人族として転生!?
ザクッ 悲鳴をあげて倒れるゴブリン、その音を聞きすぐ逃げようとする背を向けて走るゴブリン、その背中を弓矢が命中する。思わずゴブリンは倒れる、そして次の瞬間...
そう、俺は死んだのだ、ゴブリンとして生きて17年、人族で言うともうすぐ大人と呼ばれるくらいだろうか、まあ今更そんなことはどうでもいい、死んだってことは天国か地獄に行くのかな?
まあ俺は殺されたくない一心で人族の村の近くにはいかないように果実を取ったり魚を取って食べたり、人族の落とした本を独学して読んだり、だれにも迷惑かけずにのんびり生きてきたし天国だろう!
真っ暗だった目の前に影が見えた、すると...天使がそこにいた
「こんにちはゴブリンさん、残念ながらあなたは死んでしまったようです...」
と悲しげな表情を浮かべて言った。
わかっているとも!これからは天国でのんびり暮らせるんでしょ!
「いえ、あなたには記憶を持ったまま人族に転生するか、記憶を消して人族に転生してもらいます」
「!?」
人族に転生する!?
魔物として生きてきて人族に殺された俺が!?
というか、俺の心の声聞こえてるのか?
「まあ、そう思いますよね...私には死者の心の声が聞こえるんです」
「そうなんですか...なぜ人族にしか転生することができないんですか?」
「私からは詳しいことは言えないんですが、神様からは魔物と人族の数を合わせるためと聞いております、人族に殺された貴方様には申し訳ないのですが神様からの命なので、選択の方よろしくお願いします...」
「なるほど、どちらにせよ強制的に人族に転生させられるわけですね、なら私の選択は記憶が残ったまま転生させてもらいたいです」
魔物の時は人族の文化やまともな食事もしてないからな、人族の文化に触れてみたい!
「ご選択ありがとうございます、本当に記憶を残したまま転生でいいんですね?了承するなら目を閉じていただけますか?」
「はい...」
「失礼しますね...チュッ」
「ファ!?」
目を開けるとそこにはみたことのあるような、ないような光景が広がっていた
心地いい風、暖かい日差し、どこまでも広がっている草原
「あれ、俺って死んだんじゃ!?」
手を見ると、どう見ても色が違う
そう、緑色で貧弱だったはずの手が、指は長く肌色になっている...
「俺、本当に転生したのか!?」
試しに立ってみる、ゴブリンの時とは違い背が高く、地面から顔が遠く、周りをよく見渡せる
状況を整理すると...人族に殺されて、人族に転生しろと言われて人族に転生した、そしたら次は何をすればいいんだ?
とりあえず、人族の町を探すか...
人族に殺されて人族を恨んでると思いきや、むしろこれからどんな「人生」を過ごせるかとてもワクワクしている
人族になったからにはゴブリンの時にできなったことをしてみたい、人族の食事をしたり、買い物をしたり、魔法を覚えたり...そんなことを考えながら歩いていると道が左右の二つに分かれていた、真ん中に看板があった。
左へ進むと貿易の町、右は工業の町と書いてある。
どちらに行こうか迷ったが、工業の町に決めた、ゴブリンの時には工業、いわゆるものを作るということをあまりしなかった、大体装備は人族が落としたものなどを使い、武器も拾ったり、石を削って木に付けたり、工業と言えるかわからないくらいの物しか作ってなかったので、どうやって作るかみてみたかったのだ。
看板の下に簡単な地図みたいなのが書いてある、ここから約10kmくらいにあるらしい
まあ、これからどうするか考えながら歩けばすぐに着くだろう
と思っていたが、半分くらい進んだだろうか...そういえば朝からご飯どころか水さえ一口も口にしていない...空腹と乾いた喉が少しずつ俺の体力を削っていく、道を歩いていると近くに森がみえた、
魔物の時にはよくお世話になった果実があるかもしれない!
そう思い、うれしさのあまり飛び跳ねながら森へ入った、上を見上げると沢山の果実がなっていた、すぐに食べようと思い木に登ろうとするが木に登れない...ゴブリンだった時は木の幹に爪をひっかけて少しずつ登り取っていたのだが、人族の爪はひっかけにくく、どうも剥がれやすいらしい、仕方なく地面に落ちていた木の枝で叩いて落とした、少し形が変形したり傷つけたりはしたが食べられないよりはマシだろう
お腹が膨れるまで取っては食べを繰り返した
考えてみれば町へ行ってもお金がなければ食べることも泊まることも出来ない。
「お金を稼ぐ方法を考えなければ...」
そうだ!森にはよくゴブリンの巣がある!
そこから金目のものを奪い町で売ろう!
そうとなればゴブリンの巣を探そう!流石に手ぶらでは危ないのでさっき拾った木の枝と近くにあった石を持てるだけ持った
人族が使うような道の近くだし、そんな簡単に見つかるようなとこにあるとは思わないが、俺は元ゴブリンだ、ありそうなとこはだいたいわかる、俺が今まで暮らしてきた巣には近くに川や池があり沢山の果実がなっていたとこだった
川や池があったらそこを隈なく探せばきっと見つかるだろう!
森に入って30分は経っただろうか、
探している途中に冒険者の落し物?みたいなカバンが落ちていた!すぐに拾って中を確認してみた
ありがたいことに地図とナイフが入っていた、これでこれから旅をする時に迷わずに済む、そしてゴブリンや魔物に遭遇した時、このナイフで対抗することができる
ゴブリンの時に使っていた時のナイフよりだいぶ長い、きっと魔物の為のナイフなんだろう
カバンの中には...
まだ中に入ってるみたいだ銅や銀、金でできているみたいだ、小さくて円形の物...
「これが人族のお金か」
金は2枚、銀は5枚、銅は15枚入っていた、まだどのお金がどれくらいの価値かわからないけどとりあえずもらっておこう
「あとは...これはなんだ?」
鉄で出来ているみたいだが上の部分が取れるみたいだ、中に何か入れれるのか?
蓋みたいな物のを取り、中を確認してみる
中には水が入っている...
「なんてことだ!」
人族にはこんな革命的なものがあったのか!ゴブリンの時は喉が乾けば果実を食べたり、川や池まで行って水を飲まなければならなかったのに、この鉄の箱で水を簡単に持ち運ぶことができる!
「とてもいいものを拾ったなぁ♪」
町にはもっと便利なものがあったりするのかなぁー、ワクワクが止まらない!
お金は拾ったが今持っているお金で足りるかわからないので一応ゴブリンの巣探しを続けた、いつどこでゴブリンに遭遇するかわからないのでさっき拾ったナイフを腰に装備した
ここに冒険者の落し物があるってことは近くに魔物がいてもおかしくないと思った瞬間...
後ろからこちらへ近づいてくる足音が聞こえた
すぐ近くにあった木の後ろに隠れその正体が何か確認した
まだ少し遠いが、人族よりは小さく見える、ゴブリンに見えなくもない
こっちにくると思ったが地面に落ちていた果実を少し拾って戻っていった
ゴブリンがそっちに帰ったってことは巣がそっちにあるんじゃないか!と思いすぐに後をつけた
やっぱり実物のゴブリンを見てわかる
人族はゴブリンの2倍くらいの大きさがある、ゴブリンは10歳ぐらいの人族の子供の大きさしかないのだ
まあその代わり身軽で爪が長く頑丈で気を登ったりするには良いが、人族はもともと背が高いため木の枝などを使えば簡単に果実を落とせるし、力も強く指も長いので道具も使いやすい、そう考えるといい体を貰った!
そんなことを考えながら後をついていくと遂にゴブリンの巣に着いた
この体で見るのは初めてだが懐かしい感じがする、みたところそこまで大きいわけじゃないのでいたとしても多くて5匹だろう
この体はまだ慣れてないしあまり戦闘はしたくないが...とりあえず今巣に何匹いるか確認しよう
「んー...外にいるのは1匹だけだけど、中がよく見えないなぁ」
でかい物音でも立てておびき寄せるか!まあいざとなったら逃げればいいだろう!
さて、どうやって音を出そうか、石を投げて音を出してもいいけど流石距離もあるしに気づかないよなぁ...
そうだ!たしか人族には口に二本の指を咥えて音を出すという方法があった!
ゴブリンは牙が出てて練習できなかったからぶっつけ本番だけど、やって見るしかない!
「ピューーーーーーーーーーーーー!」
森の中に高い音が鳴り響いた
初めてやったにしては上出来すぎる音が鳴ってしまった...これじゃあ近くにいたゴブリンも気づいて戻ってきてしまうのでは...
まあ仕方ない見張り役っぽいゴブリンもどこから音が鳴ったのか気づいてないみたいだしこのまま身を隠しておこう
一応後ろや近くにゴブリンが来てないか確認しながら待った...10分経っても巣からゴブリンが出てくる様子もないし、ゴブリンが帰って来る様子もない...
まさか1匹だけでこの巣を作ったとは思えないが...そうか!今は春、ゴブリンにとっては絶好の食料確保の時なんだ!この時期はとても暖かいので果実や、魚、動物たちの行動も活発になる、遠い山や川などにいってたくさんの食料を取って来るということをするゴブリンもいるらしい、俺が住んでた巣ではまだ俺が小さい時に一回やってる時をみたくらいだったのであまり覚えてないが
確か残ったのは大人のゴブリン1匹と小さかった俺だけだった。ってことは...
今はゴブリンは1匹だけってことになる!
いくなら今しかない!
まず、ゴブリンに石を当ててみた
ゴブリンはビクッと驚き、近くにあった小型のナイフを持ってこちらへゆっくり近づいて来る、俺は木の後ろに隠れて、ゴブリンがきたとこを魔物用ナイフで斬りつける!
「てやぁ!」
ゴブリンの右手に直撃!まだこの体に慣れてなかったため、傷は浅かったが右手に持っていたナイフを奪うことができた!ゴブリンはすぐ態勢を立て直し、近くにあった木の棒を持って攻撃態勢になっていた、
本当はこの一撃で逃げるか倒れるかして欲しかったんだが仕方ない!
木の後ろに隠していた石をできるだけ持ち、ゴブリンがこっちに近づけないようにたくさん投げた
「くるなぁー!!!」
ゴブリンは当たるたびに悲鳴をあげ、石を投げ終わる時にはもう倒れていた
一応まだ生きてる可能性があるため、ナイフを持ち注意しながら近づいた
近づいても動く気配がないので、ゴブリンの巣の近くまで運び、上から布をかけておいた
生きていくために仕方がないのかもしれないが、とても罪悪感がある。
少し前まで俺もゴブリンだったから余計にそう感じてしまった...
ウジウジしても仕方がない!
両手で顔に「パンっ!」とたたき
「よし!さあ巣をあさるか!」
中はとても狭く人族じゃ一人でも厳しいくらいの大きさだった、高価な物は...なさそうだ
中にはナイフなどの道具、布、食料、冒険者用のカバン、あとこれは...
「人族の本だ!」
表紙を見た感じ、この世界についての本のようだ、俺もこの世界で17年も生きていたがほとんどよく知らない
町に着いたらゆっくり読もう
中にある使えそうなものは...もうないかな
見つけたカバンとさっき森で拾ったカバンに食料と道具などを分けて入れ、森でカバンがパンパンになるまで果実を取り、道まで戻った
すっかりもう日は暮れて夜になっていた
空を見上げると、星がよく見えて感動するほど綺麗だった
「ゴブリンの時はこれを見るのを毎日の楽しみにしてたなぁ...」
昼とは違い、夜は冷たい風が吹く
「薄着じゃ寒いな、さっき拾った布でもかけよう」
魔物がいるかもしれないし野宿するわけにはいかないので、また道を歩いて行く...