4 混乱
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数か月後。
山脈をはるか南に下った、山間の村。
ある日ふらりと村に現れた大男が、谷あいの村を見おろす大岩の上に、ぼーっと座っている。
山菜を取りに行った小さな女の子が、傷だらけの大男の手を引いて戻って来たので、村人たちは仰天したのだった。
その巨体と尖った耳、端正な顔立ちに、すわ、妖魔か、と人々は色めき立ったが、男は子供の命ずるままに井戸端にしゃがみ込み、手と顔を洗われ、水の椀を渡されて不器用に取り落し、叱責されて困ったように首を傾げる。
小さな子供の前に無防備に座り込んで、広い肩や大きな背中にぺたぺたと薬草を貼られていく姿に、少し安堵した村人たちは勇気を振り絞って声をかけるが、男は無表情のまま、口をきかない。
手当を終えた女の子は当然のように手をひいて男を立たせ、拾った犬でも引っ張るように、自分の家に連れ込もうとする。
手を引かれて戸口をくぐろうとした大男は、低い鴨居にもろに額をぶつけ、頭を押さえてうずくまってしまった。
その姿に村人たちの間から失笑が漏れる。
「でかい阿呆の迷子じゃのう」
のんびりした村長の一言で、皆の緊張が解けた。