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半妖の戦士 第一部    作者: 葉月秋子
9/20

9 おっきなのを拾う 2



 藁の山を示された迷子の男は、そこで昏々と眠り続けた。

 夢うつつで水は飲むが、眼も開けずにそのまま倒れ込むように、眠る。



「起きないねー」

「良く寝られるねー」

「まだ寝てるねー」


 興味津々の近所の子供たちがのぞいても、つついても、眠ったまま。


「じゃましちゃだめだよ。

 なんかひどい目にあったみたいだからさ」


 山で拾って来た、と言っただけで、状況を説明するのを、チシャはあきらめた。

 誰が信じる?岩の中に人がいたなんて。

 水を飲んだら元気になって、素手で岩を砕いて出て来たなんて。


 またチシャの大ボラが、夢物語が始まったって言われるだけ。

 そして、でたらめ言うなって、頭をはたかれて終わるんだ。



 この人が起きたら、自分で話すだろう、と思ったのだが。

 十日も寝続けて、やっと起きだした男は、無表情、無言のまま。


「あんたの名前は?」

「どこから来たの?」

「どうしてあんな所に?」


 何を聞いてもボーっとしているだけで。


「あたしはチシャだよ。わかる?」


 と言うと、チシャを見てゆっくり頷いたので、言葉はわかっているらしいが。




「こりゃあ、記憶そーしつという奴ではないかのう」


「崖から落ちでもして、打ち所が悪く、うつけになりおったか」


「チシャの言う事は聞いとるようだ」




 日がな一日ぼーっとしたままだが、動けるようになると、拾って来たチシャだけは認識できるのか、その言うなりに、荷物を持ってとか、薪を運べとか、単純な作業なら大きな体で難なくやってのけるようになった。


 豊作の年の農閑期で、人々の心が穏やかになっていたのも幸いした。


 小さな女の子の言うがままに、大きな背中を丸めて、子供たちの鬼ごっこやままごとに付き合う姿は、あまりにアンバランスでかえって微笑ましい。




「でかぶつ」「でくのぼう」「うすのろ」


 そんな呼ばれ方をしながら、男は村に受け入れられていく。


 素性はわからないが、無害でおとなしい労働力として。


 肉体も、頭脳も、すべての能力から切り離されたままで。






 長い責め苦に衰弱した体に、ゴブリンたちとの死闘。命に係わる損傷を受けた肉体。


 初めて妖魔として人の命を吸収し、その命に執着し続けた力。


 その人の血の中の、太古の神の覚醒とその失望。


 男の中に宿るかと思われた神の気配は、また深く沈み込んでしまった。




 しかしそれは、彼の全存在を再構成しなければならないほどの衝撃。




 並みの妖魔であれば、数年から数十年の間眠り続け、肉体の全機能を調整しただろう。


 だが彼は半妖。そんなことをすれば、半身の人の部分が持たない。


 だから彼の本能は最低の維持機能を残し、頭脳と肉体を休息させる。




 この混乱が収まり、再構成された肉体と頭脳を、彼が十分に使いこなせる日まで。



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