出しをしているとヤツがゴミを出していた。
前の日に飲みすぎたせいか、とうとう幻覚が出たか。
「酒、やめなきゃな・・・・・。」
俺は独り言を吐く。
それ以降、ヤツらを見かける回数がだんだんと増えていく。
通勤電車、職場へとヤツらがあふれていく。
昨日まで同僚がいた席にやつが座っていた時は、びっくりして声を荒げた。
「おい、そこは田中の席だぞ。お前、なんでそこに座っている。」
小さいヤツは俺の声なんぞ聞こえないように机の上によじ登りパソコンを使いだす。
課長を始め、俺以外の職場の誰もがそれを不思議なことと思っていないのだ。
俺は課長の席を叩いて言った。
「課長、あいつらなんなんですか。田中や佐藤はどこ言ったんですか。」
課長は面倒臭そうに俺の方を見て言った。
「君は何に不満があるのかわからないが、自分の仕事をちゃんとしなさい。」
ダメだ・・・・。
おれはふらつきながら自分の席に戻り・・・、その日は早退した。
その日以来、俺は酒を飲み続けた。
シラフになったら気が狂う予感がしていたのだ。
会社は無断欠勤だが電話すらかかってこない。
小さいヤツらに乗っ取られたんだろうか。
そもそもヤツらって一体なんだ。
数日後、酒が底をついた。食料も残り少ない。
無精髭を剃る気力もないまま、俺は外出着に着替えて出かけた。
住宅街の道を抜けて大通りに出る。
小さいヤツらには自動車の運転はできないのだろう。車道に車の往来は無い。
一方、歩道には小さいヤツらがあふれていた。
無表情で規則正しく言葉を交わすこともなく歩いている。
俺は暴力的な衝動に駆られてサラリーマン風のヤツをサッカーボールのように蹴飛ばした。
数メートルほどふっとんで倒れる。
しばらくしてむくっと立ち上がり、何事もなかったかのようにまた歩き始める。
さらに数個、蹴飛ばしたり放り投げてみたが結果は同じだった。
なんだか吐き気がする。用件を済ませて一刻もここを早く立ち去りたい。
俺はコンビニに駆け込んだ。
コンビニのレジには小さいヤツが立っている。
客は俺しかいない。
俺はあることを思いついた。
買い物カゴの中にビールや食料を目一杯詰め込んで、そのままゆっくりと外に出る。
万引きだ。さあ、やつらどうする。
振り返ってレジの方をみたが、小さいヤツは相変わらず無表情でレジの上に立っていた。
まるで眼前で起こったことに全く興味がないように。
他の店でも同じことだった。
どこの店にも小さなヤツはいた。
まだ、普通の人間も残っているのだが、彼らに話しかけても要領を得ない。
そもそも異常だと思っていないのだ。
話している俺まで自分が異常だと思い始める始末。
散々疲れ果てて、とりあえず目的の酒と食料は無料で手に入れて俺は自分のアパートに戻った。
実家に電話をかけてみるが、誰も出ない。
テレビをつけると、男性型と女性型の小さいヤツが黙って向かい合わせで座っている。
ニュース番組のつもりなのだろうか。
不思議なことに電気やガス水道といったインフラは維持されているのだ。
それも小さいヤツがやっているのだろうか。
そもそもヤツらは何者?侵略者。
俺みたいなものが考えてもわかるものではないが、世界は徐々に小さいヤツのものになっているようだ。
俺はウイスキーをストレートであおった。
この事態をどうにかしようと考えるほど俺は勇敢な男ではない。ただ、逃避したかった。
夜中、猛烈な吐き気に襲われトイレに駆け込む。
しゃがみこみ吐こうとするが、何も出ない。
指を喉に突っ込んで無理やり履こうとした時
口の中から何かが俺の人差し指を掴んだ。
おれは驚いて指を引き出そうとする。
唾液で濡れた人差し指に小さい手が絡み付いていた。
小さいヤツの手だ。
小さいやつは口の両側を押し開けて中から出てこようとする。
俺は押し返そうとするが、力が入らない。
やがてヤツの頭が見えてくると、全身の力が抜けて便座にもたれて座り込んでしまった。
ヤツはやがて俺の口の中から飛び出し、俺の服で体についた唾液を拭き取っていく。
その時、俺は気づいた。
自分の体が骨も筋肉もない1枚の薄っぺらい皮になっていることを。
わずかに目玉だけが残り、この現実を見ていた。
小さいヤツは、俺をトイレの中に放り投げて水を流した。
俺の体が流れていく。
そして床に転がった目玉を踏み潰す。
それが俺の最後の記憶だった。




