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半妖の戦士 第一部    作者: 葉月秋子
3/20

3 喪失

3 



 熱い水が両眼から流れ出して止まらない。

 なんなのだ、これは・・・


 失ってしまった。


 これほど飢えが満たされ、充足したことは未だかつてない。

 だが、満たしてくれた、それはもういない。両手の中は空だ。


 確かにここにあったのに。全身で感じて、満たされたのに。

 渡された名と共に、全部、彼が取り込んで、いなくなってしまった。



 どこへ行ってしまった・・・どこへ・・・

 喪った相手を求めて、彼は深く潜っていった。

 取り込んだ自分の内部へと・・・深く・・・深く・・・

 肉体を構成する、分子のレベルまで・・・

 人にも、妖魔にも、そんな事をする能力はないはずなのに。

 だが見つけたそれは空しく散って、指の間からすり抜けて行ってしまう。


(ソレハ外側ダケ。ナカミハモウナイ。ナカミハソナタト一緒ニナッタ)


 一緒になっても、それはもういない。

 もう、二度と戻らない。


 中身のないそれを、必死でかき集め、記憶にとどめようとする。


(ナカミハソナタトトモニアルノダ)


 だが、これも散らしたくない。

 ひとかけらでも失いたくない・・・


(・・・ツカエヌ・・・コノ(ウツワ)ハ、フカンゼン・・・。(ジョウ)ガ深スギル・・・)


 混沌と混乱のうちに、時は過ぎる。





 ・・・・・・・・・


 奴隷の祖父の昔話は、いいかげんなものだった。

『王の血を受けて、妖魔は覚醒する』

 そんな事はおこらないのだ。


 今は滅びた王国で、妖魔が人族を狩り、王族を生贄として求めたものは。

 妖魔に伝わる、古い伝承。

『人族に伝わる、太古の神の血が、妖魔の中に覚醒する』

 そう、太古の神の覚醒なのだった。


 いまだかつて実現したことがないが、いつか起こりえるかもしれない。

 そんな奇跡を求めての事。


 その奇跡が、今、起こったのだった。

 立ち会う者もない、崩れた坑道の奥深くで。

 だが、彼は半妖。

 肉体は妖魔に近くても、精神は人に引きずられる。

 神を受け入れる器には、なれなかったのだ。

 その血は失望のうちに、また深く、深く、沈み込んでいく。



 ・・・・・・・・・






 ・・・どれだけ時がたっただろう・・・


 瘴気かだいぶ濃くなってきた。

 遠く、近く、岩ゴブリンたちの気配がする。


 彼は身を起こした。


 今だ激しい混乱の中、本能が危険を察知する。


 自由に生きろ、と、あれが?自分が?彼が?言った。


 ならば、ここから出て、自由にならねば。


 足を拘束する鎖を引きちぎる。

 首を拘束する首輪を、むしり取る。

『噛ませ』という他人の名で構成された呪は、もう彼には効力を持たない。



 岩ゴブリンの死体の山から、手ごろな石の棍棒を取り上げ、バランスを確かめると、〇〇〇○となった生き物は、出口を求めて、歩き出した。





 






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