6 岩の中の人
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崖から清水が湧き出して、小さな水場を作っている、夏でも涼しいチシャのお気に入りの休み場所。
いつもここで水を飲み、一休みしてから山を下りるのだ。
その大事な水場の、すぐそばの。
岩から、手が生えてる。
驚いて腰を抜かしたチシャは、まじまじとそれを見てしまう。
いや、落ち着け、落ち着け。
生えてるんじゃない。岩の割れ目から、人の手が出ているんだ。
だけど、この崖。
中に隙間があるなんて、初めて知った。
だいたい、どこから入ったんだ?
爪が割れて、血だらけ、傷だらけの大きな手。
あっ、動いた。
生きてる。
生きた人間が、岩の中に閉じ込められてて。
いや、人間か?怪物か?
どうしよう、人を呼んでこようか。
でも、秘密の採取場所と気に入りの水場を、他の村人に知られてしまう。
どど、どうしよう・・・どうしよう・・・
見てると、また、手が動く。
埃だらけの、傷ついた指をひきつらせ、チシャの水場の方へ。
あ・・・水・・・
チシャは思わず声をかける。
「あのっ!だれっ?人なのっ?」
びくりと手が止まり、しばらくしてから、岩の中から呻くような声。
「・・・み・・・ず・・・」
チシャは飛び上がった。
人だ。水って。水・・・
相手は岩の中だ。
水場は眼の前なのに手をのばしても届かず。
いったい、いつからそこにいたの?
でも、このチシャはコップひとつ持ってないのに。
そうだ!
「ま、待ってて!わかったから!すぐ戻るから!」