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01話:まだ誰も知らない

『全ゲーマーに告げる。

 これはゲームとゲーマーの戦争だ。』


        とあるゲームの生存者

 三月の風はまだ肌寒い。


 僕、高槻(たかつき)吾郎(ごろう)は大学の校舎から出ると試しに息を吐いてみた。

 息は、もう白くはならないみたいだ。


 時間は夕暮れで、あかね色に染まる大学の構内は人通りが寂しい。

 春休みなので本来は大学に来る学生のほうが珍しい時期だ。


 きっとほとんどが旅行、バイトや帰省でもして有意義に過ごしているのだろう。

 かくいう僕もここ2週間は家で充実したゲームライフを満喫していた。

 サークルの集会がなければ今日も家に引きこもる予定だった。


 念のため言っておくと、僕に友達がいないというわけじゃない。

 その証拠に、僕は校舎から帰っていく友達に手を振って……。


 手を振って……。


 おーい……。


 ……薄情者どもめ……!


 ……お、気がついてくれた!

 その証拠に、僕は校舎から帰っていく友達に手を振って自転車にまたがった。


「お、吾郎! そんなに急いで何すんの?」


「お、いいところに来た! 友人A! 俺の友人A!」


「え!? なに俺、モブキャラなの!?」


 校門に向かって漕いでいると、同じ自転車組の友達と合流した。

 いやぁ、モテる男はつらいぜ。


「今日は家に帰ってゲームする予定だ!」


「今日も、だろ? オタク! 彼女なし!」


「それはお互い様ってやつ!」


「ははっ! 違いねぇ!」


 彼は同じサークル仲間のひとりで、ゲームの腕を競い合う戦友だ。

 からからと笑いながら、僕たちは校門までたどり着いた。

 僕たちの家は反対方向なので、いつも校門前で二手に分かれる。


 そういえば、まだあのことを友達に話していなかったな。

 別れる手前で、僕はふとあることを思い出した。


「なぁ、『ドゥルガー』って知ってる?」


 別れる前に聞いてみると、友達は首を傾げた。


「んん? なんだその強そうな名前は」


「最近、ハマってるゲームの名前なんだけど」


「……聞いたことないなぁ」


 知らないだろうと思って聞いてみたけど、()()()()彼も知らないか。


「面白いの、そのゲームは」


「たとえるなら、ガンジーが指導者をやめて引きこもるレベル」


「マジか! 俺にもやらせろよ!」


 鼻息荒くドアップに迫った友達の顔の顔面をわし掴みにして押しのけた。

 期待させてしまって申し訳ないが、今日はもう日が沈みかかってるぜ。


「一人暮らししてたら泊めてやれるんだけどなぁ。今日は遅いし、また今度な!」


「しょうがねー!」


 残念がる友達と別れて、僕は家に向かいはじめた。

 自宅のマンションに着くと日はすでに沈んでいた。


「あら、おかえりなさい。今日は早かったわね」


「ただいま」


 自宅のマンションにたどりつくと、料理する母親の横を通って僕は棚の中からスナックを引っ張り出した。

 ついでに冷蔵庫からペットボトルのジュースを取り出して、自室に向かう。


「ちょっと! お夕飯を作ってるの見えないのかしら」


「いいじゃん、どうせ全部食べられるんだし」


「よくないわよ、太るわよ」


「それは鏡を見てから言って欲しいよね」


「気にしてるのに、きぃぃぃ! それ、置いていきなさい!」


 お母さんが頬を膨らましているのを見て、僕はため息をついてテーブルに置いた。


「それと昨日、下の鈴木さんに夜中の足音がうるさいって言われちゃったわよ。夜は静かにしなさいっていつも言ってるでしょ」


「……はーい」


 空返事をかえして僕は自室の扉を閉めた。


 僕はリュックをベッドに放り投げて、テレビとケーブルで繋がった黒い『拳銃』を机から拾い上げた。


 銃身に『Durga』と刻まれた黒い拳銃。

 それは2週間ほど前に小さな雑貨店で買った特別なものだ。


 黒い拳銃は、そのほぼ全てが金属でできていて本物の銃のような存在感をもっている。手に取るとずっしりと重く、引き金をひくと反動がかえってくるところまで精巧に造られている。


 ただし、その拳銃を『特別』にしているのは模造銃(モデルガン)としての出来の良さだけではない。


 僕はテレビの電源を入れると、テレビと繋がった拳銃が低い起動音を上げた。


『ヴォン……ヴヴヴヴ……』


 電源が入ったテレビの画面に、漆黒の暗雲とピシャリと轟く雷鳴が映り出された。それらを背景に、不思議な紋章が浮かび上がり、タイトルとなる文章が画面に刻まれた。それは拳銃をテレビと接続することで起動するオープニング画面だ。


『ドゥルガー』


 それが、僕がハマってるゲームのタイトルだ。


 ……それが死と惨劇をもたらす呪いのゲームなのだと、このときはまだ誰も知らないのだった。

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