06話:もし願いが叶うなら、どうか真相を暴いてください
スマホ画面を開くと、これが現実だと確信させる画面が現れた。
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◆スレ63【ゲーム全般】なんでも攻略掲示板【みんな仲良く】
275:名無しさん@ハードゲイマーHG 2017/3/25 18:46 ID:3Qf
おまえら手のひらクルー早すぎかよ。
もういいよ、めんどくさいし一人でやってるわ。
ゲームの主人公やってくるわ。
276:名無しさん@ハードゲイマーHG 2017/3/25 18:59 ID:0oj2
>>275
嘘勇者さんいってらっしゃい
277:名無しさん@ハードゲイマーHG 2017/3/25 19:03 ID:fj9ht
>>275
無駄にワクワクした。もう来んなカス
278:名無しさん@ハードゲイマーHG 2017/3/25 19:11 ID:m49fg
みんな仲良くやろーぜ。
しかし>>275、てめーはダメだ
279:名無しさん@ハードゲイマーHG 2017/3/25 19:14 ID:3Qf
みんなひでえ
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「うぅ、うう……うぅううぅ……」
涙があふれるようにこぼれた。
ついに、実感してしまった。これは現実なんだ。
夢の中でまでゲーム攻略掲示板を見ているなんて、そこまで僕はゲーム中毒じゃない。
いや、もしなっていたその方がどれだけよかったことか。
それはそれで問題と思うけど、こんな状況より何百倍もマシだ。
……お母さんはきっと、戻らない。日常の生活はきっと戻らない。
あの殺し屋はどこから出てきたんだ?
いったい、どうして僕を狙ったんだ?
なぜ、肉親を目の前で殺害してまで僕の復讐心を煽る?
湧いてくる疑問を抑えきれず、頭が真っ白に染めながら僕はいつのまにかスマホを打ち込んでいた。
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342:名無しさん@ハードゲイマーHG 2017/3/25 22:59 ID:3Qf
お母さんが死んだ
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お母さんが、死んだ。
手に濡れた血も冷たくなっている。
もう手遅れなんだ。もう、何もかも……。
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343:名無しさん@ハードゲイマーHG 2017/3/25 23:02 ID:fj9ht
>>342
ネタバレ乙
344:名無しさん@ハードゲイマーHG 2017/3/25 23:04 ID:Af27
>>342
主人公なみだ拭けよ
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僕は主人公じゃない……!
こいつら、何もわかってない……ッ!
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345:名無しさん@ハードゲイマーHG 2017/3/25 23:05 ID:3Qf
違う、本当に俺のお母さんが死んだ
346:名無しさん@ハードゲイマーHG 2017/3/25 23:06 ID:3Qf
殺し屋に殺された
347:名無しさん@ハードゲイマーHG 2017/3/25 23:08 ID:55s
>>346
????
348:名無しさん@ハードゲイマーHG 2017/3/25 23:08 ID:m49fg
>>346
笑えない冗談やめれ
349:名無しさん@ハードゲイマーHG 2017/3/25 23:11 ID:3Qf
ちがう。ほんとうに殺し屋にころされた。
首切られた。
350:名無しさん@ハードゲイマーHG 2017/3/25 23:12 ID:m49fg
>>349
やめろ
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冗談だったら、どれだけよかったことか。
どれだけ命を張っていたとしても、僕を画面越しにしか見ていない人たちは、どうせここで起きていることなんて僕の夢想空想だと思ってるんだろう。
僕はどうしてか、呆然と立ち尽くしてスマホを見ていた。
相談できる人なんて誰もいない。攻略掲示板に、いるのかもわからないけれど。
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350:名無しさん@ハードゲイマーHG 2017/3/25 23:12 ID:3Qf
たすけて
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誰か、たすけて、ほしい……。
涙が、とまらないんだ。不安が、恐怖が、心臓を潰しそうで……。
固まった血と涙と鼻水がぐしゃぐしゃに混ざって、僕はどろどろになった赤を見て、殺し屋の言葉を思い出した。
『次に会うときはもっと面白い戦いを期待してるよ』
殺し屋はまた来る……?
あいつは、まだ近くにいる……?
そのとき、僕はどうすればいいんだ……?
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351:名無しさん@ハードゲイマーHG 2017/3/25 23:14 ID:m49fg
はぁ…(´Д`)
>>350
何がどうなってるの
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ID:m49fgが話を聞いてくれようとしている……。
この人なら僕を助けてくれるのだろうか……。
僕ははっとしてポケットに入れた銃弾を思い出した。
殺し屋が僕にこれを持たせた理由が、まるで思い当たらない。
まるで僕が拳銃でも持っているような……。
拳銃……まさか……?
テレビから有線で繋いでいた、ゲームの拳銃……。
僕は部屋に投げ捨てられた拳銃を手にとった。
黒塗りで外見こそ本物に見えるけど、側面には決定ボタンと十字キーがついている。
重みはたしかにリアルだけど、銃底にはHDMI端子がついているゲーム用の玩具のはずだ。
拳銃の決定ボタンを押すと、ゲームの中の会話が次に進んだり、扉を調べたりすることができる。
その決定ボタンを押してみると、カシャリと音がして弾倉が抜き出された。
「うそだ……」
そう言いながら、僕は空になっている弾倉の中身を眺めた。
こんな機能なんて、拳銃になかったはずだ……。
殺し屋にもらった銃弾を試しに入れてみると、ちょうどぴったりはまり込んだ。
「ありえない……」
そう言いながら、二発目。
そして三発すべての銃弾を弾倉に装填し、拳銃におそるおそる弾倉をセットした。
もしこれが本物の拳銃だとしたら、これで実弾が発砲可能なはずだ。
「ありえない……、ありえない……」
あの殺し屋は言っていた。
『次に会うときはもっと面白い戦いを期待してるよ』
『包丁なんて安っぽいものじゃなくて、ね』
あいつはすぐにまた来る気だ。
今度はきっと、拳銃で……僕が殺される……?
僕はぞっとしてスマホに飛びついた。
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351:名無しさん@ハードゲイマーHG 2017/3/25 23:20 ID:3Qf
へやの外に殺し屋がいる。
お母さんがキッチンで倒れてる。
他に家族だれもいない。
352:名無しさん@ハードゲイマーHG 2017/3/25 23:21 ID:Af27
>>351
マジヤベエ
353:名無しさん@ハードゲイマーHG 2017/3/25 23:22 ID:fj9ht
>>351
てかお前ニートじゃん
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m49fgの返信がないっ……!
早く、早く何かアドバイスをくれよ……!
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354:名無しさん@ハードゲイマーHG 2017/3/25 23:22 ID:3Qf
しにたくない。
主人公になりたくない。
なんでお母さんがしぬの?なんで?なんでなんでなんでなんで
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窓の外から何か物音が聞こえた気がして、僕は尻餅をついた。
「くそ、くそ、くそ、くそ、くそ……」
床を何度もなんども、何度もなんども殴って打ちつけた。
冗談じゃない! ここは日本だぞ!
どうして僕がこんな目に合わなきゃいけないんだよォ……っ!
床を叩いて、叩いて、まるで世界を呪い壊すように叩いて叩いて。
手が赤くなってもやめることなく、床を叩き続ける。
くそ、くそ、くそ、くそ……!
『ドン! ドン! ドン!』
玄関の方から音が聞こえて、僕は我に返って跳ね上がった。
誰かが玄関を力強く叩いているように聞こえた。
ついに、殺し屋が、来たのかもしれない。
僕はどうすればいい?
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355:名無しさん@ハードゲイマーHG 2017/3/25 23:25 ID:3Qf
誰かがドア叩いてる。
玄関がドンドンいってる。たすけて
どうすればいい?
しにたくない
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玄関を叩く音が止んだと思いきや、今度はチャイムが連続で鳴らされている。
僕はドゥルガーの拳銃を手に持って玄関に向かうことにした。
そしてふと、警察を呼ぼうという発想が蘇った。
そうだ、110番だ。警察を呼べば僕を保護してくれるはずだ。
……いや。拳銃を持っている僕を、警察が保護?
お母さんの死体がキッチンにある状況で、僕の話を信じてくれる保証が……、あるのだろうか?
凶器は殺し屋が持ち去ってしまって、僕の指紋がついた包丁が残っているだけ……。
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356:名無しさん@ハードゲイマーHG 2017/3/25 23:27 ID:fj9ht
>>355
素直に玄関を開けて、お縄にかかりなさい。
356:名無しさん@ハードゲイマーHG 2017/3/25 23:28 ID:0oj2
>355
住所up
356:名無しさん@ハードゲイマーHG 2017/3/25 23:29 ID:r3nt
>357
ネットにそれはさすがにマズイかと。
357:名無しさん@ハードゲイマーHG 2017/3/25 23:30 ID:0oj2
住所upしたら警察に通報してあげてやんよ。
ニート逮捕速報や!
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スマホを見ると、自分の想定は間違っていないことが裏付けられた。
警察を呼べば僕が加害者だと勘違いされかねない。
ここは自分で何とかするしかない。殺し屋に渡された、この銃弾で……。
『ドン! ドン! ドン! ドン!』
チャイムをひとしきり鳴らし終えた後、何者かはふたたび玄関を強く叩き始めた。
僕は拳銃を携えて、慎重に玄関のチェーンを外した。扉が開ききらないと命中できないと思ったからだ。
一呼吸入れると、僕は扉の鍵を開けて廊下の角に退却した。
敵を狙うなら壁越しに撃ってやる。
僕は、死なない、僕は死なない……!
震える足を打ち付けて、僕は廊下から半身をさらけ出した。
玄関から入り込んで来ていたのは、怒号をあげる黒い塊。いや、人の形をしていた。
黒い帽子に黒いジャケット、しわだらけの凶悪な顔面。
ゲームに出てくる敵キャラ、マフィアの一員だッ!
殺し屋ではなかったが、あいつの仲間に違いないッ……!
その証拠に、あいつの手には黒っぽい武器が握られている……!!!
「うわぁあああああああ!!!」
僕は両手で構えた拳銃の引き金に指をかけた。
撃ち方は知っていた。
ゲームで何度も撃っていた。
狙いを定めるには、まず腰を据えて力を抜いてから。
重い拳銃を両手で構えて肩を固定して、トリガーに指をかける。
『ダァンッ』
ゲームと同じ反動が腕に伝わる。
銃弾は男の腰から右膝の間に命中した。
ゲーム中での命中精度もよくなかったが、現実世界でもその通りになるらしかった。
『ダァァンッ』
二発目を発砲する。
まだ怒号をあげて進もうとするマフィアの、今度は左肩に命中。
これでもまだ倒しきっていないらしい。マフィアが体を丸めるが、細長い武器を構える動きを見せた。
『ダァァァァンッ』
三発目、胸元に命中するとマフィアはその場から一歩も動かなくなった。
ただし、武器に携えられたその手が怪しげに動く。
「う、うわああぁぁぁああ」
もう、無理だ! 僕には無理だ!
キッチンを抜けて、バルコニーへの窓を開く。
外はすっかり真っ暗になっていて、外を歩く人の気配もなかった。
早く、ここから脱出するんだ。
『ウォォォォォオオオオ……ォォォォウゥゥゥ……』
「あっ……!」
玄関から地獄からのうめき声のような音が聞こえ、体が震えたはずみで拳銃をバルコニーから落としてしまった。
惜しいことをしたと思ったが、どうせもう弾丸はないのだ。それよりも、バルコニーの非常階段を開いて脱出しないといけない。バルコニーの床面に設置された小扉を開くと非常用階段へ続いている。僕はロックを解除して扉を開くと、それは湧いて出るように這い出た。黒い人の指、違う。多くの足が生えた、大量の黒いムカデ。そして空を飛んだ大量の黒い虫に度肝を抜かして、僕はとっさに手足や背筋を伸ばして姿勢を崩した。
「えっ……」
柵に引っかかり、テコの原理で体が宙に浮く。
いや、バルコニーの外へ頭からはみ出す。
「……うそ……!」
手を伸ばそうにも、胸と頭の重さで体はあっというまに外へ投げ出されていた。
柵まで手がとどくことはなく、バルコニーが離れていく。
僕は、どうしてこんなことに巻き込まれたんだろう。
こんなことになるなら、素直に徹夜でゲームをしようなんて考えなければよかった。
お母さん。守れなくて、ごめんね。言いつけを守れなくて、ごめんね。
……あの殺し屋は、ドゥルガーから出て来たに違いない。
ドゥルガーをプレイしていなければ、こんなことにならなかったのだろうか。
どうしてこんなことになったのか、僕にはわからない。
ドゥルガーの攻略していても起きていたのか、防げていたのかどうかも。
もし願いが叶うなら、誰もプレイせずドゥルガーを葬ってください。
しかし、もしドゥルガーをプレイする人がいたなら、どうか真相を暴いてください。
それだけが僕の望みです。